才女。アンドロイド。
機械達の大半は、ほんのり光っていた目にあたる部分が、もう暗くなっていた。見たところ、まだ目に光が灯っている者達は、頭部にダメージが少ない。少ない……とは言っても、生物で言えば、明らかに致命傷になるほどの怪我だが。
この義体は、かなり感覚に優れていた。それなのに、ここまで何も分からず破壊されるとは……。いや、常識に囚われているのかもしれない。もしかして、これも魔法というものなのだろうか。
幸い、自分はまだ頭部、そして、その中にあるコアもなんとか無事で、五感も生きている。痛みは攻撃される瞬間にはあったが、時間を置くとかなり痛みは鈍くなった。代わりに、何とも言えない不快感が切断面を襲ってくる。痛みが鈍いとはいっても、ダメージを認識する為の痛みとしては十分な為、無駄な余剰分の痛みをカットしているということなのだろうか? そして、修理を諦めない為の不快感なのかもしれない。
「――思ってたより堅いなぁ……。良い剣だったけど、勿体無い事した。やっぱり、こっちで行こう」
透き通る声の主は、絵に描いたように可憐な少女だった。小豆色の瞳、そして同色の髪を、後ろは肩甲骨の下辺りにまで伸ばしており、前髪は赤と黄色のピンで綺麗に飾っている。フード付きのロングコートを羽織っていて、シャツの上にベストを着込んでおり、動きやすそうなショートパンツからは、タイツと、お洒落なハーフブーツを履いた足が覗いている。
彼女は、折れている細い西洋剣をその場に優しく置き、小さめなバッグと共に背負っていた両手剣を取り出す。片手に西洋剣、もう片方の手にカンテラを持っていたが、やむを得ずカンテラを口に咥えていた。それはともかく、両手剣という重厚な剣の、機械に対する殺傷能力は、刃がいくら潰れたとしても計り知れないだろう。彼女は、それをおもむろに下段に構えて動き出す。
このままでは、壊されてしまう。
「――待って!!」
「! ああえうお!?」
口にカンテラを咥えているため、母音だけで喋ってしまっているが、おそらく、話せるの!? と言ったのだろう。
「こ、壊さないでください! 他にも、喋れる人がいるなら喋って……」
既に破壊された者達の中に、もしかすると、自分と同じ境遇の者がいたかもしれない。
少女は両手剣を地面に刺し、カンテラを手に持って、恐る恐る自分に近付いて照らす。
「…………いないみたい。とりあえず、君以外は壊していいかな?」
「……壊さないと、いけないのですか?」
「まぁ、そうだね。機械生命体は危険だし、それに――」
少女はカンテラを自分の側に置いて、両手剣を抜き、既に光を失った――彼女が言うに――機械生命体の一体に振り下ろし、継ぎ目を起点に分解していく。その残骸から少女は、その手の第一関節の半分程の大きさをした赤色の球体を取り出す。あれは、自分の中にもあるコアだ。
「ほら、これ。機械生命体の魔臓は特別製でね、魔素を集める力があるんだ。これ一つで、ずっと遊んで暮らせるよ。それに……さっきも言ったけど、機械生命体は危険だから」
魔臓……。自分にとってのコアを、彼女、というか人間は、生物にとっての魔素を扱う器官と、同じ名称で呼称しているのだろうか。
いや、今はそんな事を思っている場合ではない。
「自分のことも、壊すのですか?」
「うーん。私の仲間になってくれるなら、見逃してあげる!」
「――なります!」
「よし!」
……こんなに早く人間と出会うとは、さっきまで思いもしなかった。
「じゃあ、はい。これ」
「……?」
少女は、機械生命体を全て壊し尽くし、そのコアや義体を差し出してきた。
「? あれ、知らない? 機械生命体は、食べることで進化する事ができるんだよ。そのままじゃ、動くことすらままならないしだろうし……」
「食べっ……え?」
「あ、もしかして……仲間を食べるのは気が引ける?」
「いえ、それはないのですが……」
