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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
準備期間
13/89

休日の過ごし方 後編



 走り込みが終わる頃には、太陽もすっかり昇りきっていた。

 いつもより一時間多い走り込みというのは当然ながら疲労する。いつものペースでいつもの距離、くらいなら体調に問題無い限りこれといって問題点も出てこないものだが、いつものペースでいつも以上の距離、となればそうもいかない。

 終わりに近づけば近づく程に意識はぼんやりと、重心はぐらつき、終わりはまだかと心の底が懇願する。

 もっともヒメの母曰く、


「それこそが心の隙だ。心の隙には慣れておけ。意図的に心の隙を作り出し、耐性を付けておいて損は無い。普段どれ程落ち着いていようと、不慮の事態によって心の隙が出来てしまう事はままある事だ。その時心の隙に呑まれるようでは話にならん。心の隙が出来る感覚を掴み、心の隙が出来ていると自覚し、その上で壊れない程度に自分を律する。これもまた必要な訓練だと思うように」


 との事だった。

 なので心の隙が出来てくれないと困る、とも言えるのだが、


「……本っ当、むかつくのだわ……」

「ヒメちゃん、大丈夫?」


 息を切らして全身汗だくになっているヒメとは違い、ヒメを心配して顔を覗き込んでいるジンゾウは汗一つ掻いていない。走っている時も息切れ一つ起こさなかった。ヒメなんて後半に入るにつれ、肉体の疲労によるものか呼吸に乱れが生じていたというのに。


「なんっで汗一つも掻かないのよ! これだけ動いておいて!」

「そう言われても、出ないし」

「んんーーーーーっ!」

「あだ、あだ」


 苛立ちのままジンゾウの腹に何発か拳をぶち込んだ。

 手加減している上に疲労で力が入り辛くなっているのでダメージは無いはずだが、口先だけで痛いと言うところも腹が立った。子供がごっこ遊びしてるのに付き合う保護者みたいな笑みを浮かべているのが苛立ちを増幅させていく。


「ああ、もう、やんなっちゃうのだわ、本当」


 瞬発力と速度は自信があるが、ジンゾウはそれについてくる。持久力に自信は無いので重点的にそこを鍛えている。ジンゾウは持久力増強用メニューに汗一つ掻かずついてくる。

 ヒメは負けず嫌いな性格なのでより一層なにくそと気合いを入れる事が出来るタイプだし、両親にも諦めるヤツが一番弱い、と教えられている。引き際と諦めは別物だ、とも叩き込まれた。

 が、もしヒメがこういった性質で無ければ早々に心がへし折れていただろう。

 チート魔法の使い手。王族。自分の得意分野でも苦手分野でも上回ってくる相手。それが自分に懐いて四六時中同行してくるとなれば、卑屈さを少しでも持っていれば容易く鬱になれる所業だ。本人にその自覚が無いのがまた厄介。

 まあ心が折れるなんていうのはヒメとは無縁の言葉なので問題無いけれど。


「それじゃ、一旦解散で良いわね?」

「うん。あ、今日はこの後組手だよね? 運動着のままでいた方が良いかな」

「……嫌味なのだわ」

「何で!?」


 汗だくになったから今からシャワーを浴びに寮へ戻ろうとしている友人に対し、汗一つ掻いてないから着替えなくても良いよねと発言するのは嫌味かつ煽りと判断されて当然だろう。





 シャワーを終え、もう一着の運動着に着替え、寮の前で待っていたジンゾウと再び合流して本日二度目の食堂へ行く。

 休日だからと遅くに起きた生徒達が食堂に集まっていて、空いているとも混んでいるとも言い切れないような時間帯だ。


「ヒメちゃんは何食べる?」

「しっかりがっつり、といきたいところだけど、この後の組手を考えるとそれは昼に回したいのだわ」

「じゃあ軽め?」

「んん……」

「軽過ぎず重過ぎず?」

「そうね」

「ハンバーガーは?」

「それにするのだわ」

「あいあいさー!」


 食堂のカウンター担当者が快活にそう応える。


「本日のおすすめは照り焼きバーガーだよ!」

「今日は本当に和系がおすすめなのね。じゃあそれでお願いするのだわ。小さいサイズで」

「俺はカツサンドとコロッケサンドを一つずつ。大きめで」

「あーいよ! ちょっと待ってな! 小さめ照り焼きバーガーと大きめカツサンドと大きめコロッケサンドのご注文!」

「もう出来てるから持ってけ!」

「おう! はいご注文の品!」

「ありがとうございます」


 お礼を言い、ジンゾウがヒメの分ごとトレイに載せられたソレを受け取った。カウンター担当者も既に慣れているので流れるように料理の受け取りやらはジンゾウだと判断されているのだろう。

