15,人狩りpart1。
〈忌もの〉の一件以降、〈名前はまだない〉のランクこそ上がらぬままだったが、様々なクエストが発注されるようになった。
これはレティアの算段だが、アークたちは、そこの事情までは知らなかった。
ただサラはやる気にみち、さまざまなクエストを受注し、何度も死にかけるたびにアークに助けられていた。
やがて冒険者界隈でも、『名前はまだなんたらとかいうパーティ、少女剣士と、謎の猫の〈二人組〉は、相当できるようだぞ』という噂がたつ。
ここで『二人組』あつかいされているのは、ほかパーティ二名が、滅多にクエスト参加しないため。ケイトはバイト重視、ドーグはそも王都不在が多い。
そんなある日、サラは赤い封筒をギルド本部より受け取り、いつになく重々しい表情で帰還した。
「これは緊急指令の封筒。ミィくん。ついにわたしたちも、花形の仲間いり。危険極まりないクエストを、最高位パーティにのみ送り付けるという、冒険者ギルドの伝統があってね」
「にゃぁ(真の花形は、そんな危険なクエストを押し付けられないだろう。これはそこそこ使える認定されたパーティに、花形にはまわせない危険なクエストをさせようという悪しき伝統に違いない。だがしかし、誰かがやらねばならないのならば、やるだけだな)」
「……ミィくんって、いま、ただの『にゃあ』に何十文字ものメッセージをこめていたりする??」
「にゃい(封筒を開けて、指令書を読んでみろ)」
「いまは、ひとことだけだったよね?」
封筒内の指令書を読む。アークはサラの肩までかけあがり、見下ろす形で。
これは危険任務+汚れ仕事だった。仲間殺しで逃走中の、Sランク〈ソードナイト〉、スタフという男を抹殺しろ、という。
「えー。暗殺クエスト? 冒険者ギルドって、こういうことするの? これはパスだね、パス。捕縛指令ならともかく、はじめから殺せ、なんて。やーめた」
「にゃぁにゃいのにゃぁ(好き嫌いでクエストを選べる立場でもないだろ。とはいえ、確かにおまえは、暗殺などできる性格でもないな。しかし、このスタフという男、ただ仲間を殺しただけではないようだな。この罪状を見るに、まえの逃走時に無関係な女子供も手にかけている。放っておけんだろう。仕方ない、おれが片付けてくる)」
「ミィくん──いま、なんて言ったかさっぱり」
「にゃぁ(行ってくるぞ)」
「あ、散歩にいくの? ゴミ箱をあさったらダメだよー」
最も新しい目撃情報をたよりに、アークは探索スキルを併用して、王都路地を進んだ。やがて、よく見る酒場の窓から、店内をうかがっていた。
路地裏に気配がして、それが誰か分かったので、アークは振り向かずにおく。
いまカウンター席には、標的たるスタフが一杯やっているのだ。
「あ、ミィさん。私のバイト先に、なによう?」
「にゃあ(ケイト。たまには〈名前はまだない〉の一員として活躍してもいいだろう。あそこにいる仲間殺しの元冒険者を仕留める。おれがやるから、お前は支援するんだ)」
ゴミ捨てに出てきていたケイトが、がっくりした様子で、ゴミ袋を落とした。
「……なんてびっくりな『にゃあ』の内容」




