Chapter8-5
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「うっ……く、いてて……」
「私より酷いですね断己先輩、もう起きて大丈夫ですか」
「涼子か、にしても洸先生は強いな……」
断己は目を覚ますと全身が痛むのを感じた。それも当たり前で顔には擦り傷、両腕両足には擦過傷に打撲痕などが無数に出来てベッドで横になっている姿は合宿に参加した誰よりもボロボロだった。
「ひかりんって、あれで負けず嫌いなとこ有るからね~」
「なるほど……お前は随分と楽しそうだな律果」
「いやぁ、ドヤ顔イケメンがフルボッコは気分良いもんですよ、せ~んぱい」
結局、俺と組手はしないで花音やメリアとだけ戦って洸との戦いを見ていただけの律果が隣で得意そうな顔をしていて腹が立つが実は今はそれどころではない。
「だが断己先輩も強かったな、先輩もステプレになれれば強い戦士になれたろうに」
「俺に可憐な衣装は似合わないさ……でも洸先生は圧倒的だった、下手すりゃ変身しなくても負けてたかもな」
断己はあの後、洸に完膚なきまでに敗北した。聞いた話で洸は学生時代は空手部だったらしく県大会の常連だったらしい。経験者同士なら力の差は圧倒的だった。
「それより本気で落ち込んでる当人を今から呼んで来るんで先輩、慰めて下さいね」
「なんで負けた上に俺が慰めるんだよ……」
その後さらに面倒な事態が起きていた。やり過ぎて断己を気絶させた洸が最終日の夜なのに落ち込んで自室に引き籠ってしまったのだ。
「それにしても目が合うと逃げ出すとか小学生ですかね、あの教師……」
「さすがに残念過ぎるぞ洸先生……」
涼子とメリアも捕まえようとしたが、この場の誰よりも動きが早く強いので逃げられた。そして花音が迎えに行くと断己の目が覚めたら二人だけで会って謝罪すると言われたらしい。
「ひかりんって、ああ見えて身も心も乙女だからマジで優しくしてあげて下さいよ、せ~んぱい」
「いってぇな……お前も少しは優しくしろ律果」
最後に背中をパシンと叩かれ四人が出て行くのを確認すると数分後には遠慮がちなノックの音がして洸が部屋に入って来た。だが、あまりにも予想外な光景が広がっていて断己は困惑した。
「なっ、なんで、そんな痴女みたいな恰好してんですか!? 洸先生!!」
「うっ、だって許してもらうには断己くんの喜ぶことって思って……でも、あの子達と一緒だと露出狂とか言われるから二人っきりでって……考えたのよ」
洸が自室に籠り考えた結果お詫びの方法は一つしか思いつかなかった。本人もこれは名案だと思って出した結論は断己の見たことのない変身衣装を見せ好きにさせるというものだった。
「もう許して貰うには恥を忍んでプリギエーラを見せるしか無いと思ったのよ~」
「いや、別に怒ってませんから……それにしても凄い、ですね……」
これが断己も初見だったらステラ・ドゥーエの第三の形態、水のプリギエーラは目のやり場に困っただろうが幸いにも洸のこの形態は前に写真で見た事が有った。
「う~ん一応このスカート型のパレオで下は隠れてはいるんだけど……これ水に付けると透けるのよ……だから極小ビキニみたいな感じになって」
「なるほど素材はかなり薄い……水中、での移動の……すいません見過ぎました」
プリギエーラの衣装は全体色は水色でシルバーと淡いピンクの二色が要所に散りばめられていて他の形態よりも幻想的で同時に妖艶さを兼ね備えていた。そして肌色面積が多く目のやり場に困る露出度の高い衣装だった。
「ふ、ふ~ん、帰国子女の天才児くんはお尻よりも胸派なんだ~、べっ、別に、いいのよお姉さんの、お、大きいからっ!? 見たって!!」
「あ、あのですね……顔真っ赤にして言われてもこっちも困るというか……その」
「そこは流してよ私だって恥ずかしいのよ!! 半分以上は出てるんだから!!」
洸は元よりさすがの断己でもここまでの露出だと意識はする。それに断己は過去に写真を見せられた時この衣装の洸が一番美しいと思ってコッソリ写真を貰っていた。
「そ、その……もう、充分なんで」
「いつもみたいに……その、触らなくていいの?」
