Chapter5-2
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女性の買い物は長いとはよく言うが、それが自分の物じゃなくても長くなるというのを今日思い知らされることになった断己はゲンナリして鏡の前に居た。
「う~ん、こっちの黒のパンツも良いけど、このグレーとかアイボリーも着せてみたいのよねぇ……店員さんどう思う?」
「そうですね~彼女さんの言う通りですけど彼氏さん背も高くてガッチリしてるんで上から決めて色を合わせるのも……」
このやり取りが既に一着決めるごとに十分、それが三セット続いている。つまり下のズボン、いや洸たち風に言えばパンツだけで本日は三十分が経過していた。
「なるほど、断己くん!! 先に上から決めるわ!!」
「はい……」
そして同時に断己は学習した。目の前の二人の女に逆らうのは危険だと、一番最初に自分の意見を言おうものなら烈火の如くダメ出しをされ、最後は着せ替え人形になる事を選ばざるを得なかった。
「彼女さん、これ、これなんて良いですよ!!」
「キャー!! 断己くんに絶対似合う!! さっそく着てみて!!」
「はい……」
目が死んでいる断己だがこの後もさらに服選びは続いた。後に部下に彼は語った。服選びは下手な拷問よりもキツイと……その拷問に等しい時間が二時間も続いたと断己は語り、部下は「四天王最強でも冗談言うんすね~」と流したそうだ。
◆
「ああ、お水おいしい……」
死んだ魚の目をした断己がオープンテラスで突っ伏する姿がそこに有った。
「だから、ゴメンって断己くん」
「良いんです付き合うと言ったのは俺ですから」
現在、あれから二時間が経過し断己の服装は変わっていた。洸と店員のお姉さんのオモチャと化した断己はやっと買い物が終わり解放されてフラフラになっていた。そこに至りやっと事態を把握した洸は断己を連れて店を出た。
「うん、私も舞い上がって周り見えてかなった、ゴメンね」
「大丈夫です、それよりここに来たかったんですか?」
断己が次に連れて来られたのはオープンテラス席のあるレストランで洸が朝一で予約したら最後の一席が偶然空いていて運が良かったらしい。
「そこまでして来たかったんですか……確かに人気のようですね」
そう言って周りを見ると確かにオープンテラス席は八つも有り、カップルや老夫婦、他には女性の四人組など色々な人々がいて和気藹々と料理を楽しんでいた。
「そうなのよ!! それでね、ここカップルでしか頼めない料理が有ってね、前に粘ったんだけど、その……ね」
「どうしたんですか?」
そこで急に歯切れが悪くなった洸を見ると今度は洸の方が死んだ魚のような目をしていた。
「おひとり様には、お出しできないって……言われて……ううっ」
「その、友人とかではダメだったんですか?」
「皆、彼氏とか旦那と来てて、それで教えられて……頼み辛くて……」
それを聞かされて何とも言えなくなった断己は逆に疲れが吹き飛んでいた。またしても聞かされる話に激しく同情してしまった。
「なら頼みましょう、所でどんなものなんですか?」
断己の予想だと恐らく男女以外でも頼めると言う話だから精々がストローを二本差した飲み物やパフェなどを予想していた。
「うん、実はただのパスタらしいんだけどね」
「パスタ……てっきりコテコテのカップル料理かと思ったのですが」
話を聞くと何かカップル要素の有る料理かと思ったが全然無くて単純に原材料の入手の難しさなどから限定料理にして、それでもダメだったから最後はカップル用となったらしい。
「最初は先着順だったらしいんだけどね……でも凄い美味しいって評判から味を覚えたいのよね」
「覚えてどうするんですか?」
「作ってあげるのよ将来の旦那様に!!」
確かに料理の腕に覚えが有るのならレパートリーを増やしたいのは分かる気がするが同時に少し疑問も出て来た。
「はぁ、まあ頑張って下さい」
