3,名付け親。
『猫のような生き物』に転生しても、走る速度は前世レベルだった。
そこでアークはまず、討伐に向かった冒険者一行に先回りし、リザードマンの群れを壊滅するプランを取った。
が、これは道中、城のように巨大なイノシシ( などがいるはずがないので、魔物だろう)に襲われたため、時間を浪費する。この巨大魔獣を、魔術と拳闘スキルの合わせ技《猛火拳》で叩きのめしておく。
そこから急ぐも、リザードマン群れと冒険者たちの戦闘ははじまっていた。アークは常識人として、大半の冒険者はどうでもよかった。彼らは自分の身は自分で守るだろうと。
例の少女を見つけたのは、乱戦の中。
リザードマンの一体が背後に忍び寄っているのを見つけ、アークは駆けた。どうにも間に合いそうになかったので、拳闘スキルlevel3《衝撃波弾》を飛ばす。リザードマンを吹き飛ばすのと、少女剣士がアークに気付くのが同時だった。
「ああ、猫ちゃん、のようなキミ!」
猫ではない生き物という自覚はあったので、アークは「にゃい」と応えておく。そういえば焼き魚をもらったときは、野良猫と思われていたものだが。
少女剣士がアークをひょいと抱き上げる。体重的には、猫と変わらない。
「危ないよ、ここは戦場だよ!」
その背後から、新たなリザードマンが襲いかかってきたので、アークは少女剣士の肩越しに、再度《衝撃波弾》を撃っておく。
今回は少女剣士もそれを目撃し、目を丸くする。
「あれー。君、もしかして強い子? じゃ、一緒に戦ってくれる?」
「にゃあ」
「よし、やろう」
そこからは、アークは少女剣士の肩に座って(なんといっても大きさはただの猫と同じ)、遠距離型の拳闘スキル連打で、リザードマンたちを薙ぎ払う。
かくしてリザードマンの群れを討伐しおえる。
周囲の冒険者たちが、囁きあっているのが、アークの耳に届いた。
「おい、ほとんどあの少女が倒してしまったぞ」
「なんて剣士だ」
「いや実際は、あの猫──のような生き物の手柄のようだったが」
「ただの猫じゃないだろ?」
「あの少女がテイムした、新種の魔物じゃないのか?」
少女剣士が、アークに片手を差し出してきた。
「ありがとう、猫くん」
結局、『猫』に戻っている。
とにかく少女剣士の手に、アークは自身の丸い手をぽんとのせる。握手のつもりが、お手、になった。
「にゃあ(焼き魚の礼だ)」
「君のことを、ミィと呼んでいいかな? やっぱり、猫といったらミィちゃんだよね。ああ、君は男の子みたいだから、ミィ『くん』だね」
前世がおっさんとしては、『男の子』の見分けられかたが、屈辱的。
そこに冒険者の一人が駆けつけてきた。
「おい大変だぞ! 三時間ほど前、王都近郊で、魔獣ガルガーンの目撃情報が入った! これから討伐に向かうよう、命令がきたぞ!」
それを聞いた少女剣士が、気を引き締める様子で言う。
「ガルガーンは、Bランク討伐難度。リザードマンの比じゃないよ、ミィくん!」
「にゃあ(ガルガーン?とは?)」
「君、もしかして、わたしたちの言葉が分かるの? じゃ説明するけど。『城のように巨大なイノシシ』型の魔物のことだよ、ガルガーンって」
そんな魔物を、ここに来る途中で討伐したのを、アークは思いだした。
大事なことほど情報伝達が遅いのは、今にはじまったことではないようだ。