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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
部活無所属組
11/89

役決め



 被り物なので取れて当然なのだが、当然のようにユニコーン頭を被り続けているマンガなのでまさかそんなあっさりとは思わなかった。

 わあ、とジンゾウも少し顔を引き攣らせている。


「マンガさんには何か強いこだわりがあるのかと思ってたよ」

「被り物をしてると素敵な会話を凝視していても気付かれないから」


 本当にそれだけの理由でユニコーン頭の被り物という不審者まっしぐらな恰好をしていたらしい。


「先に主張させてもらいたいんだけどね」


 既にマンガへの興味は失ったらしいマッドが、腕を組みながら言う。


「主人公はお断りだ」

「そんな! 華奢な女子かつ普段は淡々とした性格だからこそ美味しい配役作戦が!」


 流石にマッドにヒロインを助ける為奮闘する主人公なんていう配役は宛がわないだろうと思っていたが、全然そんな事は無かったらしい。ユニコーン頭の嘆きっぷりにヒメはそう思った。

 マッドに関しては人間性に不安があるくらいしか今のところ把握出来ていないけれど、危機察知能力にはかなり長けているようだ。ヒメとジンゾウが空き教室に入る前の段階で荷物を持って逃亡出来るポテンシャルがあるので納得がいく。


「ヒロインをトクサツにして百合香る素敵なラブストーリーにするつもりだったのに……」


 しくしく、と泣いているようだがユニコーン頭のせいで口で言っているだけなのか本当に泣いているのかがわからない。まあ、恐らくは泣き真似だろうけれど。


「となるとトクサツは悪役かな!」


 一瞬でケロッと元気になってそう発言したのでやはり泣き真似だったらしい。


「ええ!? 待って、僕はヒーローである主人公が良いわ!」

「確かにそっちの方がトクサツの性格とも一致してるし正義の味方……だけど! 折角の演劇だからこそ! 全力で悪役やってるトクサツを見たい! こんな機会でも無いと世界がひっくり返っても見れない気がするしね!」

「こんな機会でもそんな姿見せないから!」

「というか彼女を悪役にした場合、主人公もヒロインも男が配役される事になるがそれは良いのかな」

「それはそれで美味しいと思う!」


 マッドの目が一層死んだ。こいつも中々にヤバいタイプだな、とでも言いたそうな目だ。気持ちはわかる。


「ま、本人が演じやすいだろう方向性で良くなら主人公トクサツ、ヒロインライト、悪役フリョウ、医者マッド、そして主人公母のわたし、がベストかな。ジンゾウがナレーションで」

「……悪役…………」

「あー、確かにフリョウは見た目の威圧感から一目で悪役っていうのは主張しやすいかも」

「…………」

「いやすみません今のはつい本音が! そんなに落ち込まないでくださいよフリョウってば!」


 んもー、とライトは背中を丸くして落ち込んでしまったフリョウの背を叩いて励ましているが、今の配役だとフリョウに惚れられているポジションになるが良いんだろうか。

 そこまで考えて、マンガにネタにされても気にせず楽しめる派な彼にそれを聞くだけ無駄な気がしたのでヒメは何も言わない事にした。心配するだけ無駄という気配がビンビンする。


「医者か。わたくし様は構わないよ」

「主人公、つまりヒーロー! 素敵! それならママもきっと怒ったりはしないし、何より主役になれるなんてとっても素敵だわ!」

「ヒロイン、って言い方はちょっとアレだけど、まあ言っちゃえば主人公の恋人役だもんね。オレも問題無ァし。毒を服用しちゃって弱ってる人は何人か見てるし、その演技もまっかせて!」

「…………全力は尽くす」


 フリョウだけ凄くしょっぱい顔をしていたが、概ね好意的に受け入れられる配役らしい。というかライトの発言はどういう事だ。


「ナレーション……! 俺に出来るかなあ」

「出来る出来ないじゃなくてやるやらないなのだわ。私のトレーニングに汗も掻かずついて来ている事からも体力面では問題無いし、やめろと言っても大声で私を呼ぶ癖を思えば喉の耐久値も充分」

