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第136話『スセリビメの死』

 それから実に八分以上経っても、戦局は五分五分でした。


 勇者と、漣、ライカールトの三人の活躍により、順調にトガレフの体内を防御する悪霊は数を減らし始め、少しづつ押し始めてはいましたが、トガレフの腕の振り下ろしなど、強力な物理攻撃の前に少しの油断で一気に巻き返され、減らした悪霊の数が戻ってしまう。そんな状況が続いていたのです。


 前線にいる四人が踏ん張っている頃、全員におりょうの加護全体化をかけつつ、あらたに使用できるようになった特殊能力、アイテム全体化で皆を回復し続けていたリョウマが、とうとう肩で息をし始めました。おりょうの加護の全体化により、体力の消耗は極めて激しく、回復薬を使っても、すぐに体力が尽きてしまうようになったのです。


「参ったぜよ・・・・こいつは流石に、修羅場だな・・・」


 そんなリョウマがみせた隙を、トガレフは見逃しませんでした。


 ペロッティがトガレフの動きを遅らせることにより、再び未来視を使う余力が出来た勇者は、数十秒後に、リョウマが仰向けに倒れ込んでいる未来を見てしまいました。


「不味いっリョウマちゃんっ狙われているぞっ悪意の波動だっ加護を怠るなっ」


 勇者は声を張り上げてリョウマに危機を伝えます。


「何?」


「遅いっ」


 トガレフは不気味な笑い皺を作りつつ、おりょうの加護の全体化が解けた瞬間、リョウマの心臓目掛けて悪意の波動を狙い撃ちしました。

 ルクレティオの声を聞いていたリョウマは、とっさに上半身を少し横に移動させましたが、悲劇にも、悪意の波動は彼女の心臓わずか右に直撃してしまったのです。


 そして少女は勢いで吹き飛ばされ、仰向けに地面に倒れ込んでしまいました。


 すぐ近くにいたアグニが攻撃の手を止め、リョウマに駆け寄ります。その様子を見ていたハインも近づいていきます。


「リョウマ、そんなっあなたまで倒れないでっこんなところで死んだりしないでよっ」


 僅かに流したアグニの涙が、リョウマの開いた口の中に入り、極端に弱まっていた心臓が、力強く動き始めました。

 ハインはあまりに凄惨な状況を目の当たりにし、とうとう耐え切れずに声を出して号泣しています。そんなハインを、アグニは怒りの形相で平手打ちしました。


「馬鹿っ何泣いてますのよっこれは生きるか死ぬかをかけた大きな戦いですわっわんわん泣いてる暇があったら、早くリョウマを回復して頂戴っ」

「あっアグニ・・・ごめん。私、頑張る・・・」


 理性を取り戻したハインが、必死にリョウマにもてる限りの、全力の回復魔法をかけました。


 すると、リョウマがうっすらと、閉じた瞼を開いたのです。


「あ・・・アグニの、言うとおり、ぜよ。これは、大きな戦だ・・・だけど、最後に勝つのはウチらだ・・・頑張ろうぜよ、ハイン」


 そう言うと、リョウマは再び意識を失ってしまいました。


「リョウマッ」


「リョウマちゃんっ」


 アグニは怒りの炎に燃え、必死に自らの最大火力で、深遠なる宵の誘い《イグナ・ネオメガ・エル・グレーテル》をトガレフに撃ち込みました。


 リッヒは意識を失っており、戦闘不能。


 ピエタは早々に戦線離脱。マテウスが応急処置をしています。


 アグニはあふれ出る悲しみを怒りに変え、魔法攻撃に集中。


 ハインは涙を流しつつも、リョウマとグラウスに交互に回復魔法をかけています。


 前線で踏ん張る勇者と漣、ライカールト、その三人の一歩後ろに陣取るペロッティも、トガレフの通常攻撃を被弾し、体力を著しく消耗している状態です。


 そしてペロッティの愚か極まる愚者へ《イグナ・ネオメガ・アンプロポス》が切れるときも、目前に迫っていました。


 限りなく絶望に近い状況の中、賢者ピエタはマテウスに声をかけました。



「マテウスよ、ハインに・・・・今一度、聖女の祈りを使うように、言うてくれぬか・・・」

「わっわかりました。ハインさん、聖女の祈りを、聖女の祈りをもう一度使ってくださーいっ」



 それを聞いたハインは驚きます。


「ええ? でっでも、次に誰が来るか・・・・」


「つべこべ言わないで、早くして頂戴っトガレフよりはマシでしょうっ」


 ハインは戸惑いつつも、アグニに背中を押され、そして再び聖女の祈りを使用しました。


「(私の名前は聖女、ハイン・ブッフェ。悪しき心ありも善性を持った方、お願いします。どうか私達に今一度の慈悲を下さい。どうかお願い致します・・・)」 

 

 ハインが祈ってから、2分を経過しましたが、まだ誰もかけつけてくれません・・・。


「もう駄目です・・・私の変身が、間もなく解けます・・・」


「弱音を吐かないでくれ、ペロッティ君。もう少し、あと、5分か10分、踏ん張ってくれっ」


「無理です・・・あと3分持つかどうかです・・・」


 必死に集中し続けるペロッティですが、すでに限界をとっくに超えていました。


「くっこの絶望感、凄まじいわね・・・・リョウマまでやられるなんて。でも、それでも、私は、私達は、絶対に、負けるわけにはいかないのっこうなったら、魔力を消耗し続けるけど、魔人に変身して全力で戦うしかないわねっ。本気で、行くわよっトガレフ!!」


 漣は自らの体を美しい魔人の姿に変え、暗黒魔法を撃ち込む準備を始めました。時空魔法で動きを鈍らせても、なお激しく暴れまわるトガレフを抑え込むのに、勇者たちは必死でした。


「こうなったら、今一度、僕の右手は超豪腕ゴッドハンドで奴を物理的に封じ込めるしかないなっ」



 と、そのときでした。聞き覚えのある、低音の声質をした男の歌う声が一同の耳に響いてきたのです。


「・・・年を経し、糸の乱れの苦しさに、衣川の一族は滅びたり・・・・北辰一刀流絶技、天地波状斬(ラプタス・ジ・エンド)!!!」


 その声の主は、まさにゼント・クニヌシでした。


 ゼントが木刀で放った地を這う超広範囲の鮫の背ビレの形をした青白い光が、煙の魔人を使用していた勇者の体をすり抜け、トガレフに大打撃を与えたのです。


 その一撃で消失した悪霊の数、約2000。



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