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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
準備期間
12/89

休日の過ごし方 前編



 夜明け前に目を覚まし、身嗜みを整えて寮を出る。

 王族貴族向けの学園だからかそれぞれに個室が与えられているのはありがたい。こういった時間から活動を始める身としては尚更助かる。同室相手次第では迷惑を掛けかねないところだった。

 季節によっては夜明けに近い時間になるが、今の時期だとどうにも夜明け前という時間帯になってしまうので本当に危なかった。


「おはよう、ヒメちゃん」

「ええ、おはよう」


 女子寮前にはヒメと同じく運動着に着替えたジンゾウが待っていた。

 待っててくれと頼んだ覚えは一度も無いが、一度の寝坊も無く、それもヒメが寮を出る前に男子寮から出て女子寮前で待っているのは凄いと思う。

 他にも朝早く、または夜遅くの活動をしている女子生徒が騒がないのは、入学早々からジンゾウがヒメにこれでもかとついて回っているからだろう。

 ジンゾウが大声でヒメを呼んだり、ヒメが廊下であっても正座させてジンゾウにお説教していたりする為、無駄に知名度が上がってしまった。実に不名誉。


「相変わらず待つのが早いのだわ。もう少しゆっくりしていても良いし、何なら食堂で待っていれば良いと思うのだわ」

「うーん、でもヒメちゃんに早く会いたいから。食堂で待つよりも、折角なら食堂までの時間も一緒に過ごしたいし」


 それに、とジンゾウは何かを噛み締めるように目尻を緩めてはにかんだ。


「ヒメちゃんを待たせたりなんてしたくないもんね」

「だからといって大雨どころか雷も降ってる嵐の日にまで待ってなくて良いのだわ」


 あれは流石に驚いた。


「だって約束してたし」

「あの状況で約束を守ろうとなんてしなくていいのだわ」


 約束、というのは寮に帰る時、ジンゾウが毎日言っていること。


「ヒメちゃん、明日の朝も迎えに行って良いかな?」

「構わないのだわ」


 断る理由も無いので頷いているが、毎日欠かさず聞くとは随分律儀だな、とヒメは思っていた。

 まあ今更約束無しで待っていたとしても気にしないが、そういった約束を事前にしておく、というのは王族として大事なことなので良い事だろう。アポ無しで王族訪問なんて中々のスキャンダルになってしまう。仮にスキャンダルにならずとも、向かえる側によっては大わらわだ。

 そんな事を考えていれば、隣を歩いているジンゾウが首を傾げる。


「え、でもヒメちゃん、あの日も普通にトレーニングしに出て来たよね?」

「…………どんな状況下であろうと訓練し、そういった突発的事象、特に天候等による状況変化に対応出来るようになっておくのは良い事なのだわ」


 ほらやっぱりあの日も迎えに行ってて良かった、という顔でジンゾウはニコニコした。ヒメはちょっとイラっとした。実際その日も通常以上の負荷を感じながら通常通りの訓練を実行したので何も言えない。





 学食に到着した。

 夜明け前、しかも今日は休日なので全然人が居ない。

 しかし国柄や生活リズムはそれぞれ違う為、それに対応しているのか食堂の料理人は二十四時間いつでも居る。

 様々な国の食事に対応出来るプロを複数人雇っているのもそうだが、そんな彼らに休みを与えつつローテーション出来る辺り、流石に大きい学園だと実感する。


「ヒメちゃんはいつも通り、スープと軽めのパン?」

「そうね、今日のオススメスープとパンにするのだわ」

「わかった。ちょっと待っててね」


 にっこり笑ったジンゾウがそのままカウンターへ行き注文。

 その間にヒメが適当な席に腰掛ければ、あっという間に用意された料理を持って戻って来たジンゾウが隣に座った。

 別に向かいでも良いのではと何度か言ったし、昼時に至っては向かいの席しか空いていない事すらあったのだが、それでも隣に座ってくるのがジンゾウだった。何を考えているのかがよくわからない。