 というか相変わらず注文してから完成までが異様に早いが、ここはもう普段からそういう感じなので深くは考えまい。ラッシュ時であっても列が異様な長さにならずスムーズにはけていくのは良い事だ。


「照り焼きバーガーの量が多かったら俺が食べるから、無理しないようにね?」

「無理をする気は無いのだわ」


 運動してお腹が空いたし、頻度を上げる事で必要カロリーの摂取をする必要があるので無理して食べているつもりは無い。

 まあ、小さめでもヒメには少し量が多い為、最終的に無理して食べるという形にならないようジンゾウに頼る事にはなるのだが。





 早めの第二朝食も終わり、腹ごなしのストレッチも済ませ、


「今日の組手は武器有り? 無し?」

「前回無しだったし、有りが良いんじゃない?」

「ならそうするのだわ」


 王族貴族が通う学園ともなれば、当然戦闘訓練用の場所もある。

 この場所には模擬戦場だの決闘場だの表出ろの表だの色々な呼び名があるが、正式名称は不明だ。色々な案がある中で一つに決めると面倒な喧嘩が起きるかもしれないのでどれも正解にする事にした、とテキトー先生は言っていた。

 まあ薔薇と呼ぼうがローズと呼ぼうが赤い花と呼ぼうが間違いじゃないし、みたいな事だろう。その時その時の言いやすさや雰囲気で呼び方が変わったりもするし、この場所についてを言ってるのはわかるので問題は無い。


「短剣? 長剣?」

「んー、俺は多分長剣を持たされるだろうから、長剣かな」

「なら将来的に常備するだろう武器という事で、私は短剣にするのだわ」


 訓練用にとゴム製の武器がご用意されているので、それを使う。

 初心者用のは完全なるゴム製。中級者用のはゴム製だが中に重りが入っており、本物と同じ重さを体感出来る。ヒメとジンゾウが使うのもこの中級者用だ。

 ちなみに上級者用は本物がご用意されている為、教師に許可を貰う必要がある。


「まあこの学園はありとあらゆる問題に対処出来るよう、様々な人材が揃ってるからなぁ」


 授業の際、テキトー先生もそう説明してくれた。


「つまり、上級者用に用意されてる本物の武器で相手の首をチョンパしてもどうにかなるくらいの人材が用意されてる。仮に死んでも肉体は無事だ」

「先生! 肉体以外が無事ではないような言い方ですがその辺りどういう事ですか!」

「まあ一回死んだ感覚はその通りだからトラウマが出来るヤツは出来る。生き返った自分は本物の、オリジナルの自分と言えるのか、と悩みだすヤツも居る。あと運が悪かったり、家系に掛かってる祝福や呪い、個人としての色々が重なった結果復活不可だったり中身入ってない抜け殻になる時もある」

「いや怖過ぎ」

「最後どういう事ですか!?」

「ここの家系の勇敢なる者達大好きだから死後はうちの領域にお迎えしてあげるからね♡ 系の守護神でも居ようもんなら、神からすると十歳も六十歳もあんまり変わらないからと死んだその瞬間にヒョイっと持ってっちまうんだよなあ」

「怖い!」

「救いの種類が違う気がする……」

「あと蘇生系を阻害する呪いとか色々? 蘇生系の魔法って言っても、死に立てほやほやならどうにかなるってだけで、死んで時間が経ってると復活出来ないとかもあるからなあ。教師への許可申請はそういう事。申請無しでやらかして相手を殺した場合、仮に蘇生が間に合ったとしても人殺しとして扱うから申請はしっかりとな」

「学園内の倫理観について一度しっかりお話を伺いたいのですが!」

「この学園は王族だの貴族だのといった、将来自分の好きなように振る舞うなんて出来ないだろう上流階級の子息達がマナーを守って好き勝手自分らしくしても良い場所、ってのが創立者の思想だからな。他人に迷惑を掛けないようになっていて、かつ取り戻しがきく範囲なら楽しくやれ」


