Chapter7-3
◆
「替えの下着、歯磨き、それから……って俺は何をやっているんだ」
週末からの合宿の準備を終わらせると断己は今更ながら苦笑した。なぜ自分であのような判断をしたか、それは今から数日前、入部が決まった日の放課後まで遡る。
――――数日前
「父さん!!」
「何だ断己、会長室まで直接とのは珍しいな」
「聞きたい事が有ります、何で俺のダミー情報を向こうに流したんですか」
正直な所かなり焦った。敵地に一人でいるだけでも危険なのに敵と行動を一緒にする機会を増やすなんて有り得ない。だが断己に帰って来た言葉は無常だった。
「いや~彼女なら大丈夫だろ」
「俺は二度交戦して危ない場面が多々あったのですが」
「でも生き残った……なあ断己、日本侵攻も大事だが少しは高校生活を楽しんだらどうだ? 違った見方も見えてくるぞ」
実は父の辰真は総帥なのに日本侵攻に関して消極的だった。そもそもが日本本部だけが遅々として侵略が遅いのはステプレのせいだけではなく目の前の総帥のやる気があまり無いからだと断己は思っている。
「それはそうかもしれませんが……」
「そもそも断己、お前が斬新な作戦を取るべきと向こうで言ったろ、だから内側から相手の情報を収集するという作戦を考えたのだ」
それは作戦として悪くない。悪くないけど最大の問題が有った。だって作戦内容が俺に知らされてないじゃないかと断己は思ったが口には出さずに冷静に流した。
「はい、最初は父さんの考えが理解出来ませんでしたが敵の内情を知れたことは大きく今後の作戦行動も取りやすくなりました」
ただ内情を知ったことで彼女のステラ・ドゥーエではなく八重樫洸としての本音を聞かされた断己は内心かなり動揺していた。
「そうか、ところで八重樫先生はどうだった断己」
「は? いえ、彼女は敵ですので」
「そうではなくてだな敵ではなく、教師として一人の女性としてはどうだ」
そこで断己が思い出すのは、ここ数日の間の出来事で看病をしてもらったり料理を作っていた後姿を思い出すと少し心がざわついた。
「そうですね、酒癖悪いし、絡んで来るし、妙にベタベタして来ますが根は悪い人間では無いかと思います……」
だけど素直に話すのはなぜか悔しくて思わず欠点ばかり挙げていた。別に彼女の良い所を話して他人に知られるのが嫌なわけでは無いが、自分だけが知っていれば良い情報で無理に話す必要は無いと判断した。
「な、なるほど……だが高校で断己の事をよく見てくれているし、いいお嬢さんじゃないか」
「はぁ、お嬢さん……というか先生です、そして敵です、倒すべき敵なんです」
「断己、あの人の、お爺様のことはもう……」
忘れてはいけない、あの人は直接関係無いかもしれないがステプレは、正義の変身ヒロインは自分の仇であり祖父を奪った倒すべき敵なんだと断己は強く自分に言い聞かせた。
「俺は、あの人の仇を討ちます、だから今回もピンチをチャンスに変えてみせる」
「そ、そうか……じゃあ高校生活はどうだ、楽しんでいるのか」
高校生活と言われ頭に思い浮かぶのは一人の女性で今は自分の担任だ。いきなり変身して現れたと思えば情けなく酔い潰れている姿の時もあり、本当の姿はどっちなのか、いつも考えさせられしまう。
「刺激的では有ります、学校生活自体が初めてなので」
「そうか、私も母さんと高校の時に出会いパートナーになった、だから見つけて欲しいのだ支え合えるようなパートナーを、そうすれば断己、お前も」
先週までアメリカの本宅で一緒に生活していた母から聞いたことがある話だ。断己の母は今頃は支社の後始末をしている最中で終わり次第来日予定だ。
「パートナーですか……それなら、やはり洸先生ですね……」
父に問われ断己の頭の中で真っ先に思い浮かんだのは一人、やはり洸だった。
「おおっ!! そうかそうか、やはり洸ちゃんか、お前ならそう言うと――――」
安心した父、辰真だったがしかし自分の息子の思考は完全に明後日の方にぶっ飛んでいた。
「ええ、ビジネスパートナーとしてなら有りですね……」
