42,お風呂に入ろうpart2。
貴族用の大浴場に猫の持ち込みなどはできるはずがない。
そこでサラは計略をたてた。
「ミィくんがステルス系のスキルを使ってくれればいいんだよ」
「にゃぁ(こんなときも、おれ任せか)」
「ミィくんからの熱いやる気を感じてきたよ」
こういうときは順調に進むもので、気づけばアークは貴族女子用の浴場内にいた。露天風呂方式なので、夜空が見える。そして一糸纏わぬ女性もたくさんいるわけだ。
なるほど、とアークは思う。たしかに裸体の女がまわりにあまたいる。が、しかし。
心頭滅却。無念無想の境地に達すれば、このようなことで心乱されることは──
「あ、猫がいますわ」
「可愛い、野良猫かしら」
「わたくしが洗ってさしあげましょう」
と、三毛猫が物珍しいのか、女性陣に取り囲まれるミィ。
そして複数の手で泡立ちまみれにされるハメになった。
「にゃぁぁぁぁ(助けろ、サラ!)」
「ミィくん──楽しそうだね……意外とスケベな猫だな」
と、ほほえましそう、同時に地味にジト目で見てくるサラ。
そろそろ飼い主を変えるべきではないか、とアークはわりと本気で思った。
基本スキルlevel1《超走》で、女たちの中から跳びだし、ついでに浴場も飛び出た。泡だちを軌跡に残しつつ。
「あー、逃げちゃった!」という残念そうな声の重複と、
「あー、ミィくん! 飼い主を置いて行くなぁー」というサラの声を残して。
「にゃぁ(うーむ。ひどい目にあった。と心から言えんところに、まだまだ修行の余地がある。ふむ?)」
追手から逃げるようにして、ひと気のないところに移動する。
と、ここは男性浴場エリア内らしく──にしてもバカ広い建物だ──男が二人こそこそ話していた。
とくに盗み聞きするつもりはなかったが、その片方は、先ほども見かけた〈シグマ〉の一人。
「いいか。この魔道具を仕掛けるんだ。タイマーをかけることができる」
「するとどうなる?」
「なぁに大爆発が起きて、ここにいる間抜けな貴族どもがたくさん死ぬってわけだ」
「そいつはいい」
なるほど。彼ら〈シグマ〉構成員は、テロのためここに侵入していたのか。
(それにしてもテロとフロは語感が似ている……)
前回は〈シグマ〉に手を貸したが、無差別テロなどもってのほかだ。
そこでアークは、まだ泡だらけのまま跳びだし、
「な、なんだこの猫は?!」
「にゃあ(通りすがりの猫キック)!」
拳闘スキルlevel4《空蹴り》。厳密には蹴りだが。二人のテロリストを仕留め、爆発能力のある魔道具を回収。魔力を吸い出して無力化してから、収納スキルで異空間に放り込んだ。
その後。
大浴場の建物の外で待っていると、まだ髪が濡れ、肌をほてらせたサラが出てきた。
「やぁミィくん。おまたせー。いいお湯でした。じゃ、帰ろっかー」
「にゃあ」
「ところでお風呂あがりにコーヒーミルクが飲みたくなるのは、わたしだけ?」




