#118 ピラミッドダンジョン完全攻略
11月6日(水)
日課のウォーキングを終えてホテルの部屋に戻ると、珍しく全員が起きていて可憐さんも俺達の部屋のリビングにいた。
「おはよう。今日は早いね。何かあったの?」
「おはよう春斗くん。さっき日本のダンジョン協会から連絡が来てね。中国のスタンピードが発生している湖北という街が陥落したらしいわ」
「陥落!?」
「ええ、ダンジョンから強力な魔物が出て来て、地上で魔物の討伐をしていたCランク以下の探索者では対応出来ず、撤退せざるを得なかったらしいの」
「Cランク以下って、じゃあBランク以上のパーティーはみんな、ダンジョンの中に入ってるんですか?彼らはどうなったんですか?」
「詳しい事は未だに不明よ。でも、流石に事態を重く見た中国のダンジョン協会から、救援要請が出されて、クローバー以外のSランクパーティーと近隣諸国のBランク以上のパーティーが、中国に派遣される事になったわ」
「俺達もここを鎮圧したら向かった方がいいんですよね?」
「中国のスタンピードが発生しているダンジョンは何処も60階層までだから、恐らくは他のSランクパーティーで対応可能だと思うけど、要請が来る可能性はあるわね」
「分かりました。その可能性があると頭に入れながら、取り敢えずここのスタンピードを鎮圧してしまいましょう」
「ええ、私達はここのスタンピードの鎮圧が最優先である事は変わりないからそれでいいわ。焦らずに安全第一でやって行きましょう」
「「「「はい!」」」」
ここのスタンピードは今日か明日には鎮圧出来そうだし、焦る必要はないから、可憐さんの言う通り安全第一で行かせてもらおう。
対策本部で支部長さんからも中国の件の話がされたが、ここの進捗状況を改めて伝えて、俺達の方針も伝えて安心してもらえた。
昨日の最終地点に戻って来た俺達は、早速攻略を開始した。
攻略開始から1時間半、67階層に続く階段を降りて更に攻略を進めて行く。
水虎の数が増えたが、ほのかだけじゃなくエレンや雪兎も雷の拘束系の技を持っているので問題なく攻略を進める事が出来た。
67階層から出て来た風狼はウィンドアーマーを纏った様なオオカミ型の魔物で、スピードがあり風魔法も使って来る魔物だったが、俺達にとっては相性のいい相手だった為、苦戦する事なく倒す事が出来る魔物だった。
「何か格好いい魔物が続いているね~」
「そだねー」
「雪兎もエレンも可愛い系だから、格好いい系の従魔がいてもいいかな~って思うけど、でもな~」
「このエリアの魔物は全部大きいですからね」
「街中を連れて歩くにはちょっと目立ち過ぎるわね」
「残念だけど従魔には出来ないね~」
「そだねー」
「キュッ!キュッ!」
「パオ!パオーン!」
大き過ぎて従魔には出来ないという結論になった途端、雪兎とエレンが元気に嬉しそうな声を上げた。
「ふふっこの子達はこれ以上従魔はいらないって言っているみたいね」
「そうですね。実際にこの子達だけで困っていませんもんね」
「だね~雪兎っちとエレンっちだけで十分だったね~」
「キュッ!」
「パオ!」
「やっぱり2人は可愛いねー」
女性陣に撫でられて、機嫌が良くなった雪兎とエレンは、今まで以上に張り切って魔物を討伐している。
張り切っている雪兎とエレンに引っ張られて、雛もやる気を出したからかどうかは分からないが、67階層は2時間程の短時間で突破する事が出来た。
「やっぱり雛ちゃんがやる気を出すと早いわね」
「そうですね」
「雛ちゃん凄いねー」
「えへへ~」
可憐さんの言う様に雛がやる気になると攻略スピードが格段に上がる。
出来ればいつもこうであってもらいたい所だが、精神的に常にやる気Maxとは行かないだろうし、元々ムラッ気のある雛では尚更無理だろう。
雛がやる気に満ちている間に出来るだけ階層を進めてしまおうと、先を急ぐ事にした。
「今度は大きなヤマアラシだー」
「アースポーキュパインていう名前らしい」
「斬って来るね~」
そう言って影移動で消えた雛がアースポーキュパインの傍に姿を現した瞬間、地面から棘が突き出して雛に襲い掛かった。
「雛!!」
雛は地面から突き出して来た棘を間一髪の所で躱し、その棘を足場にしてアースポーキュパインに斬り掛かり、アースポーキュパインを光の粒子へと変えた。
「いや〜あの棘を出す反応スピードはヤバイね〜」
ホッと安堵の息を吐いている俺の後ろから、雛が能天気に話し掛けて来た。
「雛?一瞬刺されたかと思って焦ったぞ」
