第86話 『孤児院』
軍鶏鍋屋本店の来賓室は、ペロッティの苦痛に悶える声で溢れていました。
「おお、ペロッティよ、大丈夫じゃぞ。必ずお前を助けてやるからのう」
ピエタはペロッティの手を取り、彼の安息を祈りました。
丁度そのとき、リョウマが大金を持ってピエタ達の所にやってきました。
「べヒーモスの肝の代金が入ったぜよ~」
リョウマはとても弾んだ調子で言いましたが、ピエタ達の表情は深刻そのものです。
「おまんら、少しは喜べ。20億ジェルになったぜよ」
「何、20億じゃと??」
ピエタはペロッティから手を離し、リョウマに近づきます。
「おまんらはパパイヤンを救ってくれた英雄じゃきに。今回は売買手数料はいらんぞ。全部持ってけっ」
「おお、助かるぞ、リョウマよ。これだけあれば、当分は路銀に困らんで済むわい」
「そうだろう、そうだろう」
リョウマが笑顔で何度もうなづいていたとき、勇者の作ったオブリビオンからアグニとグラウスが出てきて、皆にマガゾに到着した旨を伝えました。
「もう着いたのか。僅か一週間。早いもんじゃのう」
「これからゼントと一緒に聖女という人物を探そうと思います」
「うむ、ワシも行こう」
「僕とマテウスちゃんが残って治療しているよ。皆、早く見つけてきてね」
ルクレティオの優しい言葉に、ピエタは感銘を受け、謝辞を述べると、早速絨毯のオブリビオンを通って、マガゾに入りました。
やってきた王国の東の都市ジャマンダは、建物が荒れ、多くの貧困層が道端で横たわっています。
「これが今のマガゾだ。軍部の連中が、レジスタンスや抗議する住民達を攻撃しているんだ」
合流したゼントは、いつになく感情を込めて言い放ちます。
「ひどい有様じゃのう。して、聖女を探すあてはあるのか?」
「まずは孤児院に行く。そこには俺の昔の仲間がいるからな」
「そうか、では向かうとしよう」
こうして、アグニ達はゼントに案内され、孤児院に向かいました。
たどり着いた孤児院の外では、多くの子供たちが横たわっています。元気に庭で遊んでいる子は極少数でした。
そんな子供達の面倒を看ていたのは、オリエンタルな雰囲気の褐色の肌をした美女でした。
「ポグバ!」
「おや、ゼント?! 久しぶりだね。3年ぶりかい?」
ポグバと呼ばれた女性はゼントに近づいて行きました。
「彼女は誰じゃ?」
ピエタがゼントに女性の事を尋ねます。
「こいつはポグバ。6年前、共に冒険をした仲間の生き残りだ」
「あ、ゼントお兄ちゃんだ~」
元気に遊んでいた子供達がゼントに近づいていきます。
「いつも金を送ってくれて有難うね、助かるよ」
「気にするな。それよりハインはどこにいる?」
「ハイン? 彼女ならレジスタンスのアジトにいるはずだよ」
「アジトだな。解った。」
「何かあったのかい? ゼント」
「俺の今の仲間が不治の病にかけられてしまったんだ。治せるのはハインだけだろう」
「そうか、・・・あんた、なんかいつも大変だねぇ」
ポグバは心配そうにゼントを見つめました。
ところが、ゼントの意外な素行を知った一同は、驚きの表情をしていました。
「どうした? お前ら?」
「いや、まさかゼントよ、この孤児院に寄付するためにも金を稼いでいたのか?」
「ああ、そうだ。それだけじゃないがな。それがどうかしたか?」
「いや、まさかキミがそんな男だったとは思わなかったからね・・・」
ピエタとグラウスが驚いたような表情をしています。
「ねえ、ピエタ様。私、この孤児院に有り金を寄付したいわ!」
突然のアグニの申し出に、ピエタは声を裏返して叫びました。
「突然何を言い出すんじゃ、アグニよ! せっかくの大金をっ」
「いいでしょう? 私、この子供達が可哀想で見ていられないんですもの。それにお金なら、お父様がまた送ってくれるはずですわよ」
こうして、アグニの一存で、有り金の20億ジェルの内、15億ジェルを寄付することにしました。
「あなた、こんな大金、本当にいいのかい?」
「いいわよ、ポグバさん。このお金を子供達のために役立てて頂戴っ」
「そうかい、じゃあ有り難くいただくよ」
「・・・すまないな、アグニ。感謝するぞ」
ゼントはアグニに礼を述べました。その予想外の発言に、またも一同は奇声をあげます。
「ゼントが・・・礼を述べてる」
「これはもうじき嵐が来るぞい」
「そんなに珍しいことなんですか?」
ゼントとの付き合いの浅い漣が、グラウスに尋ねました。
「珍しいなんてもんじゃないですよ。あの不遜極まりない男に、こんな一面があったなんて・・・」
「ま、ウチは事情を全部知ってたけどな」
リョウマが未だに立ちながら銃の手入れをしつつ、鼻歌を口ずさみながら漣に言いました。
「もう皆、そのぐらいにして。それより早くレジスタンスのアジトに行きましょうっ」
アグニは皆を促します。
「う・・・うむ、そうじゃのう。して、ポグバ殿、レジスタンスのアジトはどこにあるんじゃ?」
「アジトは軍部に悟られないよう、定期的に変えてるんだよ。今は南西の街、ミエッタの廃屋ビルの地下にあるはずだよ」
「そこに聖女殿がおるのか?」
「ええ。でも彼女、治癒能力を持っているし、医者でもあるから、マガゾ中の人々を治療して回っているんだよ。具体的に、今いるかどうかまではわからないねぇ」
「まあいい、とりあえず、そのミエッタに行きましょうっ」
グラウスが威勢よく声を上げます。
「ええ、行きましょう! ミエッタへ!!」
アグニの一声で、一同はミエッタに向かう事にしました。
唯一ピエタだけは、せっかくの大金を失った事を少しだけ悔やんでいました。
「うう・・・路銀が・・・再び遠のいていくわい」
「ほら、賢者様、早くいらして!!」
アグニに促され、ピエタと一同は孤児院を去っていきました。




