Chapter5-1
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朝にしては遅く昼にしては少し早いそんなブランチの時間帯に断己は駅の入り口付近の銅像前にいた。
「既に三分経過か……」
バッグは普段大きめの物を使っているのに今日は小型のショルダーバッグを肩にかけているのみで、服装に至ってはジーンズに無地の白Tシャツとブレザーというラフな格好をしていた。
「ごめんね、断己く~ん、待った?」
「はい、四分二十三秒待ちました遅刻ですね」
声をかけられ顔を向けるとこちらを下から覗き込むように見て来る女性が目に入った。そこに居たのは少し薄めの黒のブラウスにオレンジ系統色のフレアスカート姿の洸がそこにいた。
「だぁかぁらっ!! そこは『ううん、俺も今来たとこだよ洸さん』って言ってって私お願いしたよね」
「ああ、そう言えば……忘れてました」
今日はそういう設定で付き合わされていたのを忘れていた。なんせ断己にとって今日は生まれて初めての異性とのデートだったからだ。
「あなた一応は天才って触れ込みで日本来たのよね? 海外なら私より学歴は上なのに、そんな簡単に忘れるものなのかしら」
「天才に期待し過ぎですよ、もしかして天才は孤独で人と感性がズレているとか素っ頓狂なことを突然するとか信じてる系ですか?」
「え? 違うの?」
天才と呼ばれる人種を勘違いしてる人も多いが一部の奇行が目立ったりするだけで基本的には何か一芸に秀でた人間なだけだ。また奇行とはいうが幼少期の話が多く好奇心の強い子供なら偶然する事もあるエピソードが意外と多かったりもする。
「歴史上にそういう人間は多いですけど俺は違うという話です洸先生」
つまり断己の言いたい事は天才にも色々な人間がいて有名な偉人はその傾向が強いだけという確率論の話だった。
「はい、やり直し~、今日は洸《《さん》》でしょ?」
「はいはい、洸さん」
ドヤ顔で訂正されると今朝決めた事をまた失念していて、そんな断己の様子を洸はニヤニヤして横で見つめていた。そして不意に思いついたように口を開いた。
「何なら愛を込めて呼び捨てでも良いのよ?」
「今日はもう帰りましょうか?」
「すいません調子に乗り過ぎました、お願いします断己様~!!」
そんな必死な様子に「冗談です」と言って苦笑すると今度こそ目的地に向かおうとする断己だが周囲から注目されている事に今さら気がついた。理由が最後まで分からず不思議な顔をしていたが周囲からイチャ付いてるカップルだと思われているのに気付けないのは彼が天才だからなのかも知れない。
◆
話は今朝まで遡る。断己が眩暈を起こして気絶するように眠ったが、その後は一度も起きる事なく、ぐっすり眠れたお陰か目覚めはスッキリしたものだった。
「ふあ~あ、よく寝た……やはり睡眠は大事だな、今後は気を付けよう」
少し頭がボーッとするが構わずドアを開けるとジュージューと音がして、いい匂いがリビングに漂っていた。
「おはよう、もうすぐ朝ごはん出来るからね?」
「ええ、すいません、それと自分はネギは苦手なので味噌汁には……って何で当たり前に人ん家で朝食を作ってるんですか先生!!」
「話すと長くなるから後で話すわ、それとネギは分かったけど他に嫌いな物は?」
「いやいやサラッと流さないで下さい、それとは別に人参は苦手です」
断己はよくも悪くも天才だ。天才とは自分を貫くタイプも多いが環境に素早く適応し対応できる者も多く断己は後者だった。つまり何が言いたいかと言えば流されて美味しい朝食を頂こうと考えた。
「なるほど……ふぅ、鰹出汁か」
「もしかして昆布の方が良かった?」
「いえ、作って頂いて贅沢は言ってられません、それに味噌汁が向こうで珍しかったので美味しいです、洸せんせ」
懐かしい味に舌鼓を打っていたら思わず笑顔を浮かべる断己に目の前の洸は急に目を反らし顔が真っ赤になっていた。
