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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
部活無所属組
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物語の骨組み



「やあすまなかったね。てっきり教師の使いだと思ったものだから」


 目の下に深い隈を刻んだ顔で、マッドはそう言った。


「何せわたくし様の実験というのは時折有害な煙が発生したりもするし、根本的に世の摂理に対して喧嘩を売るような薬を作ってしまう事も少なくはない。わたくし様としては実験が出来る部活に入りたいと思っていたのだが、そういった部活はどうにも健全というか、常識の範囲内になってしまってね」


 やれやれ、とマッドは肩をすくめる。


「勿論ちょっとヤンチャな実験をする生徒も居るが、わたくし様からすればそれはヤンチャどころか良い子の部類だ。それではつまらない。楽しく実験をしたいのであれば、衝動や探究心のままにありとあらゆるやり方を試すべきだ。例えそれが有害だと言われていようとね。そうだろう?」

「知らないのだわ」


 凄い喋るこの生徒。

 毛先にウェーブが掛かった髪。眠そうにも見える目。ヒメが身長から人形のようだと言われるなら、彼女はその華奢さから人形のようだと言われるだろう細身の体。

 制服は上着無しのシャツ姿で、下は男子生徒と同じズボン式。首に巻かれているのはネクタイでは無くスカーフに見えたが、よく見ればリボンをネクタイのように結んでいるだけだった。足元はサンダルを履いていて、一瞬王族用の改造制服かと見紛うくらいには好き勝手している。


「まあ結局のところ教師からの使いという点は間違いでも無かったわけだが、目的が違ったとは気付かなかった。トクサツからわたくし様の魔法については聞いているだろうけれど、まったく、魔法で筋力のブレーキを緩めて無茶な動きをしてまで逃げる必要は無かったとはね。無駄な事をしてしまった。既に筋肉痛で足がミシミシと痛みを発していて嫌になる」

「あ、じゃあマッサージしてあげるわね! マッドにはいつもお世話になってるもの!」

「おや、良いのかい? それはありがたい。自主的な実験台を何度もやってくれるところといい、君は実にありがたい存在だよ。流石はヒーロー家。ああ、本当に助かっている」

「やだそんな、そんなに言われたら照れちゃうじゃないもう!」

「ぐふっ」


 トクサツに照れ隠しで背中を叩かれたマッドは結構本気で咳き込んでいた。耐久度はかなり低いと見て良さそうだ。


「いやー、でもこれで部活無所属な学園祭で演劇披露強制メンバーが揃ったわけだね! 良かった!」

「…………ライト」

「何です?」

「……演劇を行うには脚本その他もまだ準備が出来ていない。物語が始まったかどうか、というところだろう」

「始まってるかすら怪しいくらいかァ」


 フリョウの言葉に、まあそうかも、とライトが頷く。

 実際、ようやくスタート地点に立てたというのが現状だ。目的地こそあれど、ここからどの方向に舵を切るかすら決まっていない。


「脚本に関してはわたしがやるよ」


 はい、とマンガが挙手した。


「衣装に関しては被服部に頼むのが良いかもしれない。学園祭で被服部が何をするかは知らないけど、被服部で作られた衣装です、って言えば被服部の活動宣伝にもなって向こうに利点があるって事になるし」

「……貴方、落ち着いて会話出来たのね……?」

「ヒメったら酷い! わたしはいつでもわたしだよ! あと趣味に走って性癖に走れる機会となれば真面目な顔を被って好き勝手やれるポジションに着こうとするのは当然じゃないか!」

「いつも通りだったね」

「まったくなのだわ」


 ジンゾウの言葉に同意した。真面目の皮どころか常にユニコーンの頭部被ってる男が何を言っているのやら。


「被服部なら友達居るし、オレが話を通しておこっか?」

「ライトに頼めると助かるのだわ」

「任せて! 被服部にはヤバいヤツが四人居たはずだから!」

「安心出来ないワードが!?」

「あ、服を作りたくて堪らない服作り中毒って意味だから大丈夫。腕が良いのは本当だよ!」

「そ、それなら安心……なのかなヒメちゃん」

「こちらに害が無いなら良しとするのだわ」


 明らかに要望と違うケッタイな衣装を寄越されたら文句を言う事になるが、今の段階ではそれらも未知数なのでライトに任せるしか出来ない。出来が良ければありがたいし、出来が悪ければ自分達で突貫直しをするだけだ。


