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第203話『恩寵』

 アグニ達は迷宮内にあるゴブリン達の集落の一室で、ペロッティの自慢の料理に舌鼓をうちつつ休息していました。


「ペロッティの料理は最高ね。美食の国で生まれた私の舌にもピッタリ」


 漣はペロッティの作ったスープとキノコの炒め物に気分を良くしていました。


「美食の国ですか、興味深いですね。」


 ペロッティも興味深々に漣が生まれた国に想いを馳せます。


「ガレリアと似てる、街並みまで一緒。私の祖国も移民国家だったのよ」


「そうなのですか。」


「ところでピエタちゃん。前から気になってたんだけど、どうしてピエタちゃんは自分が純潔の血の持ち主だって解ったの? 普通気がつかないでしょう」

 

 勇者はキノコを頬張りながら、瞳を閉じ静かに瞑想していたピエタに質問しました。少し間をおき、大賢者は答えます。


「ワシも生まれたときは気がつかなかったが、周りは気づいてたようじゃ。純潔の血の持ち主は産まれてからの成長が速くてな。生後1カ月ほどで歩き出し、言葉も喋るようになる。じゃがワシ自身が純潔の血を引いてることを実感したのは、本格的に戦い始めてからじゃ」


「戦い始めてからって、どういうこと」


「純潔の血の持ち主は、戦闘を重ねることで強くなる速度が、他の人間よりも爆発的に速い。更に自分より強い敵と戦えば戦うほど強くなっていく、そういう血なのじゃよ」


「なんか恐ろしいね、戦うために産まれてきたみたいな。ひょっとしたら、神の子や神託の子よりも強いんじゃない」


「そうじゃな。中途半端にレベルだけが高い神の子等よりは、純潔の血の持ち主の方が圧倒的に強くなる素養はあるじゃろう」


 ピエタは頬をかきつつ、勇者にそう告げました。


「やっぱり、神の子って大したことないんだね。僕はこの中央世界に来てから三年間、象牙の塔に篭ってたから、俗世間には疎いけど、オフェイシスには強い人たちが沢山いることはわかったよ。でもレベルという強さが完全に視覚化されている世界で、リョウマちゃんみたいにレベルの低い人がハインちゃんのようにレベルが高い人よりも強かったりするのはよくわからないね。レベルの高さと強さは必ずしも比例するとは限らないってことかな、イマイチ論理では解明しきれない部分だけど」


 勇者の疑問に、大賢者が再び答えます。二人の会話を、他の仲間達も聞き入っていました。アグニも、柄にもなく真面目な顔つきをしています。 

 

「・・・ふむ、お主らには、教えておいた方がよいであろうな」


 皆の顔を見た後のピエタの言葉に、一同は身構え、息を飲みました。



「ワシがジャスタールにいた頃、国内では、とある現象が研究されておった」


「それってどんな研究」


 と、勇者が誘導します。


「人間や異種族が、他種族の命を奪ったり、魔物などを討伐したとき等に、新たなる技や魔法、特殊能力、体質が身に付く事象を研究しておったのじゃよ」


「へえ。それで、理由は解明されたの」


「戦闘を行うことで、ワシらの肉眼では視認できない未知の力を吸収しているらしい、ということまでしか未だに研究が進んでおらぬ。結局ジャスタールでは、その生物が吸収する未知の力を、恩寵、と名づけた。その恩寵は、素のレベルが低ければ低いほど多く獲得することができ、強力な魔法や特殊能力、体質を身につける可能性が高くなるようなのじゃ」


「ということは、僕達がトガレフを倒して一気に急成長したのは、とてつもない量の恩寵ってのを得たからか」


 勇者は納得したように言葉を紡ぎだしました。グラウス、漣、ペロッティは真剣に話を聞き、理解しましたが、ピエタの話の理解する知性が無いアグニは頭の中が煙に飲み込まれ、腑抜けた表情に戻り、お嬢様らしくスープをスプーンで上品に食し始めます。

