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県道三番目のわき道 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやくんは、自分の帰り道というのは決めているかい?

 よく通う場所から、自分の家まで、どのようなルートで歩くかはおおむね決めている人も多いだろう。

 単純な距離、アップダウンのきつさなどの物理的なものから、犬に吠えらたり、なんとなく苦手とする相手の家やお店があったりといった、精神的なものまで。

 それらをいろいろ考慮した結果、割り出したルートに従い、私たちは足を運んでいる。


 本当にそれは、私たちの意図したものなのだろうか?

 私たちは選ばされているだけで、実は誰か、何かに都合のいいように歩かされているのではないか?

 もし、帰り道にこだわりがなく、いろいろなルートで帰るという人でも、ふとした拍子に、関係のある道をたどってしまうかもしれない。

 私の昔の話なんだが、聞いてみないか?



 当時は口裂け女を皮切りに、放課後の帰り道を舞台にした怪談がブームとなっていた。

 同年代の子供が集まりやすい、学校という特異な環境ならではの口コミ。誰が言い出しっぺなのかも分からないうちに、みんなの間で話が尾ひれをつけながら、広まっていく。

 子供たちとしては、内心から怖がる者もいたろうけど、面白がる子もいたと思うよ。

 0から1を作るのはすさまじく難しいものだが、1を2にして、3にして……というのはずっとやりやすい。

 うまいこと肉付けし、さも本当であるかのような口ぶりで相手に伝える。それに反応をもらえると、あたかも自分を認めてもらえた感じがして、気持ちいい。

 オリジナルこそ尊ぶべき、という考えな私にとって、そう二番煎じ、三番煎じを悪びれもせずにやる姿に思うところはある。それらの怪談話も、「どこかで聞いたようなものばかりだな」と冷めた目で見ていた。


 それらの話は、長い休みをはさんだりして、大勢が顔を合わせなくなると下火になりがちだ。

 なにせ相手から反応をもらえず、自分が優越感を覚えることもできない。つまらなくなったものを、子供は驚くくらいすっぱりと投げうつ。

 そうやって様変わりする話たちに、なおのこと侮蔑する心持ちだった私。そのぶん、長生きする話には、関心を持ってしまう。


 その息の長い話のひとつに、「県道三番目のわき道」の話があった。

 私の通う学校の、すぐそばを通っている県道。その道路に沿って北へ三つ目のわきへそれる道のことだった。

 直線にして200メートルで、また別の道へぶつかる。ちょうど「エ」の字の縦の棒に当たるような配置をしたその200メートルで、奇妙な体験をしたと語る子が、ちらほら出てくるんだ。

 はじめて話が出てから、実に8ヵ月ほど。こうも息が長いとは珍しいことであった。


 体験した子たちの話だと、どうも誰かにいたずらをされているように思えるそうなんだ。

 肩などを触られたり、足をつまずかされたり。中には「だ〜れだ」といわんばかりに、背後から目隠しをされた子もいたという。

 しかし、その犯人がつかめない。

 友達と一緒に帰る人ならば、その友達がいたずらをしかけたうえで、黙りこくっている可能性もあるだろう。

 けれども、これは一人で帰っている子も同じように被害に遭っている。周囲に人の気配はなく、つまずくにしても何に突っかかったのか分からないのだという。


 この話が広まって以来、ことの真偽を確かめようと多くの子が、かの道へ足を運んだが、必ずしも話に聞いたような体験をするわけじゃなかった。

 一方で、聞いていたのと同じような体験をしたと語る子も、なかなかいなくならない。

 どちらかが意地を張っての、マウントの取り合いに見えなくもない。けれども、それなら一年の3分の2以上も、仲良く喧嘩するだけのパワーが保てるとも思えなかった。


 ――あの道には、きっと何かがいる。


 話題に出続けるだけの意味が、きっとあの道にはあるはずだ。



 私も、自身の重い腰をあげて検証に臨むことにした。

 人によって、場合によって、体験できないこともあるのだという。

 普段は使わない通学路だし、回数を決めようと思ったよ。日をおいて10回、それらしい成果が出ようと出まいと、ここで切り上げようと思ったよ。

 縁がないなら、そこまで。僕は体験する側じゃなかったということだ。


 結論からいおう。

 8度目で、私はそれに出会うことができた。

 すでに、体験しない側ではないかと、内心であきらめかけていた頃合いでもある。

 これまでよりもいっそう、腑抜けた心持ちでもって、私はかのわき道へ入り込んでいた。

 最初は、入り込んでの数歩で感じた。

 腰回りのベルトが、ぎゅっとしまった気がして「ん?」と、下半身を見やってしまう。

 以前に、バックルが取れかけたこともあるベルトだ。妙なしまり具合になることも、珍しくはなかった。

 手でベルトの様子を確かめるも、外れかけている様子もない。

 勘違いかと、また歩き始めたのだけど。


 足元が、妙に引っかかる。

 疲れたときに足を引きずると、ついつい地面に突っかかりそうにならないか? あれと似たような感触だ。

 はじめは意識して足をあげていたのだけど、それでもつま先あたりにこするものがあるような……。

 足を引き上げて、何度か確かめたけれど、ガムなどが引っ付いた様子もない。


 ――これは妙だぞ。


 気の抜けていた私も、いよいよスイッチを切り替えるも、正体はやはりつかめずにいる。

 周囲を見回しても、いまこの瞬間にこの道を通るのは、私しかいないんだ。

 聞いていた話であれば、お次に私にやってくるのはおそらく……。


 その道の終わり際。

 私は「だ〜れだ」の目隠しをされる。意識していたから、その目を覆う暗闇が、視界の端から飛び出るのを感知できたよ。

 すかさず振り向いた。完全に視界をふさがれるより前に、その正体をつかもうとした。

 ほんのわずかな間だったけれど、今なお私の網膜には焼き付いているよ。


 かの道はね、真ん中に大きな裂け目を作りながら、分かれていたんだ。

 ちょうど、開いたファスナーのようだった。

 本来あるべき頑丈なアスファルトが大口を開けて、底の見えない黒をたたえている。

 私に目隠しせんとしていたのは、その裂け目の足元。私のかかとのすぐ後ろから伸びる、鞭のような影だったんだよ。


 私に見られたせいなのか。

 次の瞬間には割れ目はたちまち消え、鞭の影もなくなっている。普段通りの道路が、そこに横たわっていたんだよ。


 どのような原因かは、いまだ分からない。

 ただ、あそこを通る人はときおり、ファスナーの金具になってしまうのではないかと思う。

 道路の上と下とを隔てる壁。それの口を開かせるためのね。


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