「とは言っても、脚本なんて作れるの?」

「素材さえあればどうにかなる。というわけでパッと思いついた演劇に使いたいワードをそれぞれ一つどうぞ」

「戦闘」


 ヒメは反射的にそう答えた。


「治療」


 思考に時間が掛かるフリョウにしては珍しく早い発言。


「ハッピーエンド!」


 続くライト。


「正義の味方!」


 ワードがわかりきっていたトクサツ。


「え、あ、ら、ラブストーリー、とか」


 困惑しながらも咄嗟にどうにかワードを絞り出したジンゾウ。


「毒」


 ハッピーエンドといったワードを完全無視してマッドがぶち込み、六名分のワードが出切った。


「戦闘、治療、ハピエン、正義の味方、ラブストーリー、毒……結構方向性定まってて纏めやすいワードが出たね」

「ま、纏めやすいの!?」

「うん」


 マンガはジンゾウの言葉に頷いた。


「オペラとか言われるよりはやりやすいかな。正義の味方って事は悪が居る。ラブをメインに据えつつ戦闘要素を盛り込むとなれば、悪役はヒロインに恋をしていたからヒロインに毒を盛った。弱るヒロイン。ヒロインを救う為立ち上がる主人公。悪役の屋敷に乗り込み、戦闘し、悪役に辿り着いて……」


 一瞬、思考の為かマンガの語りが止まる。


「……辿り着くも、解毒剤は無い。絶望する主人公。泣きながらヒロインに寄り添うしかない。だがそこに、そう、ヒロインの口に主人公の涙が……自然な入り方としては飲み物を渡す時に入ったとかかな。それを飲んだ瞬間、先程より症状が僅かだが回復したヒロイン。それを見ていた医者が主人公を調べると……いや調べるのは涙か? そう、それを調べると、調べると……」


 そこで詰まったらしく、マンガはユニコーン頭を抱えてうぐぐと唸る。それを見て、フリョウがそっと手を挙げた。


「……俺の知る話曰く、先祖にそういった種族が混ざっていた、という実例はあるが」

「いやそれじゃ安直過ぎる。もうちょっと捻りが欲しい」

「マンガ、無理しちゃ駄目よ。僕達が練習し始めるまでに間に合えば良いんだし、何も今日中に纏めなくたって」

「こういうのは勢いで大体の骨組みを作っておけば、残りは推敲に費やせるから」

「あ、じゃあ数年前からその毒に効果のある解毒剤の材料が採取出来なくなってる、っていうのは? 植物系なら気候によって五年十年採取出来ない状態になるって事も無いわけじゃないし、そうなってくると年々その植物は在庫数も少なくなるから金額の問題以上に手に入り辛いとかもあるんだ」


 で、と人差し指を立ててライトが言う。


「その数年前のちょっと前には、すっごい豊作だった。有り余るくらい。これも最後の散り際みたいな勢いで豊作になって数年は採取不可能で、っていうのは幾つか例があったはず」


 ピクリとマンガが反応を示した。


「主人公のお母さんが、その豊作だった時に沢山乾燥させてお茶のパックを作っていた。ハーブ系ならお茶に使われる事も多いし。で、それを飲んでいた主人公の涙にはその成分が混ざっていて、」

「主人公は即座に母に話してお茶のパックを幾つか分けてもらい、医者に提供! それにより解毒剤が作られてヒロインは回復、晴れて二人は結ばれハッピーエンド……これだぁ! 骨組みが出来た!」


 いよっしゃあ! とマンガが凄い勢いでノートに今の内容を書き出していく。おかしな妄想の際に使っていたノートとはまた違うノートな辺り、常に複数のノートを所持して歩いているらしい。


「骨組みが出来たなら、後は誰がどの役になるかを当て嵌めよう! 楽しいターンが来たよ!」

「楽しいかはさておき、どういう役があるのか聞きたいのだわ」

「まず主人公。ヒロイン。悪役。医者。主人公の母親もかな。あとは悪役のところで戦闘があるから……被り物で顔を誤魔化してその時出番が無いメンバー含めて大勢で襲い掛かるバージョンと、残ってる二人を配役して凄腕二人って事にするバージョン。どっちが良い?」

