Chapter3-2
ここで時間を少し巻き戻して洸がなぜ変身して断己の前に現れる事になったのかを振り返ってみよう。
「え? 一時間も待たせちゃったんですか!?」
「そうよ、向こうが言うには日本は時間に厳しいと聞いたので三十分前に来ましたって……おまけに普通にあなたが出勤してくるからプラス三十分よ」
事前に今日は三十分前に来るように言われていたのに、ここ二日間の戦いと断己との飲みですっかり忘れていて、その結果いつも通り出勤したために合計一時間も待たせる形になっていた。
「お偉いさんのお子さんで天才児なんですよね、どうしよ……」
「別に相手は頭がいいだけで後は普通の良い子よ、ヒーローショーでも見せてあげれば喜ぶでしょ? 日本のアニメとか特撮とか海外で人気だし」
神乃理事長はそう言うとニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。一瞬キョトンとした後にハッと気付いた洸は焦っていた。この理事長とは彼女が学生の頃からの付き合いでやり口はよく知っていた。
「まさか……その子の前でやるんですか!?」
「そうじゃなくて~最初から変身した状態で彼にご挨拶よ、良いわね八重樫せんせ」
「ちょっ、アテ……理事長、本気ですか!?」
「ええ、せっかくだし日本が誇る正義のヒロインを米国帰りの天才様に見てもらいましょ、あなただけは正体バレても大丈夫だしね」
そんなノリで洸は断己の前に出ることになっていた。いい年した成人女性がこんな事をさせられるのはパワハラ、セクハラを越えてモラハラの域だ。しかし理事長には色々な意味で逆らえないので仕方なく変身して再会することになってしまった。
◆
「では教頭先生もう下がってください」
「はい~、では失礼します、夜剱くんも頑張ってね」
そんな感じで教頭はこのカオスと化した現場から逃げ出した。これで理事長室に残ったのは三人となった。ちなみに洸は変身を解いた上で一通り自己紹介を済ませた後で嫌な沈黙が続いていた。
(ど~するんですか理事長、完全に滑ってますよこれ!!)
(まさか、ここまでドン引きされるなんて思わなかったのよ)
問題の二人はコソコソ隅で話していて断己は完全に置いてけぼりだったが、実はドン引きはしていない、ただ先ほどのパンチラが脳裏から離れずにいただけだった。
「あの、パンツ……じゃなかった、先生方、お時間は大丈夫なのですか?」
「えっ!? ああ、そ、そうね!! じゃあ教室まで送ってあげなさい八重樫先生、ほら早くタイムイズマネーよね夜剱くん、じゃあ授業頑張ってね~!!」
半ば追い出される形で二人して廊下に出されると断己はどうすべきか焦っていた。対する洸も実は動揺しドキドキしていた。もちろん恋とか惚れた腫れた等という簡単な話では無い。彼女は今、教師生活の危機を迎えていたのだ。
「そ、そのぉ……教室に行く前に少し話さない……夜剱、くん?」
「はい……構いません」(なるほど二人になった所で戦う気か)
先ほどのパンチラで完全に正気を失っていた断己だったが何とか平静を取り戻すと洸が空き教室で話そうと先を歩いた。そして空き教室に入るまで誰とも遭遇せずに前を歩く洸は隙が無かった。
「ここよ……私が顧問をしている部活の部室なの、どうぞ入って」
「ブカツ、部活動というやつか……」(さすが歴戦の戦士、隙が無い)
先に入ってと言われた以上は入るしかないが警戒は解かない。そして断己の予想通り洸は後から入室し後ろ手で鍵を閉めていた。
「悪いわね……こんな所、他の人間に見られるわけには行かないのよ」
「でしょうね……それは俺もだ」(来るか、窓は一つで突き破って校庭まで逃げられるか? 高さは問題なさそうだが……)
そして洸が動いた。咄嗟に断己が構えるがその行動は彼の予想を大きく裏切り盛大に困惑させられた。それだけ理解不能な現象が目の前に広がっていた。
