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グリモワール『アルマの手記』

「クローは、どうする? その傷もあるし、避難していてもよいと思う」

「……アルマ殿は、戦いにいくのですな」


 こちらの顔をじっと見たあと、俯くクロー。

 ぎゅっと折れた刀の柄を握りしめている。


「拙者も、行きます。助けていただいたこの身。そして何よりもアルマ殿を迷宮都市ジアンゼへと誘ったのは拙者です。それで、ここで拙者だけ、おめおめと逃げるわけにはいきませんな」


 私は言うか迷っていたことが一つあった。しかし、ここまで短い時間ながら一緒にいて感じたクローの性格。それに彼の刀の事を考え、決めた。


「……一つ、提案があるの」


 うつむいたままのクローに向け、いつの間にか周囲に誰もいなくなった宿の中、私はガサゴソと鞄を漁りながら告げる。


「提案ですか」

「そう。これ、私のグリモワール。クロー、使ってみない?」


 鞄から取り出した、私の書きかけのグリモワール──『アルマの手記』を机の上にそっとおく。

 表紙の装丁もしていない、いっけん質素な、ただの雑記帳。しかし私がこれまで生きてきて得た魔石のほとんどすべてを注ぎ込んで作成してきた力作だ。

 俯いていたクローが、私の提案に驚いたように顔をあげ、私のグリモワールをみる。


「まさか! それがアルマ殿が書かれているとおっしゃっていたグリモワールですか。……ただならぬ気配が、しますな」

「うん」

「──昔、聞いたことがあります。魔女の方達は、自身の秘匿するグリモワールを最も親しい弟子にだけ『共有』させ、やがて『継承』させていたと。しかしそれは、いまでは、ほとんど廃れてしまった習いだとか」

「無詠唱魔法のグリモワール、『シザレスカの叡知』が書かれて無制限公開されてから、皆がそれしか『共有』しなくなったみたいね」


 私も詠唱魔法を調べるなか見つけた文献でしか知らない昔のことだ。


「使ってみる、とは、私に『共有』を許していただけると」

「そう。クローのその刀。私のグリモワールを『共有』すれば、もしかしたら使えるかも。……色々制限はあるけど」


 クローの顔は、驚愕といっても過言ではないぐらいの表情をしていた。


 その時だった。宿の外が、急に騒がしくなってくる。

 人と人ではないものが、争う音。

 スタンピードが急速に近づいてきていた。






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