Chapter4-5
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「何だ……何も無いじゃないですか……断己様」
「だから言ったろ」
ドアを開けた先には断己の部屋が有るだけだった。どこにどうやって隠れたのか洸の姿はどこにもなく、拡はクローゼットにベッドの下などを探して何も無いのを確認すると最後に断己のデスクを見ると顔をしかめていた。
「ただ、このような物はどうかと……」
「へ? あっ……それは」
そこには断己が資料用として取り寄せた女性の水着グラビア雑誌がうず高く積まれていた。
「こ、これは……その」
「断己さま、確かにアメリカでも女性に興味を持たないのが不思議なくらいでしたが、これは……」
その中の一冊を取り出すと恐ろしい文字が有った『禁断の放課後、女教師との濡れた蜜月』という購入した覚えのないものが存在していた。
「そ、それはっ!? そんな物、俺は知らないぞ!?」
実際の所、資料用にとグラビア雑誌、特に水着のものを注文したのは事実だが、こんなド直球のエロ本なんて断己は知らなかった。
「はい、そういう事にしておきましょう、ですが少し安心もしているのです、断己様も異性に興味が有ったと……」
「待て待て待て、俺は本当に――――」
「先ほどの音も本の山が崩れていたものと確認しました……挙動不審なのも含めて、よく分かりました」
まるで全ての事態を察したお母さんのように澄み切った目で拡は断己を見ていた。私は分かっていますよと言わんばかりだ。そしてどこからかクスっと声も聞こえたが断己はそれ所じゃなかった。
「いや、待ってくれ拡、俺は……」
「分かっています、それでは、一人での活動をお邪魔して申し訳ありませんでした、明日も断己様はオフになってますので、どうぞ心行くまで、では失礼します」
そして無駄に爽やかな笑みを浮かべて帰ってしまった。残されたのは膝をついた断己と愕然として天井を見上げた時に目が合った洸だけだった。
「よく……バレなかったな……」
「テンプレだけど天井は案外見ないのよ、それに奥の手も有るしね~」
ニヤニヤ笑いながらイタズラが成功した子供のように笑う洸を見ながら断己は頭を抱えてため息を付いた。そして天井から降り立つと拡が置いて行った本を洸がポンと渡して来た。
「かなり刺激的だけど読む?」
「やっぱり、あんたの私物かよ!!」
「昔ね女教師なのにモテないから悩んでこう言う本で勉強してたの……それで今日、君の部屋行くから何か役に立つかと思って……」
なぜか過去を懐かしむように堂々と黒歴史を話し出す宿敵で今は担任教師の女を見て断己はゲンナリして言った。
「確かに俺の名誉を極限まで落とす役には立ったよ……」
「そんな落ち込んだ断己君に朗報です、お詫びに先生が今度こそ栄養満点なご飯を作ってあげましょう、座って待っててね!!」
◆
あれからすぐに調理を開始した洸によって次々と料理は作られて行った。そして断己の前にはリクエストした卵雑炊を始め、栄養価の高い煮物や野菜中心の薬膳系のスープなどが出されていた。
「温かい内に食べちゃってて良いからね、私は最後にこれだけ作っちゃうから」
「いや、でも……」
「いいからいいから、さっきのお詫びも兼ねて、ね?」
そう言われてしまうと少しイラっとして「いただきます」と卵雑炊を食べ始める。そして純粋に美味いから驚いた。昼のお粥で分かっていたが繊細な味付けは目の前のどちらかと言えば大雑把な女が作ったとは思えなかったからだ。
「うまい……初めて食ったけど、うん……こんなに美味いのか」
「わざわざリクエストまでするなんて可愛いことしてくれたから先生頑張っちゃった、食欲も落ちてないし、ぶり返したりはしてないのね?」
「はぐっ、はむっ……はい、あれからしっかり寝たら頭痛も取れたんで……」
そう言って断己が二杯目を土鍋からよそっていたら最後の何かを冷蔵庫に入れて戻って来た洸が、思い出したと言って自分の分のご飯を用意しながら言った。
