Chapter4-2
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夢を見ていた。幼少期の日本に居た頃の夢で当時も今みたいに熱を出して倒れていた。しかし小さい頃の記憶は少しあやふやで記憶喪失とは違うが断己の幼少期の記憶はストンと抜け落ちていた。
「たつ君は体が弱いんだから、無理しちゃダメよ」
それでも、この記憶だけは印象深かったのか、たまに夢に見ることがあった。薄い青色のワンピース姿のお姉さんに看病してもらっている夢だった。
「でも僕だって外で遊びたいよ」
当時の断己は体が弱くて虚弱体質だった。だからアメリカに渡って体調が改善されると今までの分を取り返すように体を鍛えた。今度は負けないようにと復讐のために……そんな昔の優しい夢から覚めると時刻は昼過ぎだった。
「久しぶりに見た夢だな……うっ、だいぶ動けるけど、まだ顔が熱い」
ベッドから起き上がれるのを確認するとヨロヨロ動き出す。まだ日本に来て一週間も経っていないがトイレに行くだけで、ここまで苦労するなんて思わなかった。父が万が一にと用意してくれた無駄に広い部屋も今は恨めしい。
「取り合えず、何か……飲むか」
冷蔵庫を開けると中には買った覚えのないスポーツドリンクが入ってギョッとしたが冷蔵庫に貼って有るメモを読むと洸が用意してくれたものだと判明した。
「本当に、お節介な奴だ……」
悪態をつきながらものどを潤すと少しづつ冷静になって今度は食欲がわいて来る。我ながら現金なものだと思いながら、意識を失う前に聞いた話で弁当が有ったはずだと思って探すが見当たらない。
「持って行かれた? いや、そもそも当てにするのが間違っているか」
サプリかレーションが有ったはずだと動く前に今度はテーブルにメモが置いて有った。そしてメモに書かれていたのを読んで納得した。
『お弁当が無くてガッカリしてる夜剱くんにプレゼント、キッチンに今朝の残りのお粥を用意しておきました温めて食べてね。 ――――女子力つよつよ洸先生より』
「何が女子力つよつよだ……女子力強い人間は、あんな毎晩酔っ払ってない……」
そう言いながらも今朝、一口だけ食べたお粥は美味しかったと思い出して温めて食べるとすぐに無くなった。
「ふぅ、量が少し少ないな……そういえば、ちゃんと飯を食ったのは、あの洋食屋のオムライス以来か」
「あっきれた、そんな食生活だったの?」
いつの間にか背後に居たのはエメラルドグリーンの衣装のヴェロチータ形態になった洸だった。いつ来たのか声をかけられるまで断己は全く気付けなかった。
◆
「いつの間に、いや、そもそもどうやって入って来たんだ……」
「ああ~、ちょっ~と裏技でね……そこのベランダの窓開けっぱなしで今朝出勤して今、お昼休みだから戻って来たのよ……ってどうしたの?」
苦笑しながら今朝の事を喋る洸から話を聞いて断己は納得していた。なるほど変身して出勤したのかと、それと同時に目の前の姿にも驚いていた。
「いえ、噂に聞いていたんですが、ここまで服の形状や髪の色も変わるんですね」
しかし最初こそ驚いていた断己だったが目の前の宿敵の力の一端を視ては黙っていられなかった。特にこの形態は動きが早くカメラなどですら追う事が不可能と言われている幻の形態で是が非でもデータが欲しかった。
「そうだった、君って妙に私の変身衣装に興味が有ったのよね……」
「ですから中身込みでと言いましたよね?」
「も、もうっ!! そう言う恥ずかしいの禁止だって言ってるでしょ!! って、急がないと戻る時間も考えてギリギリだし」
そう言うと洸は変身したままエプロンを付けて簡単な料理を始めていた。髪の毛も金髪にチェンジしているので普段の黒髪と違って色々と新鮮だった。
「やっぱ変身したままだと力加減難しいわね、先に謝っておくけどもしかしたら壁とか床壊しちゃうかも~」