「え、えへへ」

「そこまで褒めてないのだわ。まあ問題点が少ないという点は事実だけど。となれば気にすべきは、滑舌といった聞きやすさの部分なのだわ」

「発声練習した方が良いかなあ」

「それならお母様から教わった方法があるから付き合うのだわ」

「へぁっ!?」


 急に顔を真っ赤にして肩を跳ねさせたジンゾウに、どういう反応だ、とヒメは怪訝に眉を顰める。


「……おかしなことを言ったつもりはないのだわ」

「い、いや、いつも俺からヒメちゃんについて行ってたから、ヒメちゃんの方から僕に……」


 一瞬、ジンゾウはサァッと顔を青くして慌てたようにまくしたてる。


「その、俺! 俺から行くんじゃなくて、いや誘うんじゃなくて、ヒメちゃんの方から俺の行動に付き合ってくれるなんて無かったから、その……」


 カァ、と今度は顔色が真っ赤に染まり、ジンゾウは下を見て唇を少し突き出すようにして小声で言う。


「……う、嬉しく、て」

「…………そう?」


 言われてみればそんな気もする。

 最初の出会いが出会いだったし、その後もやたらと纏わりついてくる大型犬といった印象だったので放置していたが、そういえば自分から食事に誘ったりも特にした覚えが無い。毎日ジンゾウから食事に誘われ、断る理由も無いので一緒に行く、というのがいつもの事。

 毎日飽きもせず同じ事をよく繰り返すものだと思っていたが、これはこちらが薄情だったかもしれない。ヒメはちょっと自分の行いを反省した。でも拾ったわけでもないヨソの犬に食事を与えるのは良くないし行動としては間違っていないはずだ。うん。


「ヒロイン系王子は幸せなキスをして神からの祝福を受けるエンド……」


 ユニコーン頭は何を言っているのかわからない。変な幻覚でもキメてるのか。拝むな。


「ゴホン、というのは一旦置いといて。いやしっかり記憶したしメモも取ったし風呂に入りながら濃縮させる気はあるけど今じゃない」

「そこまで言わなくて良いのだわ」


 本当に言わなくて良い。


「さておき、学園には演劇部もあるし、とりあえず出来上がった骨組みを確認してもらいながら細かいところを整えるよ。明日の昼までには間に合わせるから!」

「早くないかしら」

「基本的には台詞の書き出しがメインだからそこまで負担が無いっていうのが大きいかな。背景とかの細かいところをヒメに丸投げ出来るのも大きい!」

「丸投げ……」


 確かに裏方担当である自分が把握していれば良い話だが、随分ハッキリ言ってくるこのユニコーン頭。


「それに、実際に演じ始めてから演じやすい形に変更する可能性も高い。寧ろこのキャラクター性の濃いメンバーならその可能性の方があり得る。最初から当て書きにするつもりだから、振る舞い方とかは逐一調整すれば良し! 台詞も後から調節は有りだしね!」

「ふむ、確かにその方が助かるね。わたくし様はわたくし様に合わない役柄なら無視してわたくし様らしく押し通すつもりだったが、最初からそうなっているなら手間も少ない」

「問題は演劇部に友達が居ない事です」

「ではっ」


 敬語で突然ブッ込んできたマンガにライトが噴き出した。中々独特な噴き出しだった。今もえひえひ言ってフリョウの背中を叩いている。


「うひー、笑った笑った。ごめんね爆笑しちゃって」

「事実だから良いよ」

「…………だが、それだと頼み辛くはないだろうか。……向こうも学園祭に向けて出し物を用意しているなら、尚更こちらに掛ける時間は……」

「演劇部の恋愛模様や個人情報は持ってるから大丈夫」

「何も大丈夫じゃないのだわ」


 親指立てて言っているところ悪いが普通に脅しだ。トクサツが怪訝な目になってマンガに向かって少し構え始めている。


「……その、マンガには悪いんだけど、悪だった場合は僕も戦ってぶちのめして勝利を宣言しないといけないから……」

「お話するだけであって悪じゃないから大丈夫!」

「そっか、良かった!」

「お話という名の脅迫であって何も良くは無いのだわ」

「うん、まず普通にオレが演劇部の友達紹介するから穏便に行こっか」


 ライトのコミュ力により、演劇部員が脅される可能性は無くなった。





「あーあ、主人公のマッド見たかったな。舞台の上でだけ熱血型な姿も良いし、当て書き型にしてもニヒルで一風変わった主人公になれたのに」

「お断りだよマンガ。明らかに仕事量が多くなるじゃないか。熱血型なんて、練習した時点で表情筋が攣る。想像しただけで拒絶反応が起こる勢いだ。論外」

「そこまで?」

「当て書き型でも断る。出番も台詞も多いなんて冗談じゃない。わたくし様の出番は可能な限り削っておいておくれ」

「どっちみちメインは主人公、ヒロイン、悪役になるから嫌でもそうなっちゃうよ。どうせならトクサツの悪役も見たかったのに……残念。悪役顔で人を人とも思わぬ外道で他人を踏み潰して高笑いするトクサツを拝みたい人生だった」

「もし本当にそんな人生なら、生まれて来た理由を一度しっかり思い直した方が良いと思うよ」

「正論やめて」



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