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第208話『虹色の勇者と絶望の刻part2:この戦いが無事に終わったら・・・』

 川沿いを行く道中の砂利道で、勇者たちは牙を生やし、棍棒を持ったオーク二体と戦闘状態になりました。

「連携攻撃をされるとまずいっ漣、前に出て一人を引き付けろ。ハッサムはもう一人と間合いを詰めてまずは一撃入れろっスイータはハッサムを支援してくれ」

 勇者が接敵した直後に仲間達に的確な指示を出し、漣とスイータ、ハッサムを中心として直接攻撃し、回復術士のウパは後方に下がって回復、魔法使いのカリーは勇者の傍で火属性の中級魔法イグナ・グラーを撃ち続けていました。勇者ルクレティオは挟撃を警戒し、後方に陣取っていました。


「みんな、こいつらのレベルは見えないが、だからといって俺達より強いとは限らない。落ち着いて、まずは敵の動きをよく見ろ。奴らの動きは単調だ、俺達なら充分対応できるぞ、臆せず行こう」


 勇者の号令に、一同は、了解、と言葉を合わせます。その間も、勇者は側面の木陰から襲い掛かって来た大型なオーク一体を強烈な蹴りの一撃で仕留め、戦闘後に皆の体力を全回復させました。そして更に「この世界は謎が多い。毒があるかもしれないから、植物には不用意に触らないように。ここから先は、俺に任せてくれ、いいな」と続けます。その後も襲い掛かって来るオークの群れを、勇者の作戦通りに仲間達は的確に動き、処理していきました。


「ふう、流石ルクレ、頼れるな」

「私達の勇者様ね」

「褒め言葉は後にしてくれ。今は、その先のことを考えよう」


 戦闘に勝利し浮かれる仲間達の緩んだ空気を、精悍な顔つきの勇者は引き締めます。そして勇者と仲間達は、森の奥へと突き進んでいきました。


辿り着いたブリジン王国の城が見下ろせる崖で、勇者ルクレティオ一行は、崖の端に座り、各々物思いに耽り始めました。


「恐らくもうブリジン王国領地内だと思うが、怪物も、魔族の住民の影すらなかったな。これなら容易に城にたどり着けるだろうぜ」


 楽観的なハッサムは、明るい口調で自分たちの勝利を確信したように勇者に捲し立てました。ですが、勇者の心の内は違います。


「・・・奇妙だ。魔族側は、俺達がやって来る、ということは充分推測出来ているはず。どこかの地点で防衛拠点を作っているはず、と考えていたのだけれど、そのような物は一切存在しなかった。ここまで、魔族一体にも遭遇しなかった」


「都合が良いじゃねぇか」

「・・・ひょっとしたら、俺達を、城に誘い込んでいるのかもしれない」

「ルクレ、お前は頭であれこれ考えすぎなんだよ、気楽に行こうぜ? これまでずっと上手くいってきたんだ。最後も上手くいくに違いない」

「だといいんだけど。とりあえず、ここは魔族の最重要拠点。油断は禁物だぞ、ハッサム。長居はせず、目的を果たしたら、俺の特殊能力、異世界転移を使用して、直にこの中央世界から立ち去ろう」

「了解。ま、お前がいれば、何も問題ないさ。頼むぜ、伝説の勇者様」


 二人が崖から城を見下ろしつつ会話をしていたとき、魔法使いのカリーは、これまでの戦いで、唯一戦死した、双子の姉である賢者マリーの写真の入ったロケットを、じっと眺めていました。勇者と同様に作戦立案と、魔法による攻撃、回復等の支援を行えた、パーティーの中核であったマリーが戦死したことは、多大なる損失だったのです。沈み込んでいるカリーの様子を見たルクレは心を痛め、彼女に優しく声をかけます。


「気にしないで、ルクレ。あなたのせいじゃない。これが私達の、戦いだもの。これまで一人しか戦死者が出なかったことの方が奇跡的なぐらいよ。この最後の戦いを終わらせて、元の世界に戻ったら、しっかりとお姉さんを弔ってあげるつもり」

「・・・ああ、そうだな。キミのことは、俺が必ず守るから。お互い生きて帰ろうな、カリー」

「うん。よろしくね、勇者様」


 勇者とカリーは見つめあい、互いに笑みを浮かべます。二人は少しだけ良い関係になっており、お互いに意識しあっていました。そんな二人の様子を、勇者の相棒、漣・エローレ・雪定は、切なげな表情で眺めていました。


「おい、漣っ無事に元の世界に戻ったら、俺たち、お茶でもいかないか」


 唐突に愚かな事を言う半裸の武道家ハッサムに、漣は困惑し、強く反発します。


「もうっハッサムっ今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょっそもそも私には」


 言いかけた途端、漣は頬を赤くし、ハッサムから視線を背けました。その視線はルクレに向けられています。


「そうか、まあ確かに、今はそんなことを言っている場合じゃあないもんな。返事は戦いが終わってから、聞くことにするぜっ」


 ハッサムは、何故か勝利を確信したように高笑いを始めます。


「まあまあ二人とも、落ち着くのだ。元の世界で甘い物さえ食べられればそれでいい。早く理を倒して、元の世界に帰ろう」


 巨大な斧を肩にかけている、幼いながらも力のある女戦士、スイータは、大きな口を開いて戦いが終わった後の甘味を想像し、早くも唾液を出していました。


「もう、スイータったら。本当に食いしんぼうなんだから」


 漣は苦笑いしながら、小柄なスイータのおでこを、指で軽く突きます。


 そのときでした。勇者達の上空を、巨大な青い球状の物体が通り抜けていったのです。


「みんなっ見てっ理よっ」


 ウパがブリジン城へと帰っていく理を指差し、叫びました。


「よし、見つけたぞっ最後の魔王、理!! 行こう、皆。これが最終決戦だ。」


 勇者の激に、一同は声を上げ、そして山道を下り、ブリジン王城へと向かっていこうとしました。


「と、その前に、しっかり魔綬をかけておこう」


 一同は肩透かしを食らい、そしてルクレを皆で激しく責めたてます。


「ごめんごめん。じゃあ、まずは漣から」



 勇者はそっと、右掌を漣の艶かしい大きな胸の手前まで近づけ、女神にもらった新しい魔綬をかけ始めました。漣は頬を染め、適温の風呂に身を委ねているような魔綬独特の心地よさに、少し変な気持ちになったのか、恥ずかしそうに、声を漏らさず微かに身悶えています。


 それから三十分後、漣への魔綬をかけ終わった勇者は、他の仲間達にも魔綬をかけていきました。女性は正面から、男性は後ろから術をかけるのが魔綬の極意です。手や足などにかけてしまうと、全身に効果が行き渡らず、力が限定的になってしまうためです。 



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