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第172話『スセリビメの秘策』

 さっそくリョウマが風圧で乱れた墨のように黒い前髪を整えながら玉座の間に現れました。


 玉座では、スセリビメを歓迎する様に多くの兵士たちが隊列を組み、国家を熱唱しています。


 ガレリア ガレリア 美しき 我が国土

 血を流せ 命捨て 雷神の如く敵を討て

 命が尽きるそのときは 愛する領土で血を流せ

 

 雷神タケミカヅチを主宰神として崇めるガレリア王国の兵士達は、武の国ラズルシャーチに負けず劣らず血気盛んです。


「相変わらず、ガレリアの兵隊は好戦的だな・・・」

 

 ガレリア国家を聴きながら王の前にやってきたリョウマは、国王の前に膝を付きました。


「おお、これはこれはスセリビメ。一年ぶりでございますな。以前は我が国の問題を解決していただき、ありがとうございます。その後調子はいかがです? パパイヤンは順調に発展を遂げているとムツ殿から伺っておりますよ」


「国王。申し訳ありませんが、本日、私は談笑をしにここに来たのではございませぬ」


「う、うむ。まっまぁそうでしょうな。件の兵士の話で来られたのでしょう?  その、・・パパイヤンの事情は私も把握おります。しかし我がガレリアも、定期的に魔族からの襲撃を受ける立場。王都陥落を死守するために、これ以上の兵士を派兵することは、とても出来ないのが実情なのでございますよ」


 その後、ガレリア王国の国王、シュンガクは、苦虫を噛み潰したような表情で、自国の兵士の人材不足と魔族の脅威をせつせつとスセリビメに伝えました。その話を聞いていたリョウマは、徐に口を開きます。



「シュンガク公の言う事は、至極もっともにございます。私が王の立場だったら、この現状で、パパイヤンに2000もの兵を派兵するなど致しませぬ。この国の窮状は、この私も重々承知いたしておりますよ。その上で、今回は、偉大なる我がガレリアにとっても、我がパパイヤンにとっても、お互い有益になる取引材料をもってまいりました」


「取引材料? それは一体どんなものでしょう」というシュンガク公の問いかけに対し、リョウマは「こちらでございます」とカバンから、滅びゆく賛美歌の入った無明の破片を一つ取り出し、手渡しました。興味深げに触りまくる国王に、彼女はその詳細を説明を始めます。



「無明の破片と言って、魔法を封印する、特殊な道具にございます。そしてこの破片の中には、伝説クラスの神魔法、滅びゆく賛美歌イグナ・エル・フラーレが封印されています。これ一つ使えば、なんと! レベル4~5万程度の魔族でもっ実に100匹程度は楽に殲滅する事が可能になるのでございますよっ」


「なんと、それは真ですか? スセリビメっ」


 そのあまりにも衝撃的な事実に、シュンガク公は目を丸くしました。


「真にございますよ、シュンガク公。そして私は、この無明の破片を、現在一万個程所有しております。この一万個の無明の破片を、只で献上する代わりに、我がパパイヤンにレベル1000から5000前後の兵士1000名と、彼らを指揮する者を一人駐屯していただきたく存じます。この破片さえあれば、ガレリアは王都陥落を死守でき、魔族の軍勢や怪物討伐が楽になって良し、パパイヤンは兵を手に入れられて良し、まさにお互い徳になる取引と言えるのではないでしょうか」


 その後、リョウマはグラウスに教わったとおり、シュンガク公と側近の大臣達に、無明の破片の使い方、範囲の絞り方などを詳しく説明しました。

 神のエルーガ状態のリョウマのカバンの中のアイテムは、倍倍に増えていきます。2つに分裂したら次は4つ。更にその次は8つという具合です。


「う・・・・うむ。なるほど。確かにその通りですな。しかし、そんな大層な物を、本当に一万個も無償で提供していただけるのですかな」


「勿論でございます。また、万一在庫が尽きた際は、それ以降は私どもも商売ですので、お国のために、一つ特別に、破格の50万ジェルでお売りいたしますっ」


「うむ、うむ。流石スセリビメ、いつもながらお見事ですな! その取引、乗らないわけには参りませぬ。おい大臣よ、大至急第三討伐委員会に連絡して、レベル1000から5000ほどの兵士1000名を、パパイヤンに派兵するように手配しろっ」


「ご決断頂きありがとうございます、シュンガク公」


 リョウマはシュンガクに深々と頭を下げました。


「礼を言うのはこちらの方ですよ、スセリビメ。それと司令官に関しては、一人心当たりがございます。大臣よ、ライハールを呼んでまいれ」

 

 シュンガク公の言葉に大臣が「はは」と一礼して動き、その後、一人の赤い髪をした、軽鎧を身に纏う美少年が呼ばれ、王の間に姿を現しました。


「お呼びでございますか、シュンガク公」


「ライハールよ。突然で申し訳ないが、そなたにパパイヤン駐屯兵の指揮を託したい。」


「パパイヤン・・・ミネルバ州にですか? この私で、よろしいのでしょうか」


「ああ、お主が一番の適任であろう」


「承知しました」


 ライハールはシュンガクに傅きます。そして視線をリョウマに移し、驚愕の表情を見せました。彼の中で、2年前のミネルバ州動乱の記憶が蘇ったのです。その際に、ライハールはガレリア軍の治安維持部隊の指揮を執り、ミネルバ側のリョウマ達を目撃していたのです。一方、リョウマはどこかで顔を見たような気がしたのですが、忘れっぽく、中々思い出せません。そしてはっとして、王に彼のことを尋ねます。


