第148話 『太陽神の大罪』
隣の塔から燃え上がる火柱を見ていた前線の者達は、その破壊的な炎の一撃に身震いしていました。
「すっ凄い・・・あの炎・・・アグニちゃんがやったの??」
勇者はあまりの炎の威力に驚愕しました。
「しっ信じられん・・・ここまで熱が飛んでくるが、俺達には害はないようだ・・・」
敵だけには熱が籠り、自分達の方には、包み込むような慈愛に似た風が来ることに、リッヒも驚きを隠せない様子です。
「アグニ・・・・凄いわ、凄すぎる・・・」
漣は、改めてアグニを良き仲間だと実感しました。
「アグニ様・・・お見事です・・・」
そして雌雄を決したことを悟った前線のメンバー達は、再びライカールトのテレフネーションで、元の塔へと戻っていきます。
アグニが放った火炎球の跡は、煤も残らないほどに焼け焦げていました。
「やったぞアグニっ終わったぞ!!!!」
グラウスが、アグニを後方から抱きしめました。
「いやだもう、師匠ったら」
「やったぜよっウチらの勝利ぜよ!!!」
リョウマも勝ち名乗りを上げます。
皆が喜ぶ中、ゼントは無言で地面に差し込んだ剣を抜き、鞘を収めると・・・
「猛毒を・・・」
と呟いて意識を失い、地面にうつ伏せに倒れ込んでしまいました。
「あっいかん。猛毒を治さなきゃ」
「私がやるよっ」
ハインがゼントにかけより、治癒魔法をかけ始めました。
「何この毒?? 全身に回ってる??? なんでゼントまだ生きてるの? 一体どういうこと???」
ゼントの体内に蓄積された膨大なる毒の量に、ハインは顔を青ざめさせました。
「ふむ・・・よくわからんが・・・アグニとグラウスがやりおったようじゃのう・・・」
「お見事です・・・二人とも」
ピエタもマテウスも、感極まった表情をしていました。
前線の仲間達も塔に戻ってきて、それぞれを労いあいました。ハイタッチするもの、握手をするもの、ピエタの元にかけよるペロッティ。ハインを気遣うリッヒ。
皆笑顔でした。
その様子を神界、天の岩戸の中で見ていた太陽神で魔法の神である、髪の長い美しい女性神、ヨモギガマラことアマテラスオオミカミは、うっすらと涙を浮かべていました。彼女もまた、カグツチと同様、今は真実の名前を隠された神となっている状態です。
「グラウス・・・よくやりましたね。見事です。流石あなたは、私の子供。このまま成長していけば、きっとあなたは、神をも超えうる伝説にして究極の魔法使いになれるでしょう。グラウス、お願いします。今よりもっともっと強くなって、そして早く神の化身を連れ、この高天原にやってきてください。そしてどうかあなたの手で、私を、・・・殺して」
ヨモギガマラは大きく息を吐き、俯きました。
「既に覚悟は出来ています。そのときが来るのを待っていますよ、グラウス・・・いえ、アーサー」
喜ぶ一同の様子を遥か空の上から、マクスウェルが見ていました。
「ゼント・・・素晴らしい。私はますますお前が欲しくなった。いずれ必ず私の力にしてやるぞ」
そして黒く獰猛な兎を模した兜と黒い鎧を着込んでいたマクスウェルは、自らの母親のもとへと急ぎました。彼にとっては、ゼントから力を奪えなかったのは誤算でしたが、トガレフという失敗作を処分する、という自らの計画通りの展開となったのです。