 ちなみに隣の席が空いていなかった時だけれど、


「別に隣に座らなくたって良いのだわ」

「えっ、嫌だ! ヒメちゃんと一緒に食べたい! あ、そうだヒメちゃんが俺の膝に座れば良いよ! ヒメちゃん、いつもテーブルの高さが背の低さのせいでちょっと合ってないみたいだったし、俺の膝の上なら高さも稼げるから良いと思う! ヒメちゃん小さいから丁度いいよね!」

「個人の身体的特徴について大声で言うなと何度も言っているのだわ!」


 そんなやり取りをしている間に席が空いたのでそこに座ったが、何故隣の席に固執するのやら。あと膝の上は普通に嫌だった。子供扱いにも限度というものがあると思う。


「はい、ヒメちゃん。今日のオススメスープのあら汁と、オススメパンの米粉パン」

「今日は随分と和系のテイストなのね。いつもありがとう、ジンゾウ」

「ううん、俺がやりたくてやってる事だから」


 こうして注文等をやってくれている事にお礼を言えば、ジンゾウは照れ臭そうに頭を掻いた。


「それに、ヒメちゃんてちっちゃいからカウンターで注文して物を受け取るの大変そうだし。迷い込んだ初等部の子みたいで可愛いけど!」

「いい加減苛立つのにも疲れて来たのだわ……」


 身長についてだの幼く見えるだのと言われるのを嫌っているのは初対面からわかっているだろうに、何故学ばず同じ事を言ってくるのか。


「ま、それについてはいいのだわ。ジンゾウは今日もおにぎり?」

「うん」


 ジンゾウの前には、ジンゾウの体格に見合う大きさのおにぎりが三つあった。ヒメなら一つで満腹になるだろう大きさだ。


「これが煮卵で、これが納豆で、これが高菜」

「そっちはそっちで今日はまた随分と和なテイストなのだわ」

「うん、今日はそういう系が美味しく出来たみたい」


 天むすやツナマヨの時もあるので本当に珍しいラインナップ。特に納豆。いきなり納豆のおにぎりを口にしたジンゾウをつい心配げに見てしまう。


「……ジンゾウ、納豆食べられるの? 私は記憶があるから美味しく食べられるけれど、和食系が好みじゃないなら食べにくいと思うのだわ」

「うーん、俺の体は異世界人のものだからなのか、味覚はこっちに合うんだよね。納豆も結構美味しく感じる」

「味覚はともかくとして、どこが異世界人の体なのかって言いたいのだわ」


 ハーフの日本人なら可能性があるかもしれないが、そんなものは奇妙な冒険をするタイプのハーフだろう。年齢的にも身長的にも体格的にも一致する。が、そんな存在が異世界人としてやってくるはずもない。


「ふふ」


 一つ目のおにぎりをあっさり平らげたジンゾウは、煮卵のおにぎりを頬張りながら微笑む。


「ヒメちゃんは、いっつもそう言ってくれるよね」

「私は私主観とはいえ事実を言っているだけなのだわ」


 そんなとんでもない二次元ボディを日本に居た時点からお持ちだったなら、わざわざ異世界に来るまでもなく何らかの主人公になっているはずだ。異世界にまでやってくる理由が無い。

 そもそもこちらの世界にある文献だって、異世界人達の特徴は日本人らしく小柄な者が多いとあった。見た目にはこれといった癖も無い様子だったので、ここまで個性を詰め込んだような異世界人が居たらもっとしっかり文献に残るだろう。


