53,課金しようpart1。
同時進行クエストから10日。
王都は『王国勢力』と『〈シグマ〉勢力』に分断されていた。〈シグマ〉は王城を制圧したが、それで王都全域を支配できるわけでもない。一方、王国勢力も王を吊るされ城を奪われ、かなり混乱しているのは事実。それでも大方の見方では、『〈シグマ〉が城を奪還され倒されるのも時間の問題』というところ。
結局のところ、反政府組織が革命を完全に成功できるかは、市民がどこまでついてくるかにかかっているわけだ。
そこを見ると、〈シグマ〉は事を急ぎ過ぎた。確かに王国全土での貧富の格差は激しくなる一方だが、それでもまだ王都の民がみなで立ち上がり、〈シグマ〉に続くほどではなかったわけだ。
とにかく、この王都の情勢に深い影響を与えた〈名前はまだない〉だが、いまはすっかり無関係を決め込んでいる。
サラいわく、「〈名前はまだない〉ギルドは民の味方だからね。国のトップが誰になっても、たいして関係はないんだよ」。
ただし〈シグマ〉からの追加の助力依頼をスルーしているあたり、さすがにサラも、これ以上は反政府組織とかかわりたくないようだ。
かれこれ、そんなある日。
まったく王都情勢とは関係のない依頼者が、〈名前はまだない〉拠点にやってきた。
このときアークは『猫はその一生で、どれくらいの時間を毛づくろいに費やすのだろうか』と、哲学的(?)考察をしていた。
サラはコーヒーを飲みながら窓から外を眺め、「あーーーー、剣術も飽きたしジョブチェンジしたい」とぼやいていた。
そんなときやってきた依頼者は、30代の男だった。肩書きは、王都の消費生活局の者だとか。名前はボブ。
「消費生活局ですか。それは重要な局のほうから来ましたね」
とサラはつつがくなく答えてから、アークの耳元でひそひそと言った。
「消費生活局って、昔、ケイトがクーリングオフの件で相談したことがあるけど、テキトーな返答しかしてくれなかったって。別名が、給料泥棒局って、これは心ある市民には常識の中の常識」
「にゃぁ(お前の透き通る声は──ひそひそ話に向いていないので、相手がたに丸聞こえだぞ)」
「うーん。いま褒められた気がする。いい子、いい子」
アークの耳も後ろを撫でてから、サラは消費生活局のボブと向き直った。
「それで、どのようなご用件で?」
ボブは居心地が悪そうに身体を動かしてから、話し始めた。
「ええ。実は王都内で、いまある現象がはやっていまして。我々としては、それによる相談を受けすぎて困っているところです。そのため、王都のなんでも屋こと〈名前はまだない〉ギルドに、解決していただきたく思いまして」
「ははぁ。ギルド任せにするとは、さすが給料泥棒局…こほん、いえ失礼。それで、どのような現象がはやっているのでしょうか?」
ボブは身を乗り出し、深刻そうに言った。
「それは課金というものです」
「課金……よく分からないけど、きっとバカがするものに違いない」
「にゃあ(と言っている奴に限って、はまるんだろうなぁ。……サラ、お前はヤバそうだぞ)」




