Chapter7-1
断己は食後に緑茶を淹れてもらって一口飲むと相手の出方を伺った。この様子だと自分の正体はバレてないようだが明らかに洸の様子は変だった。
「さすがに俺もアホじゃないんで気付きました、最初から俺が入部するように誘導しましたね洸先生」
「でも気が付いたのは部活の後でしょ?」
それもその通りだが質問に答えてもらっていないから少し睨むと洸は諦めたように微笑むと口を開いた。
「分かったわよ……あの子達の正体は黙っておくつもりだったんだけど君を部活に入れたかったのは本当よ」
「理由は?」
「そりゃあ例のムカつく新しい敵への対策よ、都合良く天才児が入って来たのなら利用しない手は無いわ」
だが違う、絶対に違うと直感で理解していた。どういう理由か分からないが目の前の最強の敵は何か嘘を付いていると断己は確信していた。
「本当に……それだけですか?」
「断己くんも案外疑り深いな~、それとも何か隠してることが他にも有るのかしら年収800万以外に?」
やはり勘付かれているのだろうかと断己は考えていた。同時に今すぐ襲われていないからバレていない可能性も有ると考えるが警戒は怠らないようにと自戒する。
だが一方の洸は全く気付いていなかった。理由はいくつか有るのだが年収800万円は彼女の心をかなり揺さぶったとだけは言っておこう。洸は決してお金に目が眩んだのではない、将来性の有る男に目が眩んだのだ。
「逆にここまでお膳立てされて疑うなという方が難しいですよ、あと俺に内緒で父と連絡を取っていたなんて……」
「あはは、だって君のお父様うちの高校に凄い寄付してくれたらしいのよ、あの守銭奴……じゃなくて理事長も大喜びで、だから私いきなり変身させられたんだし」
確かにあれには驚いたと断己は内心同意していた。一歩間違えたら大変な事になっていたし自分の正体がバレて今頃二人でお茶なんて飲んでいられなかっただろう。
「ああ、そういう……じゃあ理事長経由なんですか?」
「そうよ、君が転校して来た次の日の放課後に理事長に呼ばれてね」
断己が詳しく話を聞くと理事長の古い知り合いで共通の知人が居たらしく、その人物の勧めで断己の父は編入を決めたそうだ。余計なことしやがってと思う断己だが後でタップリと父に問い詰めたいと思い今は抑えることにした。
「つまり父さんが俺に高校生らしい生活を送らせたいからというのが全てだと?」
「も、もちろん……それ以外は無いわよ~」
何か怪しい、しかしこれ以上問い詰めると逆に怪しまれると思った断己は今回は引き下がる事にした。洸の方はある意味で断己を仕留めるために今日も甲斐甲斐しく手料理を作りに来ていたのだが断己の生い立ちを彼の父から聞かされ少なからず同情したのも事実だった。
「ですけど良いんですか?」
「何が? 部活に入るくらい良いじゃない、何も遊んで来いって言ってる訳じゃないんだから部活動も立派な勉強よ」
「いえ、自分はステプレと関係無い人間です、そんな人間を入部させ、しかも顧問を含め全員が女性の部になんて入って良いのかという意味です」
これは断己の本音だった特に女性だけの部活というのが引っかかっていた。
「別に天文部は体を動かすわけじゃないし着替えとかの心配も無いから大丈夫よ……それに、もし断己くんがエッチな事をしようとしても私がいるからね?」
その答えに肝に銘じておきますとだけ答える断己に対し、遅刻しないように早く寝るようにとだけ言って洸は珍しく玄関から帰った。でも玄関で見送った断己はなぜか窓に鍵はかけずに眠ってしまった。なぜか鍵を閉める気にはなれなかった。
◆
「さあ皆!! お昼ご飯中悪いけど来週からの合宿の話し合いよ!!」
洸が当たり前のように言うが断己は当然知らないから合宿について尋ねるのは必然だった。なぜなら入部したのは昨日なのだから。
「そっか断己くんは知らないか、実はね……」
「あの、先生それに先輩もいいですか?」
