#5 初めてのダンジョン探索
7月2日(火)
朝起きると唯佳が一緒に寝ていた。昔からよくある事なので特に気にせず、唯佳を起こさない様に絡みついている唯佳の手足を解き、布団から出る。
着替えてウォーキングに行き、シャワーを浴びて歯磨きと洗面を済ませて部屋に戻ると、唯佳が体を起こして目を擦っていた。
「唯佳おはよう」
「んーーおはようー」
「歯磨いて顔洗って着替えちゃえよ?」
「ん。分かったー」
まだ寝惚けている唯佳に話し掛けながら、ササッと着替えを済ませる。
「俺は先にリビングに行ってるから、二度寝するなよ〜?」
「はーい」
俺が着替え終えると、唯佳がもぞもぞとベッドから降りて、部屋を出て行く。
15分後身支度を整えた唯佳がリビングに来て、朝食が始まる。唯佳のうちのおばさんが夜勤でいない日の朝のいつもの光景だ。
因みに、おばさんがいても夕飯はうちで食べる。俺が物心が付いた頃から変わらない。
「今日からダンジョンに潜るから、帰りはいつもより遅くなるよ」
「あら、そうなの?」
「うん。大体20時頃には帰って来る予定」
「分かったわ。気を付けてね」
「うん」
「春斗、唯佳ちゃん達もいるんだから、あまり無茶したらダメよ?」
「分かってるよ母さん。安全には気を配る様に気を付けるよ」
「春ちゃん。唯佳の事頼むな!」
「うん」
「春斗も唯佳も怪我しないでね」
「気を付けるー」
「お兄ちゃんはどうなってもいいから、唯佳姉の事は死んでも守るんだよ!いい?」
「お前、兄に対して辛辣過ぎだろ...」
妹の言葉で泣きそうだが、時間になったので家を出る。バスも通っているが、歩いても2、30分位の距離だから歩いて登校している。
「今日からダンジョンだねー楽しみだなー」
「そうだな。って言っても1階層だけだけどな」
「この前はホーンラビットしか出なかったけど、他の魔物もいるんだよね?」
「たぶんな」
雑談をしながら歩いていると、あっという間に学校に着いた。
俺達の教室はダンジョンになってしまったので、旧校舎に移動になった。
並びの教室は、ダンジョン協会が買い上げた為、結局は1年全クラス旧校舎に移動して来ている。
授業が終わり、ダンジョン協会が使う事になった部屋へとやって来た。
校舎の前の土地も少し買い取った様で、新しく建物を建てる為の工事が進められていた。
「あれ?白坂と桃井と委員長?何で3人が一緒にいるんだ?」
一緒にいる俺を綺麗に無視して、3人が一緒にいる事の理由を聞いてくる三森。
お前、露骨過ぎるだろ。
「アタシ達と春斗っちのパーティーにほのかっちが入ったからだけど?」
「はあっ?お前らホントに黒木とパーティー組んだんか?」
「そうだけど?何?」
「黒木なんかより俺と組もうぜ白坂。絶対にその方がいいって!」
「私は春くんと組むからごめんね」
「ていうか三森、あんた何でそんなに春斗っちより自分の方が上だ!みたいに自信満々なの?」
「はっ俺はもうレベル3だ。探索者になったばっかの黒木より強いんだから当たり前だろ?」
「三森あんた、Dランクの探索者より強いん?」
「お前急に何言い出すんだ?強え訳ねえだろうが、Dランクの探索者がどんだけ強えと思ってるんだ」
「春斗っちはそのDランクの探索者に勝ってるんだけど?」
「はっ?」
「じゃあ、そういう事だから、もう春斗っちの事バカにすんな!」
三森と言い合っていた雛がスッキリした顔で戻って来た。
「雛ちゃーん」
唯佳が戻って来た雛に抱き着いている。
「三森くんには悪いですけど、私もスッキリしました」
「それはそれとして、三森って優秀なんだな」
「そうなんですか?」
「ああ、探索者って1年目は平均15レベル、レベルアップするって言われているんだよ。でも、あいつが今のペースでレベルアップして行くと、レベル18だ。なっ?優秀だろ?」
「確かに、そう言われれば優秀ですね。ですが、私は三森くんの事は好ましく思えません」
「だよね~アタシも嫌〜い」
「春くんの事を悪く言う人は大ッ嫌い!」
三森の好感度はかなり低いみたいだ。
「それより、さっさとダンジョンに行こうよ~」
「賛成です」
「うん。行こうー」
俺達は三森を置いて、カウンターの可憐さんの所へと進んだ。
「可憐さんこんにちは。入ダン手続きお願いします」
「春斗くんこんにちは。3人もこんにちは。雛ちゃん格好良かったわよ」
「可憐姉こんにちは。えへへ、でしょ〜」
「可憐ちゃんこんにちはー」
「かれんさんこんにちは」
「はい。手続きは終わったわよ。ムリしないでね」
「「「「は~い」」」」
カウンターの列に並んでいる奴らが、専属カウンターで手続きをする俺達を怪訝そうな顔で見る中、入ダン手続きを終わらせてダンジョンへと入ってきた。
1階層は草原と森や林が点在しているエリアだ。
出てくる魔物は、ホーンラビットとシンリンオオカミとゴブリンだ。
「さて、まずは魔物との戦闘になれないとね」
「そうだね~」
「どういう風にやりますか?」
