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第201話『迷子の聖女と魔族の首長』

 禁朱城の城内は四足歩行の牙獣と厳つい角を生やし、鈍器を持った怪物が多数徘徊していました。その怪物達の平均レベルは7万を超えています。リョウマ達はミヨシの隠密で敵を避けつつ、道中にある宝箱を彼女が運を上げる激運を使用し、洗練された無駄のない動きで次々と開いていきました。中から出てきたのは、そこそこの希少価値の高い道具や素材ばかりでした。希少価値の高い宝を見て、リョウマはご満悦です。


「宝石で装飾された剣に、純金製のオルゴールとか、何にもしてないのに、やたら高くうれそうな宝ばかり出ますね」


「ウチの激運のおかげぜよ」


 リョウマはピッケルに自らの特殊能力、激運について説明しました。


「へえ、そんな便利な能力が。リョウマ様にはピッタリですね」


 ピッケルは感心したようにうなづきます。と、そんなときでした。後方にいたハインが、ピッケルに能天気に話しかけてきたのです。


「ね~ね~ピッケル~聞いてもいい」

「断る」

「いいじゃん、教えてよ、ピッケル教えてよ」

「ったく、あなたはさっきから好きな食べ物とか初恋相手とか、教えて教えてって、

一体今度は何を教えればいいのよ」

「今度は真面目な教えて、だよ。回復専門術士の仕事って、大変なの」

「大変に決まってるでしょ。生命線だからね、常に気が抜けないよ。今も緊張してるんだからさ」

「やっぱそうなんだね。私もレベルが4万2000あるから、回復専門術士になりたくて、今結界術を必死に勉強してるんだけど、中々上手くいかないんだよ」

「ふーん、あなた、レベルだけは無駄に高いのね、無駄に。世界に四人しかいない回復専門術士になりたいとか、この私を前にして大口叩くとは、あなたって、高邁な容姿なのに、意外と肝が据わってるわね。ま、結界術は超高等技術だから、一朝一夕にはいかないよ。完璧に習得するのに、最低でも10年はかかると言われているんだ。私と同期のマテウスは、幼い時から何故か使えたんだけどね。自分で言うのもなんだけど、才能って奴かな、ふふん」

「へえ~そうなんだ、そういう自慢、自分でしちゃうんだ、ピッケルって、凄いね。」

「なんか妙に棘を感じるんですけど」

「それは邪推だよ、心からの言葉だって。ピッケルも凄いけど、マテウスも凄いんだね。でもね、勇者様は、マテウスに結界術を教えられて、直ぐに完璧に覚えたんだよ~」

「勇者? それって、ひょっとして大魔王理を倒したっていう、あの伝説の勇者様のこと」

「そう、その伝説の勇者、名前はルクレティオ様、だよ」

「あなた、そんな偉大なお方と面識があるの? というか、まだこの世界にいたんだ」

「ちょっと事情があるみたいでさ、ちょっと前までマガゾに来てたんだよ。一緒に冒険もしたよ。すっごいハンサムで、べらぼうに強くて、ノリのいい面白い人だった」

「そ、そうなんだ。流石勇者様だけあって、完璧超人ね。でも、幾ら偉大な勇者様といえど、結界術を完璧に習得するには膨大な魔力と、圧倒的なレベルの高さ、そして卓越した戦闘技術に頭の良さも必要よ。もしその話が本当なら、それこそ流石勇者様って感じね。その勇者ルクレティオ様に、ぜひ会ってお話しを聞いてみたいな」


 二人が話し込んでいるところを、ミヨシが黙らせました。何やら額に脂汗をかいています。


「二人とも、小声で喋って下さい。音は消せませんから、敵に感づかれてしまいます」

「あ、ごめんね、ヒヨコ君」

「ミヨシです」

「たしかにミヨシって、ヒヨコっぽいよね。気に入ってるの、その髪型、ダサいよ。それじゃ女の子にモテないぞ」

「ほっといてくださいっ」

「そか? ウチはその髪型、ミヨシ君っぽくてよいと思うぞ」

「スセリ様、ありがとうございますっ」

 愛しのリョウマに自分の髪型を好意的に受け止められ、ミヨシの心は思わず綻びました。

 割り込んできたリョウマに押し出されるようにハインがすっと後方に下がり、その際ふと右掌を壁に貼り付けてしまいました。そのとき彼女は、肉眼では視認できない壁の小さな突起物に触れていました。それは、禁朱城に数多く設置されている透明な罠のスイッチの内の一つです。


