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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
彼らの救いは数年前に
23/89

終幕



「出来たぞ!」


 ハナコとタロウのもとへ、解毒剤が入った小瓶を持ったオイシャが戻って来た。


「出来たのね!?」

「ああ。言った通り、あっという間だっただろう?」

「値段が高騰してる材料がこんなにあるなら、って幾らかパクろうとしてるのを止めてたもんだからちょっと時間掛かったけどな!」

「メイユウ、タロウの解毒に関係無い事は言わなくていいんだよ」

「タロウの解毒に関係無い事やろうとしてたからチクったんだろ!」


 そんな二人のやり取りに笑いながら、タロウはオイシャから小瓶を受け取る。

 蓋を取り、覚悟を決めてその中身を飲み干した。


「あ……!」


 流石の特効薬。

 早くも効果が出始めたのか、タロウの顔色が一気に戻って来た。不健康にやつれていた顔は、元通りの健康的な張りが戻る。


「痺れも無い……!」


 手を握って感触を確認したタロウはベッドから下り、二本の足でしっかりと立ってみせた。


「起き上がる事も碌に出来なかったのに……!」

「あの原料さえあればあっという間にどうにかなる物だったからね。それ以外では効かないのが難点だけど。付着した油を落とすのに水を使ってもどうにもならないが、お湯を使えばあっという間、と言えばわかるかな?」

「オレめちゃくちゃ苦しかったのに例え方ひっでェ」


 タロウは笑う。元気に、健康的に、倒れる前と同じ顔で。


「タロウ、もう大丈夫? もう痛かったり、苦しかったりしない?」

「勿論!」

「キャッ」


 心配そうに様子を窺っていたハナコに笑みを返し、タロウはハナコを抱きしめる。


「ハナコのお陰で、すっかり元気になっちゃった!」

「でも、まだ安静にしてた方が」

「そんな事してる暇なんて無いよ」


 笑って、タロウはハナコを抱きしめたままぐるりと回った。





 舞台の上でその様子を見ながら、ライトがトクサツを抱きしめた状態でぐるりと回る動きに合わせ、ヒメは魔法を操作する。

 その動きに合わせて塗り替えられるように、診療所は一瞬で結婚式場に変化した。

 トクサツが足を舞台の上に下ろした時にはもう、場所は結婚式場。服装も映像で上書きし、結婚式用の礼服となっている。

 勿論被服部には泣かれたし本物を作らせてくれと縋られたが、舞台映えと着替えの手間を考えた結果と説得し、最終的に決闘で優先権を勝ち取った。決闘で決めるという誓いに頷いた以上、その結果は絶対である。

 当然恨み言を幾つか言われたが、強ささえあれば通せた要求なので恨み言を吐くよりも弱い自分を嘆いて欲しい。





 数か月後。

 すっかり元気になったタロウとハナコは、皆に祝福されながら無事結婚式を挙げた。


「綺麗よハナコー!」

「ヒューヒュー!」

「子供が生まれる時は是非私に頼りなさい」

「ドクターオイシャだけ気が早くないかなァ!」

「それはまだ先ですっ!」

「当人たちはそう思っていても、意外と早かったりするものだよ?」


 囃し立てられ揶揄われ、それでも確かに祝福された門出。


「それにしても、アクダイカンさんが居ないのはちょっと残念だったね」

「……うん、そうね」

「でもお家の事情での引っ越しなら仕方ないかァ。折角なら参加して欲しかったんだけどな」


 ハナコは結局、犯人がアクダイカンである事を告げなかった。

 けれどアクダイカン側に何かあったのか、ひと月もしない内にアクダイカンは事情があるとだけ言ってどこか遠くへと越して行った。行き先も告げないまま、回復したタロウとも会わないままに。

 タロウの命を奪って愛を達成する事が出来なかったからか、それとも犯した罪が家にバレて外聞が悪いからと連れ戻されたか。

 ハナコには何もわからないが、あんな事件が起こる事は二度と無いだろうという事実。そしてタロウにあの人のせいで死にかけたなんて残酷な事実を告げなくて良いことに胸を撫で下ろす。