食べられるのだろうか、金属っぽいけど……
………………あれ? なんというか、初めての味で――
「お、おいしいっ」
「あ、よかった! 多分、君は量産された子だから、食べる力が無いのかもって心配したよ」
「…………」
「ふふふ。進化ができなくても、ちゃんと面倒は見てあげる♡」
「あっ、ありがとうございます……」
無言で、同族を食べていく。……死んでいるから、あまり気負わずに食べられる。
コアには記憶媒体としての役割もあったのか、食べて分析していると、記憶が増えた。あくまで機械としての記憶であり、自分が理解するには改めて咀嚼しなければいけないようだが。
――ともかく、体内に摂取した機械生命体の義体を使って、設計図を元に自分の義体を再生できそうなので、急いで再生を始める。……思っていたより、すぐに終わった。でも、進化――今回は再生だが――には、材料を消費するのは勿論のこと、かなり魔素を使ってしまうようだ。……物理的に再生したりする機構は無いのに、こうして再生をしているから、おそらくそこに魔法が絡んでいるのだろう。
「終わった?」
「はい。ありがとうございました」
「いえいえ。じゃあ、進もうか。……あ、これ、持っててくれたら嬉しいな」
「わかりました」
カンテラとバッグを持ち、少女に着いていく。
自分より、一回り大きいくらいの機械生命体から、中型、大型と、話す間もなく敵対してくる機械生命体達を、少女は文字通り目にも止まらぬ速さで破壊する。小型は為す術無く両手剣で分解するように壊されていくが、中型や大型との戦闘とは両手剣の攻撃すら効かないらしく、拳一発で破壊していた。…………? 両手剣を預けられた時、自分は思った以上に軽くて驚いた。それは置いておいて、中型や大型ともなると義体を破壊してもコアから再生を始めるらしく、少女は砕いて対処している。砕いても、魔素を集める性質は残るらしい。
そして、何故か彼女は、コアや義体を自分に譲ってくれる。……仲間、と言っていたから、これは先行投資なのだろうか? これで、自分が裏切ったらどうするつもりなのだろう。勿論、勝てる気はしないが。……余計な事を言って刺激するのが怖いから、言わないでおこう。
少女と同じく、物理法則を無視しているようにしか見えない異様な強さの中型、大型のコアや義体を取り込み分析していると、その強さの理由が分かった。進化して加勢しようか少女に提案すると、危ないからやめて、との事だった。……危なげなく破壊している事から、今機械生命体側と同じ強さになったところで、足手纏いなのだろう。
食べていく中で、最初から募っていた疑問がある。機械生命体を幾ら体内に入れても、今のところ限界が来ていないのだ。明らかに自分の体積以上の機械生命体を取り込んでいるのに、体積的にも重さ的にも変化が無い。
……これはある意味、アイテムボックスとして使える特性かもしれない。少女に話してみたところ、少女は驚いて、特殊魔法だね、と言っていた。喜んでいるようで、バッグと両手剣を自分の口に差し出してくる。……これだけは消費しないように、と、自分に念押しながら噛まずに取り込んだ。
――最終的に、自分も生まれた工場施設のところへやってきた。
「これで最後かな」
少女は、自分の知る限りで最大級の機械生命体を打ち砕いた後にそう言う。
おそらく、工場施設も一体の機械生命体なのだろう。一応声を掛けてみるが、返事はない。相変わらず、機械生命体を生み出し続けている。
「あの」
「うん? どうしたの?」
「機械生命体が生まれるということは、高価な魔臓が沢山取れるという事ですよね? それでも、壊すのですか?」
「そうだね……このままだと面倒な事になるし。なにより、その力も君が受け継げるかもしれないよ」
「! ……なるほど」
……もしかして、自分を仲間に引き入れたのは、ここまで計算の上だったのだろうか?
