第145話 『武人の猛攻』
ゼントが十束剣を使い、トガレフの動きを完全停止させていました。リョウマはゼントが死なないよう、必死に世界樹のエキスで彼を含めた皆を回復し続けています。ハインはひたすら踊り続けていました。
そして意識を取り戻したリッヒがゆっくりと起き上がり、顔を左右に振りながら、前線へと向かっていきます。
「皆が来ている? 一体どうなっているんだ??」
「リッヒさん、あなたの力を貸して、もう限界よっ」
「もう少しなんだっ頼むっリッヒ君」
勇者と盟友、そして武人の言葉に感化され、リッヒも前線へ赴き、悪霊たちを征伐していきました。
一方、同じように起き上がった人間姿のペロッティも攻撃を再開し始めました。
「この豪戦士、ライカールトを舐めるでないぞっ」
ライカールトは得意の斧による範囲技と、広範囲の威力の特殊能力でトガレフを守る悪霊たちに打撃を与え続けていました。その勢いは凄まじく、彼の一振りで、30ほどの悪霊が消失します。そして特殊能力で300ほど減っていきます。残りの悪霊は、約2万を切りました。
このときライカールトの特殊体質、強敵特攻が目覚め、彼のレベルが500万近くにまで上昇していたのですが、戦闘に夢中で、誰も気がつきませんでした。
「ライカールト君ットガレフの攻撃は、この僕が全て引き受けるっキミはとにかく全力で押し切ってくれっこのままじゃあ、ジリ貧だっ」
「承知っ」
「それと、もし僕が万が一煙の魔人を使えないときは、そのときだけは、悪いけどキミが奴の攻撃を引き受けてくれっ絶対にアグニちゃん達に被弾させないようにしてくれ。彼女達に攻撃が行くと危険だっ」
「御意っ」
「ルクレっ私は何をすればいい?」
「僕以外の仲間が被弾したら回復しつつ、剣の舞と暗黒魔法で押し切ってくれっ特殊能力を使ってるときは、僕は魔法が使えないからね。ゼントの技も何時切れるかわからないっ今はとにかく、一刻も早くこの悪霊共を全滅させないと駄目だっ」
「了解っ」
漣は勇者の命令を聞き、自らの体を躊躇なく魔人化させました。
「ようし、トガレフっ勇者の意地を見せてやるぞ~」
「魔族の力っ思い知りなさいっ」
「マガゾの為に、貴様を倒すっ」
「この紳士の早業、叩き込みます!!」
狂戦士化し、能力と守備力が大幅に上昇したライカールトと、勇者と魔人化した漣、そしてリッヒが悪霊達を、再び意識を取り戻したペロッティは、ひたすら隙間を縫ってレベル下げを行いトガレフを弱体化させつつ、悪霊達を征伐していきます。アグニも中距離から広範囲魔法を連発していました。
「漣、ごめんね。魔人化なんかさせちゃってさ、醜いから嫌いって言ってたのに」
「今はそんなこと話してる場合じゃないでしょっ馬鹿ルクレッ」
「でも魔人化しても、漣は充分美人だよ」
「そっそうかしら?」
「意外とよいと思うぞ」
勇者、漣、リッヒは過酷な戦局にも関わらず、愉快に話を始めました。
「三人ともっお話をしている場合ではありませぬぞっゼント殿がトガレフの動きを止めている間に、この悪霊を全て滅ぼさないと、本体に打撃を与えることができませんっ」
ライカールトが斧を豪快に振るいつつ、特殊能力を使いながら一同を叱責します。
「でも詠唱しないで暗黒魔法使ってるから、大きな効果がないのよっどうしたらいいのっ??」
「くっそうっこんなことなら、消し去る鳥の効果範囲をもっと上げておくべきだったかなっクソッタレめい」
「この私と勇者殿で、何とか時間を稼ぎますっ漣殿は詠唱を行い、魔力を極限まで高めて、一刻も早く極大殲滅暗黒魔法をっ」
ライカールトは特殊能力を使いつつ、漣に助言しました。
「解ったわ、ライカールト。少しだけ、時間を頂戴。滅びのときよっ来たれっ汝の元にっ集えっ今こそ我に偉大なる滅びの御心をっ漆黒の神慮をっ今ここにっ授けたまえ!! 食らいなさい、極大殲滅暗黒魔法・地獄の煉獄歌」
漣の広範囲魔法により、一気に4000ほどの悪霊たちが消失しました。
「おのれっ娘めっ動きを封じてやるわ」
トガレフは右掌から素早く触手を出すと、魔人化した漣を捕らえます。
「きゃあ、ちょっと何これっヌルヌルして気持ち悪い・・・・っ」
漣は、地面に仰向けになりながら、自らを拘束する触手と格闘し始めました。
「大丈夫かっ? 漣っ」
「大丈夫じゃないっ助けてっ」
「悪いけど、自力で何とかしてくれっもう一歩なんだっ」
勇者は非情にも漣を見捨てました。彼女なら大丈夫、という確信があったからです。
その後すぐに漣は自力で触手を振りほどいて、戦線に復帰しました。
漣は、仲間達の中でもっとも攻撃力の高い火力の鬼ゼント、武人ライカールトの次に豪腕の持ち主です。特に魔人化しているときは、驚異的な腕力を発揮します。
「ああ、もうっ最悪っベトベトっ」
「ふう・・・やれやれ、お互い難儀だな。リョウマ・・・」
トガレフの動きを完全に封印しているゼントが、息も絶え絶えに言いました。
「そうだな、でも心配するなっウチが絶対におまんを死なせたりせんきにのうっ」
「・・・頼むぞ、リョウマ・・・」
「しっかりしろ、ゼント」
リョウマは必死に減り続けるゼントの体力を回復薬と解毒剤で回復し続けました。しかしゼントの全身には既に猛毒が回っており、生命の危機がやってきています。
「くっ・・・まずい・・・いくら体力を回復してもらっても・・・このままでは・・・頼むから、お前ら、早く決着をつけてくれよ・・・・」
ゼントは大きく息を吐き出しつつ、それでも技を解除しようとはしませんでした。地獄のような猛毒の苦しみに耐えつつ、彼もまた孤独に戦っていたのです。