「も、もちろん断己くんにも作ってあげるからね?」
「ありがとうございます、実験台にはなりますよ……でも、そんなに料理が好きなら教師よりもシェフの方が良かったんじゃないですか?」
そこで先ほど感じた疑問が再び鎌首をもたげた。昨日の夜から思っていたが洸の料理は美味しい。プロレベルと言われれば疑問だがシェフを目指すくらいのレベルは有ると思っていた。
「まあ私の料理はしょせん素人の趣味レベルだからさ……」
「そうですか……じゃあそのパスタを?」
「二種類有るから、それが来るわ、でもどっちが良いかしら? このキノコと山菜系のと、もう一つは魚介系、牡蠣のトマトソースのパスタね」
二種類の限定メニューだからカップルじゃないとダメなのかと断己はそこまで聞いておきながら、なぜか次の行動が予測できなかった。そしてその理由を後日考える事になる。
「先生、じゃなくて洸さんのお興味のある方をどうぞ、素人だろうが趣味だろうが見事にラーニングしてやりましょう!!」
「えっ、そう……ね、じゃあキノコの方が私ね!!」
そして後日考えた時に自分で素人レベルと言った時の洸の悲しそうな表情が気になってそれ所じゃなかったのだと気付く事になる。
◆
料理が来るまで雑談をしていたが、このレストランは繁盛している。イタリアン系の店は店外のオープン席も中の席も賑わっている。
「良いなぁ、あの老夫婦……年をとっても二人でこういう所来てさ、デートかな?」
「そうですね俺の祖父母も月に一回、そんな事してますね」
「良いなぁ、素敵じゃない……私も結婚したいなぁ」
なぜ自分を見て来るのかが謎だったが、同時に断己はもっと別な疑問を持ってしまった。二つ離れた洸からはちょうど死角になる後ろの席の四人組の女性がビクッと同時に動いたのだ。
「うそっ、やっぱり――――じゃん、嘘ぉ」
「わ、相手の――――と、有った……すごっ!?」
何やらこちらを見ているようだが目線を合わそうとすると逆に視線を反らされた。何者だろうかと考えた瞬間、断己は一つの仮定を思いついていた。
(まさか組織の監視役か!? 俺の不審な行動に気付いたのか?)
「どうしたの断己……くん?」
自分の結婚観と式場の希望や将来の子供の数まで話していた洸の話を適当に流しながら断己は後ろの四人組に注視していた。
「いえ、結婚は人生の墓場とも言いますから少し理想を抱き過ぎなのでは?」
「まあ、実際そういう事言ってる友達も後輩も先輩もいるけどね……知ってる?」
そう言うとフッと表情が消えて目が死んでいたから咄嗟に視線を洸に戻した。
「何をですか?」
「それが言えるのはね……断己くん、結婚出来てる人が言えるのよ……スタートラインにすら立ってない人間はね悲しいだけなのよ」
「そ、それは……なんと言うか」
そんな軽く闇堕ちしそうな顔をしている洸を見ていると後ろの女性たちが、また挙動不審な動きをしていた。鎧さえあれば音声を拾えるが周囲の人間も多く、ましてやオープン席だから断片的にしか聞こえなかった。
「――――て修羅場? それとも――――」
「行くべきか? か――――」
こちらに介入しようとしているのだろうか……しかし、それなら拡や歩などを寄こすはずだ。父さんならそうするはず。それにあんな四人組見た事が無い。
「良いのよ、私には使命も有るしね……だから今日はデート出来て嬉しいんだ」
「お役に立てて幸いです」
「実際、君があと二つくらい年上なら私も本気出すんだけどなぁ……」
そんな事を話していると料理が運ばれて来た。そしてウェイターが洸には白ワインを、そして意外にもぶどうジュースも有ったので断己はジュースをそれぞれグラスに注がれる。
「じゃあ断己くんとの初デートに?」
「「乾杯」」
二人でグラスを合わせると穏やかに時間は過ぎて行く……後ろから謎の四人組に見られながら……。
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