#43 タイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆
8月15日(木)
探索を始めて1時間。これまで進んで来た道は行き止まりだった。
1日進んで来て行き止まりだったのは精神的にキツいが、気持ちを切り替えて行くしかない。
「唯佳、1つ手前の分岐路まで転移で戻れるか?」
「うん。戻れるよー」
「じゃあ、そこまで戻ってもらってから選ばなかった方の道に進んで行こう」
「「「は~い」」」
そうして進んだ道も1時間半後に行き止まりにぶつかってしまった。
行き止まるまでにレベルアップを全員が果たした事もあり、先程より落ち込んではいない。
「少し早いけど、お昼を食べに行こうか?」
「「さんせーい」」
「はい」
時間は11時半少し前だが、区切りの良い所で昼食を食べに支部へと転移した。
可憐さんと合流して、いつもの中華屋さんに行くと、見知った顔があった。
「あれ?さくらちゃん?ここで会うの初めてだねー」
「唯佳達もお昼?」
「うん。少し早いけどねー」
「そっか、うちのパーティーは来れる日は大体この時間に食べてるのよ。空いてる時間に食べようって事でね」
「そうなんだねー」
店にいたのは中学時代の同級生で同じ高校に通っている橘 さくらと
「勇斗と廉も橘と一緒なのか?」
同じクラスの渡瀬 勇斗と増山 廉だった。
「ああ、俺達とさくらは同じパーティーなんだ。あと彼女も一緒に4人パーティーを組んでいるんだ」
「はじめまして。石井 茜よ。さくらと同じ4組よ」
「はじめまして。黒木 春斗です」
「はじめまして。青山 ほのかです」
「はじめまして。白坂 唯佳です」
「茜やっほ~」
「雛とは知り合いなのか?」
「ええ、中学の時の同級生よ。雛は相変わらず元気そうね」
「まあね~」
「あと、廉も探索者やってたんだな。知らなかったよ」
「ああ、夏休みに入ってから誕生日を迎えてな、やっと探索者になれたんだよ。それで、前から約束していた勇斗とパーティーを組んだんだ」
「俺はそれまでソロでやってるつもりだったんだけど、さくらも俺と同じ状況だったから一緒にやろうって話になってな」
「そうだったんだ。じゃあ、石井さんも最近探索者に?」
「ええ、私が1番最後に探索者になってパーティーに入れてもらったの」
「じゃあ、レベルに差がある状態なんですか?」
「うん。私と勇斗が8で、2人はまだ1なの」
「だから今は1階層で戦闘に慣れる所からやってるよ。勇斗とさくらには悪いと思うけどな」
「ええ、完全に足を引っ張ってるもんね」
「気にしなくていいさ、元々その予定だったんだしな」
「そうよ。廉も茜も今は魔物と戦う事に慣れなさい。その後はスパルタで行くわ」
「「え゙っ!?」」
「ハハッあまり無茶はするなよ?」
「分かってるわよ」
「俺がちゃんと見てるよ」
そんな話をしながら俺達も注文した料理を食べて行く。
「そういえば、雛達は何で職員さんと一緒なの?まあ、雛なら誰とでも仲良くなれそうだけど」
「ん?可憐姉はアタシ達のパーティーの専属担当だからだよ」
「専属担当?」
「専属担当というのはね、協会が認めたパーティーに付けられる受付職員の事よ。本来はSランクや一部のAランクパーティーに付けられる事が殆どよ」
「えっ!?雛達ってそんなに強いんですか!?」
「クローバーはちょっと特例ね」
「アタシ達は、ダンジョンで活動する前に専属付いちゃったもんね~」
「そうなの?でも、何で?」
「それは富士森公園支部の支部長が、クローバーの将来性を見込んだからよ」
石井さんと雛と可憐さんがそんな話をしている横で
「春斗達って専属どうこうは別にして、強いんか?」
「強いぞ。少なくとも俺達じゃ1人を相手にしても瞬殺されるくらいには余裕で強いぞ」
「あれ?勇斗は俺達の戦っているとこ見た事あるのか?」
「あのなぁ春斗。あれだけ派手に模擬戦やっていたじゃないか」
「ああ〜あれを見ていたのか」
「模擬戦て?」
「30階層に到達した3年の先輩達が、自分達の方にこそ専属が付くべきだって絡んでな、春斗達と模擬戦をする事になったんだ。結果は桃井1人で4人を圧倒、30秒くらいで倒してしまったんだ。で、その後に桃井と春斗が模擬戦をやって春斗が勝って、青山さんが魔法のデモンストレーションで、観てた連中の度肝を抜いて終了。あれを観ていてクローバーに喧嘩を売るやつはいないな」
「...凄そうだな。そ、それで春斗達は今、何階層を攻めてるんだ?」
「今は44階層で苦戦中だよ」
「よ、44階層!?えっ?ダンジョン攻略ってそんなに簡単なのか?」
「そんな訳ないだろう?今、廉と茜は1階層に慣れてきた所じゃないか」
「いや、まあそうなんだけどさ。そんなに魔物も強くならないのかなぁなんて?」
「いや、ちゃんと強くなるから準備は怠るなよ?勇斗と橘がいれば大丈夫だと思うけど」
「ああ、それはちゃんとやらせるよ」
「お、俺だってちゃんとやるさ!」