 まあ何と言うか濃い会話も思い出してしまったが、とにかくそういう事でヒメとジンゾウは普通に中級者向けの重り入りゴム製武器を使う事にしていた。

 だだっ広い訓練場内で向かい合い、ヒメは二つの短剣を逆手に構え、ジンゾウは一つの長剣を真っ直ぐ構える。

 スタートの合図は無く、ただ向かい合い、図り合い、睨み合う。


「そういやこないだ野良犬かと思ったら隣のクラスのヤツが行き倒れててさー」


 近くを通った生徒のそんな会話が聞こえて来た瞬間、それを合図として双方共に踏み出した。

 力強く踏み出したジンゾウが三歩進んだ時には、ヒメは既に跳ぶように踏み込んでジンゾウの懐に入っていた。顎狙いで放たれた柄での一撃は、即座に反応したジンゾウの長剣によって防がれる。

 そのまま長剣を横に振り抜こうとする動きが来る前に、ヒメは後ろに下がってジンゾウと距離を取り、足元の小石を鋭く蹴って、


「ふ」

「おっと!」

「チッ」


 蹴られた小石が鋭く跳んだ方に反射で視線誘導されていたはずのジンゾウだが、その隙に死角に回り込んだヒメによる一撃を読んでいたかのように防いでみせた。


「前は引っ掛かったのに」

「そりゃあね! 一回引っ掛かったらもう覚えたよ!」

「これだから厄介なのだわ、本当」


 そう、ジンゾウは一度やられた攻撃をしっかり覚える。それに対応する動きを次の時にはやってのけるし、何なら同じ動きを真似てやってみせたりだってする。

 次の時、と言うが直前に見せてしてやられた動きですら直後には対応してくるので、その学習速度は並みでは無い。それにしてはデリカシー部分についての学習をサッパリしないのが気になるが。


「……ヒメちゃんは、いつでも俺に挑んでくれるね」

「嫌味?」

「えっ!? ちが、違うよ!?」

「最近中々勝ちが取れなくなってきた私に対する嫌味でしかなかったのだわ」

「そんなつもりじゃなかったんだけど……」


 んん、と言葉が見つからないのか何度か口をもごもごさせながら、ジンゾウは言う。


「その、ヒメちゃんは、心が折れたり、怒ったりしないでくれるから」

「普通に怒りはしてるのだわ」

「えっ」

「人が必死に速度上げて死角狙ってるのにどんどん対応されたら怒りもするのだわ」

「あ、そっち」

「それ以外に何があるの?」


 それに、怒りというよりは苛立ちや焦りといったものに近い。


「まあ、対応される動きにこちらが対応し切れていない未熟さが問題というだけなのだわ。それなら対応されているとわかった上で、相手が真似出来ない動きをするだけよ」

「でも俺、すぐに覚えちゃうよ?」

「覚えたし対応出来るからといって、私の体躯とジンゾウの体躯じゃ全然違うのだわ。そこを突けば良いだけでしょう」

「確かに俺に比べたらヒメちゃんはめちゃくちゃ小さいけど」

「ふんっ!」

「う゛っ」


 腹に飛び込んで思いっきり蹴りを食らわせた。うおあ、とか細く声を出して腹をさすっているが、ジンゾウに大してダメージが入っていないのは知っている。


「いちいちそういう事は言わなくて良いのだわ」

「はぁい」


 しょんぼりしながらジンゾウはポケットから取り出したヘアピンを髪につけた。

 これはどちらが点を取ったか、というのをわかりやすくする為のシステムである。最初は顔に墨で書いて数えようかとも思ったが、汗で滲むし運動着を汚す事もあるのでボツとなった。シールも汗で取れるし使い捨ては準備も手間になるだけなのでボツ。

 結果、点を取られたらヘアピンをつける、という事で決定した。

 勿論訓練場内には得点用のボードもあるのだが、面倒だからと使っていない。

 ちなみにヘアピンを訓練時の動きで落とした場合、ペナルティとしてそのヘアピンの付け直し+もう一つのヘアピン装着、という事になっている。中々戦闘時に意識しない部分を意識するので、頭への攻撃を避ける際の動きが洗練されてきたのは良い事だった。


