Chapter3-5
それだけ言うと断己はすぐに鎧の最終調整に向かった。後ろからは拡が睡眠を取るように忠告していたが三徹までなら過去に何度もしたから大丈夫だと答えて歩の元に向かった。
「歩、どうだ?」
「あぁ……断己の兄さん、良い感じですよ、あと八重樫洸から聞き出した情報とか参考にSKⅡの耐久性能と機動力を上げました」
「ふぁっ……そうか、それで例の対電気仕様は難しいか?」
SKⅡの鎧は見た目は甲冑のようだが外観だけが鎧で中身は精密機械の塊だ。つまり電気には弱い、もちろん電気用にコーティングはしているがステプレの攻撃に耐えられるかは未知数だ。
「昔は本当に鎧と初代総帥の力量だったらしいからな……」
「初代様は本当に凄かったんすねえ……ふぁ、すいません」
「気にするな、お前も寝て無いだろ? 後は俺と拡に任せろ」
それだけ言うと断己は何度か鎧の調整をして高校に向かった。早退するにしてもキチンと出席して洸の顔を見なくては落ち着かない不思議な気持ちになっていた。
◆
「ふぁっ……くしょん!?」
「こら、夜剱くん授業中に大きなくしゃみは止めてよね~」
「うっ、すいません、少し鼻がムズムズして」
授業中もこんな感じで、くしゃみ以外に寝不足で欠伸なども注意される始末で洸を始め他の教師に何度も注意されていた。転校して数日でこれはマズイと気合を入れ直すが寒気も眠気も取れなかった。
「もう、席だって目の前だし何か有ったら相談しなさい?」
「ええ、その時は是非……」
敵に心配されるのは情けないと思いながらも何故か悪い気がしないのは不思議でやる気も出た。そして昼になると断己は早退の事を告げに職員室に向かった。
「うん、朝にも聞いたけどインターンだっけ? 大変なのね」
「大事な事ですので……」
「くしゃみと寝不足もそれが原因?」
「えっ、ま、まあ、そんな感じです、では失礼します」
そう言って逃げ出そうとしたら腕をガシッと掴まれた。無駄に力が強いのは素なのか、わざとか分からないが振り返ると洸は鞄から何かを取り出しながら口を開いた。
「はいこれ、食べなさい」
「これは?」
そのまま断己が押し付けられたのは弁当箱で可愛らしい包みなのはご愛敬だが洸は返す気は無さそうだった。
「私のお弁当よ、その様子じゃお昼絶対に食べないでしょ君?」
「いや、それは……」
「私の友達にもいるのよ研究に没頭して食事も睡眠も後回しにする奴……君もそのタイプっぽいから食べなさい」
「いや、別にサプリとかで――――「育ち盛りの若い子はそれじゃダメなの、いいから食べなさい!! 明日返してくれればいいから」
そして普段の教師としてではなくステラ・ドゥーエの圧に屈して断己は弁当箱を返すタイミングを失った。
「では必ず頂きます……今日は勝負ですので、感謝します」
「感謝してるならあの事黙っててね、お願いだから」
そして今日は高校前に迎えの車が来ていた。時間も無いので車内で貰った弁当を食べると肉じゃがにサラダそして、からあげと全てが手作りで驚いた。
「うまっ……このからあげも生姜が効いてて良い感じだ」
「断己様、車内で食事はお止め下さい匂いが残りますので……」
隣に座る拡に注意されながら断己は本部で他の四天王と初対面となった。ちなみに自分の弁当を渡して後先何も考えてなかった洸は昼食抜きで午後を乗り切る羽目になってしまった。
◆
「それでは最後に先日より新たに四天王になられた『スターダストナイト二世』様のご入室になります」
まばらな拍手に迎えられ断己は修理の終わった鎧を装着し入室した。ここはERRORの地下本部のさらに最奥の最重要会議室だ。そして断己が現れると他の四天王は大いに動揺していた。
(鎧が直っていることに驚いてるようだな、残念だが自らお前らに素顔を見せるような無様はしない)