「そ、そう……なら良かったわ」(イケメンが不意に笑いかけるとか反則よ)
「ふぅ、ご馳走様でした。それで何で俺の部屋に?」
「やっぱり覚えてないか……昨日、眠る時に手を握ったでしょ? そしたら離してくれなくてね、まさか邪険にも出来ないでしょ」
そう言えば眠る直前に強く握り返した覚えが有った。そしてそのまま一気に意識を失ったはずだ。
「そうでした、すいません、じゃあ朝まで?」
「ううん、あの後一時間くらいで離してくれたから一度家に戻って寝直して、また戻って来たのよ……窓、また開けたままにしておいたから」
「なるほど、また窓からですか……ま、良いですけど」
つまりまた借りを作ってしまった事になると内心で断己はため息を付いた。初戦から土を付けられ挙句に世話になるなんて情けない。
「それって公認!?」
「やっぱり次は鍵も変えて防犯装置を付けておきます」
しかし同時に、こんなに気安く雑談が出来る相手なんて滅多に居ないから今はこの時間を大事にしたいなんて悪の幹部に似つかわしくない事も考えていた。だからつい余計な事を言ってしまった。
「ま、美味しい朝ごはんに免じて何か一つくらい言うこと聞きますよ」
「じゃあデートして!! 私の理想のデートに付き合って、お願い!!」
速攻だった……アラサーには余裕なんて一切無い、そして死ぬほど必死な形相に断己は押されコクコクと頷いていた。
「分かりました、ただデートなんてした事が無いので理想と言われても」
「大丈夫!! 私が色々とレクチャーするから、よ~し!! じゃあ今日行こう、そうね……11時に駅前の銅像前で待ち合わせね」
「わ、分かりました洸先生」
しかし窓から飛び降りようとした洸は急いで戻って来ると目の前でチッチッチと指を振りながら言った。
「ノンノン、違うわ断己くん、今日は私のことは洸《《さん》》、もしくは洸って呼び捨てにしてもらうわ!! だって、か、彼女だし今日は」
「え? デートをするだけ恋人なわけでは――――「じゃあ、そういう事でよろしくね断己くん!! 11時に駅前よ、じゃあ~ね~!!」
飛び降りながら変身してダイナミックに帰宅する洸を見ながら若干困惑する断己は、やはり訂正しようかと考えたが、呼び戻したら面倒な事になりそうだと考え大人しく準備をする事にした。
◆
「そして現在に至ると……」
「どうしたのダーリン? 誰に向かって話してるの?」
「ええ、そのふざけた呼称を止めないと今度こそ帰りますよ」
そして断己は悟った、この女は一度でも甘い顔を見せたら最後で、どこまでも付け上がるタイプなのだと僅か数日で完全に把握していた。
「もう、軽い冗談じゃない断己くんは硬いんだから~」
「それで本音は?」
「OKだったらそのまま行こうかと……はっ!?」
「油断も隙も無い……」
このように人をからかって楽しいのだろうか、それ以前に目の前の八重樫洸は俺の敵だと改めて断己はしっかりと自分に言い含めて今日は情報収集と借りを返すためだけだと再度思い返した。
「じゃ、じゃあ断己くん今日は、よろしくね?」
「はい、何度もしつこいようですがデートは初めてで上手く洸さんをエスコート出来る自信は有りませんが、どうぞよろしく」
「ふぁ……いい、今のいい、もう一回!!」
「おかわりはご遠慮下さい。それで? 最初はどちらに?」
そう言うと洸は少し悩んだ後に腰に手を当てて宣言した。
「まずは彼氏の服を選ぶ、それをやりたい!!」
「それはつまり俺の服を選ぶんですか?」
「そう言う事じゃあ、行こう」
そう言って手を出して来た洸を見て一瞬ポカーンとした後に意味を悟った断己が手を出すとガッチリ捕まえられた。
「よ~し!! ついに念願のデートよ、今日はよろしくね断己くん」
「はい、行きましょう洸さん」
そして星守町を巻き込んだデート狂騒曲が幕を上げたのだった。
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