「頑張るよー?」
「まずは俺がサーチで魔物を探して、接敵したらほのかが魔法で先制、それと同時に俺と雛が斬り掛かって接近戦、唯佳はほのかの近くにいて、魔物がそっちに行ったら結界で自分とほのかを囲んで防御、ほのかはMPと俺と雛の動きを見ながら、追撃できそうなら追撃をしてくれ。ただ、フレンドリーファイアには気を付けて」
「「「はい」」」
俺がサーチを使うと、魔物の反応があった。
距離は40m程、ほのかに位置を伝え作戦開始。
ほのかが魔法を放つと同時に俺と雛が斬り込んだ。ほのかが放ったファイアーボールが魔物に着弾、ホーンラビットはキラキラと光の粒子になって消えて行った。
「ありゃ?倒せちゃった?」
「倒せちゃったな」
「ほのかちゃん凄ーい」
「MP1のファイアーボールだったんですけど、倒せちゃいましたね」
「取り敢えず、次は俺か雛が攻撃を当てたいから、ほのかはお休みで」
「分かりました」
それからもサーチで魔物を探して攻撃を仕掛けるが、ホーンラビットは一撃で倒せる事は判った。
「ホーンラビットは問題ないね~」
「そうですね。私の魔法でも、2人の物理攻撃でも一撃ですからね」
「まあ、スライムと並んで最弱の魔物だからな」
「ドロップアイテムのお肉って美味しいの?」
「フランス料理だっけ?では使われるらしいけど、食べた事ないから分からん」
「アタシも知らないよ~」
「私もうさぎは食べた事ないので分からないです」
「そっかー」
ホーンラビットのドロップは、通常ドロップがうさぎの肉で、レアドロップがうさぎの毛皮だ。値段は肉が100円で毛皮が300円だ。
ホーンラビットに限らず、1階層のドロップアイテムの買取金額は同じである。通常アイテムは100円、レアは300円である。
「少し移動してオオカミとゴブリンをターゲットにしようか」
「そっちの方がレベルアップし易いんだっけ?」
「確か数字としてはハッキリ証明はされてませんが、ゲームの経験値の様なものが違うのではと言われていますね」
「じゃあ、そっちを倒しに行ってみようかー」
移動して森にやって来た俺達は、サーチを駆使して倒しまくった。
途中で頭の中にアナウンスが流れた。
【ウォーキングの効果により、サーチのスキルレベルが2に上がりました】
探す効率が上がった俺達は、更にペースを上げて倒しまくった。
シンリンオオカミもゴブリンもほのかの魔法だと一撃で倒せたり倒せなかったりだった。
おそらく個体によって、耐久の値が微妙に違うのだろう。
俺と雛は最初、攻撃を避けられたり防がれたりしてまともに当てられなかったものの、戦い捲ったお陰で、相手の動きに攻撃を合わせられる様になった。
運良く急所に当てる事が出来れば一撃で倒せるが、大体は俺も雛も2〜3回攻撃を当てる必要があった。
ホーンラビットと合わせて、100体程倒して俺達は帰る事にした。
「可憐ちゃん、ただいまー」
「可憐姉、ただいま〜」
「かれんさんただいま戻りました」
「可憐さん、ただいまです」
「はい。おかえりなさい。どうだった。初日の感想は?」
「疲れたよー」
「私も〜」
「歩き回るのもそうですけど、精神的な疲れが結構溜まりますね」
「慣れてない分、やっぱり多少は疲れちゃいました」
「ふふっ、でしょうね。でも、慣れればそこら辺は解消するでしょうから頑張ってね」
「「「「はーい」」」」
「それじゃあ、換金してしまいましょうか」
「はーい。お願いしまーす」
ドロップアイテムは、攻撃に参加しない唯佳が集めて持っていてくれた。
「極小魔石が104個、通常ドロップが40個、レアドロップが11個ね。合計で17,700円。パーティー口座と合わせて、5等分して口座に入れとくわね。」
「はい。ありがとうございます」
極小魔石は1個100円だ。
「1人いくらなん?」
「3,540円だねー」
「少な!!」
「これでも春斗くんと雛さんのお陰で、普通よりは多いんですよ。」
「そうね。サーチがなければ短時間でこんなに魔物を見つけられないし、仮に見つけられて倒せても、こんなにレアドロップは出ないもの」
「そっか~春斗っちありがとね」
「いやいや、雛もだろ?雛ありがとな」
「エヘヘ〜」
「雛ちゃんも春くんもありがとうーギュー。ほのかちゃんもー」
「ふふっ、はい。ぎゅ~」
「ふふっあなた達仲いいわね~春斗くん、とてもいい位置ね」
声には出せませんが可憐さん。はい。とてもいい位置です。ヤバい、幸せが過ぎる。
柔らかい感触に包まれて、嫉妬の視線に気付かずに幸せな時間を堪能した。
名前:黒木 春斗 所属:クローバー
年齢:16歳 誕生日:6月26日
歩数:207,382歩
Lv:1
MP:18/18
力:12
耐久:11
敏捷:11
器用:12
魔力:10
運:76/100
スキル:ウォーキング、サーチLv1⇒2、剣術Lv1、纏雷
※ ウォーキング
10万歩毎にスキルを1つ取得又は、既存スキルのスキルレベル1上昇