四天王は互いに顔バレはしているので本来は隠す必要は無い。向こうも既にこちらの簡単な事情は掴んでいるだろう。しかしそれでも今のこちら側の戦力を見せつける事で相手に圧をかける。会議の前から戦いは始まっているのだ。
「まず、よく日本に来てくれた我が忠実なる僕、スターダストナイト二世よ」
「はっ、総統におかれましては過分なお心遣いと、お言葉に感謝しかございません」
まずは総統である父との簡単な挨拶を済ませる。そして総統が退室すると司会の者すら退出し部屋には四天王だけが残った。チラリと見るとコングマンがこちらを睨んでいるが完全無視する。
「あらら~、おサルちゃんが激おこじゃないの、マジうけるんだピョン」
「うるさいウサギ風情が!!」
断己を無視して喧嘩を始めたのは最初の戦闘でステプレに敗北する所を助けられたマネー・コングマンともう一人、悪夢のストレーガがいなくなったことで紅一点となったレイジー・ラビッツだった。
「怒っちゃだめピョン、新人に助けられて無様に逃げ帰ったからって八つ当たりは止めるピョン」
「ピョンピョンうるさい!! あれには事情が……」
「ならば命令違反を認めるかコングマン?」
そこで黙っていた残りの一人、老紳士で全ての指に宝石付きの指輪をはめた老紳士のJ・Jが口を開いた。
「ジュエラー、それは……」
そこで断己はパンと手を叩いた。一瞬にして三人が向き直ってまずは自分に目を向けさせる事に成功した。
「本日は会議のはずだが? 無駄な議論で貴重な時間を浪費するつもりか?」
「うるっせえピョン、新人は黙ってママのミルクでも飲んでるピョン」
振り返った彼女はウサ耳を付けてバニーガールに近い恰好だが実際は全身が青タイツで各所に銀のプロテクターを付けたバリバリの武闘派だった。
「通算戦績0勝4敗のレイジーラビッツ殿のお言葉、胸に刻んでおきましょう」
「ああん、クソガキが調子こいてんじゃねえぞ!!」
「ラビッツ語尾が取れているぞ? 君の下らないキャラ付けはおしまいかな」
普段は人をバカにするのが生きがいのレイジーラビッツだが余裕が無くなると語尾が無くなりただの暴言女になってしまう。一方それを揶揄して窘めるのはJ・Jことジュエラー・ジェントルマンだ。
「ああん、ジジイ調子に乗るなよ老害のくせによぉ!!」
「J・J卿、あなたも初代総帥から仕える身で四天王の今の状況に何か思う事は無いのか?」
この宝石紳士ことジュエラー・ジェントルマンは初代総帥の時代から幹部として活躍し三代目の現総帥から四天王になった最古参だ。見識も広く冷静な人物なのだが戦績は振るっていなかった。
「小僧、そこのラビッツほどでは無いが新人らしくしたまえ、いくら初代様と現総帥の血筋とは言えな」
「実力は示した、他は何が必要か? 誰かこの中でステプレに勝った者がいるか?」
内心、自分も洸に圧倒されて負ける寸前だったがあえて自分で言うことはしない。指摘されても負けてはいないのだからいくらでも舌戦で勝つ用意は有ったが老紳士は意外にもアッサリ折れた。
「そ、それはっ……ぐぬぅ……」
「それにもう一つ、例のステラ・ドゥーエの情報を一切の非公開としていたのはどうしてだ?」
だから断己はここで本命を叩き込む事にした。今回の目的は他の四天王への牽制も有るが同時に可能ならある程度のイニシアチブを取る事が狙いだ。
「「「…………」」」
「なら俺が答えよう諸君らはあれと戦い見逃された……違うか?」
沈黙していた三人に対して断己はブラフをかけた。そして見事に引っかかったのはコングマンだった。
「なっ、お前もそうなのか!! スターダストナイト!!」
「あっ、バカ猿!! 何自白してんのよ!!」
やれやれと肩をすくめて歩きながら会議室の中央に立ち大げさにジェスチャーをして断己は演説を開始した。