「当然前者なのだわ」

「どうして?」


 トクサツが不思議そうに首を傾げている。


「折角皆で演るんでしょう? それなら皆がしっかり登場した方がきっと楽しいし、素敵なものになると思うの!」

「場面転換で背景や小道具を動かす必要があるのだわ。幾らその時は幕を下げると言っても、演じながらそれらをやっていくのは負荷が大きくなってしまうのだわ」

「あ、そっか。演劇って演じる人だけじゃなくて、そういう人も居るのよね」


 ふむふむ、と納得したようにトクサツが頷く。


「じゃあ、二人掛かりでそういった動きをするの?」

「いいえ。背景云々と言ったけれど、それに関しては私の魔法でどうにかなるのだわ。私の魔法は、私が見聞きしたものを映像として出せるもの」


 言いつつ、ヒメは空き教室の机の上に豪勢な食事のホログラムを表示した。


「多少の違和感はあるし実体がないから触ったりは出来ないのだわ。でも、これを使えば最低限の小道具だけで済むのだわ」

「あっ、確かに! それならヒメちゃんが背景の映像を映し出せば、実際に使用する椅子とかの準備だけで済むね!」

「というわけで、私は裏側に回らせてもらうのだわ」

「うん、了解」

「確かに、そういう事なら」


 あっさりと許可が出た。


「でもそれだと一人で裏方が出来ちゃうわよね? もう一人が余っちゃわないかしら」

「っていうかさァ」


 はいはい、とライトが手を挙げる。


「ナレーション、忘れてない?」

「「あっ」」


 トクサツとマンガの声が重なった。


「護衛としてママによく連れて行ってもらってたのに、ナレーションの存在を忘れてたわ……恥ずかしい」

「作品だと地の文や吹き出しでどうにかなる部分だから音声的な部分忘れてた!」


 赤くなった頬を両手で覆って恥ずかしがるトクサツに、そうだったそうだったと唸るユニコーン頭。それを見てヒメは思わず半目になった。


「……一番気になってるのだけど」


 す、とヒメはマンガのユニコーン頭を指差す。


「何かしらの役を宛がわれるとして、その頭のままというわけにはいかないのだわ」

「その時はちゃんと外すよ?」


 その頭って普通に外せるんだ。

 七人中六人の心が今初めて一つになった。





「でもこのストーリー、悪は居るけど正義の味方と言い切って良いのかしら」

「やめてヒメ。トクサツからツッコミ入らなかったんだからこれで押し切る。悪を倒すなら正義だし! というかそれを言い出すと定義が難し過ぎ」

「大事な人を助けようとするのは、正義なのだわ。間違いなく」

「でもわかりやすいヒーローは悪いドラゴンなんかを倒したりするよね。で、それを素人演技で? 無理! ヒメの魔法が凄いのはさっき見て理解したけど、映像が立派だからこそ演技で見劣る危険性がある」

「……確かにそうなのだわ」

「悪人が明確に厄介かつ大きな組織なら主人公側は正義の味方って言えるけど、そっちはそっちで人員が足りない。あと設定も難しい」

「そう考えると、わかりやすい正義の味方ではないけれど、愛する者を助けようとして悪と戦う正義ではある、という収め方が無難になるわね」

「そういう収め方でよろしく。……でもこんな会話したらコテコテの正義の味方モノも書きたくなっちゃったな。台本作ったり演技したりの必要があるけど、作業の息抜きに書いちゃうか……」

「そういえば、マンガの書いているらしい作品はどこで取り扱っているのか気になるのだわ」

「えあっ、あ、えっと、創作部の方に委託してるから合言葉さえ告げれば裏メニュー的に一応……」

「私をモデルにした作品も出していると言ったわね?」

「……五作品分のリクエスト受けます」

「一つで良いのだわ。メジャーからマイナーまでを取り揃えた、世界の強い英雄についての、特に戦いに関する逸話を纏めたものを。実在、伝説混在で。勿論実在したか曖昧なら注釈を。その出来次第では既刊の扱いについて、話し合いに応じましょう」

「め、明確に試練だけど負けられない……!」



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