「……ハナコ」

「なに?」


 ハナコがタロウの方を見れば、タロウは優しい微笑みでハナコの目を覗き込んだ。


「大好きだよ、ハナコ」

「ええ。アタシもタロウのこと、大好きよ」

「ハナコが居たから今も生きてる。命を救ってくれてありがとう」

「アタシは何も出来なかったわ。本当に命を救ってくれたのはうちのママとドクターオイシャ」

「幸せにする」

「とっくに幸せだけど……お互いに相手を幸せに出来たなら、最高ね」

「うん」


 タロウはハナコに頬擦りするように顔を近づけ、言う。


「愛してるよ、ハナコ」

「……ええ、愛してるわ、タロウ」


 そして二人は、幸せなキスをして、その後も幸せに暮らしたそうです。

 『彼らの救いは数年前に』

 めでたし、めでたし。





 降りた幕が再び上がり、舞台の上には六名が横並びで立っていた。

 そこに、幕に呑み込まれない位置にある舞台の隅で語り続けていたナレーション、ジンゾウが並ぶ。これで部活無所属組、七名が勢ぞろいした。


「ナレーション。ジンゾウ・フッカツ」


 ジンゾウはそう告げ、左手を胸下、胃がある位置に添えてお辞儀する。


「裏方、メイユウ役。ヒメ・ミコ」


 ヒメはそう告げて右手を腹の前に添え、直角のお辞儀をした。

 そうして顔を上げてから、笑顔で指を鳴らし、背景と自身の服、身長に掛けていた魔法を解除する。

 突然の変化にざわめき、悲鳴、そして歓声。それに気分を良くしながら、次の挨拶をと手で促した。


「ハナコ母役。マンガ・ドウジンシ・コミック」


 マンガはそう告げ、手を足の横にキッチリと添えたままお辞儀をする。


「ドクターオイシャ役。マッド・サイエンティスト」


 マッドはそう告げ、胸に右手を添えて軽く首を傾げるようにして微笑みを浮かべた。


「アクダイカン役。フリョウ・ヤンキー」


 フリョウはそう告げ、水の中に居るようなゆっくりとした動きで腹に右手を添え、同じくゆっくりとした動きでお辞儀する。


「タロウ役。ライト・ノベル」


 ライトはそう告げ、ニコッと笑って肩の高さで両手を振った。

 そしてすぐに真面目な顔を作り、腹に左手を添えて僅かに頭を下げるお辞儀をする。


「ハナコ役。トクサツ・ヒーロー」


 トクサツはそう告げ、左手を胸に右手をゆるりとした動きで隣にぶつからないよう伸ばし、腰を落とす形でお辞儀をした。

 そしてニッコリと笑い、口を開く。


「本日は、ありがとうございました!」


 トクサツのその言葉に合わせ、ヒメは再び魔法を使用する。

 観客の頭上で大量の花が爆発するように発生し、雪のように降り、そして観客の頭、肩、手に触れる頃には花も花びらも消えるという、本当に雪のような映像だ。

 そちらに殆どの観客が意識を奪われている間に、幕は閉じた。





 裏で、ヒメ達は死んでいた。

 控え用の裏まで戻る事は出来たものの、そこからはもう死にっぱなしだ。疲れた。

 ちなみに被服部組は既に退出している。被服部としての出し物もあるので、舞台の上に立つ衣装を見たいのと万が一のトラブル時即座に修繕する為、として居ただけだから当然とも言える。寧ろ思ったより居座っていた。


「ヒメちゃん、俺頑張った……? 頑張ったよね……?」

「出ずっぱりでずっと話し続けてた事を思えば、めちゃくちゃ頑張ったと思うのだわ。アドリブにも対応してくれたものね」

「やったあ」


 そう喜ぶジンゾウだが、声の張りは大分少ない。

 汗一つ掻いていないし、出ずっぱりで単純な体力消費では一番疲労が多いはずなのに普通に座れている辺り流石の体力。

 それでも声が控えめになっているところを見ると、流石のジンゾウでも多少は疲れたという状態に陥っているらしい。


「わたくし様は明日から三日休むよ」


 背もたれにがっつり身を預け、濡れタオルを目元に被せてマッドがそう言う。


「寝たきりになって指一本も動かせなくなる予定だ。筋肉痛で死ぬ」

「あれェ、マッドって後遺症対策の薬作ってなかったっけェ……」

「なる前に服用しても効果が無くてね。異性は寮への立ち入りが禁じられているから、トクサツかヒメのどちらかがわたくし様の部屋に来て薬を飲ませてくれるとありがたい。指一本も動かせない中では自力での服用は不可能だ。鍵は開けておくし薬は机の上に出しておくよ」


 おお、と呻くようにマンガが反応した。


「意識ある中での時間停止物や石化ものの参考になる気がする……でもそれよりその状態で飲食とか排泄どうすんのかも気になる……」

「当然飲食不可で水分不足により死にかけるとも。脱水症状が起こる前に無理してでも水分を摂取する必要がある。食事はともかく水はどうにもならないからね。まあ、その体力があれば普通に後遺症用の薬を飲んでどうにかするが。排泄の方は、当然ながら垂れ流しになるかな。そうなる前に服用させてくれると嬉しい」

「それなら僕が一緒に寝る方が良くないかしら? 様子を見に来るよりもよっぽど早いと思うわよ?」

「採用」


 よくわからないがマッドの問題は解消されたようなので良し。

 ヒメは明日もいつも通りに走り込みなどをする予定なのでそのついでに確認しようかとも思ったが、トクサツが担ってくれるなら任せられる。言った事を前言撤回する性質なら、トクサツはもっと生きやすいはずなので間違いない。