「それよりヒメちゃん」


 笑みを浮かべたまま、三つ目のおにぎりも容易く食べ終わったジンゾウがヒメの前を見る。


「食べ切れない分、貰おうか?」

「……お願いするのだわ」


 あら汁と米粉パンは両方とも三分の一程が残っていたが、ジンゾウにより一瞬で平らげられた。





 軽めの朝食を終えたので、学園裏の森近くに移動しストレッチ。

 朝食という名の燃料は入れてある為、腹具合がこなれるまでの時間潰しにもなる。


「もう少し強く押して欲しいのだわ」

「う、うん」


 地面に開脚した状態でジンゾウに背中を押してもらい、そのままペタリと胸を地面につけた。


「ヒメちゃん、大丈夫?」

「毎朝見てるのに今更なのだわ」

「それはそうだけど、ヒメちゃんの小さい背中を押しても大丈夫なのかとか、体の骨とか大丈夫なのかとか思っちゃうんだよ」

「小さいは余計よ」


 二人でやるようなストレッチも出来るのでジンゾウの存在はありがたいが、こういう要らない事を言ってくるのは難点だ。


「それよりジンゾウの方がしっかりストレッチすべきなのだわ」

「俺も大分柔らかくなったよ!」


 ほら! と開脚して見せて来たが、


「背中が浮いてるのだわ」

「あがががが」

「あと足。つま先をブレさせない」

「うぐぐぐぐ」


 ぐりぐり押してジンゾウの体を解していく。

 ジンゾウはかなり動ける方ではあったが、ストレッチをし始める前は中々に硬かった。平均よりは多少柔らかい、というくらいだろう。それも筋肉の厚みが邪魔だとか言うので最初っからキツめにトレーニングした。

 例え筋肉があったとしても、柔軟性が少なければ酷い攣り方をしても不思議ではないというのに。まったく。


「今日のストレッチはここまで、なのだわ」

「はぁーい」


 数十分程のストレッチ時間が終わり、ぐったりしながらジンゾウがそう返す。

 ぐったりしてはいるが、半年間も毎日ちゃんと続けているのだから凄い事だ。


「さて、それじゃあ走り込みを」

「する前に、ヒメちゃんの髪を纏めても良いかな?」

「構わないけど……飽きないわね」

「勿論!」


 呆れ混じりのため息を吐いてから、ヒメはジンゾウの前に座った。

 ジンゾウはいつも通りハーフアップに纏められているヒメの柔らかな金髪を優しく解き、大きな指で手慣れたように一つのお団子へと纏め上げた。

 こうして一緒に訓練をするようになった最初の頃、髪を纏めさせて欲しい、と頼まれたのだ。


「普通に嫌」

「何で!?」

「確かに一緒に訓練をしてはいるけれど、貴方と私は別に親しい相手というわけでも無いのだわ」

「あう、それは……でもほら、走るなら纏めた方が」

「長い髪ならともかく、肩までの長さならそこまで邪魔にもならないのだわ」

「そりゃヒメちゃんが走ってる時、汗でほっぺたに髪の毛がちょっとついちゃってるのも可愛いけど!」

「…………」

「ヒメちゃん?」

「気分が変わったのだわ」

「じゃあやらせてくれる!?」

「自分で纏めます」

「そんなあ!」


 そんなやり取りを経て、毎日髪を纏めさせてくれと頼まれ、いい加減面倒になって来たのが四か月目。結局持久戦に敗北という形で、髪に触れる事を許可したのである。

 いやもう、本当にしつこかった。

 毎日の迎えや特訓はヒメとしても利点があるので気にならないが、何となく不快または面倒臭いと思っている事柄に関してを毎日お願いされるのは心の体力が地味に削られている心地がした。そのまま同じやり取りを続けていれば行きつく先はノイローゼだっただろう。


「じゃ、走るのだわ」

「うん。今日は何時間?」

「いつもは二時間だけど、今日は休日だから三時間にするのだわ」

「了解!」


 始めの合図も何も無く、ニッコニコのジンゾウを置いてヒメは寮を含めた高等部をぐるりと回るルートで走り出す。

 置いていかれる形になったジンゾウは特に慌ても騒ぎもせず、いつもの事だからと笑顔のまま慣れたように駆け出し、すぐヒメに追い付いてその横に並走し始めた。





「ヒメちゃんの髪ってふわふわしてるよね。俺、ヒメちゃんの髪の毛を触るの好きだなあ」

「そう?」

「うん」

「これは母に似た髪質なのだわ。父に似ていれば、ジンゾウのような黒髪だったでしょうね」

「そっか、そういうのって考えた事無かったな。俺のこの髪ってどっち似なんだろう」

「どっち似って、両親の髪色も知らないの?」

「両親が居るかどうかも……あ、いや何でもないよ! うん!」

「そう」

(危ない危ない、僕に関しては両親が居るかも怪しい、なんて言っちゃ駄目だよね)

(明らかに何か闇が垣間見えたのだわ)



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