「これは総帥も知らぬ話だな……なぜ報告をしなかった? いや出来なかったと見るべきか、それはなぜか……」
そう話しながらも断己は確信していた。ステラ・ドゥーエという戦士はただの強い人間という印象でしか無いが八重樫洸という人物の事はたった数日しか一緒にいないのに理解していた。
「非公式で戦い、もし勝てば後で報告するような事後報告形式を取っていたのでは無いかね? その際に敗北の事実を隠した、つまり実際の所は諸君らはもっと負けている、違うか?」
「…………うぬぅ」
「そしてそれは最古参のジュエラー卿、主にあなたが手引きした違うかね?」
「ぐぬぬ……なんという、どうして分かった」
もちろん全ては断己の想像で証拠は無い。いや正確には無かった。今目の前の紳士が自白した事で証言を得られたのだ。
「やはりそうですか……証拠は有りませんでしたが言質は取りました」
「ああっ!! ジジイ何ブラフに引っかかってんのよ!! このガキに良いようにさせてさぁ~!!」
「そんな貴様も社内の人事に口出しをして、あまつさえ一般構成員の業務を妨害したようだな?」
今度は断己の第三ラボに対する妨害行為に対して話し出す。この妨害が無ければ断己はすぐにでも出撃が可能になったはずだった。
「な、何のことピョ~ン、ウサギちゃんは知らないことピョン」
断己は最初、三人の仕業だと考えていたが昨日までに拡が調べた結果、目の前の女が巧みに三人で妨害しているかのように妨害していただけだった事が判明した。
「ところでラビッツこの書類を見て欲しい、随分と使途不明金が多く雑費なども明らかに度を越している、さらに私のラボに回されるはずの人員を鑑みるに……」
「くっ、頭の回るガキだなぁ……そうだよ、オメーんとこに回される構成員は全部こっちでもらった、その際の賄賂だよチキショー死ねぇ!!」
断己が話し終わったと同時にレイジーラビッツはいきなり襲い掛かった。見た目とは裏腹に武闘派で自慢の足から放たれる蹴りの一撃は強力で避けた断己の前の机を吹き飛ばし床を抉っていた。
「怖い怖い、これは強力だ」
「避けた!? ガキが調子に――――「乗るなというのはこちらのセリフだ」
断己は攻撃を予測して既に背後に回り込んでいた。気付けば黒き剣は鞘から抜かれラビッツの首筋にピタリと突き付けられていた。
「ヒッ、こ、こんな……これが新しい四天王……なの」
「なら俺様が相手だ!! 青二才!!」
しかし続いたコングマンの拳も空を切り黄金の一閃が通った場所に断己の姿は無く動揺した背後に断己は回り込むと、そのまま一撃で行動不能に追い込んだ。
「ぐぎゃ、バカなぁ……」
「こ、この動きは初代様……なるほど、だからその鎧を受け継ぐことが……」
ジュエラーは愕然として自分たちの敗北を受け入れていた。これで趨勢は決し四天王の三人に圧倒的実力差を示したことで会議の流れを掌握した断己はこの後も終始自分のペースで会議を進めていくのだった。
◆
「すっかり遅くなったわね……もう四月なのに夜は少し寒い、か……熱燗で一杯やりたいわね~」
そんな独り言を話して家路を急ぐ洸だったがマンションのエントランスに入ってソファーに横たわる人物を見て驚いた。
「ちょっと……嘘っ、夜剱くんっ!? どうしたの!?」
「うっ、ううっ……」
「ちょっと凄い熱……ってこれ」
倒れた断己の傍らには自分が渡した弁当箱が置かれていた。それで全てを察した洸は即座に変身すると断己を担いで自分の部屋に連れ帰り寝かす事にした。
「まったく、妙なとこで義理堅いんだから……」
「んっ、うっ……」
奇しくも断己は不可抗力で光の部屋でその日は過ごし翌朝に人生二度目の朝帰りを経験する事になってしまうのだった。
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