「シュンガク公、このお方は、2年前のミネルバ州動乱のときに、ガレリア軍の指揮を執った、あの」


「ええ。この男、ライハールは、我がガレリア王国第三討伐委員会、討伐騎士団治安維持部隊の副隊長補佐で、剣も使える回復専門術士でございますよ。王室近衛軍名誉総隊長、ライカールト殿とは従姉妹同士なのです」


 自らが知っているライカールトとライハールとの関係を挙げたシュンガク公の発言に、リョウマは目をひん剥いて驚きました。


「お久しぶりですね、スセリビメ様。私のことは、まだ覚えておられますでしょうか? 以前はわが国の内紛を解決して頂き、ありがとうございます。私はリオネル・ライハールと申します。以後お見知りおきを」


 ライハールのレベルは、67521もありました。マテウスに勝るとも劣らない、世界4大回復専門術士の一人です。


「本当に彼ほどの人材を駐屯させてもらっても良ろしいのでしょうか? シュンガク公」


「構いませんよ、スセリビメ。これだけの物を只でいただけたのですから、我が国としても、それなりの兵士を出さないといけませんからね」


「ありがとうございます、シュンガク公。して、駐屯までにはどれぐらい日数がかかりますか?」


 リョウマの問いに、ライハールが答えました。


「この私には、空中浮遊という特殊能力がございます。大多数の人や物資を、空を飛んで運ぶ事が可能です。その能力を使えば、他の者達の準備もありますが、遅くとも三日程でパパイヤンに着けるでしょう」


「空中浮遊? そんな能力が」


「ええ。ライハールなら、パパイヤンの治安維持程度は造作もなくやってくれるでしょう。ですが、この男だけは、有事の際は我が軍に戻させて頂きますよ。貴重な戦力でございますからね」


「勿論でございます」


「スセリビメ、今回は非常に良い取引でありました。もし無明の破片が尽きる事があったら、そのときはぜひ我がガレリアを最優先にして売ってくだされ」


 こうして、ライハールはスセリビメに一礼をし、そして旅支度の為、その場を去りました。


 その後リョウマにシュンガク公から思わぬ申し出がありました。


「ところでスセリビメ。ミネルバの民達が、ガレリアからの独立を望んでいることは周知でしょう」


「ええ、存じ上げておりますよ、国王。ぐうたら領主のパクパクが部隊を組織し武装決起を始めたときは、お互い肝を冷やしましたね。」


「うむ、そうですな。我がガレリアとしては、スセリビメの進言どおり、いずれ、ガレリア国民投票という形で、ミネルバ州のガレリアからの独立の是非を問うつもりです。」



 パパイアンのあるミネルバ州は、元々は500年前にガレリア王国が軍事侵攻し、領土化した土地です。そのためか、ミネルバ州の民達には、ガレリア人としての意識は極めて薄く、自分たちはミネルバ人である、という自負を持っている民が多くいます。ガレリアが今から4年前に鉄、金、銀、などの資源が枯渇した死地を売りに出したのは、ミネルバのガレリアからの独立の気運を削ぐための政策の一貫でもありました。貧困にあえぐミネルバ州に経済が生まれれば、ミネルバ人の独立の気運も収まるとガレリアは考えたのですが、それは逆の結果となり、今から2年ほど前にミネルバの民達が決起し、独立の為の内戦を起こそうとしたのです。そのときリョウマがスセリビメとして仲裁に入り、国民投票という秘策を駆使し、猛り狂うミネルバ人と、ガレリア王国の緊急事態を平和的に解決させたのでした。


「・・・そうですか。それが正しい選択でございますよ」


「一つお願いがあるのですが、もしミネルバが独立する事になったら、以前あなたがおっしゃられたように、新たなる統治者となり、ガレリアと敵対しないよう、まとめていただけないでしょうか? そうなれば、わが国としても助かるのです。あのぐうたら領主が王になったら、即衰退するでしょうからね」


 シュンガク公の申し出に、リョウマは、


「以前言った通りです。もし独立の日が来たら、このスセリ・サラバナが、まず新たなる王を決める選挙を行い、選挙戦で必ず勝利し、責任を持って統治させていただきます。パクパクにだけは絶対負けませんので、ご安心下さいませ」


 そして交渉が終わると、シュンガク公からの宴の申し出を断り、その足で直にマガゾに戻る事にしたのでした。


「ガレリアからの、独立か。パパイヤンをどうするべきか、ムツと話し合わねばならんな・・・」


 こうしてリョウマは、エントランスで待っていた小竜に乗りつつ、ムツに吉報の手紙を書いた後、再びマガゾ目指して飛び立っていったのでした。


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