「で? 心が折れるというのはどういう事なのかしら。ジンゾウは私をこの程度で心が折れるようなか弱い乙女とでも?」

「ま、まさか! そりゃ確かにヒメちゃんは見た目こそ花畑で花冠を作って微笑んでる小さい子って感じに可愛らしいけれど、実際は心身共にとっても強くて格好いいって知ってるよ!」

「……前半はともかく、後半は嬉しいのだわ」


 本当、前半はともかく、という感じ。その前半は要らなかった。


「えっと、でも、ヒメちゃん以外はそうじゃないから」

「根性無しとしか相手してこなかったの?」

「ちが、うと思う、よ? うん、多分。見た魔法を真似出来る異世界人の特性を活かす為に、って色んな人の魔法を見たり、戦ったりしたんだ。その流れで戦闘も同じくらい出来ないと出来損ないだ、って言われて」

「出来損ないなんて、それを実際にやってのけるだけの実力がある者だけが言っても良い言葉なのだわ」

「はは」


 そうかも、とジンゾウは笑った。

 先程よりの何かを思い出して思い詰めたような表情よりは、そちらの方がジンゾウっぽい。少なくとも、ヒメが知っているジンゾウは笑顔でいる事が多い男という印象である。


「……でも、そういう考え方じゃない人も、いっぱい居て。俺が関わったのはそういう人達ばっかりで。とっても強い人が次々に集められて。最初は感覚が掴めなかったけど、掴んでからはどう動けば対応出来るか、どう動けば同じ事が出来るかがわかるようになって」

「で、数十年掛けて到達した域に数日、または数時間、はたまた一瞬で追いつかれた事実に心が折れる者が続出したというわけかしら」


 ヒメの言葉にジンゾウは長剣を構えるのもやめ、うん、と俯きながら小さく頷いた。


「俺はそうするしか無かったし、そうしないといけなかったけど、だからといってあの人達の道を閉ざしたくは無かったな、って……」

「そんなもの、思うだけ無駄なのだわ」

「えっ」

「その人達もきっと再び立ち上がる時が来るだとか、ジンゾウのせいじゃないだとか、悪いのはジンゾウにそれをさせた人達じゃないとか、そんな甘い事を言ってやる気は無いのだわ」


 バカバカしい。


「だって、ジンゾウのせいで心が折れた人が発生したのはただの事実なのだわ。包丁を持たせてこれであの人を刺せと言った黒幕が居たとしても、そうするしか無かったと言って言われるがままに相手を刺したなら、その時点で共犯者の実行犯でしかない」


 う、とジンゾウが胸を押さえる。


「さ、刺さる……」

「でも」


 でも、だ。


「そもそもジンゾウの指南役として選ばれて集められた人材なのでしょう、その人達は」

「うん」

「なら、仮にも弟子と言える存在が自分を簡単に抜いたのなら寧ろ喜ぶべきなのだわ。自分より上が居るのなら、目指す先があるという事。目標がある事柄程簡単かつ楽しく、それでいて満足度の高いものなんてないのだから」

「……え、っと」


 きょとん、とジンゾウが目を丸くする。


「それってどういう事?」

「自分より上が居ないなら、四方八方草だらけの中、どこが今まで来た道だったかすら見えない中でがむしゃらに走るしかないのだわ。だって自分が先頭なのだものね。でも、先頭じゃなければ、先頭を追えば良いのだわ。追い抜けたならヤッタと思う。追い抜けないならなにクソと頑張る。それだけよ」

「それ、だけ」

「世界を見れば、自分より圧倒的に優れた者なんてごまんと居るのだわ。一点集中型でそれ以外出来ないけど得意分野には強い者も居る。広範囲型で何かに特化はしてないけれど大体の事は自分でやれる者も居る。広範囲かつ全ての分野でトップになれる程才能に満ちた者も居る。自分より優れた者が居るなんて当然なのだわ」


 本当、バカバカしい話だ。


「ジンゾウに負けた程度で、自分の動きを対応され真似られた程度で心が折れるならそれまでというだけなのだわ。その程度で折れるなら、ジンゾウ以外に負けた場合でも心が折れる。長年これでやってきたのに対応された、と言うのなら長年停滞していたところがやっと動いたと喜んで、より上の位置を目指せる状態になったと気合いを入れれば良かったのだわ」


