Chapter6-5
何を言ってるんだステラ・リコルド、お前は今の流れでどうして頼めば解決すると思ったのだ。そしてアンチマテリアルライフル換算で俺の年収を計算するのは止めて下さい言ったのは俺だけど……と心の中で盛大なツッコミを入れる断己だったが、喋れたのは脳内だけで現実では口が回らなくなっていた。
「な、何を……」
「夜剱先輩、頼む、私たちの正体を知った以上はバラさないで仲間になって部活に入って欲しい」
「いや、だからそれが嫌だと……」
「何でですか?」
リコルドの何でって問いに……そりゃ俺の正体がバレるからに決まってるだろうと、ここまで考えて断己はやっと気付いた、いや気付いてしまった。
「断己くんは何か、どうしても断る正当な理由、あるのかな~?」
「いや、それは……」(まさか、八重樫洸……こいつ最初から俺が別な理由で断りたがっているのに気付いていた?)
たまに断己をからかってくるニヤニヤした笑みで見て来る顔をみて何とか一矢報いたいと考えた断己は非常に業腹ながら最終手段を取る事にした。
「……仕方ない、ここまで拒否する本当の理由を言おう」
「有るんですか? 私には無いように思えますが」
「あ、ゴメン電話入ったから失礼~」
すっかりメリアと断己の一騎打ちに見えるが実際は違う。さっきからメリアの後ろには目に見えない糸が繋がっていて明らかに動かされている。そして動かしてると思しき女はスマホに着信が入ったようで隅の方に言って小声で何かを話している。
「まあ聞いてくれメリアさん、いやステラ・リコルドと呼ぶべきか?」
「お好きな方でどうぞ、ただ呼び捨てで構いません先輩」
だがこれはチャンスだ。今ならステラ・ドゥーエは電話中だ。余計な横やりは入らないだろう。一気に決めさせてもらおうと早口に喋り出す。
「じゃあメリアで、失礼するよ……俺の正当性それは父である会長の意向だからだ」
断己の父はご存知ERROR総統なのだが表ではNASOTOカンパニーの会長職をしている。そして断己はどのような形とは言え、その会長から直接の指示で研究室の一つを任されているという体になっている。
「どう言う事ですか?」
「つまり俺は会長に、父さんに任されている仕事を優先で片付けなきゃいけないんだよ、俺自身もそれをやりたいしアメリカでもそのために頑張って来た、だから俺は夢のために頑張りたいんだ」
嘘は言っていない、夢が世界征服なだけで何一つ矛盾していない。アメリカにいた頃は頑張って射撃訓練も破壊工作も要人の誘拐も頑張った。マネーゲームを拡と一緒に戦ってビル一つ奪った初めての成果は泣いて喜んだ。
「夢……ですか、なら私は何も言えませんね」
「分かってくれて嬉しいよ……だから、そう言うわけで俺は部活には入れない……分かってくれましたか洸せんせ?」
決まった、今度こそ完封だ。一瞬ヒヤッとしたが最後は親の都合で出来ませんという実に学生らしい断り方で事態を解決出来た勝ったんだと心の中で大喝采中の断己だった。
あとで父さんには軽く連絡をして今後のダミーデータの方向性を見直す相談をしようと考えていた断己だったが、まだ勝負は終わっていなかった。
「はい、はい……ええ、しつこいんでトドメお願いしま~す」
「何ですか? この電話?」
何か不穏な言葉が聞こえて今度は洸の通話していたスマホが断己の目の前に差し出されていた。今、洸と通話していた人間と話せという事だろうか。
「いいからいいから断己くんに話が有るんだって~どうぞ」
そして断己は渋々スマホを洸から受け取り隅の方で通話を開始した。
◆
「本日より星守高校天文部に所属が決まりました、夜剱断己です……一応は米国育ちなんで気軽にファーストネームで呼んで下さい。ちなみに星とか星座とかそういうの生きて行く上で興味が無かったので全然知りません……以上です」
通話をして五分後の断己の発言がこれだった。その周囲では一人の女教師と四人の少女がニヤニヤしながら見ていた。そして断己の自己紹介が終わるとパチパチと盛大な拍手が断己を包んでいた。
