Chapter7-2
「ええっ!? い、いきなり何言ってるのよ断己くん」
「いえ、これまでの先生の挙動不審な動きから考えて冗談かと思っていたんですが、先生は俺に目を付けてますね?」
自分を狙うような視線に最初は正体を疑われていると思っていた断己だが最近の洸との交流で段々と意識が変わってきた。これは違う、もっと別な目的が有ると彼は天才的な直感で理解し始めていた。
「そっ、それはぁ……私も、そろそろいい年齢だし……ぶっちゃけERRORさえ倒したらいい加減自分のことに専念したいって言うか」
そして洸は結婚適齢期26歳理論に囚われていた。このままでは自分は売れ残り、いや既に売れ残っているのだと、だが結婚さえ出来れば教師を辞め専業主婦になりたいと最近は考えている洸だったりする。
「なるほど……やっと分かりましたよ洸先生」
「そうなの!? 確かに障害は多いし困難な道だけど両者の合意があればっ!!」
最近はスターダストナイト二世とかいう過去の亡霊まで現れて今回の戦いを最後に今度こそ本気で引退を考えていた時に現れたのが目の前の夜剱断己だった。
洸としては洋食屋での初対面は最悪だったが、酔った勢いで朝帰り&お持ち帰りして男として意識してしまったから今さら生徒には見れないのだ。ベッドの上で素面に戻った時には既に一目惚れ状態だった。
「そうですね、先生が俺の年収を気にする事や仕事まで調べていた時点で気付くべきでした……さらに個人的な悩みまで打ち明けてくれた事も加味すると答えは一つ」
しかし年齢差や、そもそも生徒である事で断己の将来も考えて、せめてデート一回くらいだけでもして楽しめればいいと、叶わぬ恋だと半ば諦めていた。
そんな風に割り切っていたのに断己は自分の悩みに真剣に答えてくれた。今まで知り合った男には避けられるかバカにされるかの二択で自分の悩みに正面から向き合ってくれたのは断己が初めてだった。
「年収か……あはは、やっぱり将来を考えると不安で、も、もちろん私も働くわよ、ふ、二人で支え合う必要が絶対に有るし、大事だと思うの!!」
「それには同意です、支え合うというか持ちつ持たれつの関係性が意外と長続きのコツだと俺は経験談を通して知っています」
「経験談……まさか断己くん、私よりベテランさん!?」
若干焦るが些細な事だ。むしろ自分が年上だからと言ってリードする義務は無い。そろそろ自分だって頼りになる人に甘えたって良いのだろうと口を開こうとした時だった。断己が先に口を開いた。
「ええ、洸先生は俺をビジネスパートナーにしたいんですね!!」
「そうなの、私、ステプレ辞めて断己くんと二人で新規事業開拓を…………って違うから!! どうしてそうなるのっ!?」
いつもの悪ノリで答えてしまうが目の前の天才児の考えが洸には全く理解出来なかった。彼女はこれでも必死に告白しているつもりだったのだ。
「はい、まず洸先生は飲んだくれですがリサーチ能力、そして女性の単身での生き方について造詣が深い、その上スキャンダルにも警戒していた、実は俺の経験談でアメリカでビジネスを成功させた女性はこのような方が多かった」
これが断己のアメリカでの経験談だった。彼は天才児で、ゆえにERRORの活動資金や世界征服計画のために様々な事業に手を出し父の用意した一流の講師陣から学び、それを生かして今日まで生きて来た。
「俺に敵対的TOBを教えくれたM&Aの師のレベッカ女史が正に先生に近い考えを持っていて俺に教えてくれました」
ちなみにこの時点で洸の表情は固まり他の四人も疑問符がいっぱいで混乱していた。アラサー女教師と花の女子高生に企業の合併買収や株式の公開買い付けの話をすれば当然の反応だ。しかし断己の独演は続いていた。
◆
「えっと……てぃーおーびー?」
「ええ、先生はビジネスのジャンルが違うようなので詳細は省きますが、俺の年収や研究に目を付けていたのはスポンサーを探していたんですよね?」
