#23 再びの爆進クローバーとエピックドロップ
「「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」」。
みんなで昼食を食べ始めた。
楽しみにしていた棒々鶏はメニューになかったが、材料はあるから作ってやると親父さんが作ってくれ、俺は待望の棒々鶏にあり付いた。
美味いわ~親父さんありがとう。
「メニューにない物まで作ってもらえるって、どれだけ通ってるのよ?」
「毎週土日は、ここで食べてますね。って言っても、今月からですけど」
「何で今月からなの?」
「あれ?言いませんでしたっけ?って山辺さんは、意識なかったのか、俺達が探索者になったのが、今月だからです。」
「えっ?今月探索者になったばかりなの?」
「正確には、活動し始めたのがですけどね」
「それで、もう、15階層に辿り着いちゃったの?」
「はい」
「「「「......」」」」
あれ?山辺さん以外の3人も固まっちゃったけど、言ってなかったっけ?
「マナー違反なのは知ってるんだけれど、聞いていいかしら?あなた達、今レベルいくつなの?」
「私達は全員レベル5ですよ」
「レベル5!?レベル5で15階層まで来ちゃったの!?」
「うん。そうだよ~」
「流石に無茶し過ぎじゃないかな?」
「うーん、でも13階層のサボテンドール10体は、ほぼ雛ちゃん1人で倒せちゃったんだよー」
「えっ!?嘘でしょ?」
「いえ、ホントですよ?なんなら瞬殺でしたね」
「「「「.....」」」」
また、固まってしまった。
「春斗くん達はこの後どうするの?」
「予定では20階層まで行って、ボスを味見して来ようかなって思ってます」
「味見って、流石に気を付けなさいよ?マーダーグリズリーの時みたいに、油断して一撃もらっちゃいました〜なんて洒落にならないからね?」
「分かってます。もう油断はしないですし、ボス部屋も小説や漫画でよくある様な、入ったらボスを倒すか全滅するまで扉が開かないなんていう悪魔的作りじゃないですしね。危なそうなら、扉を開けて帰ってきますよ」
「紗奈さん、私達が今回はちゃんと見張っておきますから大丈夫ですよ」
「そうそう、春斗っちに油断グセがあるのはもう分かったしね」
「春くん?今度油断したら、おかずが煮干しより酷くなるからね?」
「.....はい」
煮干しより酷いって、何になるんだろう...
食事を終え、今日は帰って休息に充てるというノーブルローズの面々と別れ、再びダンジョン15階層へとやって来た。
「さて、予定外の事で1時間位遅くなっちゃたけど、20階層を目指して進もうか」
「「「は〜い」」」
15階層から現れるのは、サンドワームという全長10mを越える巨大な虫型の魔物だ。
普段は砂の中にいて、振動を頼りに襲って来るらしい。
だが、俺達は振動を出さないので姿を見る事なく16階層へと進んだ。
時間にして30分程の滞在時間だった。
16階層から現れるのはポイズントード、砂漠と同色の毒ガエルだ。
だが、カエルの脚力を持ってしても、この高さまでは届くまい。
案の定、ポイズントードは1度も俺達に届く事なく、俺達はまた1度の戦闘をする事もなく、17階層に辿り着いた。
「この階層からは注意が必要だ。この階層から現れるのはデザートイーグル。俺達にとっては初めての鳥型の魔物だ。イーグルつまり鷲だから当然飛べる。空中戦をする事になるから気を付けて進もう」
「「「はい」」」
デザートイーグルという名の銃があった様な気がするけど、銃には詳しくないからよく分からない。
移動を始めて15分、デザートイーグルと接敵した。
翼を広げると3m程にもなる巨鳥は、ほのかのコンプレッションファイアーを躱して突っ込んでくる。
ほのかの魔法で勢いがなくなった所を襲うつもりでいた雛は、デザートイーグルに反応出来ずに遅れて後を追い掛けて戻って来る。
「結界!」
