37,アンチ雇われpart2。
くだんの貴族は、ハウグ伯爵家の当主。
これは大物貴族らしく、貴族知識になど興味のないサラでも、「聞いたことはあるような」という反応。少なくとも、無関心なサラの耳に届くくらいには、影響力のある貴族家ということだ。
王都内の貴族区画にも邸宅はあるが、実際の住まいは、自領の邸。これが要塞のように守りを固めているそうだ。
このハウグ伯爵領に向かいながら、サラとアークは相談した。相談といっても、いまだサラは、アークの猫語の半分も理解できていないが。
「さてミィくん。なんかその場の勢いで受けちゃったけど、貴族を抹殺するなんて、相当なものだよ」
「にゃぁ(相当な報酬も約束されたからな)」
報酬は総額で5億クレジット。そのうち王国貨幣で三分の一、黄金が三分の一、残りは宝石などの宝物類で渡される。ちゃんと前金で半分もらっているあたりに、サラも最低限のしたたかさはあるようで何より。
受け取った前金の分け方だが。
まず前金半分は、アークの《収納魔術》に保管。
残り半分は、さらに四つに分けて、王都銀行に預ける、〈名前はまだない〉ギルド内にある金庫室に保管、不動産投資に回す、訓練用ダンジョンの一角の購入資金、と分散した。
前金だけで、これまで貧乏だった〈名前はまだない〉は、資金豊富なギルドに様変わり。ただちゃんと抹殺クエストを達成しないと、こんな多額の報酬をばんと出せる〈シグマ〉を敵に回すことになる。だからこうして、ハウグ伯爵領へとのんびり向かっているわけだ。
「伯爵を始末しつつも、今回ばかりは〈名前はまだない〉の仕業と分かっちゃ困るわけだよね。隠密裏にやり、さらに目撃者が出ても、〈名前はまだない〉と結びつかなければいいわけだよ」
「にゃぁ(何か名案でもあるのか?)」
「ははぁ。ミィくん。わたしに名案があると思っている? そんなものは、ないのだよ。とりあえずさ、できるだけ目撃者を作らないように事を進めて、最悪見つかったときは──我々は暗殺パーティ〈坊ちゃん〉です、とかでも名乗っておく? 〈名前はまだない〉と身バレしなきゃいいわけで」
「にゃあ(お前だけならそれで通るかもしれないが、おれも目撃されたら、誤魔化しようがないだろ)」
「そっか。三毛猫がメンバーのパーティなんて、〈名前はまだない〉くらいなものだよ。仕方ない、ミィくん。君はいまから──黒猫だ」
「にゃぁ(は)??」
ハウグ伯爵領内に入ったころには、サラは漆黒の軽装鎧(兜付き)を装着。これは王都の武具店で値切って購入した一式を、黒く塗ったもの。
そしてサラの相方は、黒猫だった。これはアークの全身の毛を、墨で黒くなっただけ。
「これで誰も、ミィくんを三毛猫とは思わないよ」
「……にゃぁ(浅はかすぎる)」
「それにしても、晴れているねぇ。貴族の抹殺日和だ」
サラは夜陰に乗じる気もないらしいので、アークは隠密魔術のいくつかを思い出すことにした。




