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第168話『それぞれの異変』

マガゾ国内の首都王金では、アスタロト率いる軍事政権が、未だに治安維持と称して軍隊を配置しています。物憂げな表情で歩道を一人歩いていたゼントは、兵士達に連行されそうになっている親サラバナ派の住民を見かけました。その住民は腰に剣を携えた青い装束の美男子を見るなり、助けを請います。


「お願いします剣士さん、助けて下さい」

 

 住民の助けに対し、ゼントは辛辣な表情でこう切り返します。


「・・・俺は用心棒、仕事人だ。正義の味方なら、他をあたれ」


 そう吐き捨てて、ゼントは連行されそうになる住民の横を素通りしていこうとしました。兵士達は笑っています。住民は彼のことを、この人でなし、と罵りました。すると剣士は立ち止まり、こう言います。


「言っただろ、俺は用心棒だ。仕事として、金をくれるなら助けてやるぞ」

 

 ゼントは悪い笑みを浮かべつつ、住民を見つめます。察した住民は、後で金は払いますから助けてくれ、と懇願しました。しかし剣士は「悪いが、現金一括前払いのみだ」と吐き捨て、再び歩き出しました。それを聞いた兵士は、運が悪かったな、と住民を嘲ります。顔を青ざめさせた住民は、今すぐ払います、と財布から10万ジェルを取り出し、ゼントに投げつけました。それを受け取った彼は、交渉成立だな、と言い、兵士達に近づいていきます。

 兵隊の一人が、貴様も連行されたいのかっとゼントを威嚇しましたが、その直後、彼の頭上を凝視し、レベルが見えないことに気が付き、戦慄しました。熟達の兵士は、ゼントが放つ威圧感から、手練れであることを理解し、引き上げるぞ、と部下達に告げ、首根っこを掴んでいた住民の拘束を解き、去っていったのです。

 剣士に救われた住民は、ありがとうございます、と礼を述べました。しかしゼントは涼しい顔でその声に耳を貸さず、金を数えています。そして、すぐ脇で佇んでいるボロの装束に身を纏った子供達に視線を向けました。


「おい、ガキ共、これをくれてやるぞ」


 ゼントは子供達に住民から奪った金を投げつけました。それを見た住民は絶句します。


「ちょっと、あなた、何てことをするんですか」

「金をくれとは言ったが、俺が使うとは、一言も言ってない」


 ゼントは美しい見た目に似合わず、ニヒルな笑みを浮かべてそう言い放ち、そしてその場を去ろうと、助けた住民に背中を見せ、歩き出しました。ところが、助けられた住民は、子供達から自分がゼントに渡した金を奪い取ろうと襲い掛かったのです。


「クソガキがっ俺の金だぞっ寄こしやがれっ」

「でも、あの剣士さんが僕達にくれたものだよ」

「馬鹿野郎、さっさと餓死しろ、クソガキどもっ」


 猛る住民と子供達との会話を聞いていたゼントは、ゆったりとした所作で戻ってきて、子供の一人の肩に手を置き、こう言いました。


「どうした、ガキ共。揉め事か? 金をくれるなら、助けてやるぞ」

 

 ゼントのことを知っていた子供たちは、直ぐに助けてっと彼に自分がもらった金を渡します。それを見た住民は恐怖しました。


「と、いうわけでな、オッサン。親サラバナ派だか親サラダバーだか知らないが、子供に手を出すのはよくないぞ」

 

 ゼントから尋常ならざる威圧感を覚えた親サラバナ派の住民は、悲鳴を上げてその場から去っていきました。


「お兄ちゃん、ありがとう」

「気にするな。あいつはサラバナから金を貰って住民達に扇動活動をしてるクソッタレの運動家だ。アスタロト政権の連中に連行されても、文句は言えん。運動や暴力で世の中を変えようとする輩は、例外なく糞だからな。貴様らは、ああいう人間にはなっちゃ駄目だぞ」

「わかったよ、剣士さん」


 そしてゼントは、運動家から奪った金を、優しい笑みを浮かべ子供達に渡し、ゆったりと歩いていきました。

 