デザートイーグルの爪撃と俺の刀が交錯する寸前、唯佳の結界が発動した。デザートイーグルが結界にぶつかり一瞬動きが止まった所に、剛力で力が上乗せされた斬撃が襲い掛かり、デザートイーグルは光の粒子に変わって行った。
「唯佳ナイスタイミング」
「えへへー」
「唯佳っち、春斗っちナ〜イス!今回はアタシ何も出来なかった~」
「コンプレッションファイアーが躱されたのは想定外でした。よりスピードのある魔法を考えないとですね」
ほのかのコンプレッションファイアーは威力、スピード共に高性能で、スピードに関しては俺達の攻撃で最速だ。
それが躱されたのは驚いた。
今回は、雛のストレス発散の為に俺が突っ込んで行かずに残っていたし、唯佳の結界が壊される事もなかったけど、最悪2人が攻撃を受けていた可能性もあった訳だし、スピードのある相手には、何か考えないといけないな。
「ほのかが新しい魔法を思い付くまでは、雛が3人で左右と上の3方向から突っ込んで、俺が下側から突っ込む形で行こう。ほのかは真ん中に魔法を撃ってくれ。唯佳は念の為にいつでも結界を張れる様にしておいてくれ」
「「「はい!」」」
取り敢えずの対策を伝え、ドロップアイテムを拾いに地面に降りた。
「春くーん、魔石とこんなのが落ちていたよ?」
「ん?刀?誰かの落とし物か?」
「え〜ダンジョンで武器落としてそのままにする〜?余っ程ヤバい状況だったとかならあり得るのかな?」
「春斗くん、鑑定してみて下さい。もしかしたらもしかするかもしれません!」
ほのかが何だか興奮しているけど、この刀に何かあるのか?
疑問に思いながらもほのかに促されるままに鑑定を使ってみた。結果はこう出た。
〘デザートイーグルの風切り刀〙
〘デザートイーグルのエピックドロップ〙
〘空気抵抗を抑え、攻撃時に力と敏捷にプラス補正が掛かる〙
〘等級:レア〙
「エピックドロップ?」
初めて聞く言葉に頭を傾げているとほのかが声を上げた。
「やっぱり!!」
「ほのかっち知ってるの?」
「はい!魔物のドロップアイテムは、通常ドロップとレアドロップが一般によく知られていますが、更に希少なドロップアイテムが存在していて、それがエピックドロップと言われるドロップアイテムなんです。」
「へー凄いアイテムなんだねー」
「はい。通常ドロップが30%位、レアドロップが1%位と言われるドロップ率ですが、エピックドロップは、そういった計算すら出来ない程度しかドロップしていないと言われています」
「それどれだけ希少なんだよ...これって、俺達みたいな新人が持っていていい武器なのか?」
「所有権は、ドロップさせた私達にあるので問題ありませんが、この武器の希少性に気付かれると、良からぬ輩に狙われるかもしれませんね」
「うわ〜それは嫌だな~」
「使うとしたら春くんかな?」
「いや、戦力upを考えるなら雛がいいと思うな」
「えっ!?アタシ!?」
「そうですね。この刀を装備して分身の術を使えば、この刀も3本になりますからね」
「凄い武器が簡単に増えちゃうねー」
「で、でも、アタシには影丸がいるし、浮気はちょっと...」
雛は、今使っている愛刀影丸に気を使っている様だ。
気持ちは分かる。安い初心者用の武器だけど俺も愛着が湧いているし、それは他の2人も同じらしい。
「そうだよねー、雛ちゃんには影丸くんがいるもんねー」
「愛着が湧いた武器を替えるのは抵抗ありますよね」
「うん」
「じゃあ取り敢えず、唯佳の空間収納にしまっておいてくれるか?勿体無くはあるけど、暫くは保管して、万が一の時の予備の武器にしよう」
「うん!分かったー」
「みんなごめんね。折角の凄い武器なのに、アタシの我が儘で」
「気にするなよ。気持ちは分かるからさ」
「春斗っちありがと」
「魔力加工がされているだけのただの樫の杖ですけど、私も愛着湧いてますからね」
「うん。私もー」
