#22 爆進クローバーと緊急事態の女子パーティー
7月21日(日)
「今日の午前中は15階層目指して行こうと思う」
「うん!行こー」
「この階層も楽勝だしね~」
「おかしいですね。この階層は、もっと手応えがあると思っていたんですけどね」
「可憐さん情報だと、この先の階層は階段まで距離があるらしいから、避けられない魔物以外はスルーして行くよ」
「「「はい」」」
階段を降りた先は砂漠だった。
「普通は砂に足を取られて進むのに苦労するらしいけど、ほのかのお陰で変わらず移動できるな」
「ホント!ほのかっち様々だよね~」
「うんうん。ほのかちゃん楽だよーありがとうー」
「ふふっお役に立って何よりです」
砂漠エリアは、砂に足を取られ移動に時間が余計に掛かる上に、ダンジョンは下に行くと段階的に階層が広くなる為、階段の位置によってはとんでもなく時間が掛かると聞いた。
段階的にとは、具体的には10階層毎に1辺が10kmづつ広くなるらしい、深い階層の砂漠エリアは地獄だな。
まあ、火山エリアとか海エリアとか、他にもキツいエリアはあるらしいけどね。
邪魔な木がなくなった為、高度を上げて移動しているお陰で魔物とも接敵しないで快適である。
因みにこの階層には、この階層から出て来るサボテンドールの他に、前階層から引き続きビッグホーンとグレーグリズリーも出る。
ビッグホーンは大きな角が特徴の、アメリカパイソンみたいなモコモコの毛が生えている牛だし、グレーグリズリーも全身毛皮である。
倒すべき敵ではあるが、正直同情してしまうな。
いや、砂漠は暑いイメージがあるし、実際にこの階層は暑いけど、夜とかは寒くなるって聞くし、同情する必要はないのか?そもそもアメリカパイソンって乾燥地帯に生息しているんだった。
同情して損した気分だ。
途中、4人組の探索者が緑色の人型の魔物と戦っているのが見えた。あれがきっとサボテンドールだろう。
13km程あると聞いていたが、30分程で走破してしまった。
12階層は、階層の角に降りて来た階段があり、下りの階段はほぼ対角線上の角にあるらしい。
距離にして約28kmらしい。
「28kmって、さっき13km走ってるからほぼフルマラソンじゃ〜ん」
「足して41kmくらいなので、少し短いですよ」
「変わんないよー」
「アップダウンがない分まだマシだ」
「そういう問題じゃないよ〜」
結局、この階層でも接敵せずに、約1時間で走破した。
「雛も唯佳も、ちゃんと走れて偉かったぞ」
「「えへへ~」」
文句を言いながらもちゃんと走ってくれた雛と唯佳を労いつつ、13階層に降りた。
因みに12階層から出て来る魔物は、サンドリザードという体長2m体高1、5mもある大きなトカゲらしい。
砂と同色らしく、全く見つけられなかった。
13階層も変わらず快適に走って行く。
この階層からは、砂漠エリアの魔物しか出て来ない。
サボテンドールとサンドリザード、そしてデザートスパイダー、どれも砂漠にいるのをイメージさせる名前の魔物である。
「春斗っち〜走んの飽きた~戦いた〜い」
雛のストレスが限界っぽいので、戦闘の許可を出した。
相手はちょうどいい所にいてくれたサボテンドール10体。
まずは、ほのかのMP3のディバイドファイアーボールが中央2体と両端2体づつ、合わせて6体のサボテンドールに着弾。
威力がある魔法ではない為、仕留める事は出来なかったが、目的である混乱は齎した。
そこに3人の雛が上空から襲い掛かる。
既にダメージを負っていた6体を、一撃の下に斬り捨て、残りのサボテンドールに襲い掛かった。
ウィンドアーマーによるサポートも、ほのかの魔力が上がった事で威力を増している為、2回斬り付けるとサボテンドールは光の粒子に変わってしまった。
「ん~~きっもちいい〜〜」
「スッキリしたか?」
「うん!」
それにしても、レベル5で13階層の魔物を一撃ではないとはいえ瞬殺って、俺達ちょっとバグり過ぎではないか?