「一応は気を付けて下さい、会社の持ち物とは言えタダじゃないんですから」
実際はある程度壊してもらって威力を見てみたいのだがそんな事を言えば怪しまれるので断己は言い出せなかった。
「会社の持ち物って、ここってNASOTOカンパニーの建物じゃ、まさか夜剱くんの実家って……」
「母の旧姓が郷野なので創業者の一族ですよ……」
「そっか苗字が珍しいけど何の関係者かと思ったら、そりゃ凄いとこ住めるわけだ」
ERRORの表向けの姿がNASOTOカンパニーなのだが昔と違い今は父の手腕によって表の仕事の方が収益を上げていて実の所、経済的な面で言えば世界征服に近いことは出来そうな会社だったりする。その創業者が断己の祖父の郷野星二だ。
「父は入り婿なんですが……母が苗字は夜剱の方が珍しくていいって駄々をこねたらしく形だけ嫁に出たんだそうです」
「へ~、創業者一族の知られざる秘密ってやつね……っと、はい出来たわ食べましょ、足りないんでしょ?」
「それも聞いてたんですか……いただきます」
段々とこのノリに慣れて来た断己も自分がだいぶおかしくなって来てる自覚は有ったが今は体を回復させることが最優先だとお粥を勢いよくかき込んだ。
「うんうん良い食べっぷりね、男の子はそうでなきゃ」
「男らしくとか言うと訴えられますよ?」
「やだやだ最近はちょっと言うとこれだもん、人の揚げ足取りばっかりでさ~」
そこから最近のクラスでの愚痴が始まりタップリ三十分は聞かされた。酒も飲んで無い素面の状態でもかなりストレスが溜まっているのがよく分かる内容だった。
「私なんて、もう可愛いとか女らしくて良いわねなんて言われないんだから、衣装は古いし、馬鹿力って怖がられるし、酒癖悪いとかさんざんモラハラ受けてるっての」
「最後のは自業自得ですよね……こう言ってはあれですけど気を付けた方がいいかと力を過信し過ぎて落とし穴とかよく有りますから」
我ながら何を言ってるのだろうか敵に塩を送るとかいうレベルじゃなくて本気のアドバイスをしている自分に断己は気付いていながらも止められなかった。
「何言ってんのよ、私は、私は十三年もやってるベテランなんだから、大丈夫よ」
しかし、そういう洸の表情はどこか寂しそうで何かに耐えているように見えた。どこか昔、無力さを痛感して足掻いた時の自分を思い起こさせると断己は心中密かに思っていた。
◆
「じゃあ私は行くけど、無理しちゃ駄目よ」
「分かりましたよ大人しく寝ます」
「明日は休みだから学校も無いし、今夜また様子見に来るから……いい、わよね?」
探るようにこっちを見て来る洸に強く言い返せずに頷くと何を食べたいか考えておくように言われてしまった。
「リクエストならステーキとかあまり向こうで食べれない寿司とか」
「わざと言ってるでしょ? 熱出して風邪ひいてるんだからお腹に優しいものよ、じゃあ行って来るわ!!」
「はい、鍵は開けておくんで今度は窓から入らないで下さいね~」
声が届いたかは不安だったが目視で確認出来ない程の圧倒的速さで洸は断己の目の前から消えていた。
「やはり速い……後で部屋に仕掛けてあるカメラで細部を確認するか、おっと、今はしっかり寝なきゃいけなかったんだ」
いつもならすぐに確認するのに断己は今回はそれをしなかった。無意識の内に洸との約束をキッチリ守ってしまっていたからだ。本人にその自覚は欠片も無いのに気付けば彼女のペースに合わせていることに気付いていなかった。
「ふぅ、じゃあ大人しく夜を待とう……またいい夢を見れるかもしれないしな……」
そんな独り言を言ってベッドに横になると自然と睡魔が襲って来た。しかし世の中都合良くは出来ていない。いい夢を見た後は大概、悪夢を見るもので自分がその実例になるなんて断己自身、この時は思いもしていなかった。
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