表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、実は姫騎士なのだわ  作者:
学園祭
26/89

ヒジ組



 ヒメはジンゾウと歩いていた。


「ヒメちゃん、俺、ヒメちゃんについて行っても良い?」

「構わないのだわ」

「やった!」


 その笑顔はいつも通りだ。だが、僅かな違和感。違和感と言っていいかすらわからないほんの少しの女の勘。


「ジンゾウ」

「?」


 首を傾げるジンゾウにヒメは問う。


「何かあった……いえ、確信が無いような言い方は良くないのだわ。何かがあったのね。素早く告白するが良いのだわ」

「え、いや、何もないよ?」


 ジンゾウは笑っている。困惑した様子すらも無い。

 見当違いの心配であったなら、どうしてそんな心配を掛けさせてしまったのか、と考え出すだろう男が、だ。


「……そう。これでも私、好き好んでかはさておいてジンゾウとは無駄に付き合いが深い身なのだわ。自覚はあるでしょうけれど」

「う、いや、そこまで付き纏っては無い、と思う……」


 付き纏っていると言われる程ではないはず、なんて言い訳を視線逸らしてする時点で自覚があるくらいには付き纏っているという事だろうに。


「言いたくはないけど、私は貴方と毎日朝から晩まで殆どの時間を一緒に過ごしているのだわ。だから、ジンゾウが上手く隠せば隠す程に違和感を抱く。その程度を見抜けない程、浅い仲であるとは言わせないのだわ」


 普段からやたら素直なジンゾウが、仲の良い相手にも悟られない程上手に誤魔化している。その違和感は見過ごせない。

 何せ誤魔化し方が普段はド下手糞なジンゾウだ。それが大半を騙せるだろうレベルの高い取り繕いをしている。明らかに異様。見逃してはならないサイン。危険信号の見本市。

 そう指摘すれば、ジンゾウは耳を垂らした犬みたいにへにゃりと笑った。


「……ヒメちゃんは、本当に僕をちゃんと見てくれているよね」


 泣きそうな顔だった。自分の事を僕と言った。

 前にもジンゾウが自分の事を僕と呼称した事はあったが、その時は慌てた様子で取り繕っていた。だから触れられたくない何かがあるんだろうと思っていたけれど、今は完全に無意識で零れたのだろう。訂正が無い。

 つまり、こちらが素ということ。

 あの時の訂正の様子からして、撮り繕わなければならない理由があるのだろう。顔を青くさせるような理由が。これが無駄な深読みならそれで良いが、ジンゾウは時折不穏な言い回しをするところがあるので心に留めておいて損は無い。


「言う気になったのね?」

「ううん」

「は?」


 にっこり笑顔で首を横に振られた。


「……珍しい程に反抗的ね。私は駄犬をきちんと忠犬にしつけたつもりだったのだけど、違ったようなのだわ」

「まず犬じゃないよ! 嬉しいけど!」

「つまり、私に被害が及ぶ可能性が高い問題がある」

「っ」


 ジンゾウの表情に揺らぎが出た。驚きに目を見開き、ぐ、と唇を結んでいる。


「その程度に気付けない程浅い関係のつもりは無いのだわ。必要以上に深い関係のつもりも無いけれど、ジンゾウの短絡的な思考回路くらいは読めます」

「た、短絡的って、それが当たってるとは」

「普段から飼い主とペットと第三者に言われている。更にペット側であるとわかっていながら訂正をせず嬉しそうにしている。私がやめろと言った事は、一部を除いてきちんと従っているように見える」


 ヒメの身体的特徴について言ってくる癖は厄介だが、誰かの魔法についてやステータスなどについては言わないよう言っているからか今のところ爆弾発言率は下がっている。基本一緒に居るから言いそうになったら武力行使しているとも言えるけれど、まあともかく言う事を聞こうという気があるのはわかるのだ。


「さて、では忠犬が飼い主に反発するのは何故か。忠犬とは良いこなのだわ。とても。理由無く反発なんてしない。飼い主に問題があるのか。いいえ、私が何かをしたならジンゾウはさっさと口を滑らすか心配そうに見て来るのだわ」

「否定出来ない!」


 忠犬扱いにすら口を挟まないのはどうかと思うが、まあ良い。


「忠犬が怪我を隠すのは、飼い主に心配を掛けさせない為。忠犬が怪我を隠す以外で何かを隠しているようなら、それは誰かを守る為。もし傷付いた誰かを庇っているのなら、飼い主に強く言われた時点で暴露するのが忠犬なのだわ。ええ、飼い主への忠心から必ずそうする。なのにまだ言わない。それは何故か」