「アタシも焦ったよ~分身体に入ってもらってよかった~」
どうやらさっき攻撃を仕掛けて串刺しになり掛けていたのは分身体だった様だ。
「それにしても、雛さんの影移動に反応したのは驚きましたね」
「そうね。あの反応速度には警戒が必要ね」
「そうだな。近接組は特に気を付けて、必ず攻撃が来ると思って動いた方がいいだろうな」
「うん。アタシもそう思う」
「キュッ!」
アースポーキュパインが厄介な反応速度を持っている事が分かった為、更に気を引き締めて68階層の探索を始めた。
前の階層から更に数を増やした水虎も厄介だし、出来る事ならさっさと攻略して次の階層に進んでしまいたいと思い、雛の後ろ姿に祈りを捧げ移動する事1時間半。
祈りが届いたのか早くも69階層への階段を見つける事が出来た。
「強く雛に祈った甲斐があったよ」
「そうですね。私の祈りも届いた様です」
「私もお祈りしながら移動していたわ」
「私もー」
厄介な階層だったからか全員が雛に祈っていた様だ。
「取り敢えず水虎の数が対応可能な範囲内でよかったな」
「そうですね。あれ以上多いと対応するのに新しい魔法を創る必要がありましたからね」
「そうなっていたらもっと時間が掛かっていたでしょうね」
大きな魔物が出て来るこのエリアでは、1体3体5体と増えるパターンの様で、魔物の数自体が最終エリアの割には少なくなっているのは色々と助かっている。
降りて来た69階層もこれまでと同じパターンで大きな魔物が出て来た。
「あの魔物格好良過ぎない?」
「フレディアっていうらしい」
現れたのはヘラジカの様な大きな角を持った、燃え盛る身体の鹿の魔物だった。
「雛ちゃんの言う様に格好いいわね」
「そうですね。鹿の魔物は気品があって格好いい魔物が多いですよね」
「そだねー」
俺達が話をしている内に、フレディアは身体から更に炎を吹き出させて、通路を火の海へと変えてしまった。
「これはまた厄介な...」
「フレディアを倒したらこの火も消えるんかな~?」
「試してみないと何とも言えないですね」
「じゃあ、攻撃してみるねー」
唯佳はそう言うと、サラマンドラの弦を引き絞り、魔力の矢を放った。
放たれた矢は、火の海と化した通路を気にせず進み、フレディアに見事に命中した。
フレディアを倒す事は出来たものの、通路の炎は消える事なく燃え盛っていて、このままでは進めない為、水魔法と氷雪魔法が使えるメンバーで消火してから先に進む事にしたのだが、雛もその中に混じっていた。
雛曰く、今覚えたとの事だった。
「行っくよ〜水遁の術!」
雛の水遁の術は、ほのか達が使うレイジングストリームの様な術で、消費MPも20と同じだった。
「おー!ほのかちゃんとエレンちゃんのレイジングストリームみたいだねー」
「他の形にも出来るよ」
「という事は、水魔法みたいな術という事ですかね」
「そうだな。普通の水魔法よりも使い勝手は良さそうだけどな」
どちらかと言うとほのかやエレンの創造魔法の水属性のみの様な術ではないかと感じる。
「えへへ~これで出来る事が増えた~」
「雛ちゃんいいなー。私もお祈りしようー」
忍術レベルが上がって更に機嫌が良くなった雛。そうすると影響を受けるのが攻略スピードである。
「あー!階段あったよー」
案の定1時間も経たない内に、次階層への階段が見つかった。
「このペースなら午前中の内に完全攻略出来るかもしれませんね」
「そうね。今の雛ちゃんだったら間違いない様な気がするわ」
「まっかせてよ〜さっさと完全攻略しちゃうよ~」
「おー!そうしようー」
70階層を移動して行くと、タングスレオという魔物が出て来た。
「タングステンで出来たライオンらしい」
「タングステンて何?」
「凄く硬い金属だよ雛ちゃん」
「硬さもですが、重い事でも有名な金属ね」
「ええ、それがあんな大きさですから、スピードはないと思いますけど、油断せずに行きましょう」
「ああ、乾物類シリーズはもう嫌だからな」
「「さんせ〜い」」
「私も賛成よ」
「同じくです」
硬く大きい事で耐久が高い魔物だったが、スーパーザウルス程ではなかった。
「この程度なら楽勝だね~」
「ああ、もっと硬い魔物とも戦って来たからな」
「私もレベルが上がっていてよかったわ」
「今の可憐さんは普通にSランク探索者並みの実力がありますからね」
「可憐ちゃんもクローバーに入るー?」
「ふふっお誘いありがとう。でもすぐには答えられないわ」
可憐さんの答え方的に、クローバーに加入する可能性もあるのかな?