 まったく、


「そこで心が折れる時点で、そいつの程度は知れている」


 お先真っ暗な打ち切り状態。より一層の盛り上がりも無く尻つぼみで終わるだけの人間だったという事だ。


「えっと、戦闘訓練を始めて一年にも満たない若造にしてやられたのも理由の一つ、だと思うんだけど……」

「知った事じゃないのだわ。そんなもの、それだけの伸びしろを持つ人間だと見抜けなかった方が間抜けなだけ。見る目が無いと認めて上を目指すか、自分に見る目が無いと認められずに腐っていくかは本人の資質。心を折ったのはジンゾウでも、折られる程に弱いのは相手の責でしかないのだわ」


 そんな者、わざわざ気にしてやる程の価値も無い。勝手に折れた相手を振り返ってどうすると言うのか。

 気にするほどの価値も無いくらい程度の低い者としか相対させてもらえなかったらしい、というのは可哀想だが、それ以外に同情すべき点は見つからない。

 まったく、両親がつけてくれた指南役なんて指南役の想定を超えた動きをすれば大興奮でもっと先をと要求し、


「ヒメ様今のは完全に私の動きを上回ってましたよというか何ですか今の動き! 凄い! 対策練りたいのでもうあと五十回くらい同じ動き出来ますか!? 出来ますね出来ますよね出来ないと言ってもさせますよさあノイローゼになるくらい同じ動きをお願いします!」


 指南役の動きすらも超えたらめちゃくちゃ大盛り上がりして本当にノイローゼになる勢いで同じ動きをさせられた。あれは嫌な記憶だ。

 自分の動きがより一層洗練されていくのもわかるが、回数を重ねるごとに指南役も対応した動きを見せ始め、次の時にはすっかり対策が為されて新しい動きを開発する必要があったくらいだ。本当に嫌だった。いや、勿論そのくらいの勢いで訓練を楽しんでやる事の出来る指南役だったからこその伸びを見せたなとは実感しているが。


「えへ」


 へにゃ、とジンゾウが顔を緩ませる。


「ヒメちゃんはいつも、俺を嬉しくさせる言葉をくれるね」

「あげたつもりは無いのだわ」


 嘘偽りない本音を言っているだけであって、励ましたりした覚えはない。





「さあヒメ様! 対応策編み出したんで今日もガンガン行きましょう! 同じ手が同じ相手に何度も通用するなんて甘い考えをしちゃ駄目ですからね! 対応されたら即座に対応! 新技に素早く対応された事で心が折れるような弱者にならないよう、がっつりしっかりねっとりと、本日も鍛え上げますよ!」

「もう少し声のボリュームを落として欲しいのだわ」

「嫌です! 無理です! これが私の長所なので!」

「……まあ、言いたい事はわかるけれど」

「それにこの大声程度で怯むようでは、近くで起きた大きな音にも揺らぎますからね! 真横で大声出されて聴覚を封じられても隙を見せず戦えるようになってみせてください! 流石にまだそこまでの小細工はしませんが、早めにその段階に到達してくださると私も小細工有りの全力勝負が出来ますので!」

「お母様、指南役である以上は強さ最優先で良いのもわかるけど、ここまで一直線な人員はどうかと思うのだわ……」

「いいえ一直線ではありません! やっても良いと言われれば、接近した際に大声で聴覚を潰しに掛かり、相手の反射的防御の隙を突いて仕留めます! 何なら突然子供のように大泣きして相手の動揺を誘い出し、周囲の同情を買ったりもします! そんな相手にも動じず叩きのめす非道に鍛え上げて見せます!」

「確かに目指す先はそういう事だけれど、失礼! 失礼が過ぎるのだわ!」

「大丈夫! ジョテイ様は既にその域に達してます!」

「何も大丈夫じゃないけれど……良いのだわ。貴女がその行動を取るようになったら、容赦なく叩き潰してその程度かと鼻で笑って差し上げます」

「はい! 全力で叩きのめしに来てください! その次の訓練では負かして慢心プリンセスと煽ってみせます!」

「既に充分煽ってるのだわ!」



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