鉄の体
――……?
いつも通り起きたのはいいが、目が開かない……というか、体が動かない。いや、全身の感覚がそもそも無い?
昨日は……あれ、何をしていたんだっけ? 分からない、何も思い出せない……
――訳も分からず混乱していると、いきなり凄まじい――感覚的にはチョコレートのようなものが、自分に溢れてくる。
次に訪れたのは、衝撃だった。自分と、何か衝突してきた物が、回路の様なもので徐々に繋がっていく。
唐突に光を感じて反射的に目を瞑ろうとするが、瞼が動かず、瞑れない。しかし何故か眩しさは感じず、驚くほどに鮮明な視界が開ける。
首が動かせず、その視覚で辺りを見渡せないなりに見渡してみる。印象に残るのは、眼前に広がる錆と、忙しなく働く歯車、そして様々な機械群だった。……記憶は曖昧だが、幸いスチームパンク的なものは好きだったようで、妙に浮き足立つ。……そんな状況じゃないのに。
改めて確認してみると、自分は今のところ首だけの存在のようだ。意味が分からないが、次の瞬間にはまた衝撃が訪れ、回路(?)が繋がり、次は胴体、両腕両足……と、順を追って大きくなっていく。
恐らく、全ての工程が終了したであろう自分は、長方形のエスカレーターの様なものに立たされ、地上へ運ばれる。自分の前に並ぶ――自分の前に製造されたのであろう――機械は、地上に面したタイミングで、どこからそんなパワーが出たと言いたくなるようなジャンプで離脱する。そこからエスカレーターはゴウンゴウンと当たり前のように地下へと沈んで行く。このタイミングを逃すと、自分は初期不良かなにかで破棄されるのかもしれない。それは……怖い。慣れない体で自分も跳ねるが、飛んだ先で着地に失敗して転がってしまう。
起き上がるのに苦戦していると、自分の後に飛んできた機械とぶつかって、お互いがピンボールのように吹き飛ぶ。かなり痛い……。その痛みで気付いた。どうやら、まだ確認できてない味覚以外の五感はちゃんとあるらしい。それに、人間の頃より高性能だ。
どうすればいいのか分からず、自分とぶつかり転がっている機械を見ていると、短く細いながらも凄まじい腕の力で弾いて、起き上がっていた。……真似をしてみたはいいものの、力の調整が難しくて何回か失敗する。が、最終的には成功を納める。
改めて辺りを見回すと、自律した機械達や工場施設のようなもの、つまり、自分達を製造している場所はあれど、基本的にはただの空洞のようなところらしい。ただ機械を生み出すことを目的としていて、綺麗に整備されている……ということは、全くなさそうだ。幸い通路はあるようで、恐らく地下空間の一室といった所だろうか。
自分の他にも、自律した機械達がいることを再確認する。ここにきて気付いたが、自分は一番小さな個体のようで、自分と同等か、それより大きな機械しか見当たらない。そして、一際大きな者達はここで待機するようで、それより小さな者達は、一直線に通路へと向かっている。……出遅れた。自分も行かないと、処分されるかもしれない。行こう。
移動してみて、自分の短くぎこちない足だと、歩くよりジャンプして移動するのが速いと思った。……それは、燃費が悪いのだろうか? そもそも燃料で動いているのだろうか……? 前世(?)の事はよく思い出せないが、こんな自律した機械は、まだまだ造れる段階ではなかったことは覚えている。自分が機械になっていることも含め、謎だらけだ。ともかく、燃費を気にして歩いて行動することにした。周りの同じ形をした機械達もそうやって移動していることが、その選択の後押しをしている。……なんだか、自分よりかなり速い気がするけど。
――移動の最中で、物思いに耽る。どうせ前の機械に付いていくだけなのだから、思考する余裕はある。
……そもそも、自分は人間の脳に、機械の体が与えられているだけなのか? それとも、人間の記憶を持った機械そのものなのか? もし後者ならば、機械にしか出来ないことが、思考の延長上で出来るかもしれない。例えば、高度な演算や、シミュレーション機能など、人間では到底不可能な事を。
まず……動作の最適化などを試してみよう。燃料が限られている場合、燃料が切れたら、補給などを誰かがしてくれない限り動けなくなってしまう。例え補給があったとして、再起動した後にまた自分という意識が継続しているかもわからない。……杞憂だとしても、まぁ燃費は良ければ良いほどいいだろう。
同じ個体の機械を観察して、取り敢えず、頭の中で3Dモデルを作成してみる。……ん……あれ? できそう、多分これでできたかな。