「あ……君と仲間になったのは、そういう風に使うつもりじゃなくて――」
――少女が、工場施設からこちらへ目を逸らして、自分を突き飛ばす。そして一瞬を置いて、いきなり途轍もない衝撃が巻き起こり、自分は吹き飛ばされた。
少女がカンテラを使っていたという事は、彼女には、自分達機械生命体のように可視光以外を捉えるのは難しいことなのかもしれない。この光だけは失わないように体勢を整える。
衝撃で壁に叩き付けられただけで、全身にダメージを負ってしまった。しかし動けない程ではない。未だに巻き起こっている謎の衝撃を堪えて、少女の方を確認する。
先程まで立っていた場所が、爆ぜて跡形も無く消えていた。
彼女の安否を考える前に、この衝撃が工場施設と少女の戦闘の余波だと気付く。先程は、自分を攻撃から逃してくれたのだろう。工場施設の強さは、これまでの機械生命体とは比にならないらしい。
それでも、根元から伺える工場施設の数えきれない腕が、一本、また一本と、少女の攻撃に押し負けて吹き飛んでいく。再生もしているが、腕が少なくなった一瞬の隙に間合いを詰めたられたらしく、次の一撃で大破させられた。少女は再生する時間も与えずに、一際大きなコアを抜き取り、握り砕く。
その後、最後まで製造されていた機械生命体達にも声掛けをして、相手から敵性反応が出るまで様子は見たが、結局、自分と同じ境遇の者はいなかったようだ。少女が全て破壊して、機械生命体との戦いは終わった。
ひとまず、貰った工場施設の機械生命体を、少女に感謝をした後、体内に入れ始める。最初にコアを食べて、義体を摂取しながら平行作業で記憶領域などを探る。その成果を要約すると、コアの設計図などを含めた様々な記憶を手に入れ、そして、魔法による物質の構築や操作ができるようになった。少女が特殊魔法と言っていた空間の魔法は、工場施設の機械生命体――個体名“ノス・コス”の情報によると、自己進化も含めて機械生命体元来の魔法らしく、自分はこれを、仮に空間魔法、進化魔法、そしてその二つを合わせて機械魔法と名付けた。そして、物質の構築や操作というのは後天的にノス・コスが取り込んだ魔法らしく、それは元々、迷宮核という種族の魔物が持つものだったらしい。これは、仮に構築魔法と名付けることにする。更に、これは既に分析していた事だが、中型や大型、ノス・コスや少女に至るまでの異様な戦闘能力は、生体魔法というものによるらしい。これは機械生命体には元々備わっている物ではないが、迷宮核が生み出す生物からノス・コスが取り込み進化したのだろう。生体魔法とは、文字通り生体を魔法により強化するもので、消費した魔素に比例し強化の度合いも変わり、その対象は五感や膂力、再生力など多岐にわたるらしい。自分には上位種の機械生命体達のように生体を模した機構がないので、今はこの魔法は使えない。自分と同じコピーすら生み出せるはずのノス・コスは、一先ず最低限防衛に必要な兵士の量産を優先する為、生み出す機械生命体には、速度優先で必要最低限の情報やポテンシャルしか組み込まなかったのだろう。……ちょっと違うけど、キメ〇アントみたいな感じだろうか。しかし結果的に、その判断は良くは働かなかった。
ノスコスを取り込み終え、他の機械生命体達まで取り込み始める。勿論、少女の許可ありきの行動だ。
少女は、ぼんやりとそんな自分を眺めている。暇させてしまっているだろうから、一層急いで食べ進める。
次に、少し疑問だった、取り込んだ物の行き先についての事を、詳しく探ってみる。
――調べてみると、魔法でコア内に空間を広げ、そこに収納しているとのことだった。万有引力も慣性質量も魔法で相殺しているらしい。今までは完全に無意識だった。とにかく……そういうことならば、思考能力とコアさえ無事なら、内部の材料、もしくは構築魔法を使えばいくらでも再生もできるから、不老不死に近いのかもしれない。……そういえば、
思考能力と、コアさえ無事なら……と思ったことで、ふと疑問ができた。それは、意識の在処だ。
機械生命体の頭の部分、もしくはその内部のコアが怪しいと思っていたが、調べてみると、コアに依存している……と、思う。人間の意識があるのはイレギュラーだから確信は持てないのだが、消去法でここだろうとひとまず当たりを付けた。少なくとも、演算能力などの機械的な能力は、ここに依存するらしい。