「いや~、良かったわ、断己くんを落とせなかったら今回は本当に危なかったわ」
「ですね~私たちの正体がバレた人が外部の人間なんて分かったら……」
洸と花音の二人が安堵の息を吐いて二人でクッキーをポリポリ食べていた。残りの三人もメリアはハーブティーをゆっくり飲んでほっこりしている。
律果は断己と目が合うとウインクしてくる始末で涼子は愛想笑いのような苦笑いをして同情してくれているようだった。
「そのぉ……良かったですね断己先輩……あ、どうぞ」
「ありがとう氷見野さん……はぁ」
なぜか自分の分だけハーブティーではなくて緑茶なのが気になったが苦過ぎず、かといって味わい深いしっかりした風味で心が落ち着いた。
「あの、私も涼子で結構です、メリアも名前なんで、どうでしょうか?」
「そんなに気にしないでくれ、俺は年が上なだけで部員としては君たちの方が先輩なんだからさ涼子」
「はい、断己先輩よろしくお願いします!!」
敵として戦った時はせっかちな印象を受けたし精神のコントロールが下手な印象だったが顔を突き合わせて話すと一番コミュニケーション能力が高いまで有る。例外である女教師は除くと一番話しやすそうな印象だ。
「じゃあじゃあ私も断己せ~んぱい、よろしくです」
「ああ、よろしく頼む森野は苗字の方がいいのか?」
「そうですね、普通はそうなんですけど皆が名前呼びなんで私も律果で大丈夫ですよ?」
「ああ、よろしく頼む律果」
そして予想通りと言えば取っ付きやすいイメージが有った律果とも普通に話せそうで安心した。メリアは話が通じそうで通じないし花音は部室前で会った時の感じで問題は無い、そして顧問は論外だ。
「それにしても先輩のお父さんも案外過保護でしたね~」
「言ってくれるな、あれでも多忙な人で俺の事を気にかけてくれるんだ」
そう言いながらも断己は苦虫を嚙み潰したような顔をして数分前の出来事を思い出していた。
◆
「もしもし」
『もしもし断己か?』
「へ? そうっ、父さん!?」
スマホはただの通話ではなくてビデオ通話で画面にはNASOTOカンパニーの会長室を背景に通話している自分の父が映っていて驚いた。思わずいつもの癖で総統と呼びそうになったが誰にもバレていなくて一安心だ。
『ああ、数日前に会長室で会って以来か……どうだ元気にやってるか?』
「はい、問題有りません、それよりも少々不用心なのでは?」
『担任の八重樫先生は良い方じゃないか断己、お前が転校した日から欠かさずメールと電話連絡をしてくれてお前がクラスに馴染んでいる様子などを教えてくれてなぁ』
ちょっと待て、そんな事をしていたのかと断己が見ると洸はコクンと頷いていた。
「そう、ですね良い方なんでしょうが強引で……そうだ父さん、今部活に入れられそうになっていたが無事研究に没頭出来るように断ったからね」
『それはならんぞ断己』
「へ?」
『思えば私は親としてお前に最高の学習環境と一流の講師陣を付けて教育を受けさせた……だがお前は頭が良過ぎた、だから周囲からどんどん孤立し最後は一人で大学院まで修了し博士号までと自慢の息子だ』
それはならんと言いながら突然回想に入るの止めてくれません父さんと本気で混乱する断己だったが周りの洸以外は全員が不思議そうな顔をしている。
「ありがとう、ございます……」
『だが、そんなお前に普通の学生の普通の生活を送らせてやることが出来なかった……お前の体調のためとは言えな……だから研究室のことは気にするな』
「いやいや、そこは気にしなきゃダメですよね? 俺、部下いるんですよ!!」
何か良い話だと思っていたらいよいよ雲行きが頗る怪しい方向に向かって来たぞ。
『心配せずとも拡と歩がいる、ぶっちゃけ、お前は発明の時だけいればいいしな』
「え? 父……さん」
何か一瞬だけ父さんの、いやNASOTOカンパニーの闇を感じたぞ。まるで俺がただのアイディアマンで最初だけいればいい的な事を言われたんだが……だいぶ不安だった。
