<前編>
永遠の愛なんて、物凄い命題だと思う。
祖父から付けられたこの『愛永』という名前に私はしばし考えさせられてしまう。
そう、岡田くんとお付き合いを始めて……少しずつこの名前の印象が変わって行ったのに……
今は不幸が……鉛の様に私の心の中に沈んでいて、気を抜くとすぐ涙ぐんでしまう。
昨日、留守の筈のカレの部屋のドアに合鍵を指す前に、念のためインターホンを鳴らすと、スピーカーからガサッと音がして、ドアを開き、ブラ無し薄キャミ一枚の女が顔を覗かせた!!
カメラで私の姿が見えて居ていたからこそ、あえてその恰好でドアを開けたに違いない!!
「何の用?!」って……
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「あの岡田くんがねぇ~」
こう言ってため息をつく多香枝は、同じ販売促進部の同僚で私達の“お付き合い”を会社の中で唯一知っている人。
そして月曜にも関わらず私を飲みに連れ出して、差し向かいで昨日の出来事をこうして聴いてくれている。
私の話がひとしきり済むと、多香枝は、このお店の“名物”の『ソフトシェルクラブ』に甘味噌とマヨネーズ系の2つのソースを掛け、薄い薄いピアディーナで巻いた物を私に勧めながら白ワインのグラスをクイッ!と空けた。
「で、その“ドロボウ猫”って、どんな感じの女だったの?」
「うん……」
ソフトシェルクラブの“ピアディーナ巻”を噛みしめるとサクッ!とした歯ごたえの後に濃厚な味が口の中に広がり、私も白ワインをツイッ!と飲んだ。
「可愛らしいけど、とても“目力”があるコ」
ワイングラス越しに多香枝は私を見つめる。
「ひょっとして、その女……年下??」
「……たぶん高校生くらい」
「ええっ??!! それって援交?淫行?じゃん!! 岡田は鬼畜か?? ドロボウ猫とはいえ年端もいかないコを恋人の目を盗んで自宅に引き込むなんて!!」
「うん、でも……“ドロボウ猫”は私の方かも……私、カレと…
というか、いわゆる、そういうことは……
私、まだ……なんだよね」
「えっ?えっ? あ、……そ、そうなんだ……
いや、そうだとしても!!やっぱ淫行だよ!!ティーンとするのは!!」
「そうかな、そう言われちゃうよね、で、余計に落ちる……」
「愛永が落ちる必要はないよ! そんなヤツは熨斗を付けてくれてやればいいのよ!!」
言われても私は齧り掛けのピアディーナ巻を手に持ったまま黙り込んでしまう。
そんな私の様に多香枝は肩を竦める。
「くれてやれない訳ね、でもそれが意地とかプライドとかだったら……」
私は大きく頭を振る。
「あの優しい岡田くんが、こんな酷い事をするなんて……どうしても信じられない!! やっぱり私は恋愛初心者なのかなあ……」
私の嘆きの声はまた、多香枝にため息をつかせてしまった。
「う~ん……酷いヤツほど見かけは優しいんだけどね」
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岡田くんは優しいけど“鉄砲玉”みたいなところがあって、出張などで留守になると私は平気でほったらかしにされた。
それは単に、『人間』だけではなく、どうかすると洗濯物はおろか布団までベランダに出しっぱなしになっていたりする。
そんな事を露知らなかった付き合い始めの頃、私はうっかり“ブルーオペレーション”の鉢植えをカレに贈ってしまい、“カレに放ったらかしにされた”このミニバラを瀕死の目に遭わせてしまった。
それ以来、私は(それを理由にした訳だが)カレの部屋に足繫く通い、ブルーオペレーションの世話から始まり、洗濯、お掃除、炊事とまめまめしく手を掛けてあげた。
今から思えば……たまに、お掃除のなされた跡が有ったり、クローゼットの中が片付けられていたのはあの女の仕業で……出張中のカレの部屋が気になって押しかけた私が、同じく世話を焼いていたあの女と鉢合わせになってしまったと言う事なのだろう。
ただ、私があの女と違うのは……
私がされたのは“キス”がせいぜいという事だ。
奥手な私がいけないの??
付き合いが濃くなって……
『結婚』という二文字が頭をかすめる様になるにつれ、『あの事』もセットとなって心にのしかかり、不安が入り混じったドキドキを胸に感じる時、自分の“性”を感じざるをえなくなった。
しかし、あの“まだ年端も行かない”女は易々とそれを越えてカレに抱かれたのか??
でも少なくとも日曜にカレは居なかったはず!
それとも……実はカレは部屋に居たの??
“その為”だけにカレは出張先からわざわざ一時帰宅したの??
いや、そんな事する位なら女を出張先へ連れて行った方が……
いやいや、女がまだ学生ならそれも難しいか……
こんな事をグルグルグルグル考えて寝不足ぎみの私は欠伸をかみ殺しながら給湯室から出てくると、向こうに紙袋を提げた岡田くんが歩いているのが目に入った。
もう聞くしかない!!
物凄い勢いでカレに追いついて、カレにちょっと引かれてしまった。
でも、私はゼイゼイとカレに噛みつく
「私、日曜に部屋に行ったの!!」
「そうみたいだな『あの女、何?』って聞かれたから」
途端に私の目の前は真っ白になって……次の瞬間、カレの頬をひっぱたく音を廊下に響かせて、私は“花摘み”に逃げ込んだ。
後編へ続く
今回は“黒楓”名義ですが……<supported byしろかえで>と言った感じです(*^^)v
時間切れで書き上がった分だけUPいたしました。
明日、頑張って後編を書きます!!
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