「こんなの直接触るのと大差無いじゃないですか……写真とかだけで、大丈夫です」
いつもの断己なら容赦なく触るのだが見た目が水着か下着のような衣装では触るのは難しかった。それくらいの常識はまだ残っていた。
「ポーズとか取る?」
「意外と余裕有るんですね……その、後ろ姿と各部位のアップを……」
断己はスマホではなくPCの備え付けのカメラで動画を撮りつつ一眼レフのデジカメで丁寧に撮影していく。最初は離れた場所から徐々に近付きバックや斜め上など指示出しを始めてコスプレ撮影会のような様相を呈して来た。
「うん、じゃあ次はこんな感じで良いかな」
「はい良い感じです、少し寄ります、いいですね……じゃあ少しこっちに向いてもらって……」
そして気付けば二人はカメラマンとモデルのような不思議な連帯感が生まれ互いの目など一切気にせず二人だけの謎の撮影会は続いた。そして気付けば一時間も経過していた。
◆
「何やってんですか二人で……」
昼に断己に敗北した時以上に険しい表情の涼子。
「いや、ひかりん、これもう犯罪でしょ」
こいつら本気で頭おかしいんじゃねと動揺を隠せない律果。
「先生はまだしも先輩まで……まさか私達もそういう目で!?」
正直者で、つい本音が出てしまった花音。
「いや、もしかしたら断己先輩は洸先生のデータ集めをしているだけかもしれない」
そして偶然にも断己の狙いを看破してしまったメリア。彼女たちは曲がりなりにも女子高生で思春期である、それが半裸の女教師を撮影する男子高校生を見たらどうなるか……火を見るよりも明らかだった。
「んなわけないでしょメリア!! どこに露出度MAXの女教師を撮影して収集するデータがあんのよ!!」
「そうよメリアいくら断己先輩でも……ほら洸先生って普段は残念扱いだけどスタイルだって抜群だし……見た目だけなら」
そう考えるのが普通だが、まさか悪の幹部が最強の敵を攻略するためにデータ収集していて、照れて互いに困っていたなんて思わないだろう。
「でっ、でも律果ちゃん、涼子ちゃんも……それは変です、洸先生が我慢出来なくなって断己先輩を襲ったのなら撮影ではなくて、もっと直接的な……」
「ああ、セック――――「わぁ~!! メリア駄目です!! それ以上は女子高生が男の子の前では言ってはいけないワードですパパも言ってました!!」
こんな感じで荒れに荒れた謎の撮影会だが実はまだ終わっていなかった。これでも洸は断己への詫びも兼ねていたのだが狙いはもう一つ有った。
「あのね……私が何の考えも無しに地上で、このプリギエーラになったと思ってんの? ちゃ~んと考えてんのよ」
「洸先生、やはりこの形態は水中用の形態なのですか?」
「あっ、うん……そうよ、ただ今回はプリギエーラの別なもう一つの能力が有ってね……それを使おうと思って」
さり気なく断己のベッドに座り隣をキープする辺り地味に独占欲は強かったりする洸だが律果は鋭くツッコミを入れる。
「な~んか先輩にだけメス出してない、このアラサー女教っ――――あいた!?」
「いい加減にしなさい律果……トライデントで身体に風穴開けられたい?」
いつの間にか洸の手には巨大な三又の槍が握られていて全員が驚いていた。しかも槍から青白いオーラまで出ていて完全に怯んだ律果が謝ると槍を床に置く。そのタイミングで断己が質問を開始した。
「それで先生がこの形態になった理由は何なんですか」
「それを今から見せるわ断己くん手を出して」
言われるままに断己が手を出すと洸は、おっかなびっくり断己の手を握ると次の瞬間、青白い光が二人を包んだ。
「こ、これは……体が……」
「私の星信力を癒しの光に変えてあなたの全身に行き渡らせたの、これで怪我とか後遺症も大丈夫だと思うから……」
「温かい何かが流れ込んで来る……これが洸先生の力……」
断己の擦り傷や切り傷などがどんどん治っていき、さらに初めて洸と戦った際に負ったあばらの骨のヒビや他の様々な過去の怪我が含めて一瞬で快癒した。
「他にも冷え性とか神経痛にも効果が有るのよ」
「まるで温泉ですね……とにかく助かりました先生、ありがとうございます」
「いやいや断己先輩これ、マッチポンプだから~!!」