戦力アップは大歓迎だし、可憐さんなら人柄の面でも大歓迎だ。
そんな話をしていると、40分くらいでボス部屋に辿り着いてしまった。
「最後の方は随分と呆気なく攻略が進んだな」
「雛ちゃんがやる気になっていたのが大きいわね」
「雛ちゃんは凄いのー」
「そうですね。雛さんは凄いです」
「えへへ~」
一頻り雛を褒めてから、ボスを鑑定してみた。
〘雷獅子〙
〘雷魔法を使うライオン型の魔物〙
「随分とシンプルな説明ですね」
「そうね」
「雷化とかされるとかなり厄介だけど、この階層レベルの魔物が使える様なスキルだと思うか?」
「どうかな~?水虎は水化していたし、可能性はなくはないんじゃない?」
「そだねー」
「使う物として考えておけば、油断せずにいられるのではないですか?」
「そうね。心構えは大事ね」
「じゃあ、俺が雷化と纏雷を使って一撃入れてみるよ。みんなは取り敢えず唯佳の結界内で待機しておいてくれるか?」
「「「は~い」」」
「分かったわ」
打ち合わせを終えて瞬歩で雷獅子に近付き、予定通り雷化と纏雷を使って攻撃を仕掛けた。
結果、雷獅子は雷化する事なく光の粒子へと変わって行った。
「雷化はしないのかな?」
あっさり倒せてしまった事で、検証が不十分になってしまった。
失敗したなと思っていると、漸くダンジョンの気まぐれが発生して、邪神の眷属が現れた。
「やっぱりディストルじゃなかったか...」
「貴様、何故ディストル様の名を知っている!?」
「交換条件と行かないか?ディストルの居場所を教えてくれたら教えてやるよ。どうだ?」
「人間風情が我に条件を突き付けるなど不敬であるぞ!だが、よかろう。乗ってくれる。ディストル様はまだこちらにお越しになってはおらん。」
「お前らは先遣隊でディストルはこの後に現れるのか?」
「その通りである。さあ、次は貴様の番だ!貴様が何故ディストル様の名を知っているのか教えろ!」
「お前のお仲間に聞いたのさ。ただそれだけの事だ」
「何だと?我の仲間に会っておきながら、何故貴様等は生きているのだ!?」
「それは俺達が負けなかったからだな」
「何だと!?」
驚いている邪神の眷属の影から雛が飛び出し、邪神の眷属の首を刎ね飛ばし、光の粒子へと変えた。
「まさかディストルがこっちにいないとは思わなかったな」
「何処にいるんだろうね~」
「邪神の世界でもあるのかなー?」
「そうかもしれないわね」
「取り敢えず中国のスタンピードは、他のSランクパーティーに任せてしまっても大丈夫そうだと分かってよかったですね」
「ええ、早くダンジョンから出て、報告をしましょう」
「「「「は~い」」」」
可憐さんの提案を受け、転移陣でダンジョンから出た俺達は、スタンピードの鎮圧と邪神の眷属から聞いた話を報告して、一先ずホテルに戻ったのだった。
名前:桃井 雛
年齢:16歳 誕生日:5月5日
称号:幸運の女神の巫女
Lv:53
MP:367/367
力:447
耐久:415
敏捷:509
器用:404
魔力:274
運:93/100
スキル:レア率固定、剣術LvMAX、忍術Lv8⇒9、アクセラレーション、選択ドロップアイテム
※レア率固定効果
ドロップアイテムのレア率がパーティーで倒した魔物の数の1割で固定される
・選択ドロップアイテム
スキル保持者が倒した魔物に限り、ドロップアイテムを通常ドロップかレアドロップかを選択する事が出来る。
エピックドロップは条件を満たした時のみ選択可




