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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
彼らの救いは数年前に
22/89

見つけた



 ハナコは診療所へと駆けこんだ。


「ドクターオイシャ!」

「喧しい。病人が居る時は静かにしろと言っただろうハナコ。……その顔からすると、上手くは行かなかったようだね」


 オイシャはハナコからラットの入った籠を受け取り、椅子に座るよう促す。


「……毒を盛った人のところまでは、辿り着いたの」


 ハナコは、毒を盛った下手人がアクダイカンである事は告げない事にした。

 理解出来ずとも、確かに愛だと叫んでいた。それを一方的に明かすのはハナコにとって良くない事だ。例え相手が毒を盛った張本人であったとしても、勝手に言ってはいけないこと。

 ハナコに許されるのは、タロウにアクダイカンのところへは行かないようにと忠告することだけだ。

 もっともその忠告は、今後があって初めて出来ること。


「…………解毒剤は、無かったわ。元から解毒する気なんて無かったんですって。だから……」


 このまま解毒出来ずに今後が失われてしまったら、とハナコの目から涙が落ちた。


「まあ、そういう可能性もあり得ないでは無いと思っていたが、厄介な事になったな」

「何が?」


 そこにひょっこりと顔を出したのは、先程ハナコを助けてくれたメイユウだった。


「何だ、メイユウ。戻ってたのかい」

「おう! つい数時間前に帰って来たらなんか騒がしいし、ハナコが何か一大事っぽいじゃねえか! それで慌てて助太刀したは良いものの、用事が済んだとは思えねえ顔でハナコが飛び出してくるし。説明どころか挨拶も無く放置なんて酷いんじゃねえの?」

「う……ごめんなさい。焦ってたから……」


 唇を尖らせたメイユウの言葉に、ハナコは小さくなりながらそう謝罪した。

 その時、


「、ケホッ」


 ベッドに寝ていたタロウが咳き込んだ。


「タロウ!」

「ゲホ、あれ、ハナコ……? あ、そっか診療所で……」


 タロウは再び咳き込んだ。

 運び込まれた直後より、明らかに悪い顔色で。


「ごめんねェ、心配掛けさせちゃってェ……」

「そんな、心配掛けさせてごめんだなんて言わないで。結婚する程大好きな人を心配するくらいさせてちょうだい」


 タロウの手を握ってそう微笑むハナコを見て、メイユウはきょとんと目を丸くした。


「ドクターオイシャ、ちょ、詳細。結婚なんてメイユウ様聞いてねえぞ祝わせろって言いたいのに明らかそれどころじゃねえじゃねえか。何だタロウのあの弱りっぷり。毒って何だよ」

「昨日の今日に起こった話だからね。数時間前に帰って来たメイユウが知らないのは当然だ。ここで騒がれても面倒だし、教えてあげよう。ハナコ、そこに薬湯の材料があるから代わりに淹れて飲ませてやってくれるかい。気休めにしかならないが、体温を上げるくらいは出来る。無いよりはマシだろう」

「……ええ、わかったわ」


 気休めにしかならないという言葉に歯を食い縛りながら、ハナコは薬湯を用意する。

 自分の無力さが、身に沁みた。

 頑張りが何の実も結ばなかった事実。信じられない愛の形。弱っているタロウに、気休めしかしてやれない自分。

 思わず零れた涙が、淹れられた薬湯に小さく波紋を生み出した。


「……タロウ、飲める?」

「ゲホ、うん、ありが、ゴホゴホッ」

「タロウ、無理しちゃ駄目よ!」

「コホ、無理はしてないよ、ハナコ。ありがとう」


 たった一日ですっかりやつれた顔。

 それでも笑みを浮かべてタロウは力が入らない手でどうにかマグカップに入った薬湯を受け取り、コクリと飲んだ。

 一口、二口と飲んでいき、タロウは一息つく。


「大丈夫? タロウ」

「うん。ハナコが淹れてくれた薬湯のお陰か、さっきよりもずっと楽になったよ」


 先程に比べて、タロウの顔色がほんの少し良くなっていた。


「メイユウへの説明が終わったよ。そっちはどう、……!?」


 その様子を説明をし終えたオイシャが見た途端、血相変えてタロウの顔を覗き込んだ。

 酷く驚いた様子で目を確認し、口の中を確認し、脈を取り、オイシャは叫ぶ。


「ハナコ、一体何をしたんだ!?」

「え!? や、薬湯を」

「そんなはずはない! 運び込まれてから既に三回以上薬湯を呑ませたが、体温こそ僅かに上げる事が出来ても顔色が回復する様子は無かった! しかも軽く確認しただけでも症状が、本当に僅かだが改善している……何故だ!?」

