Chapter2-1
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「そんな感じなんだけど……思い出した?」
「ええ、一応は……まさかワインだったなんて」
二人で下着姿のまま真正面から向かい合って話しているのはシュールだが仕方ない。その状況に気付いた二人はそれぞれ断己は目を反らし洸の方は布団を被って顔だけ出しているスタイルになって落ち着いて来ると今度は喧嘩が始まった。
「いや普通ブドウで飲み物と言ったらワインでしょ?」
「俺は生まれて今までぶどうジュースだと思ってっ……て、いてて」
しかし言い返そうとした断己の頭に鈍い痛みが襲った。これが彼にとって人生で初めての二日酔いだった。
「それが二日酔いってやつよ……えっと、夜劔、くん?」
「うっ……大丈夫です、洸さん」
「ひかっ!? えっと……うん」
何とか受け答えする断己に対して驚いたような顔をした洸に断己は一瞬考えた後に納得したような顔で頷いて口を開いた。
「あぁ、失礼、日本ではファーストネームを呼ぶ習慣は無かったですね、つい」
「ナニソレ? まさか君ってハーフか帰国子女?」
「ええ、先日までアメリカのロスにいました」
「へ~、そうなんだ……あ、取り合えず私達どうする?」
布団で首から下を隠している洸はパンツ一丁の断己を見ながら言うが取り合えず着替えるべきだと二人揃って納得すると着替えだした。
「今は……六時か悪いんだけど仕事有るからシャワー浴びたいんだけど時間有る?」
「いや、さっさと帰りますけど……」
「いやいや、さすがにこれで帰したら私の寝覚めが悪過ぎるから朝食くらい食べて行ってよ」
そこで押し問答になったが結局は断己が折れる形で留まる事になり、さらに交代でシャワーまで借りることになってしまった。とんでもない事態の連続に二日酔いも重なって結局流されてしまった。
「「いただきます」」
「ふぅ、美味い……」
「二日酔いにはシジミの味噌汁よ……ふぅ、落ち着く」
「さすが慣れてらっしゃるようで」
白米に目玉焼きとウインナーそれに味噌汁と割と純和風のような朝食に断己は軽く感動していた。日本にいた頃は祖父の家で暮らしていた間だけしか食べたことが無かったからだ。
「ど~よ久しぶりの和食は?」
「まあまあ、ですね……昔食べた味に似ています」
どこか懐かしい味とでも表現すれば良いのだろうか郷愁という感情がもっとも似合うと断己は自分で分析していた。ただの錯覚なのだろうが昔、祖父の家で食べた味と似ていると感じる程だった。
「そこは味の感想なんだけど? まあまあなわけ?」
「いえ、大変美味しかったです」
悔しいが素直にそう思えるくらいには美味しかった。断己が言うと「よしっ」とガッツポーズをした際に腕が上がってシャツの隙間から見えたものを注視してしまった。洸の肩には何かに斬りつけられたような裂傷の痕が見られたからだ。
「あっ、これね……昔、事故みたいな感じで背中にザックリ行っちゃって……ごめんね朝から気持ち悪いの見せちゃって」
「い、いえ……起きた時にも少し見えて気になってたんで、もしかして昨晩何か俺がしたのかと思って」
昨日の戦闘ではそんなことは無かったと思いながら自分はなぜ敵を心配しているのか不思議だった。同時に昔の傷という事は十中八九、過去の戦いで負った傷なのだと気付き目の前のふざけた女が歴戦の戦士なのだと改めて思い知らされた。
「な~に、もしかして『こんな美人なお姉さんを傷物にしたなら未来永劫まで俺が責任取って嫁にしなきゃ』とか将来設計考えてたの?」
「いえ、慰謝料やその他にも関係各所への対応を考えていただけです」
「照れちゃって~、私はいつでもウェルカムよ!! 今年こそは寿退社……って待って今何時なの!?」
いきなり大声で叫ぶと洸と断己は同時に時計を見て確認していた。そして時計は無情にも午前七時過ぎを示していた。