律果が再度トライデントで叩かれ悲鳴を上げ、その日は解散になり合宿は遂に最終日を迎えた。
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そして朝食を摂った後に洸の閉めの言葉で合宿は終了した。帰りの車内では昨晩も断己が寝た後にコッソリ特訓していたステプレ四人はグッスリだった。
「洸先生は大丈夫ですか」
「大丈夫よ……少し眠いだけだから」
「それは休んだ方が……俺が運転交代しましょうか?」
居眠り運転は絶対にいけない。こんな時は悪の幹部の癖に妙に遵法精神にあふれる断己だった。
「じゃあお願い……ってあなた高校生でしょ!! でもなんか普通に出来そうねアメリカって何歳だっけ免許?」
「一応は十六です、色々と制約はありますが俺は向こうで運転してたんで」
主に米国で政府機関などを襲撃する際に利用していた。基本的に拡や歩が運転はしていたがいざという時のために断己が自ら運転していたし、最近は高野兄弟が居なかったので断己自身が運転することも多かった。
「なら交代しても……いやいやダメでしょ!!」
「そうですね再来月は誕生日なので夏休み中に教習所に通う予定です」
実はこれは嘘だ。ERRORの力は偉大で既に一部政府機関にも及んでいた。夏休み明けには断己の免許は自動で発行される形になっていた。
「えっ、免許って高校生は取れないんじゃ……」
「可能ですよ、きちんと調べたので……ただ日本では年齢制限や諸々の事情で普通は大学生で取るらしいですね……窮屈ですね」
「窮屈だから守れるものもあるのよ」
赤信号で止まって断己を見ると妙に大人っぽい物言いに思わず反応してしまう。目の前の少年と話していると、つい小言を言いたくなるのは不思議だった。
「アメリカ万歳とは言いませんが日本はもう少し規制を緩めるべきです」
「教師にそれを言わないでよ、それを叩き込む側なんだけど?」
「それは失礼しました、正義のヒロイン様」
「もうっ、そんなことばっかり……ふぅ、そろそろ皆の家に着くから起こしてね」
それに頷くと助手席の断己は後ろの四人に声をかけて起こしていく。そして洸はその光景を見ながら一番近いのは涼子の家だと思いながら信号が青に変わったのを確認して車を出していた。
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(色々と有ったが、敵の戦力を計れたのは大きい……あとは放課後に歩が例の計画を発動させれば完璧だ……)
合宿の翌日は普通に登校日で次の日行くと翌日は休みというGWにありがちな飛び石連休だった。日本ならではの風習だが断己は今から放課後が待ち遠しかった。明日発動予定の作戦は四天王による同時多発的な強襲作戦だからだ。
「くっくっく、今から明日が楽しみだ……」
そして、その完璧な計画書の決定稿を昨晩送った。仮の計画書は既に拡に先行して渡しているし拡が他の四天王に通達しているはずだ。二人ならやってくれていると断己は確信していた。
「なんか転校生がヤベーんだけど……」
「洸ちゃん連れて来た方が良くね?」
「八重樫先生は職員室ですぞ呼んで来ようか」
クラスメイトを見ながら断己は顔を引き締めた。彼らにも明日は活躍してもらう。もちろん人質としてだ。今から胸が躍る、彼女を屈服させ、まずは力の秘密を徹底的に調べ上げSKⅡの鎧を改良した後は二人で……ゆっくりと……。
「レストランの共同経営だ!!」
「どうしたんだ転校生!?」
「天才がぶっ飛んでるって、やっぱガチ?」
何度も言うが天才は必ずしも頭がぶっ飛んでいるのではない。断己がおかしいだけなのだ。そして断己が悠々と本社に戻ると衝撃的な事実が伝えられた。
「は? 作戦の人員が揃わないだと?」
「はい、すいません断己の兄さん……」
「どういうことだ、原因は何だ?」
おかしい、ここまで完璧だったと断己は考えていた。実際は割と穴だらけなのだが彼が目標としていた洸の弱点を突く作戦の立案及び実行と四天王の同時展開で個々にステプレの撃破という作戦は今までになく計画を託した拡がミスでもしない限りは問題など無いはずだった。
