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第36話『石座りの少年、最終回:人間の掟』

ピエタとゼントはビコナの座っていた巨石の所まで戻ってきました。

 まだ石に座っていた少年は、二人の顔を見て、安堵の笑みを見せます。


「二人とも! お父さんは? お父さんを助けてくれたの??」

「・・・貴様の親父は、魔族だった」


 ゼントは感情を押し殺し、単刀直入にそう言いました。 


「魔族・・・そんなことないよ、お父さんは、優しい普通の人間だよ!!」


「いや、違う。人間に対して、残忍な振る舞いを行ってしまったのじゃ」


 ピエタは俯きつつ、そう語ります。


「じゃあお父さんは・・・どうなったの? 生きてるんでしょう? 助けてくれたんでしょう? ねえ、二人とも、答えてよっ」


 ピエタは二人がかりで倒した事を打ち明けようとしましたが、ゼントがピエタの口元を塞ぐように右掌で覆いつくしました。



「もがっ・・・」

「・・・俺が殺した、俺一人でな」

「ゼントっお主、何を、もががっ??」

「なっなんで・・・そんな、嘘だ。酷いよっなんで僕のお父さんを殺したの? 僕の、僕の、僕の大好きなお父さんだよ? 強くて、優しくて、勇敢で、僕をいつも守ってくれたのに、そんなお父さんを、どうして? どうして殺したの??」


 巨石の上から、少年が必死の表情でゼントに食いついてきます。


「他種族を殺めた魔族は必ず殺害する。それが、人間の掟だっ」

「酷い・・・酷いよ・・・お父さん・・・もう、会えないの・・・そんなの嘘だ・・・嘘だーーーーーっ」


 白兎のような肌をした少年は、大粒の涙を流しました。


「・・・ビコナよ・・・」

「ピエタ、もう何も言うな。じゃあな、小僧。せいぜい生きろよ」


 ゼントに手を取られ、ピエタも彼と共に巨石から去り始めました。

 それと同時に、ゼントはビコナから貰った小銭の入った子袋に、あろうことか自らの銭を入れ、彼に投げ返しました。


 ビコナは涙を流しつつ、その子袋を受け取りました。中身を確認する事はしませんでした。元々100ジェル入っていた小銭は、ゼントが入れた分も含めて1000万ジェルになっていたのです。それは、少年が物価の比較的安いガレリア王国で一人で暫く生きながらえるには、充分すぎるほどの大金でした。

 

 ゼントはリョウマから、直属の用心棒、として実に毎月5億ジェルの給料をもらっているのです。


「金は返すぞっはした金には興味無いんでなっ」


 

「まっ・・・待てよ! この、人殺しぃっ!!!」

「なんとでも言えっ」


「・・・殺してやるうっ!! この石から離れて、僕がいつか大きくなって、強くなったら、必ず、必ず、お前を、お前を殺しに行ってやるからなーーーーっ! 名前と顔は覚えたぞっ待っていろーーーーーーっ! ゼントーーーー!!」」


 魔族の血が騒いだのか、悪童の一面を垣間見せた少年は、魔王のような恐ろしい形相をして、離れていくゼントに向かって叫び続けました。


「・・・お前の親父が言ってたぞっ!・・・愛している、とな!!」


 そのゼントの叫びを聞いた少年は深く沈みこむように、父の名を叫びつつ、巨石の上で泣き崩れました。


「僕も愛してるよぉ・・・お父さん・・・お父さん・・・」


「・・・ビコナ・・」

「行くぞ、ピエタ。立ち止まるなっ」

「・・・うむ、そうじゃな」


 こうして二人は少年と別れました。


「スクナは決して悪い魔族では無かった。。。態度を改めねばならぬのは、ワシら人間達の方じゃ・・・」

「・・・安易な同情は、寿命を縮めるだけだぞ」


 性根の優しいピエタに、ゼントは自らを棚にあげて苦言を呈しました。


「あの子は混血児。ビコナはきっとこの先、辛い運命を辿ることになるじゃろう。この悲しみに負けず、馬鹿な事を考えずに、生きていって欲しいのう・・・」

「・・・予め言っておく。もしこの先、本当にあの子供が俺を殺しに来たら、その時は、俺も容赦はできないぞ? いいな、ピエタ?」


 ゼントの言葉に、ピエタはしばし沈黙の後、無言で小さくうなづきました。

 それは、まだ力の制御が上手く出来ないビコナのレベルが、魔族になった父を上回り、とてつもなく高かったからでもありました。


 そしてこのとき、ビコナは深い悲しみがきっかけで、予言という特殊能力に目覚めていたのですが、彼がそれを知り、自らの運命を変えていくのは、まだ少し先の話です。 

 

「・・・すまんのう。お主だけに咎を被せてしまった・・・」

「構わん。用心棒は、汚れるのも仕事だ」

「さっきは酷い事を言ってしまって、すまんかったな」

「気安く謝るな。ジャスタール1の大賢者なんだろ? 賢者なら賢者らしく、もっと堂々と振舞えっ」

「ゼント・・・」


 ピエタは両方の瞳から大粒の涙を流し、頬を濡らし始めました。

 

「泣くな、ピエタっ弱虫かっ」

「・・・ううっすまん、すまんのう。あの子のこれからの未来を想像したら、涙が・・・涙が・・・」

「下らん感傷だ。そんなものは捨てた方が身のためだぞっ」

「うむ・・・そうじゃの。戻るぞい、皆が待っておるわ」

「そうだな・・・もうこんな無益な戦いは、二度と御免だからな。それに、酷く眠い・・・」


 果たして本当にこれで良かったのでしょうか?

 もっと他の解決策はなかったのでしょうか?

 せめて自分達がもう少し早く到着していれば・・・。

 ピエタは心の奥に深い十字架を背負いつつも、それ以上考えるのを止めました。

 しかし、この非情なる結末を一番悲しんでいたのは、他ならぬゼント・クニヌシでした。若き彼もまた、心に傷を負ってしまったのです。

 そしてそれが、ゼントに後に更なる悲劇を呼び起こす結果になるのですが・・・。

 こうして、二人は仲間達の眠っている野営地へと戻っていきました。

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