手を軽く上げて口を挟んで来たのは花音だった。どうしたのかと断己と洸が同時に見ると少し遠慮したような言い出しにくい表情をして話し始めた。
「何かしら花音」
「はい、その……今度の合宿には先輩も来られるんですか?」
「ええ、その予定よ」
さも当たり前のように何を言ってるんだこの担任教師は、俺は今聞いたばかりだと言いたいのを我慢して断己はオブラートに包んで言う事にした。
「申し訳ないんですけど無許可はNGなんですが……」
「私がOKの許可出すから遠慮しないで断己くん」
一瞬で許可が出された上にこっちの意思はガン無視、やはり自分を無理やりにでも合宿に参加させようとしているのに強い違和感を断己は感じていた。
「先輩が明らかに嫌がってるんですけど」
「そ~だよ、ひかりん、お気に入りでも無理強いはダメだよ婚期遠のくよ~」
「黙らっしゃい小娘ども!! こっちは適齢期とかいうのが迫ってんのよ!!」
涼子と律果らと言い合いを始め、それを花音が仲裁に入るという一連の天文部ではいつもの光景らしきものを見ながら断己は手持ち無沙汰からか唯一、自分と同じ蚊帳の外の少女とコンタクトを試みた。
「ふむ、それと合宿が何の関係が……分かるかメリア?」
「何とも言えない……です、先輩」
「ああ、敬語使わなくていいぞ日本語だけでもメンドイだろ?」
「そう言ってくれると助かる、先週までは皆に合わせて喋っていたのだが……こちらの方が性に合う」
やはりステプレになっても四天王時代の名残は有るようだ。メリアの情報を組織内で集めた断己だったが今話した限りでは、その情報の中の人物評とほぼ一致した言動だった。
「ま、俺も生まれは日本だが育ちは米国だからフランクに行こう」
「おう、断己先輩!!」
「ちょっと!! 何でそこがいい雰囲気に……あれだけ餌付けしたのに断己くん、やっぱり若い子の方が……」
「私もメリアを取られた気分です……先生」
そしてなぜか洸と花音が落ち込んでいた。両者に共通するのは共にお世話していたという関係なのだが二人とも過保護で重かったりする事実に気付いていない。
「花音あなた思った以上に……」
「ひかりんも色々アレだね……必死過ぎて、でも生徒はまずいと思うけどなPTAと条例呼ぶしかないわね」
涼子と律果も呆れて見ているが洸は諦めずに断己を見つめて叫んでいた。結界内だから外部の干渉が無いのでやりたい放題だ。
「また青少年健全育成条例ね!! どうしよう断己くん、私とあなたの運命の赤い糸が切られちゃうわ」
「守ってくれてありがとう青少年健全育成条例!!」
「そんな……酷い、こんなに尽くしてるのに」
尽くそうが何をしようが条例は絶対だ。たとえ看病しようがご飯を作ろうが例外は無いのだ。そんなバカ話を六人でしているとすぐに昼休みは終わってしまった。断己は少なからず驚いていた。
「いつの間に……」
「時の流れはいつも同じよ断己くん、もし早いと感じるなら……それは楽しかったんじゃないの?」
「主観的に見て興味深い事象だ……初めて、いや小さい頃以来ですね、ふっ、そうか俺は楽しかったんですね洸先生」
思わず断己から笑みがこぼれていた。興味深い事象に興奮するのは発見も発明も、そして世界征服も同じだ。
「ふえぇ……やっぱり、いい」
そしてその横顔が大のお気に入りなのが洸だった。実は気付かれないようにスマホで何枚か隠し撮りもしている。
「なるほど、私は見てるだけでいいわ、顔が良過ぎるもん……」
「あら律果は面食いじゃないんだ、意外ね?」
「そういう涼子は顔赤いじゃないの」
「ま、まあ先輩……顔は良いし、話すと意外と気さくだし」
それを聞いて先ほどから断己は考えていた。顔がいいと言われたのは日本に帰って来てからで今まで言われた事が無かったから思わず聞いていた。
「もしかして洸先生は俺の顔が好みなんですか?」
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