「断己くん、さっき同僚の人が言ってたけど三徹もしてたって、そんなのダメよ成長期なんだから体に悪いのよ、規則正しくしなきゃダメじゃない」
「あなたにだけは言われたくないんだが、毎晩飲んだくれでしょう?」
断己も体に無理をさせていたが、そもそも目の前に座る洸だって自炊はするし料理の腕は高いが週三以上は飲み屋で飲んでいる酒乱だ。昔は違ったが25歳を超えたあたりからは拍車がかかっている状況だ。
「私は大人だから良いの、君はこれから先が有るのよ? あとレーションって調べたら軍隊のご飯って……栄養価は問題無いみたいだけど」
「ああ、あれは拡が大げさに言ってるだけです、実際は缶詰めを皿に開けてちゃんと食べているんで大丈夫です」
「缶詰めだけなんて、そんなのダメよ絶対にダメ!!」
「もちろんサプリで補助もしてますが?」
そこでついに堪忍袋の緒が切れた洸が説教を開始した。正論なようで割と暴論に最初は断己も反論をしていたが徐々に相手にするのが面倒になって最後は大人しく聞いていた。
「と、いうわけで私はあなたの体を心配してるのよ」
「そいつはどうも……」
「あっ、ゴメン……私またやっちゃったか……」
「何がですか?」
断己が話を聞いてみると洸は教師の性だと言って話し始めた。年下の人間には今みたいに説教染みた注意を無意識でしてしまう事、そして色々と干渉したがってしまい人によってウザったい行動をしてしまうという話だった。
「特にね、断己くんの事は気になっちゃって……色々とお世話したくなるのよね」
「ま、俺も洸先生のことは気になりますんで、そこはWin-Winですね」
もちろん洸の場合は善意と究極的な好意なのだが断己は違う。側近の高野兄弟や組織にすら黙って一人で目の前の宿敵の情報を得ようと必死だった。
「もう、すぐそういう事言って……その、さ……そろそろ本気にするからね?」
「なら敢えて言わせてもらうと俺はいつでも本気です……なので先生の変身後の例のエメラルドグリーンの装備を見せて頂けると!!」
「やっぱりコスなのね……そっちなのね分かっていたわ、男なんて体だけが目的なのよね……それでも少し嬉しかったりするわ、なんか泣けて来たわ」
そんな事を言ってる内に気付けば夜も更けて最後にデザートと言って洸が出して来たのは先ほど冷蔵庫に入れていた何かだった。
「まだ完全には冷えてないけど、どうぞ黒ゴマの杏仁豆腐よ」
「豆腐? 黒ゴマの……食べたことないです、この香ばしいのがゴマかな?」
「ええ、低カロリーだけど薬膳の一種でも有るから病気の時にはいいのよ」
そこから簡単に洸から薬膳料理のうんちくなど聞いていると腹も膨れて断己の瞼が徐々に重くなっていた。
「あら、もうお眠かしら?」
「子供、みたいに言うのは止めて欲しいですが、少し眠たいです」
「うんうん、睡眠は大事だからね、じゃあ、この黒ゴマの杏仁豆腐まだ冷蔵庫に二つ残ってるから明日も食べるのよ、他の料理も温めれば食べれるようにしておくから」
「何から何まで申し訳ありません……」
本来なら敵に頭を下げるなど有り得ないことだが今回は紛れもなく救われたし食べた料理の数々は大変好みの味でどこか懐かしさすら感じた味だった。故郷の味というのが有ればこういうものかと断己に思わせたほどだ。
「良いのよ、困った時は助け合いよ若いんだから気にしないの」
「若いって言いますが俺は洸先生より若輩者ですが……うっ」
年齢なんて関係無いと言おうとしたら眩暈が襲って来て膝をついていた。そしてすぐに変身した洸にベッドまで運ばれて寝かし付けられてしまった。
「今は体が弱ってるから無理しちゃダメ……大丈夫、寝るまで居てあげるから」
「子供じゃ、無いんで……」
しかし断己が強く言えたのはそこまでで徐々に意識が混濁して行く中で手を握られて看病されるのは懐かしかった。そう思うと急に安心して洸の手を握り返すと今度こそ意識を手放していた。
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