両者の考えは全然違うのに状況だけは当たらずも遠からずといった具合で妙なリンクをしていた。何度も言うが断己は天才だが天然さんなのだ。
「えっ、ち、違う、いや……人生のスポンサー? むしろパートナーなんだけど」
「ええ、ですからビジネスパートナーと言ったんです、分かってますよ」
全然分かっていないのにドヤ顔のイケメンスマイルで思考がまたしてもぶっ飛んだ洸は茫然としていた。おかしい自分は頑張って告白したのにと……。
「ああ、でも《《いい顔》》してるし、今はこれでも……これから先、いくらでも……」
「そう、それですよ!!」
一々、力説して顔を近付けて来る断己に既に顔が真っ赤で限界な洸なのだが、こういう時に気付かないのは彼が天然さんだからだ。決して鈍感なのでは無いと再度言わせてもらおう。
「ど、どういう事?」
「ええ、これもアメリカで学んだことですがビジネスパートナーには《《いい顔》》を選ぶ人間が多いんです」
「ええ、だから私は本当に断己くんの顔とか性格がタイプで、かっこ――――」
しかし分かっていなかったのは洸だった。断己は天才児でも所詮は十七歳の少年だ。体は立派でも心の方はまだまだ未熟で、だから知識や才能で補っていた。
「分かり辛かったですね、先生は俺の顔がいいのを気に入ったんですよね? 俺の心理学と哲学の師が言っていました、日本で顔が良いとは『面構えがいい』という言葉の暗喩であると、そうですよね先生?」
全然違う。洸は純粋に顔が好みだと言いたいだけだった。彼女は決してビジネス的な意味で信用の出来る面構えをしていて褒めた訳では無いのだ。しかし恋愛経験が、ほぼゼロの断己には難問過ぎたのだ。
「あ、先生、お昼休み過ぎてるんで戻ります……」
花音が我に返って部室から出た。キチンとお辞儀までして所作は丁寧だった。
「私も、お先に失礼します先生、それに断己先輩も……」
引き気味で涼子も少しゲンナリした顔をしてドアを開けて歩いて行った。
「まさか残念イケメンとは……じゃ、放課後にお二人さん」
律果は苦笑して洸の肩をポンと叩いて「ドンマイ」と言って退室した。
「私も失礼する、洸先生、断己先輩、中々面白い見世物だった!!」
そして一切の遠慮が無かったメリアが素直な感想を言って花音の後を追って教室に戻った。そして洸は死んだ魚のような目で断己を見た後に教室に戻りなさいと言って部室でスイーツをやけ食いするのだった。
◆
「さあ合宿の準備よ!! 合宿!!」
放課後になって再び集まる天文部の一同、そして断己は何やら手に数冊の本を用意していた。
「あの洸先生、昼のビジネス――――」
「シャラップ!! 断己くん学生の本分は勉強よ、勉強なのよ……ビジネスとかぁ、恋愛とか……現を抜かすのはダメなのよ!!」
やけ食いして落ち着いた傷が早くも抉られる洸だが涙目になりながらも話を断ち切った。
「そう……ですか、せっかく先生のためにビジネス関係の分かりやすい本や資料なども用意したのですが……」
「うっ……ありがとう、後で読むから、読むから~」
その厚意は嬉しかった洸は泣きながら小難しそうなビジネス関係の本を断己から受け取った。実に憐れな光景である。
「そんな泣くほど感動しなくても俺の部屋にまだまだ有りますから、必要になったら後で、いくらでも貸しますよ」
「うん、分かった……ありがと~」
もはや死体撃ちのような状態で洸はある意味で完膚なきまでに精神をへし折られていた。実はこの時点で断己の目的が達成されているのに本人が気づかずに全く善意なのが悲しい所だ。
「あ~あ、惚れた弱味ね……ひかりん、いばらの道へ」
「私たちとしては良いんだけど、良心が痛むわ……同じ女として」
律果と涼子がいつものように洸を見て言うと半ば自暴自棄の洸によってサクサクと予定は決まった。そして断己にとっては生まれて初めての部活の合宿が始まる。
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