それはそれで良いけど、妙なことに、既に同じ3Dモデルが記憶に、いや、この場合、記憶媒体と言うべきだろうか? 今、半自動で行われた観察と推察によって作成されたデータもあるが、既に同個体を構成するあらゆる部品、その一つ一つまで解説付きの設計図や完成予想図、また、現時点における自身の状態まで、まるで手を取るように分かるような……能力? があった。
謎の動力源などについても分かった為、色々と追及していきたいが、ひとまず、先程しようとしていた動作の最適化を終わらせよう。現時点における自身の状態について、この情報を元に、無駄の無い最適解な動きを作成、自身の運動野……今となっては、そう言えるのか疑問だが、とにかく自分にトレースしてみた。すると、明らかに動きの精度が向上する。……周りの機械達は、当たり前にこれをやっていたらしい。歩く速度が同じになれた。
ここで、一つの仮説を立てる。
機械としての思考能力、そして、機械の記憶すらある……ということは、自分の人間としての記憶や思考は追加されたようなものであり、部外者側なのかもしれない。機械として生まれたところに、何故か、自分の人間としての記憶――おぼろげな物ではあるが――が追加された、という感じになるのかな。
そして、それが自分だけなのか確かめたいところだが……しかし、周りの機械が人間的な動作をしていないことや、他の機械に人としての意識があるか訪ねたりすることをしていないから、自分と同じ境遇の存在がいる可能性は少し低くなるだろうし、自分からそういう行動をすることで、他の機械達と敵対する可能性も否めない事から、現時点ではちゃんとした確認するのは難しいかな、と、自己問答をした。
今は、考える時間が惜しい……と思って、それで気付いた。自分としての思考と、機械的な能力は、たぶん延長上とはいえ、融合率(?)は低いのだろう。自分の思考速度は機械にしては遅すぎるだろうし、先程の動作を作成してトレースしたのは、明らかに自分がしようと思いはしたことだが、機械としての能力だと思う。……ということは、慣れていかないと機械としての本領を発揮できないということなのかもしれない。
ひとまずそれも頭に置きつつ、この機械の体……仮に、義体と呼ぼう。義体についての情報を反芻する。
基礎的な能力は、驚異的だった。小さい体なのに、力がとても強く、感覚も鋭く、記憶能力、持続稼働時間、耐久性など……とにかく、実物の比較対象はいないが、人間に比べるとすごいと思う。
次に、動力源について。ここからは、ファンタジーな話になっていく。
この義体は、周囲の魔素をコアが吸い集め、魔素の貯蓄と同時に、コアで魔素の変換をして動力源を生み出している。原理的には、魔法――魔素の変換と、放出の一連の動作――のようなもので、しかし、結果として生み出すのは純粋たるエネルギーだ。このエネルギーは、感覚的にはチョコレートみたいな感じだ。自分のコアは希少物質の削減の為か、大型の機械と違って、レベルが低く、魔素に対するアプローチが全体的に弱い。とはいえ、これでも余分に作ったエネルギーの貯蓄も可能な為、瞬間的なエネルギーの出力は大型とも変わらない。……まぁ、同じ大きさの、骨格筋(?)ですら力は負けているかもしれないし、そもそもその骨格筋の大きさすら違うから……話が逸れた。ともかく、コアの質が低いことのデメリットとしては、持続的な運動に弱いことだろうか。現時点では、エネルギーを最高まで貯めても、これは全身で激しい運動していれば三時間程で無くなってしまう。もしそうなったとしても、今しているような軽い動きならば可能ではあるらしいが。
こういう話を聞くと、自分の体に最高級の骨格筋やコアを付けたくなってくる。自分は元々、機械が好きな人間だったのだろうか? 今となっては何も分からない。……記憶が曖昧なことに、そこまで悲しさがないのは幸いだった。
機械の記憶から、他にも、様々な情報を引き出していく。
普通の生物、勿論、人類にも魔素を扱う器官はあるようで、魔法を使える人間もいるらしい。呼吸で空気中の魔素を吸い込み貯め、それを脳を介して変換したり、変換と同時に、器官と繋がった体表から放出したりする……という。
――人間!! 人間がいるのか。ひとまず安心だ。……今の自分が仲良くなれるかは分からないが。
――そうこうしている内に、自分と同じ個体がいっぱい揃って、足を止めて立っている地点まで到着した。
ここに来るまで、大きな機械から順に早く足を止めていた。
まるで、そう……何かから、工場施設を守るように。
異音に気付いた時にはもう遅く、自分を含めた機械達は、一瞬にして破壊されてしまっていた。
初期主人公のイメージは、NieR:Automataの小型短足です。