 聖女の立っていた地点に突如小さめの魔法陣が現れ、周囲の空気を激しく吸い込み、聖女の両足までも吸引します。ハインはたまらず甲高い悲鳴を上げました。怪物達がその高い声に気づき、リョウマ達の方を向きますが、近寄ってまでは来ませんでした。しんがりにいたリッヒが接近し、聖女の腕を掴もうと手を伸ばしましたが、間に合わず、彼女は下の階に落ちていってしまいました。落ちていくハインのこの世の終わりを見たような表情を目の当たりにしたゼントは、呆れたように手で額を押え、ふう、とため息をつきます。  


「大変です、このままでは彼女が怪物の餌になってしまいますよ」


 ミヨシは小声ですが、酷く慌てた様子でリョウマに伝えます。


「ハインの奴、肥溜めに全身つっこまれたときみたいな間抜け面してたな」


 ゼントが真顔で言い放った珍妙な形容に、リッヒはハインの顔を想像し、吹き出しそうになりましたが必死に堪え、「はっハインを助けないと」と言いました。


「むむう・・・よし、ここは、一旦ウチらも下の階に戻った方がよさそうだな」


 リョウマは酷く困った様子で顎に手を置いていました。


 柔軟性のある肢体をしていた聖女は一瞬動揺しましたが頭を切り替え、下の階のただっ広い空間の真ん中に体を捻らせ、上手く着地していました。ですが、そこは怪物達がひしめき合う死地です。ハインの存在に気がついた大量の怪物達が、彼女に襲い掛かろうと、涎を垂らし、身構えます。


 聖女はたまらず尻餅を付きました。


そのときでした。ハインの視線のはるか前方から、銀色で長めの髪をした美青年が、大量の怪物達を、柄に両刃の剣がある得物で次々と切り伏せて駆けつけてきたのです。

 その男は、魔族の首長、ザンスカールでした。


 怪物達は事切れたものの、床には夥しい量の血が滴っています。凄惨なる惨殺の光景を目の当たりにしたハインは、助かった安堵感よりも、血を流すことを禁ず、という禁朱城のルールを無視したザンスカールの行動の方に戦慄したのです。


「お嬢さん、大丈夫かい」


 怪物達の殲滅が終わったザンスカールは、尻を床についているハインに近づき、笑顔で手を差し伸べてきます。


 しかしハインはザンスカールに違和感を覚え、とっさに勇者に教えられた自らの特殊能力、見極めの眼差しで彼を見ました。その結果、灰人、という言葉が浮かび上がってきたのです。対象者が善人か悪人を見分けられるこの力は、相手を白か黒で識別できます。が、ハイン自身もこの能力のことを深くは知らず、灰人、という言葉に困惑しました。善人でも、悪人でもない、ということかな、程度にハインは思考を巡らせましたが、その行動から、警戒した方がよい相手であることだけは理解出来ました。

 


「どうしたんだい? お嬢さん。ここは危ない。よかったら、暫く僕と行動を共にしないか。宝は山分け、外に出たら花畑にも連れて行ってあげるし、もしキミが望むなら、甘いお菓子を沢山あげるよ、さあ、こっちへおいでよ」


 一見柔和な表情でそう語りかけるザンスカールの瞳が狂気をにじませていたのをハインは見逃しませんでした。直に立ち上がると、


「助けてくださって、本当にどうもありがとうございます。ちょっと急いでいるんで、さようなら」


 と、勇者に負けず劣らずの天性の逃げ足の速さと、医者故にずば抜けた危機察知能力と観察眼を兼ね備えていた聖女は、お礼もそこそこに、全力疾走してザンスカールから逃走しました。


「この僕の誘いを断るなんて、見た目に寄らず、剛毅なお嬢さんだ。ま、獲物は取ったし、そろそろ引き上げるかな」


 床に転がっていた赤毛の牙獣種の頭部を手づかみして覗き込むと、ザンスカールは怪しい笑みを浮かべ、腰にくくりつけます。怪物の脳は、ニニギノミコトの好物の一つでした。そして魔族の首長は、ハインとは別方向に悠然と歩きだしました。

 彼は、この禁朱城の常連であり、城内で血を流すことが禁じていることは理解しています。その上で、故意に流血させ、宝の希少価値を高め、宝をかき集め、更に修練として、単騎で城主を倒し続けていたのです。禁朱城は、単騎、もしくは少数で挑めば挑むほど新たな能力を身に着けやすくなり、強くなれる場所でもありました。ザンスカールは禁朱城の秘密を知り、自らの戦闘能力を劇的に高めるための修行場として活用していました。後にアグニと仲間達も禁朱城の仕様を理解し、単騎で挑み腕を磨くようになりますが、それはもう少し先の話です。



 



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