第154話『スセリビメの献身』
その日の夕刻、リョウマは大忙しでした。
まずは防具の破損した漣のために、新防具である愚者の胸当てを5万ジェルで彼女に売ったのです。
これは魔族の血を引く者しか装備できない一品で、桜色を基調にした可愛らしく強力な胸当てでした。
更に漣からのお願いで、激運を完全なる模倣で何度も覚えさせたのです。
その後、賢者の国でナカオカが入手してきたポーションを二つに増やし、ハインとリッヒのいる研究室へと向かったのです。
「ハイン、おるか?」
「あら、どうしたの? リョウマ?」
「実はおまんの万病薬精製っちゅー能力を、このポーションに試してほしいんだ」
リョウマはハインにポーションを手渡しました。
ハインは言われた通りにポーションの蓋を開け、中に聖女の血を一滴流し込みました。
そしてリッヒが顕微鏡で内容物を確認したのです。
「どうやらこの薬に入っている菌が邪気を放ってたみたいだな。でも、ハインの聖女の血で、どうやら無毒化できたようだ。今は特に奇妙な毒を撒き散らしてはいないな」
「ホントか? じゃあ飲めるがか??」
「いや、まだこの薬には大量の禍々しい気が残っている。それが消えるまでは飲まないほうがいいだろう」
リッヒの言葉にリョウマは頷き、そして手渡したポーションに再び栓をして、サイドポケットにしまい込みました。
「私の血が入ってるから、さしずめ聖女のポーションかな、えへへ」
「聖女のポーションか、ええ名前じゃのう。二人とも、ありがとうな。じゃあウチは他にも用があるから行くな」
リョウマは研究室にいた二人に礼を述べると、ゼントの眠っている病室から折れた十束剣を持ち出し、勇者と漣のいる場所へと向かっていきました。
二人は病院の外の庭園にいました。
「おい、ルクレ。実は頼みがあるぜよ」
勇者は漣の指導で、神魔法のフラーとフラーレの習得に勤しんでいるところでした。
「頼みって何? リョウマちゃん」
「実はこの剣を、おまんの神の悪戯で修復してほしいんだ」
「修復? え~ゼントの剣を? 金だね。しかもゼントから毟り取らないと気がすまない」
勇者は露骨に不服そうでした。
「ちょっとルクレッゼントさんのお金は貴重なのよっ」
これには漣が猛抗議します。
「わかったよ、やればいいんでしょ、やれば。その代わり、リョウマちゃん。僕の特殊能力精製手伝ってよ、悪意の波動とか早く覚えたいからね」
「もちろんだ。じゃあ、頼むぞ」
そう言うと、リョウマは折れた十束剣を勇者に手渡します。
そして鞘から剣を抜いたルクレは、神の悪戯を使用して、元通りに復元させました。
「気をつけて、次に壊れたら終わりだから」
「わかっとるきに。折れた剣はゼントのところに戻しておいて、カバンで十束剣を増やしておくぜよ」
そう言うと、リョウマは復元された十束剣をカバンにしまい、自らを神の子に変化させました。
「その状態にならないと、武器や防具も増えないのね」
「うむ、ちょっと不便じゃが、カバンの中のアイテムの増殖速度が爆上がりぜよ。やめられん」
そう言って、リョウマは笑っていました。
そして二人に別れを告げ、ゼントの眠っている病室にいき、折れた十束剣を戻しておいたのでした。
「ゆっくり休むんだぞ、ゼント」
リョウマは柔らかな笑みを浮かべ、ゼントの寝顔をしばし見つめていました。
ゼントは夢の中で怪しく笑うマクスウェル、いいえアンゼルの夢を見ていました。自らとアンゼルが激しく剣を合わせる夢でした。その場所は彼自身も知らない景色が広がっており、すぐ近くには絢爛豪華な城が聳え立っています。それが賢者の国ジャスタールの城であることをゼントが知り、戦いの最中にデジャブを感じるのは、今しばらく先の物語です。




