#71 初めての海釣り
9月16日(祝・月)
朝6時、海釣りをする為に若洲海浜公園に転移して来た俺達は、紗奈さんから釣りのレクチャーを受けている。
「今日は、サビキ釣りっていう釣り方で、鯵などの小型回遊魚を狙って行きます」
「サビキ釣り?」
「サビキ釣りっていうのは、ここにコマセというエサを入れて、疑似餌バリで釣る釣り方です」
「コマセというのはこれですか?」
「ええ。今日はオキアミを使います。オキアミをここに入れて、海に落として下さい。そうしたら、この中のコマセが外に出て魚が寄って来て、この針に掛かりますから、掛かったらリールを巻いて釣り上げて下さい。ここは、投釣り禁止なので、針を投げ入れないで下さいね」
「「「「「は~い」」」」」
紗奈さんの説明に唯佳達クローバーの3人と智佳姉と凛が返事をする。
「ふふっ子供達は息が合っているわね」
「ふふっそうですね」
ばあちゃんと優佳おばさんが微笑ましそうにこちらを見て会話している。
「釣った魚は、クーラーボックスに入れておけばいいのよね?」
「はい。それでいいです」
「それじゃあ、始めましょうか?」
「「「「「は~い」」」」」
釣り方を聞き終えサビキ釣りの仕掛けを準備して、海へと落として行く。
若洲海浜公園の堤防に並んで糸を垂らしていると、10分程で鯵が釣れ始めた。
「あっ!釣れた~これ何て魚〜」
「雛ちゃん、それが鯵よ」
「あっ!私も釣れたよ」
最初に雛が釣り上げ、続けて凛も鯵を釣り上げた。
それからみんなが鯵を釣り上げて行く中、俺の竿には全く当たりが来ない。
「おかしいな~鯵の群れが来てると思うんだけど、何で俺だけヒットしないんだ?」
「まあ、そういう事もあるわ。でも、鯵の群れが来てるみたいだし、春斗くんにも当たりが来るわよ」
ただ一人釣れていない俺を、紗奈さんが励ましてくれる。
「そうよ春斗、釣り始めてからまだ20分くらいしか経ってないんだし、これからよこれから」
智佳姉にも励まされ、気を取り直して釣りを続けたが、結局俺に当たりが来る事なく、みんなも当たりがなくなってしまった。
「釣れなくなっちゃったねー」
「そうだね~でも、アタシは4匹釣れたしいっかな〜」
「私も4匹釣れたわ」
「え〜雛姉も智佳姉も4匹も釣れたの〜?いいな~」
「凛ちゃんだって3匹釣れてるじゃない。私なんて1匹だけよ」
「私は2匹釣れたー」
「私も2匹でした」
「唯佳ちゃんもほのかちゃんもまだいいわよ。私は優佳さんと一緒で1匹しか釣れなかったわ」
「私もよ可憐ちゃん、でも、まだまだ始まったばかりだし、またチャンスは来るわよ」
「そうですね琴子さん、頑張りましょう」
どうやら俺以外の初心者組はみんな1匹以上は釣れているらしい。
唯一の経験者の紗奈さんは、サビキ釣りじゃなくて、ウキフカセ釣りをしている様だが、まだ釣果は上がっていない様だ。
それから30分、誰にも当たりが来なかったのだが、雛の竿に再び当たりが来た。
「おっ!来た~」
「おー!頑張れ雛ちゃん!」
「雛姉頑張れ〜」
「さっきの鯵より重いかも〜」
そう言いながらリールを巻いて行く雛。
「お〜!釣れた~って、でっか!何これ?」
「それはサバね。大きいわね」
「サバって、こんな魚なんだ〜」
釣り上げた雛の疑問にばあちゃんが答えていると、俺の隣の竿にも当たりが来ていた。
「ばあちゃんの竿にも当たりが来たよ!」
「あら、ホントだわ」
雛の所から戻って来たばあちゃんがリールを巻いて釣り上げたのは、鯵でもサバでもない魚だった。
「これは何かしら?」
ばあちゃんも何ていう魚なのか知らないらしい。
こんな時は紗奈さんに聞きたいのだが、その紗奈さんにも当たりが来ている様で、余裕はなさそうだ。
仕方なくスマホで調べたら、サッパという魚らしいのだが、名前が分かってもその魚を誰も知らなかった。
「サッパって、食べれるのー?」
「どうなのかしら?聞いた事がない魚だわ」
「そうね。私も聞いた事がないわ」
「おばあちゃんも優佳おばさんも知らないんだ」
「スマホで調べたら食べられるらしいよ。岡山の方ではままかりって呼ばれているんだって」
「ああ、これがままかりなんだ。岡山の郷土料理でままかりずしっていうのが有名よね」
「ああ、そうね。聞いた事があるわね」
「確か酢漬けにして、お寿司にしたやつよね?1度食べた事があるわ。この魚がそうだったのね」
「お母さーん、美味しかったー?」
「ええ、美味しかったわよ」
「じゃあ、どんどん釣らなきゃ!」
「そうだね~頑張ろう〜!」
こっちがサッパで盛り上がっていると、紗奈さんの方も釣り上げる事に成功した様だ。
「やった〜!いい型のシーバスが釣れたわ!」
「おー!紗奈ちゃんおめでとー」
「唯佳ちゃんありがとう」