『会長命令だ……学生生活を謳歌しなさい断己、そして部活動もな、以上だ、後で連絡しろ、詳しく話す』
「いやいやいや、待ってくれ父さっ――――プツッ」
何でだ父さん、そもそも、この高校に入学するのを決めたのも父さんなのだ。一体どういう事なのだろうかと考える間も無く断己の横から手が出て来る。
「ん? ああ、そうかスマホどうも……じゃあ帰ります」
「聞いてたからね逃がさないわよ断己くん、これで君も天文部よ!!」
そう言って書いた覚えないの入部届に俺の物では無い印鑑が渡され押印されていた。そもそもアメリカ帰りだから俺の印鑑なんて無いはずだ。
「てかあんたどうやって父さんと連絡取ってんだよ、普通に無理だからな!!」
「ちゃ~んと知り合い経由で正式な電話でアポ取ったから問題無いわよ?」
だがそれはおかしい、たかが女教師が父さんとアポを取るなんて普通に不可能だ。有り得るとしたら目の前の女の知人・友人が怪しい。こんな感じで社からのバックアップも無く外堀も中も埋められた断己は天文部の一員となった。
「じゃあ五人共そろそろ解散、断己くんは後で連絡に行くから詳しくはそこでね……四人とも何かある?」
「ありませ~ん」
全員を代表して花音が答えると最後の戸締りは自分がすると言って一緒に残ったリコルドを置いて律果、涼子そして断己の三人で帰る事になった。初めて帰り道で学友と話しながら帰るという貴重な体験はする事が出来た。
◆
「さて、それで今日のはどういうつもりなんですかねえ先生!!」
帰宅して数時間、いつも通り洸が部屋に来た時の断己の第一声がこれだった。
「も~う怖い顔しないで今日は中華料理、青椒肉絲と麻婆豆腐をメインディッシュにしてみたわ」
そして部活の時の宣言通り今日も洸は堂々と窓から入ってくると勝手知ったる我が家の冷蔵庫と言わんばかりに好き放題開け閉めをして食材を入れて今日買って来たもの等で先ほどの二品を作ってしまった。
「いい加減、美味い飯で騙されませんからねっ!!」
「分かってるわよ説明も、ちゃ~んとするから怒らないで、それと付け合わせのスープは卵とワンタンのどっちが良い?」
「別に怒ってませんから、ただ歯がゆいんですよ……卵スープでお願いします」
その返事に「はいはい」とだけ言って洸はサクサクと調理を開始した。手際も相変わらずよくて惚れ惚れする。決して本人に惚れたわけじゃないからと断己は自分の心の中でセルフツッコミをしていた。
「よし……良い感じかな、じゃあ洸先生の特製中華セットお待ち~」
「はい、ありがとうございます、ではいただきます……っ!?」
一口食べて断己は驚かされた。中華料理は昔から体が弱かったせいもあり油がギトギトしている印象で食べれなかったがこれは違う。アッサリとしていて断己でも食べやすかった。
「ん? どうしたのかな断己くん?」
「いえ、まあ、中々美味しいなって……思いまして、少しだけ驚いただけです……お代わりお願いします」
もう一品の麻婆豆腐も辛さも中辛で、また味付けも山椒が少なめで断己の好きな味付けだった。単純に凄い美味しかった。
「素直になれば、明日の朝の分も作り置きしちゃうわよ?」
「凄い美味しかったです洸さん!!」
「じゃあ作ってあげるけど朝から食べたらニンニク臭いから、明日はちゃんと歯を磨くのよ」
「分かってるよ、あ、分かってます……」
一連の流れが本当に姉弟のような感じで妙に懐かしくて口調まで昔のようになってしまった断己は慌てて戻していた。
「そっちの方が可愛いのにね」
「男は可愛いよりカッコいいが良いんですよ……ふぅ、ごちそうさまでした、洸さん美味しかったです」
「うんうん、お粗末様でした……じゃあ話そうか次のデートについて」
「違いますよね、今日の部活の一件ですよね?」
そう言って断己が詰め寄ると流石に諦めたのようだが同時に真剣な顔になると洸は口を開いた。
「今日強引に入部させた件だよね……分かったよ断己くん」
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