 ヒメは静かにジンゾウを見据える。


「飼い主を庇っているから、飼い主に不安を与えないよう隠している。私はそう判断するのだわ」


 で、


「この考えは私の自惚れが酷い見当違いな推理かどうか、ジャッジをお願い出来るかしら」

「…………~~っ!」


 ジンゾウは目を逸らすに逸らせず、目を伏せて言う。


「……その通り、です」

「敵を知らずに身を守れると思うのは馬鹿だけなのだわ。敵が居ると言うならきちんと情報を寄越しなさい。私は守られるだけの女ではありません」

「はい……」

「守りたいというその考え自体は否定しないのだわ。だからといって情報を制限したところで、ジンゾウ一人ではカバー出来ない状態に陥った時、何も知らない私はまんまと嘘の情報に踊らされる危険性がある。情報共有は迅速にすべし。何よりも大事にして尚且つ守りたいというならば、守りたい相手に逃走経路その他敵の情報を共有しておくのは初歩の初歩なのだわ」

「仰る通りです」


 ジンゾウは大きな背中を縮こまらせてしょんぼりと小さくなっていた。無いはずの犬耳がしゅんと垂れているのが見える落ち込みっぷり。

 だが実際危険度が高い事をしでかそうとしたも同然なので慰めはしない。

 守る対象が危険であると自覚しないままの場合、万が一留守の時に敵が召使にでも成りすましてお出かけだの避難だのと言えば一発だ。危険を自覚していないという事はそうなってしまう。危険だと知っていれば警戒するし、連絡を取って確認しようという気になるもの。

 更に敵の顔も把握していれば、把握外の顔を使われない限りはすぐに気付ける。対策だって取りやすいし、隙を見て逃げるといった策も講じる事は出来るだろう。相手の性格や好き嫌いを知っていれば使える手もあるかもしれない。

 情報とは、それだけ大事なもの。命を繋げる事になるもの。

 何も知らずに居て欲しいと思うのも、自分なら知られず守り切れると思うのも勝手だが、危険に晒される可能性があるらしいとわかっておいて何も聞かず守られるばかりというのはヒメの性に合わなかった。

 タカラザカの女として、そして姫として、敵が居るなら立ち向かうのが礼儀である。


「じゃ、何があったのか聞かせてもらうのだわ」


 客が少ない物陰を陣取りそう問えば、ジンゾウは視線をうろつかせて不安そうにしながら口を開く。


「……ワルノ王国の人間が居た」

「今日は色んな国の人間が居るのだわ」

「僕を作るのに賛成派の人間だった」

「それがどうして私の敵になるのかしら」

「僕を作るのに……僕の存在に肯定的な人間は、僕を戦争の道具にする事前提で動いている。異世界人の能力を有している、って言いふらして」

「で?」

「……僕が親しくしているのを見て、僕の中での優先権が高いとなるとそちらを優先し国の命令を無視する危険性があるから、そうならないよう先に殺すか人質に取るかをしよう、って考えるかも……しれなくて……」

「そう」


 成る程、大体わかった。

 ワルノ王国はかなり真っ黒らしいということ。これまでも滲み出ていたが、ジンゾウの出生には闇が深そうだということ。そしてワルノ王国は、ジンゾウを傀儡にする気満々らしいということがしっかりと把握出来た。


「親しくしているのが危険だと言うなら、他の部活無所属組だって演劇をした仲間だから危険なのだわ。仮にそれ以降、演劇が終わった後も同行しているから特別仲が良さそうと判断されると言うのなら、どうせその人間が来ているのは今日だけなのだから、今日だけ別行動にすればそれで誤魔化せる話なのだわ」

