34,歯医者にいく。
「あーーー、なんてこと!」
地下遺跡から脱出した翌日のこと。
冒険者ギルド発行の新聞を読んだサラが、
「見てミィくん。王都西方地域では、13か所の村々が悪魔に滅ぼされたあげく、討伐に向かったAランクパーティも全滅だって。その後、三体の悪魔は姿を消したようだね。あぁ~、わたしたちが、旅費さえあれば、わたしたち〈名前はまだない〉が討伐していたのに。残念すぎるなぁ」
「にゃぁ(相手が悪魔では、おれたちでも危うかったと思うがな。あれは魔物とかとは格が違う)」
このときサラは何かに気付いた様子で、アークを抱き上げた。前脚のわきに両手をいれて抱え、自身の顔と同じ高さにする。
「うーーん。ミィくん、あーんしてごらん」
「にゃあ(なんだ?)」
アークの口内をのぞきこむと、
「ははぁ。虫歯があるよ、ミィくん。これは獣医にいかないとだね」
「……」
前世では治癒魔術を会得しなかった。そもそもヒーラーは才能であり、アークにはそれがない。逆立ちしても、治癒魔術は使えない。しかし虫歯ができたなら、それは飼い主であるサラの責任ではないか。アークは自力では歯磨きができない。猫を舐めるなよ、と言いたかったが、浮遊魔術で歯ブラシを動かせばよかったなぁ、といまさらながらに気付いたりもした。
「にゃあ(仕方ない)」
「大丈夫だよ、ミィくん。虫歯治療なんてあっというまだよ」
王都に越してから病気などなったことはない。そこでサラは、まず獣医を探すことからはじめた。こうして、アダム通りに店を構えている、とある動物病院までアークを連れていく。
「にゃあ(魔術と拳闘スキルを鍛えても、虫歯には勝てないか)」
「ミィくん、なんかたそがれているね」
待合室でしばらく待ってから呼ばれたので、サラはアークを抱いて連れていった。アークも大人しくしていると、四十代の獣医師がコールと名乗る。このコール獣医は、アークを見るなり奇妙な顔をした。それからサラに言う。
「飼い主のかたは、待合室でお待ちください」
「え、立ち合っちゃダメなんですか。そういうものなんですか」
サラが診察室から出ていくと、コール獣医が表情をすっかり変える。これは欲望に満ちた顔だ。
「まさかこんなところで三毛猫に出会えるとは、闇市で高く売れる。さっきの頭の弱そうな飼い主には、この猫には感染症の疑いがあるので、王都法令にのっとりこちらで処分する、とでも話しておこう。そして、おまえを売って、おれは大儲けだ。まずは麻酔を──」
「にゃぁ(怒りの猫パンチ)!」
拳闘スキルlevel1《空打》。
飛ばす拳打が、コール獣医の顔面にぶちあたり、歯を何本か粉砕した。
「ひぃぃぃ!! な、なんだ、この猫はぁぁ!」
アークは診察台の上で仁王立ちになり──猫なので難しい──いった。
「にゃぁ(邪まなことは考えてないので、とっととおれの虫歯を治療しろ)」
どうやら言いたいことは伝わったらしい。
「は、はは、はい! ただいま治療い、い、たします!!」
治療が終わり、サラが呼ばれる。
サラはアークを抱き上げてから、不審そうにコール獣医を見て、診察室を後にした。
「ねぇ、ミィくん。どうしてあの獣医さん、口からだらだら血を流していたの?」
「にゃぁ(知らん)」