食べたコア。それは、それから知識を取り込むことや、そのコアに対する魔素関係の運用といった事は空間内部に入れたままでもできるが、演算能力などまでは取り込めない為、それらの機械的思考能力を含めて、自分のコアに取り込んだコアを吸収しようかなと思った。機械的思考能力以外は、別にそうして性能を上げなくても総合的なパフォーマンスは変わらないのだが、なんだかワクワクする為である。
……というかコアって、魔素を集めて貯蔵して、変換して、変換した物も貯蔵して運用までして、人間の意識も(たぶん)ここにあって、機械的思考能力もあって、内部に広げた空間もあって……って、かなり頑張っていると思う。
それは置いておいて、機械生命体達を全て取り込み終えた。そのタイミングで少女は進化を促してくれたため、素直に感謝を伝えて、従う。
まず、コアの質を上げようと思う。コア以外の義体など、カンテラを地面に丁寧に置いて、全てを内部空間に収納する。そして、進化魔法の応用で全てのコアを分解して、念のためフォーマットする。余った素材は、後に造る義体の方で使うことにしよう。それから、コアはパフォーマンス重視で再構築し、自分のコアに機械魔法で組み込んだ。自分のコアを下手に弄ると自分が消えてしまう可能性があるため、最終的にコアは二重構造になった。自分のコアを、後付けのコアが覆う形である。複雑な形ではあるが、編み出す力はノス・コスの最高級コアと全く同じだ。それに、こちらの方が大きい分、全体的な能力はこちらの方が高い。
次に、義体の製造。今のままでは動きにくいため、人型をデザインして再現する気だ。……しかし、自分の記憶を幾ら探っても、人間の姿の記憶は、今のところ目の前の少女だけだ。とはいえ、少女の見た目をそのまま使える訳もない。
……やっぱり、最初の、機械生命体として生まれたときの見た目のまま、動きやすくした感じで造ろう。といっても、これは見た目だけの話であり、内部は全然違う。コストを厭わず、現時点における知識を総動員して、パフォーマンスを追及する。……ほぼ半自動だから威張れることではないが。それでも尚余った義体は、コア内部に収納しておく。
口を大きくデザインした方が、取り込む作業が捗るかな……と、思いこそしたが、そもそも空間魔法の応用で、取り込む物を空間ごとコアに入れる方が100倍効率が良かったので、口のサイズは元のままだ。口は無くてもいいが、味覚があるため、おいしい食べ物を食べることがあった際に備えて作っておいた。
――また話が逸れた。ひとまず、造った義体を、ちゃんとコアと接続できるように工夫して空間内部から取り出して、鋭くなった五感や、改善した動作を少し確認する。
最終的に、今コア内部に入っているのは、少女のバッグと両手剣、コアのない機械生命体達の義体だ。手にはカンテラを持ち直している。
「お時間をいただき、ありがとうございました。コアの製造もできそうです」
「そっか! えっと、それはいいんだけど……その姿は、どうにかならないかな? そのまま連れて歩くのは厳しいかも」
人の姿が分からない為、似通った姿になってしまうと事情を話した。
「君が嫌じゃなければ、別にいいよ! 妹ができるみたいで嬉しいし! ……あ、体の一部とか必要? それなら――」
「――いりません!」
「そ、そう……」
危ないことを言い出した少女が、変なことをしないか警戒しながら、急いで再構築していく。見た目が恐ろしいことになるので、勿論一旦コア内部に収納するという手間を挟む。
妹、と言っていたので、差別化の為に、少女の身長は約155cm程だったが、とりあえず10cmくらい低くして、145cmに、そして、それ相応に幼くデザインした。本来、肩甲骨下辺りまでだった髪は、腰位にまで相対的に長くなる。
……胸はあるが、プライバシーにあたると判断したところは再現せず、今の自分は裸でも健全な体だ。っていうか、服が無い。どうしよう。
「すごい! ホントに私だ。……あ、バッグと剣、出してくれる?」
それらを渡すと、彼女はせめて、と、下着を渡そうとしてくれた。……忘れていた。構築魔法で服を造れば良かったのか。ひとまず断って、同じ服を構築することで解決した。四苦八苦しながらその服を着ていると、手伝ってくれた。……着た状態になるように構築すれば良かったし、そうでなくとも、服の構造は頭にあったのだからそれを元に動けば良かった。自分は、まだまだ機械の力に慣れていないみたいだ。