「……あれ?」

「つまり、ジンゾウの動きは全て無駄で、寧ろ私の存在を相手に知らしめてこの身に危険を迫らせたも同然なのだわ」


 ザァ、とジンゾウから血の気が引いて顔が真っ青に染め上げられた。


「……ごっ、ごめんなさい!」

「謝った以上は許すのだわ」

「ゆ、許すなんて、僕は許されない事を!」

「たかが危険に晒された程度で許さないような狭量さは持ち合わせてないのだわ」


 その程度、などと軽んじられる方が気に障る。


「もし私を甘く見ているのなら、そちらの方が許せません」

「まさか!」


 その即答に、ふ、とヒメは微笑んだ。

 柔らかく甘く優しい笑みでは無い。愛はあるが上から目線でどこか冷たい、良いこに出来たペットを静かに褒める飼い主の笑み。


「よろしい」


 まあ、


「どうしても許される理由が欲しいと言うのなら、今後その一人称にするがいいのだわ」

「その?」

「先程から自分を()と呼んでいるのだわ」

「エッ…………」


 ジンゾウの顔が先程と同じくらい真っ青になった。


「ぼ、僕、いや俺は、これは間違いで、その」

「別に良いのだわ。そちらの方がよりジンゾウらしいというだけでしょう。どちらの一人称を使おうが私からはジンゾウである事に変わりも無い」

「じゃあ」


 そろ、とジンゾウが上目遣いのようにヒメを見る。


「どうして、そこを気にしてくれたの?」

「そちらの方が言いやすいのでしょう?」


 それ以外に何の理由が。


「どちらの一人称を使おうが、ジンゾウである事には変わりないのだわ。でも、無理をするより、ジンゾウが()()()()()()()在れる方が良い。親しいかはともかく、友人として私はそう思うのだわ」


 息を吸い、ヒメは低い声で言う。


「反論は却下させてもらう」

「反論、なんて」


 ジンゾウの瞳が潤んだ。

 その目から涙がこぼれはしないが、今にも泣きそうな程に潤み、口の端が不格好に持ち上げられる。


「……ヒメちゃんはいつも、僕が欲しいものばかりをくれる」

「私がジンゾウの欲しがるものを与えているというより、私が与えたものをジンゾウが欲しがっていたと言っているだけなのだわ」

「本当だもん」


 人の無い物陰。ヒメが縁石に腰掛け、その向かいにジンゾウが正座して小さくなっている状態。

 その状態で、ジンゾウが手を伸ばす。


「……ヒメちゃん」

「何。理由を聞かずに手を取りはしないのだわ」

「もう一つ、お願いしても良い?」

「内容にもよるのだわ」


 呼吸が乱れる音。緊張か、不安による音だとわかる。


「……今だけ、ヒメちゃんに縋らせて欲しい……」

「断るのだわ」


 即答した。

 その答えにジンゾウの肩がビクリと跳ね、重たい空気を纏い、ゆっくりと手を下ろし始める。


「……そう、だよね。ごめん……」

「縋られるような信仰先になった覚えはないのだわ」


 そう、縋られるなんてまっぴらだ。

 それはただの足枷になる。動く為の足が潰されるも同然になる。守るべき者があるのは強くなれるので良い事だが、縋ってくる相手は助けにはならない。

 だって、縋るという事は助けを求めているという事だ。誰かを助ける立場にはなれまい。少なくとも縋る以上、縋った相手の足を引っ張る図になってしまう。

 素早さと小回りを活かした動きをするヒメにとって、足手纏いは御免だった。


「けれど、このくらいはしてやろう」

「…………!」


 ヒメは手を伸ばし、目の前に垂れ下がっているジンゾウの頭を優しく撫でた。

 いや、言う程優しくも無い。掻き回すような撫で方でこそ無いが、相手に気を遣った撫で方でも無い。それこそ飼い主が、いいこいいこと飼い犬を褒めるような撫で方だ。


「結果として悪手だったとはいえ、私を守ろうとしたのは認めるのだわ。褒めて遣わす」

「……へへ、嬉しい」


 そう告げるジンゾウが鼻声であること、伏せられた顔から数滴の液体が地面に染みを作ったこと。

 ヒメはそれをしっかり目撃していたが、何も言わない事にした。

 なにせヒメは、きちんとデリカシーがあるもので。





Q ヒメの口調ってブレがありません?

A あります。


Q 前世の影響ですか?

A いいえ。前世はあくまで前世であり、ヒメは今世のヒメです。前世については見た事あるしよく覚えてる映画くらいの感覚。影響はありません。


Q なら何故複数の口調?

A 普段はなのだわ口調。通常がこれです。普通に素。敬語は教師や先輩相手によく使われます。普通に上の立場相手の時。それ以外で敬語を使う場合は気品あるモードに入ってる時。立場ある者としての言葉です。


Q なんか男っぽい口調のヤツは?

A ザカの女としての側面が完璧前に出てる時の口調です。母親譲り。立場ある者というよりも、上位に君臨する者としての言葉。逆らう事は許さない、という時なんかにこうなります。


Q ヒメは意識して使い分けてる?

A いいえ。基本は無意識で使い分けてます。後から口調違ったよねと言われると、意図的にそういった対応をしたわけじゃなく無意識に出てた場合、ちょい照れる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