「あっ!そうだ。ちょっと聞きたいんだけど、タイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆っていくらくらいするか知らないか?」
「そういうのは俺よりも可憐さん!タイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆っていくらくらいするんですか?」
「春斗くん急にどうしたの?」
「タイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆は、滅多に市場に出回らない為かなり高価で、殆ど全てが研究機関などの組織に買われてしまいます。なので、個人で手に入れるのは、自分で取りに行くか知り合いに無理を言ってお願いするかですけど、知り合いに頼んでも引き受けてもらえるかどうか」
「前に取って来たけど、そんなに高かったっけ?」
「あの時は確か、1,000万円で買い取ってもらいましたね」
「そうね。買取時は1,000万で、協会からの販売額は1,300万円よ。その後、何倍にも、下手したら何十倍にもなってしまうけどね」
「何で春斗は、1,000万円の買取額を覚えてないんだよ...」
「いや、あの時は他に気が行っていたから...」
「1,000万よりも気になる事ってなんなんだ...?」
「あの時はこいつのご飯問題があってな?」
「...お前大事にされてるな」
「キュッ?」
俺が雪兎を指差して言うと、廉が羨ましそうに雪兎を撫でた。
「そうか、1,300万円か...」
「勇斗?タイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆が必要なのか?」
「実はばあちゃんが病気でな、その病気の薬が開発されたんだけど、材料にタイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆が必要らしくて、でも、中々入手出来ないせいで量産どころか作る事も中々出来ないらしい。それで、それさえ手に入れられれば薬を作ってくれるって言われたんだ」
「春くん、取って来てあげよう?」
「唯佳?」
「渡瀬くんのおばあちゃんを助けたいって気持ち凄いよく分かっちゃうから...」
「春斗っち、取りに行こうよ」
「私もいいですよ?」
「はあ、お人好しだなみんな。勇斗、今日中に用意するから18時に俺達の個室に来てくれ。可憐さんに言えば、案内してくれるから」
「い、いいのか!?」
「ああ、唯佳のテンションが低いままでも困るからな」
「すまない。ありがとう...ありがとう」
「じゃあ、可憐さんそういう事で宜しくお願いします」
「分かったわ。渡瀬くんは少し私と話をしましょうか」
「は、はい」
「じゃあ、俺達は行くな?」
「ああ、宜しく頼む」
「入ダン手続きは紗奈ちゃんに頼んでくれる?」
「分かりました」
その後俺達は、30階層のボスタイランド・ウルスス・マリティムスを倒し、熊の胆をゲットしてから、44階層の探索に戻った。
探索再開後最初に進んだ道も1時間程で行き止まり、落胆しつつも次の道を進んで行く。
「もう〜 行き止まりばっかでイヤになっちゃうよ~」
「雛ちゃんに祈っておけば、階段見つかるかなー?」
「それで見つかるなら、いくらでも祈って〜」
「「じゃあ」」
「幼馴染コンビ息合い過ぎでしょ...」
「ふふっ本当ですね。私は出遅れちゃいました」
「あー!見てー!あれ階段じゃない?」
「ウッソ!ホントだ~やった〜」
「祈りが届きましたね」
「アハハ〜、否定しづらくなっちゃったよ~」
探索再開から約3時間半、漸く次階層への階段を発見出来た。
45階層の転移陣で一旦戻り、再び探索を再開する。
「思ったんだけどさ~ いちいち転移陣で戻んなくてもよくない?唯佳っちの転移でいつでも戻れるんだし」
「確かに、言われてみればその通りですね」
「いや、ないとは思うけど、唯佳がいない時にダンジョンに潜る事があるかもしれないからな。だから転移陣は今後も使える様にして行くべきだと思う」
「あ~確かに。急な救援要請とかで唯佳っちがいないと来れないんじゃ困るもんね」
「そうですね。万が一を考えて動かないとですね」
「春くんが油断してなーい。偉いねー春くん」
それから1時間、45階層を探索してから支部へと転移した。
勇斗との約束の時間には少し早いけど、着替えてのんびりと待つ事にした。
コンコンとドアがノックされた。
「どうぞ~」
「フォーフレンのみんなを連れて来たわよ」
「フォーフレン?」
「俺達のパーティー名だよ。春斗」
「あ〜勇斗達のパーティー、フォーフレンって言うんだ」
「ああ」
俺と勇斗がそんなやり取りをしている側で、廉達3人がキョロキョロと部屋を見回している。
「専属付きになると、こんな部屋までもらえるのか?」
「凄いね...」
「まさか、ここまで待遇がいいなんてね~」
確かにかなりの高待遇だからな。3人が驚いているのも理解出来る。