「ケホ、あの、本当に薬湯を飲んだだけで」

「調べるぞ!」


 オイシャはタロウが飲み切れなかった分が残っているマグカップを手に取り、そこに含まれる成分を調べ始める。

 用意した通りの成分の中、一つだけおかしなものが混ざっていた。


「これは、液体……しかも必要な材料に含まれる成分が混ざってるじゃないか! ……そういえばハナコ、泣いた跡があるね。涙の採取をさせてもらうよ。成分を調べる!」

「え、え、ちょっとドクターオイシャ」

「動かない!」

「はい!」


 ハナコの目元に残っていた涙を採取したオイシャはその成分を解析し、


「ハ、ハハハ……アハハハハ!」


 笑った。


「まったく、灯台下暗しとはこの事だな! 遠くばかり見ていて、手元にある青い鳥に気付けずいたとは私も耄碌したものだ!」

「え、えっと、ドクターオイシャ? つまり、どういう事?」

「ハナコ、君が青い鳥だったというだけの話だよ! いいや、青い鳥の羽、とでも言おうかな」

「全然わかんないんだけど」

「つまりだね」


 オイシャは言う。


「君の涙に、必要な材料の成分が含まれていた。アレは飲食した場合、丸一日はその成分が体内の水分に溶け込むんだ。そしてハナコの涙にその成分があったという事は?」

「アタシが、今日の間に食べるか飲むかをした……?」

「ああまったく年は取りたくないものだね! 折角記憶の中に答えがあったというのに! そう、君の母親とのちょっとした会話で聞いた覚えがある。数年前、とある薬草……一般的にはハーブとされているそれが、畑に浸食して来る程に大量発生した。駆除依頼まで出される程に。その時私は、君の母親から、そのハーブを大量に確保したから干してハーブティー用の茶葉にするんだと確かに聞いた!」

「あ……!」


 それを聞いて、ハナコも思い出した。

 母親と楽しくお話をする時、母はいつもお手製のハーブティーを用意してくれること。今朝もそれを飲み終わってから、タロウの一大事を聞いて飛び出したこと。


「じゃあ、ママのお手製ハーブティーの中に!?」

「ああ。そうだろうね。しかも茶葉になっているという事は、既に乾燥も終わっている。その茶葉を少し分けてもらえれば、すぐにでも解毒剤作りに取り掛かる事が出来るよ」

「ヨッシャ話は理解した!」


 両手を叩いて気合いを入れたメイユウが、ニカッと笑って立ち上がる。


「ハナコの母さんとこ行って、そのお手製ハーブティーとやら……まあとにかく今日ハナコが飲んだヤツを貰ってくれば良いってわけだ! 任せろ、ひとっ走り行って来てやる!」

「そんな、そのくらいアタシが」

「お前は充分頑張ってたろ。どうせならタロウの近くに居てやれよ。未来の妻なら、相手が弱ってる時は尚更隣に居てやるもんだぜ! 韋駄天メイユウ様に任せときな!」


 そう言って、メイユウは診療所を飛び出した。





 ヒメは舞台から飛び降り、自身に身長の違和感を抱かせないよう必死に魔法で調節しながら観客席の間にある通り道を走った。

 ニッとした笑みを浮かべたまま、急いでいるのはそのままに、伸ばされた手にハイタッチ。

 それを見て思わずと次々出された手に応じてハイタッチをしながらぐるりと観客席を回って舞台の前に戻り、


「……!」

「!」


 アイコンタクトを向け、気付いたらしいジンゾウが笑顔で手を出す。

 その手を叩く勢いでハイタッチをして、ヒメはハナコの家シーンと変えた舞台の上へと戻った。





 急いでやって来たメイユウが、扉を壊す勢いでハナコの家に到着した。


「おばさーーーーん!」

「はーあーい。あら、メイユウじゃない。戻って来てたの? どこ行ってたのかって聞いても良い? おばさん、メイユウのお話とっても気になるわ!」

「お、そう? そりゃあもうたっくさんの土産話が……じゃなくておばさんちょっと頼みたいんだけど! おばさんお手製のハーブティーってヤツあるか!?」

「あるわよ? あ、淹れましょうか? お茶しながら話しましょうよ!」

「めっちゃくちゃやりたいけどまた今度な! 今タロウの命が掛かってて、命を救えるのはおばさんがお手製したハーブティーの茶葉なんだ! 今日ハナコが飲んだヤツ!」

「ええ? またよくわかんない事を……うーん、まあメイユウは昔からそういう嘘は吐かなかったものね。えーと、使いかけの茶缶とまだ使ってないギッチギチの茶缶があるけどどっちにする?」