「申し訳、ありませんでした~!! この通りです……どうか許して下さい~」
土下座だった。きれいな土下座だった。目の前で断己の宿敵でも有り先ほどまで変身していたステラ・ドゥーエこと八重樫洸はいきなり土下座していた。
「えっ、いや……はぁっ?」
「未成年だなんて知らなかったんですぅ~、だってだって、あんた、じゃなくて夜剱くんは会った二回とも背広でビシッと決めてカッコ良かったし……背だって高いから分からなかったのよぉ~」
目の前の宿敵は何を言ってるのだろうかと困惑するだけの断己だったが彼女が土下座したまま勝手に自白を始めていた。
「どうか許して下さい何でもしますから、こんな事で警察に捕まって教師をクビになったら私……田舎にすら帰れなくなっちゃうのよ~」
土下座したままアラサー女教師の悲しい叫びが木霊する。ちなみにこの女、部室に連れ込んだのは遮音する結界が有るからで、いくら叫んでもバレないという計算の元だったりする。
「は、話が見えないんだが……」
「だからね……私、一昨日、君にお酒無理やり飲ませて家に連れ込んじゃったじゃない? それに昨日おんぶして家まで運んでもらって……昨日のはギリギリセーフかもだけど、一昨日のは完全にアウトなのよ!!」
そう、彼女は恐れていた自分が未成年を酔っ払わせた挙句に自宅に引っ張り込んだという事実を、あの日は大声で夜中に徒歩で二人揃って帰ったので多くの人間に目撃されていた可能性は大いにある。
「確かに半ば騙されて飲酒をしてしまいましたからね」
「こんなの世間様にバレたら一発でクビなのよ!! 青少年健全育成条例で懲戒になっちゃうのよ!! お願い、どうか、どうか黙っていて下さいぃ~」
この土下座する宿敵を見て断己は思った。憐れだ……あまりにも憐れで情けない姿だ。自分はこんな相手に敗走したのかと情けなくなって来た。
「なるほど……つまり、俺が告発したら日本ではクビになるのか」
「え? アメリカじゃ違うの?」
思わず顔を上げて確認してくる顔は人懐こい顔をしていて断己は不覚にもドキッとして慌てて顔を背けて窓から青空を見た。
「さあ、そもそも俺を酔い潰れさせた相手なんてあなたが初めてなんで調べた事すら無かったが、普通にアウトでしょ」
「やっぱりぃ~!! お願いします、どうか一昨日と昨日の件はご内密に、何卒よろしくお願い申し上げます……」
そして再び土下座を深々としていた。つまり彼女は自分の正体に気付いたのでは無く、まだ自分の正体はバレていないという事になる。
「聞きたいのですが……昨日と一昨日のことは全て偶然ですか?」
「え? そう、だけど……違う、違うわよ!! 男に飢えてるけどストーカーなんて私はしないわ!! 犯罪者なんてなりたくないのよっ!!」
今のリアクションが演技なら大したものだが彼女と二回の交流を通して今の一連の行動は本心からだと分かった。ならばと断己は考えた、この状況を利用するべきでは無いだろうかと、そして敵の弱みを握った以上それを利用しない手は無い。
「なるほど……では偶然あなたと俺は出会ったと?」
「ええ……まるで運命の相手みたい……って睨まないでよ、悪かったから~」
別に睨んだつもりは無かったがビクビクしている洸はなぜか言葉責めしたくなる不思議な魅力があった。だから思わず口が動いていた。
「この場合、俺は被害者ですよね? 八重樫先生?」
「はい……その通りです」
「なら俺のお願いをいくつか聞いてもらう事くらい簡単ですよね?」
そう言って断己は洸を見下ろした。元々身長でも圧倒していたが今は土下座しているので完全に空を見上げるような形で二人は対面している。
「じゃあ……まずは……」
ニヤリと笑って断己は完全に無防備となった宿敵を舐め回すように見下ろして口を開いた。
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