――恩寵・・・。おん・・なんですって? うん、私には言葉の意味がすでに理解できないし、難しすぎて意味が解らないわ。理屈なんてどうでもいい。私は考えない、感じる女。女の勘で、自分が悪と感じた相手は、レベルを上げるだけ上げて一撃でぶっ飛ばす。正義の炎で汚物は焼却、そっちの方がわかりやすくていいじゃない。

 と、アグニは余計な事は考えない、という結論に至ったのでした。


「うむ、おそらくはそういうことじゃろう」


「そっか。それで、何でピエタちゃんがそんな話を僕達にするのかな」


 意地悪い表情でにやつきながら、ルクレはピエタに顔を少し近づけてます。


「ふん、全く無粋な輩じゃのう。お主は性格は褒められたものではないが、うつけではない。とっくに察しておるじゃろうが」


 唇を尖らせるピエタに、勇者はしたり顔をみせます。


「はいはい、わかってますよ。ようするに、その恩寵って力を視覚化できるような能力を僕が作ることが可能かどうかを、ピエタちゃんは知りたいんでしょ」


「うむ、その通り。これは勇者であるお主にしか頼めんこと。やってくれるか? 勇者よ」

 

 勇者はうなづき、さっそく可愛い妖精のキールを呼び出して、これまで聞いた話をぶつけました。女の子のような見た目ですが無性のキールは渋い表情を浮かべます。

 

「・・・その、恩寵、神の恵みって奴は僕もわからないけれど、命を奪ったときとかに、体に吸収される、その恩寵ってのを視覚化する能力は、作れないよ」


「作れない?? それは真か? キールよ」


「うん。その手の能力は、既に誰かが所有してる」


「なっなんじゃと?? 一体誰じゃっ」


「そんなのわからないし、わかってても教えないよ」


 キールはふくれっ面で腕組みし、その後勇者の手の甲に吸い込まれていきました。


「ありがと、キール。今度チョコレートを食べさせてあげるね。どうやら、その恩寵、に関しては謎のままって事だね。しかもこの世界のどこかに、そいつを視覚化出来る奴が存在する、と。その人物が極悪人じゃないことを祈りたいね。」


 ピエタは「無念」と大層悔しがっていました。その能力は、すでにアグニ達が出会った、とある人物が手中に修めていました。

 ピエタの祖国、賢者の国ジャスタールに帰還し、ゼントが尊敬していた男、マクスウェルから体と記憶を奪った者、魔族の長ザンスカールの息子で、スナイデルの実の兄、アンゼルという名の男です。

ジャスタールのとある森で恩寵を蓄えた者を殺生し終えたアンゼルは、その亡骸から湧き出てくる湯気のような力を視認し、体内に取り込んでいました。生物が保有する恩寵を視覚化し、その恩寵を奪い取れる、自分にその力があることを知ったアンゼルは、酒池肉林を楽しむ蛮族のように笑いが止まらない状態でした。

「問題ない。問題ないぞ。出来る。この私なら、出来る。この混迷し、多様化する世界を一つの種族、一つの思想、一つの言語、一つの文化に統一することが、この私になら、出来る。多様な種族、多様な思想、多様な言語、多様な文化。多様な国家。多様が世界を悪戯に混乱させ、オフェイシスは着実に破滅に向かっている。誰かが世界を解りやすく、一つにしなければならない。そうすれば、争いが一切起こらない、誰も泣かない、誰も傷つかない、幸福しかない世界を作ることができるはず。この私こそが、このオフェイシスに真実の平和をもたらすことが出来る」


 アグニ達はまだ、後にそのアンゼルが世界中に拡散させる悪意溢れる思想と、それによって引き起こされるオフェイシスの混乱に無知でした。大賢者のピエタがアンゼルの存在を認知し、その危険思想を認識し、対処しようと動き出すのは、もう少し先のお話しです。



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