「ちょっとあれば良いって言ってたから多分使いかけの方で良いと思う!」

「欲が無いわねえ。じゃ折角だしまだ使ってない方持って行きなさい」

「おばさん俺の要求と違う方わざわざ寄越すの何で!?」

「おばさんはよちよち歩きの頃から知ってる子が大きく育ったのを見るとついついあれもこれもと世話を焼きたくなるものなのよ」

「よくわかんねえけどありがと! 助かる! んじゃこれからコレ届けてタロウ助けてくっから!」

「はーい、いってらっしゃーい」


 しっかりと中身が入った茶缶を受け取ったメイユウは、再び勢い良くハナコの家を飛び出した。





 ヒメは再び舞台から降りてダッシュで観客席をぐるっと回った。

 回復魔法を掛けてもらったのと、この学園に来てから持久力を重点的に鍛えるようにしていたお陰でどうにか持っているが、そうでなければ油断した瞬間ゲロを吐きかねない勢いで消耗している。消耗の九割八分が魔法の繊細な操作によるものなので本当に辛い。

 まあ、どの角度から見ても違和感が出ないよう映像をリアルタイムで移動に対応しつつ加工するようなものなので、それを全てアドリブ演技しつつ背景等の映像も映し出しつつやっていると言えばエグさはわかってもらえるだろう。ザカ出身で無ければ泣き言を零していたところだ。

 ともかく、二回目という事で先程よりも多く差し出される手にハイタッチで答えながら、メイユウとしての顔を崩さずにヒメは舞台の上、診療所シーンに戻したそこへと飛び込んだ。





 今か今かと待っている診療所に、茶缶を抱えたメイユウが戻って来た。


「たっだいまー! メイユウ様のお帰りだ!」

「メイユウ! どうだった!?」

「しっかりとこの通り! まだ使ってない方のを渡してくれたぜ! さっすがハナコの母さんだな!」

「よし、こっちに寄越してくれ。成分を確認した上で調合する。材料さえ問題無ければ、後は揃っている残りの材料と混ぜればすぐ完成だ!」

「俺も手伝うぜ!」


 奥へ消えた二人を見送って、ハナコは握っていたタロウの手に頬を寄せながら、安堵したように何度目かの涙を流す。


「……良かったわ」

「……うん。ごめんねェ、心配掛けさせて」

「心配させて欲しいって言ったじゃない」

「うん。でも謝るくらいはさせて欲しいなァ」

「…………ここで容体急変して置いてったら許さないから」

「流石にそこまで酷い状態じゃないって。それに」


 タロウはハナコの手を取り、その指に嵌められている指輪に口付けを落とした。


「こんなに奥さんに悲しい涙を流させちゃったなら、結婚式で、しっかり嬉しい涙に変えなくっちゃだ」

「……うん!」


 二人は額を合わせ、笑い合う。





 咄嗟に裏側へとついて行ったヒメはゼエハア言いながら倒れた。

 舞台の上だけならともかく、至近距離で違和感を抱かれないよう全角度、全距離に対応し、観客が顔の位置を変化させる度にミリ以下の単位で映像の微調整を繰り返すという狂気の所業。

 服だけなら簡単だが、身長となるとそうはいかない。

 いっそ身長を盛らなければ良かったと思うものの、百五十センチも無い身長であの態度はキツイ。いや逆に低身長ながらも頼りになるガキ大将としていけたかもしれない。少なくとも聞いた事のある音声を再生は出来ても自分の台詞に声を重ねて、は出来ないので腹の底から出した低めの声でどうにかしている以上、素の身長で通せたのでは説が大分強まる。何故無駄にハードルを高めたのか。

 ちなみに声までも無理に重ねようとした場合、聞いた事のある声から、聞いた事のある単語を組み合わせ、発音や音程を調整するという地獄の作業をリアルタイムでやらなければならないという地獄が追加される。絶対やりたくない。


「……大丈夫か……?」

「死なない限りはかすり傷なのだわ」

「つまり死にかけてるって事だろうに」


 やれやれ、とマッドがわざとらしく肩をすくめる。その手の中には小さくて可愛らしい、フリョウ演じるアクダイカンが使った小瓶とはかなり印象が異なる小瓶があった。

 毒の小瓶の際は映像を合わせたので中身は空だったが、解毒剤の方は本当に中身が入っている。薄めのリンゴジュースが中身だ。

 飲食系の出し物をしているクラスメイト曰く、演劇関係の商品増やしたいから良さげなアイテム一つ教えて、との事だったのでコレを教えておいた。演劇後に舞台の近くで売り出すそう。演劇前にやらない辺り信頼出来る。


「さ、そろそろだから戻ろうか」

「ええ」


 フリョウの回復魔法で心身共に復活したヒメが立ち上がり、待機しているマッドの隣に並ぶ。


「ようやく、クライマックスなのだわ」


 トクサツとライトによる、ハナコとタロウの感動シーンが終わったのを確認して、ヒメはマッドと共に舞台の上へと再び向かった。





Q 何でヒメはハナコ家に行く時だけジンゾウとハイタッチしたの?

A ジンゾウは上手(観客から見て右手)側に立っていました。ヒメは下手(観客から見て左手)側の階段から観客席に降りました。だからぐるっと上手側の階段から上がる時にハイタッチしたわけです。



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