23,蛇王の指輪。
王都に寄って、食糧などをあらためて購入することになった。
つまり西方山脈に向かったはずが、その反対の東方山脈に向かってしまったため。振り出しに戻る。しかも、王都領内で。
「にゃぁ(お前、さてはわざとか?)」
「ミィくん。猫のくせに、そういうジト目はやめてくれる?」
改めて王都を出立して、その夜は途中で野宿となった。なぜかサラは不機嫌で、「ほらミィくん、猫らしくネズミでもとってきなよ、ネズミを」と嫌味を言っている。
「にゃぁ(やれやれ。少し頭を冷やせ)」
しかしネズミに用はないが、鹿肉には用がある。先ほど鹿の足音を見つけていたので、アークは狩猟本能むきだしで、追跡にかかった。
だが野営地を離れて少ししてから、とてつもない悪寒を感じ、鹿の追跡を中断する。
「にゃぁぁ!(なんだ、この邪悪さは!)」
慌てて戻ると、熟睡中のサラの上に、覆いかぶさるように巨大な影がある。バジリスクのようだ。まさかこんなところで、S級の魔物が現れるとは。
しかし、あれはサラをいまにも食べようとしているのか?──いや、というより襲おうとしている?
「にゃぃ!(サラから離れろ! )」
拳闘スキルlevel8《大地割り》を叩きこむ。大地を破壊する一撃ながら、これの直撃を受けても、バジリスクの鱗がいくらかはがれるに過ぎない。この過剰な防御力。
「にゃぁ(危うく、おぞましい18禁展開になるところだった。起きろ、サラ)」
「ミィくん。まだ朝じゃないよ。わたしは、眠い。眠いので寝る。オーケイ? くぅ」
寝つきはいいが、一度寝ると滅多に起きない。
ふと見ると、サラの指輪──親不孝な男からもらった、その父親の遺品という指輪──が、赤く光っている。この赤い光、まったくバジリスクの双眸と同じ輝き。
「にゃぁぁ(さては、その魔法の指輪、バジリスクを封じていたのか。封印魔道具として、バジリスクの力を利用していたが、その封印が解かれたということか)」
バジリスクが《虚無》を纏いながら、突進してきた。禁忌魔術のひとつ虚無系を、アクティブで使用できるようだ。この虚無には、たとえ魔法結界でも防御できない。アークは冷や汗──を猫がかくのかはともかく──とともに跳躍。
とにかく熟睡中のサラから離れたところへ、バジリスクをおびき出す。ここで遠距離魔術で、距離をとりながら戦う。その戦いは朝陽がのぼるまで続き、最後にはアークの火炎魔術level10《劫火の絶》が、バジリスクの《虚無》を貫いた。
だがバジリスクは死んだわけではなく、すっかり弱って、もとの封印魔道具の指輪に戻っていった。つまり、熟睡中のサラの指にはめられている、〈蛇王の指輪〉に。
「にゃあ(まったく、これでひとまずは安心か。しかし、とんだ魔道具をはめたものだな、サラ)」
一晩中の死闘だったので、アークはすっかり疲れて、眠りにはいった。
とたん、元気溌剌なサラに抱き上げられる。
「こらこらお寝坊さん。いつまで寝ているの、ミィくん? もう朝だよ。さ、出発するよ~」
「にゃぁ(おれは一晩中、おまえのために戦っていたんだから、もっと寝かせろ)」
サラは呆れた様子で言った。
「やれやれ。猫は寝てばかりというけど、本当だね。まったく、これだからミィくん」
「……」