「紗奈姉、シーバスってな〜に?」
「日本語だとスズキっていう白身の魚よ。出世魚で大きさによって名前が変わるんだけど、この大きさだとフッコかも」
そう言って、持って来ていたメジャーで大きさを測り始めた紗奈さん。
「58cmだからギリでフッコね」
「紗奈姉、食べれるの?」
「食べられるわよ凛ちゃん。刺し身でもいいし、塩焼きとかムニエル、アクアパッツァにしても美味しいわよ!」
「刺し身で食べれるなら刺し身で食べたいわね。折角新鮮なんだし」
「そうね。春斗達が持って来てくれた酒呑童子の隠し酒がまだまだあるから、今夜のツマミにでもしましょうか?」
「琴子さん、手伝いますね!」
「お願いね、紗奈ちゃん」
「あ~!おばあちゃん、アタシも泊まっていい?」
「ええ、親御さんにちゃんと許可もらえるならいいわよ?」
「母に許可取りました」
「ふふっほのかちゃんは行動が早いわね」
どうやら今晩もみんな泊まって行くらしい。
「あっ!智佳姉の竿、魚掛かってない?」
「ホントだ!」
「智佳姉頑張れ〜」
雛が智佳姉の竿に魚が掛かっている事に気付いたのを切っ掛けに、他の人の竿にも当たりが来始めた。
釣れるのはサッパやサバ、鯵の他にコノシロやボラなども釣れた。
コノシロやボラもスマホでどんな魚か何ていう魚か調べた。
その間に紗奈さんは、もう1匹シーバスを釣り上げていた。
サイズ的にさっきと同じフッコだと思われる。
ただ、相変わらず俺に当たりは来ないまま、時間は過ぎて行く。
「紗奈姉、アタシも大きい魚釣りた〜い」
「じゃあ、雛ちゃんもウキフカセ釣りやってみる?ちょっとコツがいるけど」
「やってみる〜」
雛は、紗奈さんがやっているウキフカセ釣りに挑戦してみる様だ。
こっちのサビキ釣り組がポツポツ釣り上げている中、40分経っても雛に当たりは来ていない。
そして俺にも当たりは来ていない。
俺の中で勝手にどっちが先に釣れるか勝負が始まった時、雛の竿に当たりが来た様だった。
「おっ!当たり来た~!」
「雛ちゃん落ち着いてね。慌てると針が外れるかもしれないからね」
「分かった〜」
紗奈さんの指導の下、雛が慎重にリールを巻いて行く。
こっちでサビキ釣りをしている俺達も、静かにその様子を見守っていると、見事に雛が魚を釣り上げた。
「やった〜!おっきい〜」
「雛ちゃんおめでとう!立派なサイズの太刀魚ね」
「おー!雛ちゃんおめでとうー」
「流石雛さんですね。凄く大きいですよ!」
「唯佳っちもほのかっちもありがと〜」
「雛ちゃん、大きさを測ってみましょう」
紗奈さんのメジャーで大きさを測ってみたところ、123cmもあった。
「雛ちゃん、凄く立派なサイズよ」
「やった〜!」
「太刀魚って関西の方ではよく食べられているって、聞いた事があったけど、こっちの方でも釣れるのね?」
「最近釣れる様になったらしいですよ」
「そうなの?」
「ええ、以前は関西の方ではよく釣れていたらしいですけど、こっちの方では釣れなかったって父が言っていました」
「そうなのね」
「何で釣れる様になったん?」
「温暖化の影響かしら?」
「そうかもしれないですね」
その後も、雛は太刀魚やクロダイを釣り上げ、満足気な顔をしていた。
他のみんなも鯵やサッパ、コノシロやサバの他にイワシも釣り上げ、大漁に嬉しそうな表情を浮かべて、片付けをしながら会話を楽しんでいる。
そんな中、1人だけ1匹も釣れなかった俺は、もう少しチャレンジをしたいと言って、居残って釣りをする事にした。
紗奈さんが言うには、これからの時間はあまり期待出来ないという事だったが、諦めずに仕掛けを落とし続けた。
俺の周りでは、この時間になってから来た人達も釣りをしているし、釣り上げている人もいる。
釣れない事はない筈だ。
みんなが帰ってから2時間が経った頃、漸く俺の竿に当たりが来た。
「来た!」
「おっ?兄ちゃん頑張れ!焦るなよ!」
この2時間ですっかり仲良くなった周りのおっちゃん達の応援を受け、リールを巻いて行く俺。
釣り始めて6時間、漸く来たチャンスを逃さぬ様に緊張しながら海面を見ていると、漸く魚影が見えて来た。
釣れた魚はなんてこともない普通の鯵だったが、漸く釣れた喜びを、周りのおっちゃん達と手を取り合って祝った。
唯佳に連絡して迎えに来てもらい、道具を空間収納にしまってもらうと、おっちゃん達が目を丸くして驚いていた。
おっちゃん達に挨拶をして人のいない所から転移で帰宅した。
6時間で鯵が1匹しか釣れなかったけど、最終的には楽しいと思って終われたので、行ってよかったなと思う。
夜は釣って来た魚が食卓を飾り、美味しく頂かせて頂きました。
凛には、お兄ちゃんは1匹しか釣ってないのにと言われてしまったけど、坊主よりはいいので気にせず頂きました。