スッキリしてご機嫌な雛にほっこりしつつ、先へと進む事5分。
この階層を移動し始めてから40分ちょっとで、下りの階段に辿り着いた。
「今のペースで進めば、ちょうど12時頃転移陣に着けるな」
「いい感じだね春くん!」
「今日のお昼は何にしようかな~」
「私は八宝菜にします」
「私はねー冷やし中華にするー」
「俺は棒々鶏にするかな」
「全部いいな~う〜ん迷う〜」
そんな話をしながら14階層に降りると先客がいた。どこかで見た覚えのある、4人組の女子だけのパーティーだったが、どうやら緊急事態らしい。
3人は、怪我はしているものの命に別状はなさそうだが、残りの1人は素人目にも明らかにヤバい。
「一応聞きます。回復は必要ですか?」
瀕死のメンバーの手当てに必死で、俺達に気付いていなかった彼女達に、そう声を掛けた。
その問い掛けで俺達に気付いた彼女達は、藁にも縋る勢いで返事をして来た。
「あなた達ポーションを持っているの!?お願い私達に売って下さい!」
「ポーションは持ってませんが、唯佳回復魔法を!」
「うん!ヒール!!」
「「「えっ!?」」」
唯佳のヒールで、瀕死の女性の身体が仄かに光った。
唯佳は、続けて他の3人にもヒールを掛けて行き、傷を治して行った。
「鑑定で確認させてもらいました。もう大丈夫ですよ」
俺のその言葉に安堵したのか、3人はその場にへたり込み抱き合って泣き出した。
「「「ありがとうございました!!」」」
一頻り泣いていた彼女達は、俺達に頭を下げてお礼を言って来た。
「気にしないでいいですよー困った時はお互い様ですからー」
唯佳が照れ笑いを浮かべながら返事を返す。
「その人をそのままにも出来ないでしょうし、あなた達だけで運びながら転移陣まで行くのも難しいと思うので、よかったら一緒に行きますか?」
「いいんですか!?」
「ええ、僕が背負う形になると思うので、それでも良ければですけど」
「私達としては、とても有り難い申し出なんですけど、そこまでご迷惑をお掛けしてしまってもいいんですか?」
「そこまで迷惑でもないので、構いませんよ。ほのか、MPは平気だよな?」
「はい。問題ありません」
「問題ないみたいなので大丈夫です」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。宜しくお願いします」
「はい。では、行きましょうか」
「はい」
「みんな、この人達も一緒に行くからスピードを合わせて行くよ」
「「「は~い」」」
「では、これからウィンドアーマーという魔法を掛けさせて頂きます。効果はうちのメンバーに先に掛けるので、その目で確認して下さい。唯佳さん、雛さんお手本宜しくお願いしますね」
「「は~い」」
「ウィンドアーマー」
「「「えっ?」」」
ウィンドアーマーの効果で空中を駆ける2人を初めて目にし、驚いている彼女達に声を掛ける。
「慣れていないとああいう風には行かないので、まずはどういう風に動けるのかを確認してみて下さい。僕達もアドバイスしますので、じゃあほのか」
「はい。行きますね。ウィンドアーマー」
「「「キャッ!」」」
可愛らしい悲鳴を上げ、彼女達3人が浮き上がった。
「じゃあほのか、彼女をおぶらせてくれるか?」
「はい」
ほのかに意識の戻っていない女性をおぶらせてもらい、ウィンドアーマーを掛けてもらった。
その間に唯佳と雛による簡単なレクチャーが行われていた。
「ゆっくり行きますから、焦らずに付いてきて下さい」
「「「は、はい」」」
移動しながらお互いの事を話した。
まずはお互いに自己紹介をし、彼女達がノーブルローズというパーティーで、先程俺と話していたのが、リーダーでアタッカー担当の関根 結実さん、最初にポーションを売って欲しいと言ってきたのが、斥候兼弓担当の風間 莉央さん、もう1人が関根さんと同じアタッカー担当の木村 ひなたさん、俺におぶられているのが、タンク担当の山辺 志帆さんだと紹介された。