「アアアアアアアアアア!! やっばい朝の職員会議に遅刻する!! ごめん私急がなきゃ、ご飯食べたら流しに置いといて!!」
「いや、ちょっと施錠はどうするんですか!?」
「えっと、これスペアのキーだから外から閉めた後に管理人さんに渡しといて、お願い!! それと……昨日の夜は本当にごめんなさい!! じゃあね」
全速力で上着を着るとドタバタと慌てて外に出て行ってしまった。残された断己は色々と考えた結果、シジミの味噌汁を飲んで一息つきながら考える事にした。
◆
「では、この鍵をお願いします……はい、自分のことは言わないでくれると助かります、何か有ったらこの番号に電話を……はい、では失礼します」
断己はあれから三十分ほど洸の部屋で過ごすと食器もキチンと洗って部屋の簡単な掃除もすると施錠をして言われた通りに管理人に届けに来た。そして鍵を渡すと建物の外に出るのではなくエレベーターに向かった。
「最上階っと……それにしても、何で同じマンションなんだよ~!!」
エレベーターに乗ってドアが閉まると同時に断己は叫んでいた。よりにもよって自分が連れ込まれた部屋は自分と同じマンションで洸は七階で自分は最上階の二十階だったのだ。
「敵が近過ぎるだろうがっ!! 本部は何を考えているんだ!? そもそも杜撰すぎるだろ日本本部は!?」
イライラしながら最上階に到着するとドアが一つ、最上階は断己しか住人がおらずドアは全て撤去されている文字通り専用階となっていた。
「断己様!! 今までどちらに?」
「いやいや驚いたぜ、あのクソ真面目な断己の兄さんが朝帰りとか……もしかして帰国してすぐにもう女作ったのか?」
部屋に入ると高野兄弟がいて断己を出迎えたが本人はそれ所ではなかった。宿敵が自分の足元に住んでいるとかオチオチ寝てられないし情報統制の面も考えてこの物件を選んだと聞いていたのに情報が筒抜けになると憤っていた。
「違う、そんな事より色々と本社に問い合わせなきゃいけない事が増えた」
「どうしたんです? ロスでブラックナイトメアと呼ばれた断己様らしくない」
「そんな昔の通り名よりも現状だ!! 少し寝たらすぐに本部に行く」
「そうだ断己の兄さん、明日からの高校の教科書とか用意しといたぜ~」
見るとテーブルには明日から通う高校の教材が有る。どれも中学の間には全て終わらせたものばかりで興味すら湧かない。
「とにかく本部だ!! 昨日は父さん……じゃなくて総帥とも会えてないし」
「いやぁ、それが先ほどまでここに居られましたよ総帥」
歩の言葉に断己はまたしても思考停止した。シジミの味噌汁ですっかり治っていた二日酔いが再発したかのように頭痛までしてきた。
「何か言っておられたか!?」
「はっ!! 断己も朝帰りするような歳になったかと、若干涙ぐまれておりました」
なんという失態だ……呆れて涙まで流されるとは……この上は何としてもあの酔っ払い女ことステラ・ドゥーエを倒し自分の実力を示すしかないと心に決めて断己は仮眠を止めて側近二人に本部に向かうと言って車を回させた。
◆
「はい、すいません……今後は、はい……」
「まあ、これ以上ネチネチ言っても仕方ないけど教師が遅刻ってさすがに庇い切れませんからね八重樫先生? いくら正義のステプレでも限度が有ります」
「はいぃ~、すいませんでした~」
一方その頃、星守高校の教師にしてステプレことステラ・プエーレの初代戦士ステラ・ドゥーエの八重樫洸は先輩教師から説教を受けていた。理由はもちろん遅刻したからだ。
「はぁ……終わったか、本当にアイツ私が生徒の頃から口うるさかったけど教師になってもうるさいなんて」
自分の事を棚に上げてこの態度である。そして次の授業の準備をしていた時に後ろから声がかけられた。
「洸先生、少しいいでしょうか?」
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