「そ、それで春斗、タイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆は?よくよく考えたらレアドロップだし、そう簡単な事じゃないとは思うんだけど、こんな事頼んでしまって申し訳ないというか」
「落ち着け勇斗。唯佳」
「うん!」
慌てて何を言っているのかよく分からない勇斗を宥めて、唯佳に声を掛ける。
唯佳は返事と同時に空間収納からタイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆をテーブルの上に出した。
「「「「.....」」」」
「勇斗、これがタイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆だ」
「これが...」
「いやいやいや、ちょっと待て、今どこから出した?」
「いきなりテーブルの上に出てきたよ?」
「今のは唯佳が出したの?どこから?」
「ヘヘー空間収納スキルからだよー」
「超レアスキルじゃん!」
「白坂さん、そんな凄いスキル持っているの!?」
「唯佳凄いね...」
傍らで唯佳の空間収納スキルに3人が驚嘆の声を出しているが、勇斗はそれが聞こえていない様にいや、実際に聞こえていないのだろう。
タイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆を見つめたまま固まっている。
「勇斗、約束の品だ。受け取ってくれ」
「...いや、春斗。ただでもらう訳には行かない。でも、今すぐに1,300万円は払えない。だから、ローンで払わせてもらえないか?源さんに聞いたら、手数料は掛かるけど、協会が間に入ってくれるシステムもあるらしいから、そのシステムを使って1,300万円をローンで払わせて欲しいんだ。あっ!手数料は支払う側に掛かって来るだけだから、春斗は心配しなくていい。こちらの都合ですまないが、どうか宜しくお願いします」
「俺達としては、金を取るつもりはなかったからそれでいいけど、勇斗はそれでいいのか?大金だぞ?」
「ああ、確かに大金だけど、ばあちゃんの命には替えられない」
「分かった。じゃあ、可憐さん手続きをお願いします。金額は1,000万円で」
「いや、春斗。安くしてもらうのは悪いよ」
「別に安くしてないぞ?元々、俺達の手元に入ってくるのは1,000万なんだから、お前は協会への手数料もあるんだろ?気にするなって」
「春斗、ありがとう...」
その後、契約書にサインをしてタイランド・ウルスス・マリティムスの熊の胆を勇斗に受け渡した。
勇斗のばあちゃんがよくなるといいな。
名前:黒木 春斗 所属:クローバー
年齢:16歳 誕生日:6月26日
歩数:946,113歩
従魔:雪兎Lv8(風雪うさぎ)
エレンLv8(ペケーニョエレファンテ)
Lv:25⇒26
MP:171/171⇒178/178
力:237⇒244
耐久:192⇒200
敏捷:217⇒225
器用:179⇒185
魔力:93⇒97
運:76/100
スキル:ウォーキング、サーチLv8、剣術Lv8、纏雷、リペアLv4、鑑定、剛力、アイテム融合、テイム、せいおう
※ウォーキング
10万歩毎にスキルを1つ取得又は、既存スキルのスキルレベル1上昇
名前:白坂 唯佳 所属:クローバー
年齢:16歳 誕生日:6月14日
称号:聖女
Lv:25⇒26
MP:250/250(750/750)⇒260/260(780/780)
力:89⇒94
耐久:106⇒110
敏捷:106⇒111
器用:226⇒235
魔力:237(711)⇒245(735)
運:77/100
スキル:女神の祝福、光魔法Lv2、MP回復速度2倍、空間収納、誘爆、転移
※女神の祝福効果
魔力3倍、MP3倍
名前:桃井 雛
年齢:16歳 誕生日:5月5日
Lv:25⇒26
MP:183/183⇒190/190
力:226⇒233
耐久:201⇒208
敏捷:244⇒254
器用:182⇒189
魔力:121⇒125
運:93/100
スキル:レア率固定、剣術Lv7、忍術Lv4
※レア率固定効果
ドロップアイテムのレア率がパーティーで倒した魔物の数の1割で固定される
名前:青山 ほのか 所属:クローバー
年齢:16歳 誕生日:7月1日
Lv:25⇒26
MP:241/241(482/482)⇒250/250(500/500)
力:102⇒106
耐久:111⇒115
敏捷:110⇒116
器用:135⇒141
魔力:248⇒256
運:69/100
スキル:創造魔法、MP回復速度2倍、火水土風属性、消費MP半減、演算
※創造魔法
・イメージした魔法を所持属性に限り創る事が出来る。
・最大消費MPは、イメージした時に自動で設定され、それ以上にはMPを込められない。
・最大消費MP以内であれば、自由に調整出来る。