  暫くして、ゼントが一人喫茶店のテラス席で、美味しいコーヒーを飲んでいたとき、部下を連れたペイトが、大慌てで彼のところへやって来たのです。


「探したよ、ゼント! 大変なことが起こったんだっ」

「何かあったのか、ペイト」

「禁断の地が悪臭にまみれていて、民や冒険者が次々と倒れていくんだよ」

「悪臭だと」

「うん。何だかとてつもなく臭いらしくて、入り口に、獅子みたいな髪型をした、髭面のオジサンが失神していたらしいんだ」

「・・・・ほう。それで、その男はどうなった」

「直ぐ病院に運んだんだけど、忽然と姿を消しちゃったらしい」


 ゼントは、その男の正体が流浪であることを理解し、頭の中でニヤリとしました。どうやら、あの男の目的は叶いそうにないらしい、と彼は笑ったのです。


「何がおかしいんだい」

「いや、何でも。禁断の地に関しては、捨て置いて構わないだろう」

「そういうわけにもいかないよ。マガゾにとって、あの場所は聖地だ。これから大賢者様のところに行って、知恵を借りてくるつもり」

「そうか、なら、好きにしろ」

「うん。ゼント、この先アスタロト率いる軍事政権と武力衝突が起こるかもしれない。そのときは、仕事を引き受けて欲しい」

「いいだろう」

「頼んだよ」


 言うだけ言うと、ペイトはピエタの入院しているハインの病院へと向かって行きました。ゼントは一人軽く笑みを浮かべつつ、コーヒーを楽しんでいました。


 一方その頃、パパイヤンの議事堂にいたムツに、ミヨシから、とある事件の知らせが舞い込んできました。

 

「キリアンが処刑されたって」

「はい。事情は詳しく聞いていませんが、戦士ギルド内で、内紛が起ったようで・・・」


 それを聞いたムツは、直にリョウマに手紙を書き、自らは戦士ギルドに向かいました。


 戦士ギルド内の広い部屋に入ると、そこにはギルドの構成員達が揉め事を起こしていました。


「あんた達、静まれっ」


 ムツの激を聞いたギルドメンバー達が、一斉に喋るのをやめます。


 丁度そこに、連絡を受けたリョウマと漣も駆けつけてきたのです。


「キリアンが死んだって、一体どういう事」


 漣は悲しみを抑えつつ、落ち着いた口調で構成員達に語りかけました。現在マスター代行を務めていたレイというトカゲのような見た目をした獣人族の男が、徐に独特な低音の声で話し始めます。


「実は、キリアンはマスターの意向を無視し、独断で、ペミスエに3人もの監視を付けていたのです。その結果、3人ともペミスエに殺されてしまって・・・」


「そんなバカなっ遺体が見つかったの」


「ええ。キリアンは、一人で死体を隠し、その事実を隠蔽しようとしていたのですが、死んだ団員の家族から、夫が約束の日になっても帰ってこないと連絡があり、その事実が明らかになりまして、戦士ギルドの掟に従い、毒を飲ませて、処刑することに致しました」


「毒って・・・私は、そんな掟作ってないわよっ」


「キリアンがマスターになってから、彼が作ったんですよ、漣マスター。まさに、自業自得といったところでしょうか」


 どうやらギルドの団員達は、キリアンの言う事を聞かずに、彼は孤立していたようです。


「だからといって、殺す必要はないだろうっこの街じゃ、どんな理由があっても殺人は犯罪なんだぞっあんた達、わかってんのかっ」


 ムツもレイに抗議します。声を荒げるムツに、リョウマは落ち着け、と窘めます。


「自ら責任を取る、というキリアンの意思でもありますから・・・」


 ムツの厳しい詰問に、レイはタジタジでした。戦士ギルドでの不祥事を聞いたリョウマは表情を変えることなく、冴えた脳で思考を巡らせ始めていました。


「おいリョウマ、不味いよっ今ここで戦士ギルドが空中分解でもしたら、街の治安が悪化するかもしれない」


「そうだな、ムツ。とりあえず、まずは暫定的に、ミヨシ君にマスターを兼任してもらうことにしよう」


「ミヨシ君が後任に」


 戦士ギルド立ち上げに関わったキリアンの死を悼んでいた漣が、訝しげな表情でリョウマにその真意を尋ねます。。


「あくまでも、暫定的な措置ぜよ。直に後任を用意するきにのう」


「リョウマ、こいつは、いよいよ本格的にガレリアに兵隊を用意してもらうしかないかもしれないね」


「とは言っても、パパイヤンは独立した自治権を持った都市だからな。タダというわけにはいかんじゃろ。近いうちにウチがシュンガク公に会って、直接交渉してみるきに。ちと待っとってくれ」


 リョウマは力強い眼差しで、そう言いました。視線を落としていた漣は、キリアンの死という現実に、精神的苦痛を受けていました。しかしすぐに視線を上げ、リョウマに「迷惑をかけてごめんなさい」とギルドの代表者として謝罪します。リョウマは「気にせんでええ」と柔和な笑顔で漣と視線を合わました。





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