「2人共ありがと〜」
デザートイーグルの風切り刀は、取り敢えず唯佳の空間収納にしまってもらい、先に進む事にした。
移動再開から45分、2回のデザートイーグル戦を追加して、俺達は18階層にやって来た。
流石にエピックドロップの追加はない。
「この階層からは、デザートシャークというサメが出ますけど、私達には関係ないです。それよりも、デザートイーグルが3体で出てくる方が厄介です」
「確かにね〜砂の中を泳ぐサメとか面白いけど、アタシ達には関係ないね〜」
「オモシロザメだねー」
「隊形は変えずに、ほのかの魔法をディバイドファイアーボールに変更して足止をめして、俺と雛で仕留めよう」
「オッケ~」
「分かりました。魔法が変わるだけで、戦術は一緒ですね」
「私もいつでも結界張れるようにしとくねー」
「ああ、頼む」
それから、4回のデザートイーグル戦を行い、1時間ちょっとの時間で19階層に辿り着いた。
時間は16時過ぎ、18時頃にはボス部屋に着けそうだ。
この階層からは、デザートウルフが出て来たが、俺達の脅威はデザートイーグル1択で変わりなし。
5体に増えたデザートイーグル戦は多少時間が掛かるものの、空中戦で鳥の魔物のデザートイーグルよりも自由度の高い動きで翻弄し、被弾する事なく勝利出来た。
「やっと20階層だ〜」
「やっとって、普通に考えたら異常なスピードで攻略しているんだけどな」
「そうだけど~移動ばっかで飽きるんだも〜ん」
「いや、デザートイーグルがいただろ?」
「数少ないもん」
いやまあそうだけど、この階層はその数少なかったデザートイーグルすらいないんですけど、雛がストレス溜めないか心配だな。
「取り敢えず、転移陣で一旦戻って、ここの転移陣を使える様にしよう」
「「「は~い」」」
ここからボス部屋までは近い。
歩いて行くと砂丘を登り降りしないと行けないらしく物凄く大変らしいが、俺達には関係ない。
10分後、俺達は扉の前にいた。
「扉閉まってるじゃん」
「先客がいた様ですね」
「扉って開けられるんでしょうー?中見れないのー」
「戦闘中は中からしか開けられない仕様だから無理だな。戦闘中に知らない奴に乱入されても困るし、いい仕様だと思うよ」
「そうなんだー」
40分経って漸く扉が開いた。
「ボスの再出現までの10分があるとはいえ、随分と苦戦してたらしいな」
「そうですね。無事でしょうか?」
「心配してもどうにも出来ないし、気を引き締めて行こう」
「「「はい」」」
ここのボスはロックウルフゴーレム、オオカミ型のロックゴーレムだ。
ゴーレムのくせに機動力があり、オオカミのくせに耐久値が高いらしい、聞いた限りでは厄介な相手だ。
「打ち合わせ通りボス部屋に入ったら、唯佳は扉の近くで結界を張って、全員結界内に入れてくれ。ヤバいと思ったら、扉を開けて欲しい」
「分かったー」
「まずは雛の分身2人で様子見して、危険なら結界からは出ないで撤退しよう」
「「「は~い」」」
「ほのかは、さっき言っていた魔法を試してみてくれ」
「はい。分かりました」
確認も終わりボス部屋に入る。
「結界!!」
「分身ちゃん行っけ〜」
「ヘルフレイム」
入室と同時に唯佳が結界を張り、雛の分身達が駆け出し、ほのかの新魔法が離れた場所にいるロックウルフゴーレムの真下から炎の柱を吹き上げる。
突っ込んで行こうとしていた2人の雛は、それを見て急停止。
10秒程で炎が消えた場所には、四肢が完全に崩れ去り、胴体と頭にヒビの入ったオオカミが横たわっていた。
消えていないという事は、ゴーレムに適した表現かは置いておくとして、まだ生きているという事だろう。
「雛、追撃させてくれ」
「うん」
「仕留めきれませんでしたね」
「ボオーーーって凄かったねー」
2人の雛が1度づつ斬り付けると、ロックウルフゴーレムは光の粒子となって消えていった。
15秒程で、討伐が完了した。