因みに全員、うちの高校の2年生だった。
道理で見覚えがあるはずだ。
そういえばこのダンジョンって、うちの高校の在校生にしか開放されていないんだった。
彼女達も今日始めてこの階層に降りて来たらしかった。
最初に接敵したのは、サンドリザード10体。戦い慣れた相手という事もあり、腕鳴らしにはちょうどいいと戦闘を開始したのだが、運悪く近くにいたこの階層から出て来る投石花に後ろから襲われたらしい。
斥候の風間さんがサーチで気付き警告したものの、タイミング悪く複数のサンドリザードと交戦中だった山辺さんに投石花の攻撃が当たってしまったとの事だった。
何とか3人で魔物を討伐し、安全地帯である階段まで山辺さんを運んで来た所に、俺達が来たらしい。
投石花とは、鉄砲草の上位互換の魔物だ。鉄砲草がゲンノショウコの種子という小さな物を飛ばして来るのに対して、投石花は拳大の石を飛ばして来る。
勢いも投石花の方が上で、当然威力も上である。
「それにしても、1年生でこの階層まで来ているなんて凄いわね。お陰で私達は助かったのよね。本当にありがとう」
「もうお礼は頂きましたよ?ですから、もう気になさらないで下さい。それでもまだ、気になるのであれば、これから仲良くして下さい」
「ええ、こちらこそ仲良くしてね」
「はい。宜しくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
雰囲気が似ているからか、ほのかと結実先輩が仲良く話している。
「ひなたちゃんお菓子作りが趣味なの?じゃあ、今度、一緒に作ろうー」
「ふふっいいよ。何を作ろうか?」
「うーん、あっアップルパイ食べたいなー」
「じゃあ、アップルパイを作って食べようね」
「やったー!」
「ふふっ何だか可愛い妹が出来たみたいね」
唯佳の妹力凄いな。ほぼ、初対面だよな?
もう、可愛がられているじゃん。
「え〜莉央先輩、彼氏いるんですか〜いいな~」
「雛ちゃんいないの?雛ちゃんくらい可愛かったら選び放題でしょ?」
「す、好きな人はいるんだけど~」
「えっ?そうなん?誰々?うちの学校の人?って、黒木くんでしょ〜?」
「ふぇっ?!な、な、な、何で!?」
「フッフッフ~お姉さん、そういう事にも鼻が利くんだよ~」
「莉央先輩?誰にも言っちゃダメですよ!?2人に怒られちゃうよ~」
「ホホ〜唯佳ちゃんとほのかちゃんもなんだ〜こんな美少女3人を惚れさせるとは、やるわね~黒木くんも〜」
「ちょ、ちょっと待って莉央先輩!な、何で2人の事まで分かっちゃうの!?」
「フッフッフ~鼻が利くと言ったでしょ〜」
「わ、わ、忘れて莉央先輩!忘れて〜」
「どうしよっかn」
ゴンッ
「痛った~!ひなた!?何するのよ!?」
「私達の恩人をイジメちゃダメでしょ?莉央、メッ!!」
「い、イジメてないよ?」
「ほお〜?嘘を付くか〜」
「やっ、嘘、嘘です。ひなた?拳を下ろして!」
「じゃあ、どうするの?」
「雛ちゃんごめんね。反応が可愛くってつい、もうしません」
「誰にも言っちゃダメですよ?」
「言わない言わない。それは信じて?」
「じゃあ、いいですよ。って、怒ってないですけどね~」
「雛ちゃん?何で私とほのかちゃんまで巻き込まれているのかな?」
「そうですね。あとでじっくりお話しましょうね?」
「は、はい...ごめんなさい」
何を話してたのか俺は聞こえなかったけど、雛が何かやらかしたのか?
そうこうしている内に、15階層の転移陣に辿り着き、協会支部に帰還した俺達は目の覚めた山辺さんと紗奈さんも一緒にいつもの中華屋さんに行くのだった。