「……回復はしたが、腹が減ったな」


 むくりと起き上がったのはフリョウだ。自身の回復魔法で自分だけ復活したらしい。


「あー! フリョウ良いなァー! オレも回復お願いして良いっすかねェ!?」

「叫ぶ元気はあるようだが?」

「叫ぶ以外の元気は無いんですよねェそれがァ! 寧ろ体力空っぽ状態特有の変なハイ状態って気がすんですけどォ!」

「……わかったから落ち着け」

「ダハハ、愉快に死んでら」


 声がした方に顔を向ければ、よっ、とテキトー先生が手をひらひらさせた。


「……何の用かしら、テキトー先生。今、とても疲れてるのだわ」

「だから助っ人呼んで来てやったんじゃないか。ああ、あと演劇だけどめちゃくちゃ良かったぞ! 評判も良い! いやあいっつも見るだけ無駄だったりするのが多いし、そもそも協力する気無いようなのが部活無所属になりがちでなあ!」


 テキトー先生はかなりご機嫌な笑みを浮かべ、一番近くに居たジンゾウの背中をバンバン叩く。


「それがしっかり協力して練習して、途中何か様子おかしかったけど持ち直して! 時々練習見に行ってたけどあんなシーン無かったし、ヒメお前あれアドリブだよな!? いやあ凄い! 感心!」

「…………最初思いっきり煽られただけに演劇を褒められたのは嬉しいけれど、今そのテンションに付き合えないのだわ……」

「あ、そうだった。頼むぜコワイ」

「良い出来で夢中にさせられたのは確かだが、お前は本当に……」


 テキトー先生の後ろに居たコワイ先生がため息を吐く。

 が、すぐにフリョウへと髪に隠れた視線を向けた。


「フリョウ、お前はそっちに居るライトとマッドを治しておけ。吾輩はその他を治そう」

「場合によっては、ジンゾウは俺が治しますが」

「魔法で回復させたとはいえ、お前も疲れているだろう。甥に無理をさせるつもりは無い。何より、治療に私情を持ち出すような趣味は無いのでな」


 ん、とマッドがその会話に反応する。


「甥?」

「ああ。この人の姉が俺の母だ」

「歳は離れているがな」


 そういえばコワイ先生のフルネームはコワイ・ヤンキーだったな、とヒメは思い出した。

 コワイ先生の名前を知ったのは入学してすぐの頃だったし、そこから半年経過してからフリョウを知った為繋がらなかった。

 言われてみれば、高身長なところ、生徒に怖がられているところ、回復魔法の持ち主であることなど、類似点は複数ある。親戚だったとは知らなかった。


「……?」


 ジンゾウは逆に何で知らないんだろうという顔をしていたので黙れという意味で睨んでおいた。ステータスが見えるのは知っているが、それを言うのはマナー違反。


「!」


 何故か嬉しそうな笑みを返された。意図が欠片も通じていない気がする。


「さて、治療の前に疲労以外に怪我等がないか確認させてもらうぞ。まずはヒメからだ」

「ええ、わかったのだわ」


 頷いて起き上がり、ギョ、とする。

 目の前に居たのは前髪で目元を隠した大男では無く、前髪をオールバックに上げた酷く目付きの悪い大男が立っていた。

 すぐにコワイ先生だとわかったし、ただ真面目に診察しているだけなので問題は無いだろう。ただ少し、突然視界に入ったツーブロ目付き最悪大男の威圧感が強くて驚いただけだ。

 よく見ればキリッとした目のフリョウと違って、コワイ先生の目付きはとても悪い。鋭い、と言っても良いかもしれないが、死んだような鋭い目にマッドを上回るかもしれない隈。暗殺者の見本と言っても過言ではない目つきをしている。

 ザカ出身のヒメが見た目に気圧される事は無いが、一瞬驚くくらいには人相が悪い。

 成る程、保健室を利用した生徒がコワイ先生にトラウマを抱く理由がようっくわかった。

 しかし人相の悪さで生徒に怖がられるのがここまで色濃くお揃いとは、ヤンキー家の遺伝子は一体どうなっているのやら。





「お疲れ、コワイ。出張回復屋さんも大変だな」

「おかしな言い方をするな、テキトー」

「おう、悪い悪い。……でもお前、普通にジンゾウの回復するんだな。流石にフリョウに任せるかと思ったんだが」

「……私情は持ち込まない。医療関係者であるなら、尚更」

「持ち込んで良い案件だと思うがね。オレがお前から聞いた話じゃ、間違いなく八つ当たりして良い相手だぜ」

「八つ当たりと言っている時点で、八つ当たりにしかならないとお前だってわかっているだろう。ジンゾウ自身に罪は無い」

「ジンゾウの存在自体が、お前にとっちゃ罪深いだろうに」

「……お前、自分の受け持つ生徒が嫌いなのか?」

「教職は嫌いだぜ。生徒は可愛いから嫌いじゃない。ジンゾウは素直で心配になるが、ヒメと一緒に居る分には大丈夫だ。食う飯の量が増えてる様子からも、ヒメと一緒に居れば生き物らしくなってくだろ」

「そうか」

「ところで、フリョウも事情知ってるのか? わざわざ代わるか聞いたって事は知ってるって事だろ?」

「甥っ子なんだから当たり前だろう。彼女について聞かされた時、あいつは既にある程度を理解出来る年頃だった」

「そうかい」

「ああ」

「飯奢ってやろうか」

「いや、救護室に戻る」

「お前そんなんだからオレ以外に飲み会誘ってくるヤツ居ないんだぞ」



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