「それが、GW前日の明日は四天王の他の方々は全員バカンス取っていて……」
バカな有り得ないと断己は心の中で呻いた。そもそも今回の作戦は敵の不意を突くからGW中に強襲する作戦なのは前から各四天王に打診していた。内容だけをギリギリまで極秘にしていただけだった。
「バカンス……だと、なぜ事前に申請も、ましてや俺に報告や連絡が無い!!」
「それなのですが、各四天王の側近級の会議で各員に伝えていたのですが、どうも他の側近が伝達ミスをしたようで……」
さらにこれは各四天王の普段のパワハラ振りに誰も相談が出来なかったという各側近たちの悲哀も有った。断己と高野兄弟のような関係は例外で基本的に参謀や側近たちの話など各四天王は聞かないのだ。
「そんなバカな……拡はともかく歩、それは合宿前に分かっていただろ!! なぜ俺に報告を上げなかった!!」
「その言い方は無いっすよ~、断己の兄さん」
「それなのですが社長が『断己の人生初の部活動の楽しい思い出になる大事な合宿を邪魔するな』と指示を出されまして合宿後に報告しようと……」
「父さんか……ならお前が逆らえないのも……だがまずい、まず過ぎるぞ……既に作戦は始まっているんだ!!」
そう、実は作戦は始動していて今さら後には引けない状況だったのだ。
「いやいや断己の兄さん、また今度にでも予定の日を動かすか中止にでもすればいいじゃないっすか」
「実は既に帰り道でクラスメイト誘拐しちまったんだ……三人も」
断己は事前準備が全て完了したと勘違いし動いていた。高野兄弟や他の人員を信じ確認作業を怠った痛恨のミスだった。そして作戦の第一段階の対象の誘拐及び監禁を自ら実行していたのだ。
「た、断己様!! な、何でそんな独断専行を!?」
「渡した計画書に書いて有っただろ!! 前日に誘拐して朝からステラ・ドゥーエをイラ付かせ冷静さを失わさせるって……拡に確認しとけと言ったぞ!!」
「えっ、確かに言いましたけど、普通は先に他の四天王の方が見てからだと」
つまり拡の言い分としては四天王が不在だったので見なかったという極めて単純な答えだった。しかし断己は許さない。
「内容も精査して他の四天王に説明出来るようにって念を押したよな!?」
「あ~、そういえば何か言われた気が……」
「拡……お前はアメリカに居た時も抜けていた事は有ったが、ここまで迂闊では無かったじゃないか、日本で一年間過ごして何が有ったんだ」
断己は幼少期、アメリカに渡ってからの親友で幼馴染の二人を信用していた。能力も人柄も全て信頼に足る二人だったから余計に今回の失態は気になった。
「でも断己の兄さんも確認も連絡もしてなかったじゃないですか」
だが実は今回の拡のヒューマンエラーの原因は洸への異常な執着を見せた断己への不信感から起きていて思わず愚痴のような言葉が出ていた。普段は滅多な事では愚痴らない彼が愚痴るのは異常な事態に断己は気付かなかった。
「ええい、うるさい!! こうなったら俺達だけで作戦を実行する、人員は!!」
「それが、ほとんどの社員は家族サービスなどのために休暇申請を出してるので出払ってます……」
「何で日本の企業なのにホワイトなんだよ!! 日本はブラックだと聞いたぞ!!」
偏見な上に理不尽な怒りがホワイト企業NASOTOカンパニーを、いや悪のホワイト秘密結社ERRORを襲っていた。
「総帥、いえ社長の方針で『皆で休める時にはしっかり休もうぜい!!』が我が社のモットーでして」
「はぁっ!? んなヌルいことで世界征服ができるのかっ!!」
断己はこの日悟ったERROR本部は思った以上にヌルくて緩い組織だったと、そして何でこんなダメダメなのに世界有数の一流企業なのか断己の脳でも理解出来なかった。否、理解を拒んでいた。
「まさか、こんな事態になるとは……一体何が悪かったのだ……」
後日、断己は知る事になる報連相の大事さと偉大さを……。
誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想ではなく誤字脱字報告でお願いします)
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