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しょぼんとしたクロー

「迷宮都市──」


 私はクローから告げられたその単語を繰り返す。迷宮──そこは、全く想定していなかった場所だ。


「ええ。迷宮都市であれば魔力泉も周囲に豊富かと」

「まあ、確かに私は魔力泉があって、詠唱魔法の研究が出来ればどこでもいいのだけど」


 魔力泉は、魔女として活動するには何かと欠かせない存在だ。グリモワールの登録にも使用するので、私としても迷宮都市は魔力泉が豊富、というフレーズは、とても魅力的に響いた。


「ふむ。アルマ殿は、その詠唱魔法で見返したいのですな。であるなら迷宮都市はより一層、適していると思いますぞ」

「そうなの?」

「見返すにしても、実績というのは大事でしょう? ただただその詠唱魔法をきわめても、それが先方まで伝わらなければ見返すも何もないですし」

「うん、それは確かに」


 見返したいという私自身の気持ちには、先ほど気がついたばかり。当然、どうやって見返すかなんてクローに言われるまで考えてもなかった。


「そのアルマ殿の詠唱魔法を使って、迷宮を踏破するのです! 誰もが未だなし得ない偉業。それを達したのがアルマ殿の詠唱魔法の力となれば……」

「無詠唱魔法より詠唱魔法が優れている証として、話が広がっていく?」


 話を聞けば聞くほど、クローの提案は魅力的に思えてくる。しかし、ふと疑問もわいてくる。


「クローは迷宮都市にいく予定だったの? クローはどうして迷宮都市に?」

「ふむ。拙者の目的はこれなのです」


 そういって、クローが取り出したもの。それは、一振りの刃物だった。

 そっと鞘から刃を抜くクロー。

 それは、刀身の根元近くで、ぽきりと折れていた。


「ショートソード、じゃないね。これなに?」

「我が家に伝わる、刀と呼ばれるものです」

「刀。折れてるよね」

「いえ、一見折れているように見えますが、これでいいのですよ。こう使います」


 そういって、クローが刀の持ち手を両手で握りこむ。

 真剣な顔つきをするクロー。一心に集中しているのだろう。

 すると刀身の折れたように見えた所から、うっすらとかげろうのような揺らめきが現れ始める。


「……魔力だ」


 しかしそのかげろうのようなものは明確な形を取ることなく、霧散してしまう。

 それは、私には、どこか失敗したときの無詠唱魔法を思い起こさせら光景だった。


「ふう。お恥ずかしながら拙者の修行不足でして。本当であれば、持ち手にとって最適な刀が現れるはずなのです」


 しょぼんとした様子のクロー。その両方の眉の端が下がった様子は、申し訳ないがとても可愛らしかった。


「その修行で迷宮へ?」

「そうなのです。迷宮は修練にはとてもよいらしく。それに……」

「それに?」

「儲かるらしいので」


 恥ずかしげに告げるクロー。


「儲かるのか……。それは、大事。うん、わかった。私も一緒にいく」

「おお! それは心強い。何卒、よろしくですアルマ殿」


 そういって、片手を差し出してくるクロー。

 私も片手を伸ばして、その手を優しく握る。


 とてもモフモフで、気持ち良かった。



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