「いや、おい断己? お~い断己くん?」
息子の不穏な呟きを察知した父だが既に断己の頭の中には一つの作戦が浮かんでいて人の話など聞いていなかった。
「そうか、だから彼女は俺にあそこまで執着を……なるほど、これは良い作戦が思いつきそうだ、こうしちゃいられないラボに戻ります!!」
「いや、断己待つんだ、まだ私の話は――――」
「皆まで言わなくて結構、彼女の出方次第ですが今度こそ完璧な作戦を後日お話し出来ると思います、それでは」
そして断己は父の制止も聞かずに会長室を出て自分のラボに行ってしまった。その背を見てしみじみと辰真は思った。
「断己……うむぅ、やはり思い込みが激しいのは母さん似だな……しかし困った、あの人から勧められたが最大の障壁が断己本人とは……」
親の思惑とは全く真逆なことを開始し始めた断己だったが頭の中では既に八重樫洸は自分をビジネスパートナーとして見ているという謎の確信が有った。そして入部の翌日、自分の考えは正しかったと断己は証明した……と、思い込んでいた。
◆
そして合宿当日の朝、断己は朝から起こされて眠い目をこすりながら助手席で、おにぎりを頬張っていた。
「ふむ、ごま昆布ですか……子持ち昆布の方が好きですね」
「割と渋いチョイスね今度作るわ……あと好きな具とか他に有るかしら」
今日の合宿で様々な不測の事態に備え自らの発明品や対策、さらにはシミュレーションをしていた結果、寝坊した。そして何となく嫌な予感がした洸が部屋に入ると床で寝ている断己を発見し起こされ今に至る。
「そうですね昔食べた……焼きたらこのおにぎりが好きですね」
「あら意外、てっきりツナマヨとか若い子が好きそうなのが良いのかと思ったら、私もあれ好きで結構作るのよ、もしかして半生くらいが良かったり?」
自分の好みとドンピシャだと話すと今度用意すると言われた。密かに喜んでいる断己だが表情には出さない。例え大好物を出されようが彼女は敵なのだと父との会話を思い出しながら最後のおにぎりを食べる。
「ふう、ごちそうさまでした」
「お粗末様、さて校門で皆を拾ったら合宿所に行くわよ」
話していたら校門前に到着した車に既に待機していた四人を乗せ出発した。行き先は毎年のように天文部が使っているという古い合宿所で、ちょっとした高原のペンションのような場所らしい。
「こ、ここは……」
「思ったより良い所なんですね……って断己先輩どうされたんですか?」
横の花音に声をかけられるがそれどころじゃない断己は「失礼」とだけ言うとすぐに車の影に隠れて本社に電話をかけた。しかし父は出ない、ならばと第三ラボにかけると今度は拡が出たので怒鳴るのを何とか抑えて小声で言う。
「なぁんで我が社の保養所のすぐ横に敵の合宿所が存在しているんだ!!」
『はぁ、それが私も先ほど会長に教えられたばかりでして……あっ、逃げた』
会長こと総統が居たようだが逃げられたらしい。そして断己が聞き返そうとした時には電話は切られていた。おかしい、自分は最高幹部のはずなのに扱いは雑だし肝心な情報を渡されていない。
「これは……由々しき事態だ」
「どうかしたんですか、せんぱ~い」
「ああ、家で少しゴタゴタしていてな……他のメンバーはどうしたんだ」
見ると律果しかおらず他の四人が居ない。どうしたのかと思えば他の四人は先を歩いて合宿所の入り口で手を振っている。断己も手を振り返そうとして合宿所の入り口に一人の男が居て驚いて走り出す。
「ちょっ、せんぱ~い待って下さいよ~」
待っていてくれた律果には悪いが断己は洸とにこやかに話す男を睨みつけた。慌ててやって来た二人に他の四人も驚くが一番驚いたのは断己だった。
「間違いない、ふぅ……なんでお前がいるんだよ、歩?」
「いや~、たまたま俺だけ手隙だったんで来たんすよ断己の兄さん」
すっかり現地の管理人と言わんばかりの恰好をした自分の副官がそこにいた。馴染み過ぎだろお前……。
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