第173話『ギロチン』
大賢者ピエタとリッヒ、ハイン、ゼントを除くメンバーは第三勢力のトガレフさえ倒せば、国の平和は保たれる、と楽観的に考えていました。ですがそれは勘違いです。事態はもっと複雑怪奇であり、アスタロト率いる軍事政権と新政府との間では、既に覇権争いの鍔迫り合いが始まり、一部地域では小規模な軍事衝突も起こしていました。リッヒは自分が何のお咎めもなく罪を逃れることは出来ないであろう、ということを理解していました。
そして丁度リョウマがガレリア王との取引を終えた頃、事件は起ったのです。
ハインとリッヒが休んでいる病院内の休憩室に、突如アスタロト率いる王国軍が侵入してきたのです。
「なっ王国軍が、ここに一体なんの用ですか」
「恐れ入りますが、聖女殿には用はございません。用があるのは隣の男です」
「俺だと」
「リッヒ・シュワルツァ。貴様を国家転覆、内乱罪の刑で今すぐに処刑する。王金に護送するぞ」
「え? そんな、何かの間違いです。リッヒを処刑するなんて、間違ってますっ」
「聖女様は中立でございましょう。我々の行いに干渉しないで頂きたい」
乗り込んできた部隊長はそう言うと、椅子に座っていたリッヒを数人で拘束しようとします。王国軍の兵士達が円形に陣を組んで取り囲みましたが、彼は一切の抵抗をしませんでした。
「駄目だよリッヒ、抵抗してっそんな人たち、ぶちのめしてっ」
「いいんだ、ハイン。こうなることは、何となく予想していた。操られていたとはいえ、俺が国を陥れていたのは事実だからな」
そう言って、リッヒはハインに儚げな笑みを浮かべると、軍部に抵抗することなく、王国軍に連行されていってしまったのです。
レジスタンスに敗北し、トガレフの洗脳から逃れた王国軍は、今回の一件、国を騒がせた獣教の首謀者をリッヒに仕立て上げ処刑することで、国民の支持を得ようと考えていました。
「大変だっもう、どうしたらいいの?? 賢者様は負傷してるし、ペロッティ君は不在だし。ゼントは今パパイヤンだし~」
ハインは頭を混乱させてしまい、まともな判断が出来なくなってしまっていました。
それから実に二十分ほど経った後、アグニとライカールト、そして師匠のグラウスの三人が、その日の修行を終え病院に戻ってきます。
「もう、本当にライカールトったら斧、斧、斧って・・・師匠は魔法、魔法、魔法・って・・私もう疲れましたわ~」
「まだまだですよ、お嬢様。これでもまだ半分です。指南したい事は山ほどあります」
「そうだぞ、アグニ。お前はまだまだだ」
体に鉛のような疲労を感じながらも楽しそうに談笑するアグニ達をエントランスで見かけたハインは、彼女達に駆け寄ります。
「アグニ~~ライカールトさーーん、グラウスっ」
「あら、どうしたの? ハイン」
「リッヒが、リッヒが王国軍に、国家転覆、内乱罪で王金で処刑されるって、連れて行かれちゃったのっ」
ハインは大粒の涙を流しながら、アグニに抱きつき、訴えかけます。
「一体どういう事情でございますか」
ライカールトは眉をしかめ、冷静に事態を把握しようと努めました。
「わからない・・・お願い皆、リッヒを、リッヒを助けて~~」
「勿論よっ行くわよ、ライカールト、師匠ッ」
「ああ、行くぞ、アグニ」
「行きましょう、お嬢様っ」
こうしてアグニ達は、護送されたリッヒを追って首都王金へと魔法の絨毯で向かっっていったのでした。
それから少し遅れて、マガゾに戻ってきたゼントと、ピエタの病室にいた漣、勇者は院内で合流し、病院の職員達から事件を聞きました。
「そんな・・・嘘でしょ」
漣はその事実に、動揺を隠せないといった調子です。
「ゼント、僕も王金へ行く。一緒に行こうよ」
その場にいた勇者が、ゼントに毅然とした眼差しで語りかけます。
「ああ、ここからならそう遠くない。全力で走るぞっ」
マテウスとピエタの治療を交代していた勇者と漣も、共に三人で王金へと急行しました。
そしてアグニ達と共に王金に向かっていたハインは、魔法の絨毯に乗りながら、聖女の祈りを使用したのです。
その祈りは、リョウマをマガゾへと送っている小竜に届きました。




